インテルは4月24日、Ivy Bridgeの開発コードネームで呼ばれてきた新CPUを発表した。デスクトップ向けIvy Bridgeの最上位製品となる「Core i7-3770K」を借用できたので、そのパフォーマンスをベンチマークテストで確認する。
●LGA1155で展開される22nm世代CPU今回発表されたデスクトップ向けIvy Bridge製品は、Intel Core i7 プロセッサー4製品とIntel Core i5 プロセッサー5製品の計9製品で、いずれも内蔵GPUコアを備えたクアッドコアCPUだ。各製品の主なスペックは以下の通り。
【表1】主なスペックCPU | Core i7-3770K | Core i7-3770 | Core i5-3570K | Core i5-3550 | Core i5-3450 |
コア数 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 |
スレッド数 | 8 | 8 | 4 | 4 | 4 |
CPU動作クロック | 3.5GHz | 3.4GHz | 3.4GHz | 3.3GHz | 3.1GHz |
Turbo Boost時 | 3.9GHz | 3.9GHz | 3.8GHz | 3.7GHz | 3.5GHz |
L3キャッシュ | 8MB | 8MB | 6MB | 6MB | 6MB |
内蔵GPUコア | HD 4000 | HD 4000 | HD 4000 | HD 2500 | HD 2500 |
Execution Units | 16基 | 16基 | 16基 | 6基 | 6基 |
GPUコアクロック | 650MHz | 650MHz | 650MHz | 650MHz | 650MHz |
GPUコアクロック(最大) | 1,150MHz | 1,150MHz | 1,150MHz | 1,150MHz | 1,100MHz |
TDP | 77W | 77W | 77W | 77W | 77W |
対応ソケット | LGA 1155 | LGA 1155 | LGA 1155 | LGA 1155 | LGA 1155 |
価格 | 313ドル | 278ドル | 212ドル | 194ドル | 174ドル |
CPU | Core i7-3770T | Core i7-3770S | Core i5-3550S | Core i5-3450S |
コア数 | 4 | 4 | 4 | 4 |
スレッド数 | 8 | 8 | 4 | 4 |
CPU動作クロック | 2.5GHz | 3.1GHz | 3.0GHz | 2.8GHz |
Turbo Boost時 | 3.7GHz | 3.9GHz | 3.7GHz | 3.5GHz |
L3キャッシュ | 8MB | 8MB | 6MB | 6MB |
内蔵GPUコア | HD 4000 | HD 4000 | HD 2500 | HD 2500 |
Execution Units | 16基 | 16基 | 6基 | 6基 |
GPUコアクロック | 650MHz | 650MHz | 650MHz | 650MHz |
GPUコアクロック(最大) | 1,150MHz | 1,150MHz | 1,150MHz | 1,100MHz |
TDP | 45W | 65W | 65W | 65W |
対応ソケット | LGA 1155 | LGA 1155 | LGA 1155 | LGA 1155 |
価格 | 278ドル | 278ドル | 194ドル | 174ドル |
Ivy Bridgeのダイレイアウト |
Core i7 プロセッサーが、Intel Hyper-Threading Technologyを有効化した4コア8スレッドCPUとなっているのに対し、Core i5 プロセッサーは、Intel Hyper-Threading Technologyが省略された4コア4スレッドCPUで、L3キャッシュ容量も6MBに制限することで差別化されている。
内蔵GPUに関しては、上位モデルはIntel HD Graphics 4000を搭載し、残りのモデルはIntel HD Graphics 2500を備える。これらのGPUは、いずれもDirectX 11をサポートする。また、3画面への同時出力に対応したほか、4000に搭載のハードウェアエンコーダーIntel Quick Sync Video 2.0は、Sandy Bridgeの同機能に比べ、最大で2倍のパフォーマンスを実現するとしている。
【お詫びと訂正】初出時にIntel HD Graphics 4000搭載は「K」モデルのみとしておりましたが、それ以外でも搭載するものもあります。お詫びして訂正させて頂きます。
前モデルとなるSandy Bridgeと比較すると、内蔵GPUのDirectX 11対応をはじめ、メモリコントローラのDDR3-1600対応や内蔵PCI ExpressコントローラのPCI Express 3.0対応など、CPUコア以外の部分に変更点が多い。また、Ivy Bridgeでは製造プロセスがSandy Bridgeの32nmから22nmに微細化され、性能向上および動作電力、リーク電流の低減を実現するという3次元トライゲートトランジスタを採用するなど、製造技術においては、単なるプロセスシュリンクに留まらない新機軸が盛り込まれている。
今回テストを行なうCore i7-3770K(以下、i7-3770K)は、冒頭で紹介したように、今回発表されたデスクトップ向けIvy Bridgeの最上位に位置するCPUであり、型番に「K」を付与された倍率アンロックモデルである。定格での動作クロックは3.5GHzで、自動オーバークロック機能のIntel Turbo Boost Technology 2.0により、最大3.9GHzまで動作クロックが向上する。TDPは77W。
Core i7-3770K | Core i7-3770KのCPU-Z実行画面。アイドル時の動作クロックは1.6GHz。Turbo Boost時は最大で3.9GHzに達する |
i7-3770Kの検証にあたっては、MSIのIntel Z77 Expressチップセット搭載マザーボード「Z77A-GD65」を利用した。
Ivy Bridge対応チップセットであるIntel Z77 Expressチップセットを搭載したマザーボードは、既存のSandy Bridge系CPUと互換性があるためCPUに先だって発売されていたが、Sandy Bridgeとの組み合わせではPCI Express 3.0が利用できず、機能をフルに発揮でない状態だった。Ivy Bridge系CPUの登場により、ようやく本来の機能を発揮できるようになった形だ。
なお、Ivy Bridge系のCPUは、従来のIntel Z68/P67/H67/H61チップセットとも互換性があるため、マザーボードベンダーから対応BIOSがリリースされれば、これらのチップセットを搭載したマザーボードでも利用できる。ただし、マザーボードの仕様によっては、Ivy Bridgeで追加されたPCI Express 3.0などの新機能が利用できない場合があるので注意したい。
●テスト環境
Intel Z77対応を謳うDDR3-1866対応メモリ「G.SKILL F3-1866C9Q-16GAB」。DDR3-1866対応環境以外では、このメモリをダウンクロックして利用した |
それでは、ベンチマークテストの結果紹介に移りたい。今回はi7-3770Kの比較製品として、同じくIntelの4コア8スレッドCPUである「Core i7-2600K」と「Core i7-3820」のほか、AMDの8コアCPU「FX-8150」とクアッドコアAPU「A8-3870K」を用意した。
テスト時にあたって、統一可能なパーツについては、出来る限り各プラットフォームで共通のものを利用した。なお、メモリについては、各CPUの内蔵メモリコントローラがサポートする最高動作クロックに設定している。
【表2】テスト環境
CPU | i7-3770K | i7-2600K | i7-3820 | FX-8150 | A8-3870K |
マザーボード | MSI Z77A-GD65 | ASUS SABERTOOTH X79 | ASUS CROSSHAIR V Formula | ASUS F1A75-V PRO | |
メモリ | DDR3-1600 4GB×4 (9-9-9-24、1.5V) | DDR3-1333 4GB×4 (9-9-9-24、1.5V) | DDR3-1600 4GB×4 (9-9-9-24、1.5V) | DDR3-1866 4GB×4 (9-10-9-28、1.5V) | |
GPU | Radeon HD 7970 | ||||
ストレージ | Western Digital WD5000AAKX | ||||
電源 | Silver Stone SST-ST75F-P | ||||
グラフィックスドライバ | AMD Catalyst 12.3 | ||||
OS | Windows 7 Ultimate 64bit SP1 |
●CPU性能ベンチマーク
まずはCPUベンチマークのテスト結果から見ていく。テストは「Sandra 2012.SP3 18.40」(グラフ1、2、13、14、15、16)、「PCMark05」(グラフ3、4)、「CINEBENCH R10」(グラフ5)、「CINEBENCH R11.5」(グラフ6)、「x264 FHD Benchmark 1.01」(グラフ7)、「Super PI」(グラフ8)、「PiFast 4.3」(グラフ9)、「wPrime 2.05」(グラフ10)、「PCMark Vantage」(グラフ11)、「PCMark 7」(グラフ12)だ。
i7-3770Kは、CINEBENCHやSuper PIなど、CPU系ベンチマークテストにおいてi7-2600Kとi7-3820をほぼ全てのテストで上回る結果を示した。動作クロックの低いi7-2600Kを上回るのは当然の結果とも言えるが、定格3.6GHzでTDP 125Wのi7-3820に対し、全コアに高負荷のかかるCINEBENCHやx264 FHD Benchmarkで優位な結果を示したことは上出来と言える。
テスト前の時点では、Turbo Boost時の最高動作クロックが今回比較したIntel CPUの中で最も高い一方で、TDPが引き下げられているため、高負荷時のi7-3770Kは動作クロックが上がりづらいのではないかと懸念していたが、今回のベンチマーク結果を見る限り、シングルスレッド負荷時、マルチスレッド負荷時ともTurbo Boostは機能しているようだ。
メモリコントローラについては、Sandraの「Memory Bandwidth」において、DDR3-1600に対応したi7-3770Kが、DDR3-1333対応のi7-2600Kより20%ほど広いメモリ帯域を実現しているが確認できる。一方、DDR3-1600の4ch動作をサポートするi7-3820との帯域差は大きい。このメモリ帯域の差が、CPU系ベンチマークにおいて、唯一i7-3820に大差をつけられたSandra「Cryptography」の結果に影響しているようだ。
キャッシュに関しては、概ねi7-2600Kとクロック差に応じた結果となっているが、8MBブロックの帯域およびレイテンシから、i7-3770KのL3キャッシュがi7-2600Kに比べ高速化されていることが確認できる。
続いて、3Dゲーム系のベンチマークテストの結果を確認していく。
検証したテストは「3DMark06」(グラフ17)、「ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク」(グラフ18)、「MHFベンチマーク【大討伐】」(グラフ19)、「Lost Planet 2 Benchmark DX9」(グラフ20)、「3DMark Vantage」(グラフ21、22、23)、「3DMark11」(グラフ24、25、26)、「Lost Planet 2 Benchmark DX11」(グラフ27)、「Unigine Heaven Benchmark 2.5」(グラフ28)だ。
i7-3770Kの結果をみてみると、比較的GPU負荷が低く、CPU性能がボトルネックとなりやすい3DMark06やファイナルファンタジー XIVなどで、比較環境より優位な結果を記録した。CPU系ベンチマークテストでi7-3770Kが示した、シングルスレッド、マルチスレッドとも優れたCPUパフォーマンスが、3Dゲーム系ベンチマークでも有効なことを示す結果と言えるだろう。
一方、GPU負荷の高い3DMark 11のExtremeプリセットやUnigine Heavenの1,920×1,080設定においては、比較環境とほとんど横並びの結果となっている。今回の検証機材では、PCI Express 3.0に対応したRadeon HD 7970搭載ビデオカードを利用しており、i7-3770Kとi7-3820ではPCI Express 3.0、それ以外の環境ではPCI Express 2.0で接続されている。ただ、今回のベンチマーク結果からは、この接続バスの差がスコアに反映されていると確認できるような結果は見当たらない。現行最高峰の性能を持つGPUであっても、1枚で利用する場合、PCI Express 3.0で接続するメリットは大きくないようだ。
CPU性能テストの最後に消費電力の比較結果を紹介する。この比較では、環境によりメモリのクロック、チップセットをはじめとするマザーボード上の実装部品に違いがあるため、CPUの消費電力差として横並びの比較はできない点に注意して欲しい。
消費電力の測定は、サンワサプライのワットチェッカー「TAP-TST5」を利用して行なった。アイドル時の消費電力のほか、CINEBENCH R11.5でスレッド数を制限して実行した際と、ストレステストツールの「OCCT Perestroika 3.1.0」で、CPUに負荷を掛ける「CPU:OCCT」を実行した際の消費電力をそれぞれ測定した。
i7-3770Kの消費電力は、メモリクロックが高いこともあってか、アイドル時こそi7-2600Kより2W高い56Wだったが、CINEBENCH実行時やOCCTの負荷テスト実行時は逆転し、シングルスレッドで4W、フルスレッドでは15W程i7-2600Kより低い数値を記録した。これは比較製品中もっとも低い数値でもあり、先に紹介したベンチマークテストの結果を考慮すれば、i7-3770Kのワットパフォーマンスの優秀さが伺える。
【グラフ29】システム全体の消費電力 |
●CPU内蔵GPU性能ベンチマーク
CPU性能のベンチマークで利用した環境からビデオカードを取り外し、i7-3770K、i7-2600K、A8-3870Kが備える内蔵GPUの3Dパフォーマンスを比較してみた。検証機材は表の通り。
【表3】検証機材CPU | i7-3770K | i7-2600K | A8-3870K |
マザーボード | MSI Z77A-GD65 | ASUS F1A75-V PRO | |
メモリ | DDR3-1600 4GB×4 (9-9-9-24、1.5V) | DDR3-1333 4GB×4 (9-9-9-24、1.5V) | DDR3-1866 4GB×4 (9-10-9-28、1.5V) |
GPU | Intel HD Graphics 4000 | Intel HD Graphics 3000 | Radeon HD 6550D |
ストレージ | Western Digital WD5000AAKX | ||
電源 | Silver Stone SST-ST75F-P | ||
グラフィックスドライバ | Intel Graphics Media Accelerator Driver 15.26.8.64.2696 | AMD Catalyst 12.3 | |
OS | Windows 7 Ultimate 64bit SP1 |
内蔵GPUの3Dパフォーマンス比較に用いたテストは、「3DMark06」(グラフ30、31)、「ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク」(グラフ32)、「MHFベンチマーク【絆】」(グラフ33)、「Lost Planet 2 Benchmark DX9」(グラフ34)、「3DMark Vantage」(グラフ35、36)、「3DMark11」(グラフ37、38、39)、「Unigine Heaven Benchmark 2.5」(グラフ40)、「Stone Giant DX11 Benchmark」(グラフ41)、「Lost Planet 2 Benchmark DX11」(グラフ42)だ。
i7-2600Kの内蔵GPUで、DirectX 10.1対応GPUであるIntel HD Graphics 3000(以下、HD 3000)に対し、i7-3770Kの内蔵GPUであるIntel HD Graphics 4000(以下、HD 4000)では、DirectX 11に対応したほか、Execution Unit数が12基から16基に増強されている。これらの強化により、HD 4000はHD 3000のスコアに対し、概ね30~50%ほど高いスコアを記録し、HD 3000では実行不可能だったベンチマークを実行できている。IntelのCPU内蔵GPUとして、確実な進化が確認できる結果だ。
一方、現行のCPU内蔵GPUとして、最高のパフォーマンスを持つA8-3870KのRadeon HD 6550Dに比べると、CPUパフォーマンスの差で押し切った3DMark VantageのEntryプリセットの結果を除き、概ね3割程度の差をつけられている。過去に検証したAMD Aシリーズのベンチマークスコアを参照すると、HD 4000のパフォーマンスは、おおよそAMD A6シリーズの内蔵のRadeon HD 6530D程度といったところのようだ。
【グラフ43】システム全体の消費電力 |
内蔵GPU利用時の消費電力を測定した結果が上のグラフだ。
i7-3770K(HD 4000)の消費電力は、CPUとGPUの両方に負荷を掛けるPowerSupply テスト実行時を除き、i7-2600K(HD 3000)に比べ同等か若干高い数値となった。メモリクロックの違いによる電力差などを考慮すれば、内蔵GPUを使用した際のi7-3770Kとi7-2600Kの消費電力は、ほぼ同程度の消費電力であると考えてよいだろう。
●Sandy Bridgeをベースにより完成度を高めたブラッシュアップモデル以上、i7-3770Kのパフォーマンスをベンチマークテストで確認してきた。i7-3770Kは、もともと完成度の高いCPUであったSandy Bridgeをベースに、プロセスシュリンクを経て、消費電力あたりの性能を向上と、内蔵GPUをはじめとするアンコア部の強化を図ったブラッシュアップモデルと言える。性能、消費電力、価格の三拍子が揃ったメインストリーム向けCPUとして、注目を集めることになりそうだ。
ただ、ソケットとチップセットの互換性があることで期待される、Sandy Bridge系CPUからのアップグレードについては、現在どのCPUをどのような形で利用しているのかで、評価が分かれることになりそうだ。既にi7-2600Kやi7-2700Kとビデオカードを組み合わせて使っているような場合、i7-3770Kへのアップグレードで得られるメリットは少ない。より高いパフォーマンスを求めるのであれば、6コアCPUがラインナップされている上位プラットフォームのLGA2011への乗り換えを検討することになるだろう。
Sandy Bridgeからのアップグレードについては、用途によりけりといった感じだが、メインストリーム向けCPUとして高い完成度を誇るIvy Bridgeは、Sandy Bridgeより前のプラットフォームから買い替えを検討するユーザーや、これから新規に購入を検討するユーザーにとって有力な選択肢となるだろう。LGA2011プラットフォームの立ち上げ時には、CPUの供給が不足するという事態が発生していたが、今回は需要に見合った数が供給されることに期待したい。
(2012年 4月 24日)
[Reported by 三門 修太]