特集
AMDのTDP 45WクアッドコアAPU「A10-6700T」をベンチマーク
~日本のみで発売されるプレミアムモデル
(2013/9/11 00:00)
日本AMD株式会社は、TDP 45WのクアッドコアAPU「A10-6700T」を国内限定で発売した。価格はオープンプライスで、実売価格は17,000円前後だ。実売価格では最上位となるA10-6800Kを超える価格なのだが、実力はいかほどか、簡単にベンチマークで探ってみた。
Richlandアーキテクチャを継承
A10-6700Tは、6000シリーズのRichlandアーキテクチャを継承したAPUである。ベース2.5GHz、Turbo CORE時3.5GHzとクロックを低めに設定することで、クアッドコアとしては低いTDP 45Wの低消費電力を実現している。
これまで6000シリーズでもっとも低クロックなA8-6500でも、ベースは3.5GHz、Turbo CORE時は4.1GHzだったので、本製品がいかに低いかお分かりいただけるだろう。また、過去の5000シリーズ(Trinity)やデュアルコア製品を含めて見ても、デスクトップ向けのTDPは65Wが下限であり、今回の45W TDPは異例のSKUだと言える。
AMDの純正ツール「PSCheck」でクロックを調べたところ、アイドル時となるP3ステートは1.4GHzで0.875V、ベースとなるP0ステートは2.5GHzで1.013V、Turbo CORE時の上限となるPb0ステートは3.5GHzで1.262Vだった。
アイドル時のクロックは、A10-6700が1.8GHz、A10-6800Kが2GHzなので、A10-6700Tはこの点でも消費電力を低く抑えようとしている。また、P0ステートの電圧はA10-6700が1.212V、A10-6800Kが1.3Vなので、継続負荷時の電力も低そうである。ただ3.5GHz駆動時の電圧は、6800KのP1ステートの3.8GHz/1.212Vと比較すると高めだ。
とは言え、Turbo COREを維持する時間は限られているし、APUの場合、GPUと熱を共有する関係上、Pb0ステートで動く時間はごくわずかだろう。ほかのAPUとは異なり、Turbo COREの最高クロックとベースクロックの間に、1GHzものマージンを設けているのは、TDP 45Wに抑えられる範囲内で調節するためだと思われる。
GPUはRadeon HD 8650Dを採用。SP数は384基と上位と同じだが、クロックは720MHzと低く抑えられている。この8650DはCatalyst 13.8 beta2で新たにサポートされ、これ以前のドライバでは利用できなかった。なお、執筆時点ではCatalyst 13.10 betaも公開されているが、文中のテストにはすべて13.8 beta2を利用している。
6700のモデルナンバーに恥じぬ性能と、低発熱/低消費電力の扱いやすさ
続いてベンチマークに移っていこう。検証機材として、メモリはUMAXの「DCDDR3-8GB-1600OC」(4GB×2、9-9-9-28-1T)、マザーボードはASRockの「FM2A85XM Extreme4-M」(BIOS P1.50)、電源はサイズの「剛力Naked 500W(SPGRN-500/A)」、SSDにKingmaxのSMP35(120GB)、OSにWindows 8 Pro(64bit)を用意した。
まずはAPUが得意とする3D性能を計測する「3DMark」から見ていくと、A10-6700Tはそこそこ健闘し、TDP 45Wとしてみればなかなかのスコアを記録した。A10-6700/6800Kに迫るほどグラフィックス関連のスコアは高いが、やはりCPUのクロックの低さが足を引っ張り、結果としてPhysicsのスコアと全体スコアに影響していることが分かる。
PCの総合性能を計測する「PCMark 7 1.4.0」では、A10-5800Kとほぼ同等の性能を発揮した。A10-5800K/6700のLightweightとProductivityの結果が低いため計測異常も考えられるが、最終結果はほぼ順当なのでそのまま掲載してある。Windowsでのシンプルなマルチタスク性能を数値化するようなPCMark 7では、それほど大きな差が開かない。低クロックであるにもかかわらずA10-6700と同じモデルナンバーを標榜するのは、マーケティング的にそれほど無理しているという印象はない。
CPUの絶対性能が重視される「ファイナルファンタジーXI オフィシャルベンチマーク3」では、Highで5,751に留まった。グラフに掲載していないが、最下位のA4-5300でも6,300台を記録するので、1コアあたりの性能が問われるような、旧来のアプリケーション/ベンチマークでは、下位モデルにリードを譲る可能性もあることは意識しておきたい。
基礎演算能力を計測する「SiSoftware Sandra」も、FFXIと同様ほぼクロック通りの性能だった。このベンチマークはCPUのみに負荷がかかる単純なベンチマークなので、素の性能が現れやすい。
その一方で、動作時の消費電力はずば抜けて低かった。TDP 100WのA10-6800Kと比較するとおおよそ50W以上低く、アイドル時も低クロック化が効いて下がっている。TDP 45Wという数値以上に体感できる差で、PCMark 7の性能から考慮すれば非常に優秀だと言える。
温度と性能の変化を検証する
さて、これまでRichlandとTrinityの明確な違いは明らかにされてこなかったが、Hot Chips 25では、オンダイサーマルセンサーによるTurbo COREの制御が新しいと明らかにされた。
せっかく今回、一連のAPUをお借りしたので、クーラーの違いによるベンチマークの変化も検証してみた。手早くテストするため、FFXIベンチおよびCinebench R11.5のみに絞り、3回ずつ実行して最高値を記録。その変化をまとめた。クーラーは、十分な冷却性能を実現するThermalrightのハイエンド向けCPUクーラー「Silver Arrow SB-E Extreme」と、TDP 100WのA8-5800K/6800Kにはやや厳しいと思われる、A4-5300付属の薄型リテールクーラーの2つで比較した。
ファンの回転数はいずれもBIOS上で「Level 2」に設定し、61℃以上でフル回転するようにした。これは70℃に達してしまうと自動的にCPUがスロットリングしてしまい意味が無いためだ。
結果として、Silver Arrow SB-E Extremeを使用した方が“気持ち高め”のスコアが出たが、逆転するケースもあり、一概に温度による差がスコア差であると言えない結果となった。またTrinityでもCPUクーラーによって若干スコアに変化があったため、これだけでは「Richland特有の機能」と結論付けるに至らなかった。
ただ、ベース3.8GHzのA10-5800Kよりも、ベース3.7GHzのA10-6700の方が高スコア傾向にあったということは、少なくともA10-6700で3.9GHzのPb2ステートを新たに設けた意味がありそうだ。
Cinebench R11.5実行中にPSCheckでクロックの挙動を監視していると、いずれのAPUも最初のほんのわずかの間のみPb0で、その後8秒間はPb1を維持、8秒経過後はそれ以下のステートへの切り替えを繰り返していた。A10-5800KではPb2が用意されていないため、18秒後にはほぼP0となっていたが、A10-6700では18秒経過後もP1~Pb2への切り替えをこまめに行なっていた。これによって、TDP 65WながらTDP 100WのA10-5800Kより高い性能を実現したようである。
そんなRichlandのTurbo COREの挙動よりも注目したいのは、A10-6700Tの温度。リファレンスクーラー使用時でも42℃を超えておらず、軒並み60℃を超えるようなほかのAPUとは一線を画している。小さいケースに収める、薄型のCPUクーラーを利用するといった場合、唯一無二の選択肢となりそうだ。
実売17,000円超えは高いが、その価値は十分にある
簡単にいくつかのベンチマークを行なってみたが、比較的高性能な割に低消費電力/低発熱が印象的なAPUであった。小型で高性能PCを構築したいユーザーにとって良い選択肢であろう。
ネックは実売で17,000円超えという、これまで最上位だったA10-6800Kをも超えそうな価格設定。とは言え、性能や扱いやすさ、そして日本のみで発売されるプレミアから考えれば納得できる。マルチコアやGPUに比較的最適化した軽めの3Dオンラインゲームや、省電力でマルチタスク作業を行なうば、本製品を検討してみてはどうだろうか。