特集

【長期レビュー】NECパーソナルコンピュータ「LaVie Z」【第2回】

~仕事データのクラウド同期に挑戦。顔認証ソフトも導入

 第1回目で紹介した通り、現在NECパーソナルコンピュータの超軽量Ultrabook「LaVie Z」を長期借用している。

LaVie Z

 ここまで数週間使ってみて、可搬性の良さや、システム性能の点で、本製品はWeb媒体の編集者用のメインPCとして申し分ないのは事実だと思っている。ただ、筆者のメインPCは「VAIO Z VPCZ1」であり(なぜこの機種にしたかについては、関連記事で細かく述べているので、興味のある人はそちらをご覧いただくとして)、借用品だということもあるが、ノートPCでもフルHD液晶が欲しいということで、個人的にはLaVie Zはセカンドマシンという位置付けを超えられない。

 さて、筆者は海外取材が少なくない。多い時では年に10回程度1週間前後の海外取材を行なう。海外取材で気をつけなければならないのが、ハードウェアの故障だ。幸い、今まで現地で故障したことはないが、周囲の知人でそういった状況に陥った人を何人か目にしている。日本にいる時なら、代わりのPCを使ったりなどできるが、海外取材時はそうはいかないし、ならばと代替機をその場で購入しようと思っても販売店が近くにないこともままある。そのため、PCやカメラなど取材に必須の機材は常に、2台持ち込むようにしている。

 そういった用途にもLaVie Zはうってつけだが、決して安くはない本機を、出番すら与えられないかもしれない万年代打として死蔵させるのはさすがに忍びない。というわけで、現在はLaVie Zを毎日持ち歩き、会社はもちろん取材時のメモ取りにも使っている。ちなみに、いくら最軽量のモバイル機といっても、さすがに2台を常時持ち歩く気にはなれないので、VAIO Zは自宅に置いている。

 ここで問題となったのが、いかにして異なる2台のPCでデータをやりとりするかということだ。取材した内容は、すぐ記事にする場合もあるが、解禁日などがあり、取材から記事化まで数週間空くことはざらにある。すると、取材時と記事執筆時に違うPCを違っていて、必要なデータが別のPCにあるため、すぐに取り出せないという状況が起きかねないのだ。

クラウドに置けるものは置いてしまえ

 その対策の1つがデータの同期だ。データを同期させるにあたっては、外部ストレージかクラウドを使うのが一般的な方法だろう。コストや転送速度を考えると、外部ストレージに分がある。しかし、外部ストレージを会社に置くにせよ、自宅に置くにせよ、常に同期させるには、外部ストレージを持ち歩くか、インターネットからアクセスできるようにしておく必要がある。持ち歩きは論外として、現時点でWebアクセス対応ストレージは所有してないので、これを機にクラウドサービスを活用したデータ同期に挑戦してみることにした。

 まず、データの同期といっても、全てのデータを同期するつもりはない。例えば、VAIO Zに入れている音楽データは数十GBある。これをクラウド上にアップロードするだけでも、大変な時間がかかるし、多くのクラウドサービスの場合で無料の容量制限を遙かに超えるので、コストもかかる。

 だが、会社で全音楽にアクセスする必要性はないし、気に入った曲はiPodに入れている。というわけで、音楽など私的なデータはVAIO Z上にのみ置くことにし、全データの完全同期は早々に諦めた。そして、仕事で収集、作成するデータについても、まず同期させる必要のあるものは何かを洗い出すことにした。

 筆者の日々の主な仕事の内容は、メールや各社サイト上でニュースリリースをチェック、取材の時はPCで予定を確認し、会場でメモを取り、製品の写真などを撮影、その上で原稿執筆作業を行ない、掲載という流れだ。先にも述べた通り、取材するものによっては、解禁日が後日となっているものがあるため、メモや写真は、どちらのPCでも参照できるようにしておきたい。

 ということで、メール、取材メモ、取材写真、予定表といったデータの同期が必要となる。

会社のメールシステムがGoogle AppsのGmailになったので、どのマシンからでも同じメールにアクセスできるようになった

 数年前まで会社のメールシステムはPOPだったので、データはローカルにあった。日々数百通(スパムも入れると千通超)のメールが届き、ファイルが添付されているものも多いので、容量は1年分で数GBに達する。そのため、これを同期させるのはかなり難題で、実際には諦めていた。しかし、数年前からGoogle AppsによるGmailベースとなったため、ブラウザと回線さえあれば、PCを問わず同じメールが読める環境になっていた。ということで、これは何もする必要がない。

 取材メモについては、2007年からMicrosoftのOneNoteを使っている。OneNoteは、メモツールとしてかなりよくできているのだが、中でも重宝しているのが、音声録音機能だ。OneNoteでは、音声録音時に内部で適宜タイムスタンプが記録されている。これによって、メモを読み直す時に、テキストの任意の部分にマウスオーバーさせて、左側に表示される再生ボタンを押すと、そのテキストを入力していた時に録音された音声を再生してくれるのだ。例えば、テキストの入力が間に合わず、登壇者がその時何を言ったか確認したい時、録音を頭から聞き直したり、勘でその場所を探し出さなくても、この再生ボタンを押すだけで、即座に聞きたい音声を確認できるのだ。

 試用中のLaVie ZにはOffice Home and Business 2013がプリインストールされている。Office 2013はクラウド連携が重視され、標準のデータ保存先はSkyDriveとなっている。一方のVAIO ZにはOffice Professional 2010を入れているのだが、このバージョンも問題なくSkyDriveにデータを保存できる。というわけで、OneNoteデータはSkyDriveを使うことで、完全な同期が保たれることになった。OneNoteの取材メモは1年で容量が500~700MB程度になる。古いメモを参照することはないので、これも全てクラウドに上げると、無駄に容量を使ってしまう。1年毎にノートは分割しているので、2年以上前のノートはローカルの外付けHDDに保存することにした。

 ちなみに、個人的には使っていないが、SkyDriveに保存したOfficeのデータは、ブラウザ上でもスタンドアロンアプリとほぼ同等のインターフェイスで閲覧/修正ができるので、別のPCにOfficeが入っていなくても参照できる。

OneNoteは、録音しながらメモを取ると、後でテキスト入力時に録音した箇所をすぐさま再生できる
Office 2013は標準でSkyDriveにデータを保存。OneNote 2010でもSkyDriveとの連携は問題ない
2つ左のページをブラウザ上で開いたところ。全機能が使えるわけではないが、無料のOffice Web Appsで閲覧、編集ができる

 ここで余談となるが、VAIO ZにはFOMA通信機能がある。取材時は現地から速報を入れることもあるので、個人的にはWAN機能もメインPCの必須機能としていた。だが、昨今はスマートフォンでLTEの高速通信が普及し、かつ定額でテザリングもできるようになった。というわけで、もうこの機能は必須ではなくなったかなと感じている。

 次に予定表。これは会社でサイボウズのシステムを導入している。社外からでもVPNを使って社内ネットワークにアクセスすれば、いつでも確認できるのだが、Androidアプリでサイボウズのデータを定期的に取得して、Googleカレンダーに取り込むものを見つけたので、これを使って、個人的なGoogleカレンダーに同期させている(より正確には、さらにそれをウィジェットが見やすいJORTEに取り込んでいる)。これによって、PCを取り出さずとも、スマートフォンですぐに予定や行き先などが確認できる。サイボウズには、「Kunai」という純正のAndroidアプリもあるのだが、仕事とプライベートの予定表が分かれていると、うっかりダブルブッキングすることもあるし、参照し分けるのも面倒。ということで、個人のカレンダーにも仕事の予定を入れている次第だ。

ある取材で撮影した写真は143枚で、合計サイズは519MBだった

 問題となるのが写真だ。1回の取材で撮影する写真のデータ量は、だいたい数百MBで、動画なども撮影すると2GB近くに達することもある。基本的に1カ月ごとに写真は外付けHDDに移動させているのだが、逆に言うと後日作業することを考慮して、1カ月はローカルに保存することにしてある。このデータサイズは10GB近くになる。これをクラウドで同期させるのは現実的ではない。

 まず、容量が足りない。先にも述べたが、SkyDriveでは、無料で利用できるのは7GBまで。Googleドライブでは5GBまでと制限がある。有償サービスにアップグレードして、容量を増やしたとしても、何百枚もある中から目的のものを探し出して作業するのにクラウドを使っていたのでは、回線速度がボトルネックになって作業に支障が出る。さらに細かいことを言うと、海外出張時は、MiFiをレンタルして利用しているが、これだけの量を同期させたら、あっという間に回線が止められてしまう。

 というわけで、写真はクラウド同期は無理という結論に達した。会社だけでなく、自宅で作業することもあるので、全てを会社の外付けHDDに保存するというのもダメだ。そこで、写真はその時作業しているPCに取り込みながらも、SDカードにコピーを残しておくという運用を取ることにした。カメラは常に持ち歩いているので、作業したいPCに写真を取り込んでいなかった場合も、SDカードから読み出せば対応できる。64GBのSDXCカードを使っているので、1月分なら楽に溜め込んでおける。これで、仕事に必要な全てのデータを常にどちらのPCからも参照できるようになった。

仕事データ以外も同期してみることにした

 写真についてはクラウドは利用しないことになったが、仕事データ以外もこれを機に同期化を目論んでみた。

ATOK PassportのATOK Syncを使って、単語や、確定履歴/変換候補の並び順などを同期できる

 その1つがATOKの辞書。筆者がWindows 8 PCにすぐに飛びつかなかった理由に、発売当初はまだ対応のATOKが出ていなかったことが挙げられる。文字入力が仕事の主体となる作業なので、入力周りの環境はあまり妥協や変更をしたくない。そこで、LaVie ZにATOK 2013を導入するにあたり、契約型のATOK Passportに加入することにした。

 ATOK Passportは月額300円か500円で利用できるATOKサービスで、10台までのPC/Mac/スマートフォンなどにインストールできる。また、クラウドを通じて、異なるPCで単語や、確定履歴/変換候補の並び順などを同期できる。普段はその存在/動作に気がつかないので地味ではあるが、便利な機能だ。

 もう1つ、個人的になんとかしたかったのが、各種のアカウント/パスワード管理だ。職業柄、アカウントやパスワードの管理にはある程度気を遣っている。パスワードについては、業務で使うものやオンラインバンキングなどのものは、ランダムな英数字を使い、1年に1回程度変更するようにしている。そのため、それらを全部覚えてそらで入力するのは不可能だ。また、ブラウザに記憶させるのはあまり好きでないし、クレジットカードの認証などで、その方法が使えないこともある。

 そこで、VAIO Zでは、AuthenTecの指紋認証ソフト「Protector Suite」で対応している。これは、一度登録すると任意のサイトへログオンする際に、指紋センサーで指紋を読み取るだけで、アカウントとパスワードを自動入力してくれるものだ。また、ファイルを暗号化する機能もあるので、自動入力が使えない状況のために、アカウントとパスワードの一覧のテキストファイルを暗号化して保存しておき、指紋認証でアクセスできるようにしてある。

 非常に便利で長年に渡って(それ以前のVAIO type Zの時代から)使っているのだが、このソフトにはいくつかの問題がある。1つはIEにしか対応しない点。もう1つは、AuthenTecがAppleに買収され、今後PC向けにソフトが継続提供される見込みがなくなってしまった点。そして、当然だが指紋センサーのないLaVie Zでは使えないのも1つの問題だ。

 そういったわけで代替を求めて探し回り、たどり着いたのが、Sensible Visionの「FastAccess Anywhere」というソフトだ。

 このソフトは、顔認証を使って、OSやWebサービスにログオンできる。Dell製PCにも採用されているので、使っている人もいるかもしれない。このソフトを選んだのは、Webサービスへのログオン機能があるからだ。Windowsへのログオン機能を持った顔認証ソフトは、ほかにもいくつかあるが、Protector Suiteのように任意のサイトのアカウント/パスワードを登録し、自動入力する顔認証ソフトはほかにめぼしいものが見つからなかった。

 細かい説明は省略するが、このソフトはPCのWebカメラを使って、本人の顔を登録しておくと、OSへのログオン時や、任意のWebサイトのログインページを開いた時に、自動起動し、顔認証によって、ログイン作業を自動化してくれる。

 非ネイティブが訳しているので、表示される日本語がややおかしい点や、カメラにもよると思うが逆光などのほの暗い環境では認識に難があるといった諸問題もあるが、サイトを開いたら、カメラを1秒程度のぞき込むだけで、ログインできるのはこの上なく手軽で便利だ。WebカメラのついたPCは少なくないが、それを実際に使っている人は少ないだろう。だが、この機能は、そんなWebカメラと、(顔認識に必要な)最新のCPU性能をフルに活用してくれるという点で、PCの潜在能力をうまくユーザー体験に結びつけるソフトだと言える。ブラウザもChrome、Firefox、IEに対応しているので、ほとんどのユーザーが利用できる。Mac版も開発中だ。

 さらに面白いのが、このソフトもクラウドに対応しているという点だ。このソフトは、1週間の無料試用期間を除いて有料で、価格はソフト代と1年間のクラウドアカウント利用料込みで24.99ドルとなっている。このクラウド機能を使うと、ソフトを入れれば、別のPCからでも登録済みのサイトに顔認証でログオンできるのだ。現在の筆者のように、2台のノートPCを使っていたり、会社と自宅で違うPCを使っていると言う人などに便利だ。もちろん、パスワードは暗号化されてクラウド保存されるし、標準はローカル保存なので、クラウドにはまだ不安があるという人でも心配ない。

FastAccess
登録済みのサイトを開くと、このような画面が表われ、顔認証により、アカウント/パスワードを自動入力できる
顔認識の強度は4段階に変更可能。写真を拒否という設定もある。試したら、確かに写真をかざしてもログオンできなかった
さらにジェスチャーなどセカンダリの認証を設定することで、さらにセキュリティを高められる
登録したデータは標準はローカルに保存されるが、クラウド保存し、異なる端末で同期させることもできる

 ちなみにこのソフトは、AndroidおよびiOS機器でも、アプリ(無償)を使うと、クラウドに登録されたサイトにアクセスできる。ただし、Android版については、専用のキーボード(言語の入力方法)を利用するというスタイルになっている。どういうことかというと、ユーザーがアカウント/パスワードを登録してあるサイトに行くと、その旨の通知が出るので、その状態で、専用キーボードの「User Name」、「Password」ボタンをそれぞれ押すと、アカウントとパスワードが一発入力されるという仕組みになっている。つまり、半自動ログインということだ(なお、試してはいないが、Dolphinブラウザではこの手順は不要で自動ログインができるとされている)。

 これはこれで便利なのだが、専用キーボードを使うため、この状態では日本語入力ができない。モバイル版には、特定のアプリに対して顔認識でロックをかけるという付随機能もあるが、いちいちキーボードを切り替えて利用するのは面倒なので、こちらは使っていない。

 さて、先にも書いたが、サイトのアカウント/パスワードをブラウザや、FastAccessなどのソフトに登録しても、違うサイトでGoogleのアカウントやMicrosoft ID、クレジットカードのオンラインパスワードなどを求められることがある。そういう場合筆者は、指紋認証で暗号化しておいたテキストファイルを開き、メモして置いたパスワードをコピペして対応していた。

 LaVie Zでもこれに相当することを行なうため、KeePass Password Safeというフリーソフトを導入した。これは、システムはサイトで使うアカウント/パスワードを保存するためのソフト。データは、SHA-256を使って暗号化されており、ソフトを起動するにはマスターパスワード、特定のファイル、Windowsアカウントのいずれかを用いる。

 これらのパスワード管理ソフトは、特にフリーだと、下手なものを使うと、実はマルウェアが仕込まれていて、ハッキング被害を受けるといったことにつながりかねない。その点、このソフトはオープンソースとなっており、ある程度安全性が保証されている。また、マスターパスワード入力ダイアログはセキュアデスクトップになっており、キーロガーなどに拾われる可能性はなく、SHA-256は強力な暗号なので、万が一データが漏洩しても、マスターパスワードなりがばれない限りは、実データが盗み見られることはない。ということで、筆者はデータの保存先として、SkyDriveを指定することで、2台のPCから常に同じデータを参照できるようにした(念のためこのファイルには他人がアクセスできないようにしてある)。

 使い方としては、ソフトを起動し、マスターパスワードを入力。アカウントとパスワードが必要なエントリーを選択した上で、アカウント/パスワードのコピーボタンを押すと、それぞれがクリックボードにコピーされるので、ペーストすれば良い。ちなみに、このクリップボードデータは12秒後にクリップボードから自動的に削除されるという念の入れようだ。

KeePass Password Safeは起動時にパスワードなどの認証が必要
KeePass Password Safeの画面
一番下の部分に出ているように、アカウントなどをクリップボードにコピーしても、12秒後には自動的に消される

Ultrabookとクラウドの相性は抜群

 このように、クラウドをうまく使うことで2台のPCで常に同じデータにアクセスできるようになった。写真データなどのように、現実的にはまだ全てをクラウドに預けることはできないものもあるが、使える部分からでも活用することで、非常に便利になる。

 また、クラウドストレージを使うと、ローカルストレージの容量が小さくても済むようになる。Ultrabookは薄さを追求しているので、ストレージは必然的にSSDとなり、容量もある程度小さくなってしまう。もちろん、一般的にクラウド上で無料で使える容量は、SSDよりも遙かに小さいので、これでまかなうことはできないが、プライベートクラウドのように、自宅HDDにWebアクセスすることを前提にしたNASや、HDD対応無線ルーターも多く出回っており、それらを利用すれば、現在でもほとんどのデータをクラウドで運用できるようになる。

 この記事を見て興味を持ったら、本体の質量だけじゃなく、ストレージを身軽にすることも、Ultrabookらしい使い方として挑戦してもらいたい。

(若杉 紀彦)