特集
ポータブル電源の中身ってどうなってるの?⾃分じゃ怖いから公式に分解してもらいつつ解説!
2024年10月23日 06:17
世の中には「見たくても見られないモノ」がたくさんある。「ブラックホールの中」から「会員制のヤバいショー」まで、挙げだしたらキリがない。
しかしPC Watchの誰もが同意するのは「ポータブル電源の中身」じゃなかろーか(わたり廊下)?ネジでも落としてショートさせようものなら大事故だ。なぜなら2~3日の停電がしのげる2,000Wh程度の一般的なポータブル電源なら、仮に12Vを1分出力するとなれば、その電流は10kA(ひっひぃ~!アンペアにキロがつくのはダメだ!)。エンジンを掛ける時のセルモーターだって瞬間的に100A程度なのに、それ以上の電流が流れる計算だ。車のバッテリでもショートしたらヤバイ音と花火が出るのに、ポータブル電源を分解していてショートさせちまったら命が危ぶまれる。
そんなわけで「ビビリ」の筆者は考えた!自分でできなきゃ、誰かにやらせればいいじゃない!そこで老舗ポータブル電源メーカーのJackeryに土下座して分解してもらった。
分解は男のロマン!怖ぇーからカスタマーエンジニアに託す!
Jackeryが用意してくれたのは、標準的な2,042Whのポータブル電源「Jackery ポータブル電源 2000 New」。スマホなら80回、ノートPCでも24回フル充電可能!ホテルにある小さい冷蔵庫なら72時間は動かせるというタイプだ。家族3人が2~3日の停電をしのげるので、最も標準タイプと言い換えてもいいだろう。重量は18.1kgで大きさは、石油ファンヒーターの高さが10cmほど小さくなった程度だ。
分解してくださったのはJackeryのCX部 技術サポートエンジニアの石津弘志氏。「これ新製品だから僕もばらしたことないんですよ」と。しかも同席するマーケティング本部の鈴木達也氏も「中身見ることが滅多ないんで……。あ、写真撮っていいですか?」と。
をいおーい!「何度も修理していますから、目隠しをしてても分解できますよ!」ぐらいの勢いかと思ったのに、何か違う!
カバーを外すと出てくるメイン基板!太っといケーブルが電池から!
ネジは普通のプラスのタッピングで、いじり防止ネジではない。あ!みんな怖がって分解しないからいじり防止ネジを使わなくてもいいのかも?
真似する人はいないと思うが、お約束で警告。真似しちゃだめよ。保護回路が入ってるとは言えど、ショートしたら怪我します。「俺は禿だから“怪我(毛が)ない”」なんてシャレも通用しねーから。マジで。
続いて外すのは、正面のスイッチの奥にあるコントロールパネル基板。
コントロールパネル基板
12Vシガープラグコネクタ
おそらくメイン基板から37V~50.8Vをもらって、USB PDと同じDC/DCコンバータで12Vに降圧したものっぽい。位置的に緑のリング(チョークチョーク)が12Vのリプル防止(平滑)用。なお「37V~50.8Vをもらって」というのは、メイン回路で後述。
USB PD出力とDC/DCコンバータ
メイン基板から37V~50.8Vを左下のコネクタから引いてきて、DC/DCコンバータでPD用の5V、9V、12V、20Vに降圧していると思われる。緑のチョークコイル以外はアルミ個体コンデンサとセットで1系統のDC/DCコンバータ回路。4系統あるので5、9、12、20Vの電圧セットと一致する。
AC100Vコンセント
AC100Vはメイン基板で100Vを作って、コネクタに引っ張っているだけ。メインから来る赤と黒が100Vの「Live」と「Neutral」。黄色の電線がGND端子につながっていると思われる。その先は充電用の100Vインレット(指し込み)につながっているので、冷蔵庫のようにアースを使う機器がある場合は、添付のACケーブルを使いコンセントの指し込みから出ている緑の電線を壁コンセントのアースと接続するといい。
コントロールパネル基板を外すと「電源管理用メイン基板」が取り出せる。多くのポータブル電源は、弁当箱みたいな巨大ACアダプタがついてくる。でもJackeryの新しいポータブル電源はACアダプタがなく、100Vのコンセントをそのまま差す方式だ。そのためACアダプタに相当するAC→DCに変換する回路も内部に持っている。
電源管理用メイン基板
基板の名称は筆者がテキトーに付けたので、正式名称はこうじゃないことに注意。いろんな部品がたくさん乗っていて、それとなくメインってのは誰にでも分かるだろう。メイン基板には、次のような機能が搭載されている。
- ACアダプタに相当する本体充電用の100V→直流電源回路
- DC→AC100Vコンバータ回路(コンセント出力用)
- バッテリ→直流(シガープラグ、USB PD用)
- 充電用電源供給回路(AC100V、ソーラー切り替え)
- バッテリ/パススルー切り替え(停電時即時バックアップ)
- 12V、USB PD、AC100V出力スイッチ
充電用電源回路
ACアダプタの一部に相当する回路。PFC回路というエネルギーを効率的に変換する回路も搭載(でっかい電解コンデンサが見える右下部)。ここにコンセントの100Vを入れて本体のバッテリを充電する。シールを見るとスペック上は100V以上が入るワールドワイド仕様になっているが、400V対応の電解コンデンサを使っていることから、回路的に200Vのイケそうな感じだ。
ただマニュアル上は、100V~120V 50/60Hz 15Aに抑えられている。120Vのアメリカでも共通化して使えるように設計はしてあるものの、製品としては日本専用にしているようだ。
この充電用電源回路の出力は、黄色のパネルが貼られたインバータ回路に入って行き、バッテリ充電用の直流に変換される。
実はファンの上部にも電源回路が分散されており、こちらは100VのインレットからPFC回路に入るまでが実装されていた。ヒューズや100Vのノイズフィルタなどだ。
インバータ回路
この基板の肝の部分。内蔵バッテリからAC100Vに変換する回路、充電用電源回路から充電用直流電源に変換する回路、ソーラーパネルやDC12Vから充電用電源に変換する回路が入っている。また電源コントロール基板に内蔵バッテリから供給される37V~50.8V(43.2A)を供給するBMS(後述)直結回路も入っている。
各種スイッチ類
シガーソケット、USB PD、AC100Vの出力から、本体そのものの電源をオン/オフするリレースイッチ、100Vの電源が停電になると瞬時に内蔵バッテリから電源を供給に切り替えるスイッチなどが、ファンの近くにまとめられている。
AC→DCへの変換をした場合の平滑回路
AC(コンセントの交流)をDC(電池の直流)に変換すると、少し交流の成分が残ってしまったり、脈打ったりする場合があるので、それを除去して、できるだけ電池のように一定の電圧を安定して出力する回路。
ファン
インバータ回路のMOS-FETから出る廃熱を冷却する。ケース側面から外気をファンで吸い込み、反対側から吐き出す。エアフロー(空気の流れ)をよくするために、銀色の放熱器の外側に黒いシートを挟み込み、ファンで吸い込んだ空気が効率よく、インバータ回路の内部を通るようにしている。
小型ファンなので動作音が気になるかと思いきや、動作音は30dbと静音性能も高い。一般家庭で何も音がしない状態は(暗騒音)ほぼ25db程度なので、本機を使っても深夜に聞こえる虫の音や遠くを走る車の音程度ぐらい静かだ。
バッテリからの電力供給
37V~50.8V最大43.2Aの電流が流れるので、コネクタもデカイ。BMS回路につながる唯一の部分。
コントロールパネル基板への電力出力
バッテリ残量によって不安定な電圧を、おそらく一番高いUSB PDの20V、もしくは使いまわしのいい12V(設計しやすく部品もたくさんある)に下げて、電圧も一定に安定させてコントロールパネル基板に出力している。
インバータ回路内部
大きな輪っか状のチョークと電圧変換用のトランス。両側の放熱器(ヒートシンク)には、電圧を調整するタイミングをスイッチするMOF-FETがたくさん並ぶ。多分この中に、大まかにAC→DCにする整流器も入っているはず。
基板の文字
250Vまで入るというのが分かる基板の注意書き。
CAUTION 250Vac 18A
For Continued Protect Against Risk of Fire
Replace Only with Same Type and Rating of fuse
注意 250VAC 18A
火災の危険から継続的に保護するため
同じタイプと定格のヒューズのみと交換してください
ヒューズは左横にある黒いケースの中だと思われ。部品番号はH13と書かれている。
メイン基板を引っ剥がすと、その下にはバッテリ管理用の基板。BMS(Battery Managemant System)なんてカッコよく言われることもあるけれど、充放電の制限をしたり、ショートや異常な温度上昇を検知すると瞬時に電源遮断したりする保護回路のこと。安価なポータブルバッテリは保護回路を省略して低価格にしていることが多いが、Jackeryは考え得る62の保護回路を実装し安全性を高めている。
ここから先は、超危険地帯!なぜかというと、保護基板の上にネジでも落とそうなら、保護基板が逝ってしまって、バッテリが無保護になり爆発してもおかしくないからだ(ただ、本機で使われているリン酸鉄リチウムイオン電池は爆発しにくい電池)。
人類の英知の結晶であるロケットも、たまに打ち上げ失敗するので「人類がギリギリ制御できる爆弾」と言われるが、リチウムイオン電池も便利だが危険性も秘めた最新技術だ。
バッテリ管理(BMS)基板
まず気づくのは、安全性のために基板全体を樹脂コートして、万が一ネジなどを落としても、ショートしないように安全性を確保していること。また、ここまですることなく、絶縁シートを貼る場合も多い。基板左側の端子に貼られている黄色いシールが絶縁シールで、ノートPCの基板と筐体の間によく貼られている。しかし本製品はしっかり樹脂コートしてあり、安全性への配慮が見られる点が◎。
充電電圧制御用ICアレイ
一番目立つ16個のICは、型番が全部消してあるので予測でしかないが、おそらく充電電圧を細かく制御するIC。コンセントでのフル充電は1.7時間と超高速充電ではあるが、これらのICと電圧を細かく制御するAI可変充電技術を備えているので、急速充電でもバッテリに負荷をかけないため、従来に比べバッテリ寿命を30%延命させているとのことだ。
ただバッテリ異常時に小さいユニット単位で電力遮断するスイッチの可能性もある(読者指摘)。充電にしても遮断用にしても、3本足のパワートランジスタを使うので、どちらかは断定できないし、ほかにもいろんな説がでてきて当然。ご興味ある方は各自、自由研究としたい。
BMSメイン回路
右側の細かな部品が乗った部分は、BMSのメイン部分。電力の入出力、つまり充電と放電に異常がないかを監視して、もし何かあれば瞬時に電源を遮断する。
BMSの基盤を外すと絶縁シートがあり、シートを取るとバッテリが現れる。よく見るとバッテリとBMS基板は電線がなく、基板に直結している。
バッテリアレイ
バッテリはケースに固定されていたので、1本1本を詳しく見ることができなかったが、定規で測ると直径32mm、長さ140mmほどの電池だ。電池の本数は42本。横1列に7本の電池が並んでおり、次の段は半本ずらしてまた7本の電池が配列。全部で6列あり、合計42本あった。
こうして互い違いに配置し、それをケースに固定することで電気自動車に使われるCTB構造にしているということだ。CTB構造は円柱状の強い構造を持つバッテリを筐体構造の一部とすることで、部品数の削減に加え省スペースを実現している。そのほかにも設計の見直しなども合わせ、市販上同じ2,000Whモデルの平均サイズ(容積)より40%、重量で34%軽量化しているというから驚きだ。
先のインバータに表記されていた電圧に幅があったのは、電池が満充電の時と、電池が切れた状態では電圧に差があるため。乾電池が未使用だと1.5V、電池が切れた状態(終止電圧)だと0.9Vまで下がるのと同じだ。
このポータブル電源に使われているのは、リン酸鉄リチウムイオン電池で、通常でだいたい3.2V、電池切れで2Vと決められている。
先のインバータのラベルには、出力が37V~50.8Vとあったのは、電池切れと満タン時の電圧というワケ。つまり1本2Vの電池切れの電池が何本か直列につながっている。だから最低18.5本以上を直列につなぐと、ラベルのスペックに持っていける。ちなみに通常時の電圧はかなりバラつきがあるので計算しづらいので、終止電圧の2Vで計算している。
一方で先に電池を数えた時全部で42本あった。その半分が直列につながっていたとすれば、42Vとなり37Vまで5Vの余裕を持たせているという設計が見える。スマホでいうと電池残量0%まで使うのではなく、14%ほど残して再充電する感じだ。こうして電池にあまり負荷を掛けないようにしているので、繰り返し充電回数4,000回としているようだ。使用可能な年数に換算すると毎日使ってもおよそ10年使える。
さて21本がどうやら直列になっているということが分かったので、残りの21本は?となる。こちらも21本を直列につないで37V~50.8Vの1ユニットとして、2つを並列接続することで容量を2,042Whとしている。つまり1ユニットあたり1,021Whとなり1本(カッコよく言うと1本のことをセルという)辺りに換算すると48.6Whの電池になる。ちなみに電池容量で計算すると21本直列2ユニットだけれども、満充電時の電圧で計算すると14本直列3ユニットの可能性も高くなる(読者指摘)。どちらにしても、何本か直列になっていて、それが複数ユニットあることで、電力容量を増減させているとみていいだろう。
このスペックでインターネットを検索してみると、あまり出回っていないが「32140」という円筒型の電池があり、1本で15,000mAh(最近のモバイルバッテリ1個分)48Whという規格品があった。
これなら計算した容量の48.6Whに近く、サイズも定規で図った結果とほぼ一致するので、32140のリン酸鉄リチウムイオン電池とほぼ断定できるだろう。検算終了!
PCやスマホなどで使われる一般的な電池は「リチウムイオン電池」と呼ばれるもの。一番身近なので皆さんもご存じの通り、だいたい通常時で3.6V~3.7Vで、電池切れの終止電圧が2.5V~2.7Vとなっている。繰り返し充電回数は、製造時に添加物を入れて調整するが、最も安価で一般的なものだと500回、ちょっと長く使えるタイプだと1,000回ぐらいだ。
かたやJackery製品で使われている「リン酸鉄リチウムイオン」は正式名称「オリビン型リン酸鉄リチウムイオン電池」といい、一般的なリチウムイオン電池とは少し異なる材料で作られている。電圧は3.2V、終止電圧も2.0Vと低めになっているが、繰り返し充電回数が3,000~5,000回も使えるというメリットがある。さらに最大電流も低くなっているので、暴走の危険性も少なく安全なリチウムイオン電池とされている。
バッテリ長持ちちょっとしたUPSとしても使える
長くなったが、滅多に中身を見られないポータブル電源の内部を見てきた。そこには停電中に安定した電力を供給する、さまざまなしくみが隠されていた。さらにJackery独自のバッテリ保護や安全性の高いバッテリの採用など、安全面に対するさまざまな対策も講じてあった。
本記事では説明しなかったが、このポータブル電源はスマホと連携でき、本体のボタンだけでは設定できない細かな調整が可能だ。特に有効なのは、100Vに出力する電源周波数だろう。西日本は60Hz、東日本は50Hzのあれだ。時計や単機能の安い電子レンジ、蛍光灯などでは周波数に依存されるものがあるので、スマホで地域に合わせて50/60Hzを切り替えるといい。
キレイなサイン波を描いているので、公式ホームページでは「99%の家電が動く」としているが、筆者の感覚では「動かない家電は稀」まで言ってもいいだろう。比較用に筆者の住んでいる横浜に届いている東京電力の50Hzの電源の波形も掲載しておくが、こちらの方が頭が潰れキレイなサイン波になっていないのが分かるだろう。
さらにバッテリ寿命を延命するAIによる充電以外にも、バッテリに負担がかかりやすい90~100%の充電を行なわず、85%に制限する機能もスマホから設定できる。スマホでたいていの人が経験している通り、0%~90%まではすぐに充電できるが、90%~100%の充電には時間がかかりスマホも熱を持つ=バッテリに負荷がかかっている。そこでJackeryは85%で充電を打ち切り、自然放電などで80%未満になったときだけ再び85%まで充電するようにしている。こうして、100%まで充電した時に比べバッテリ寿命を1.5倍まで延命できるということだ。
また簡易UPSとして使える、停電検知から0.02秒で内部バッテリ機能へ切り替える「パススルー」機能も内蔵。ノートPCならUPSとして使ってもまったく問題なし。デスクトップでも800Wクラス以上のATX電源を搭載していれば、1次側に大容量のコンデンサを持っているので、切り替え時にPCが落ちることもないはず。ポータブル電源は常にコンセントに接続し、PCの電源は常にポータブル電源のコンセントから取るようにするだけで簡易UPSとして使える。
USBで停電検知の信号が上がってこないため、自動でバックアップやシャットダウンに移行はできないが、0.02秒でコンセントからバッテリ駆動に切り替わるので、PCは落ちることなく動作を続けられる。
2,000円ぐらいで入手できる「USB→パラレル変換装置」を使って、コンセントに挿し込んだ5VのACアダプタの状態をPCに通知してもいいだろう。PCの常駐プログラム(Windows 7で自作したときはVBAでも状態を検出できだけど……)を作って停電検出すれば、フォールトトレラントシステムの完成だ!
PC Watch読者のみなさんなら、停電時の簡易UPSとして、加えて2~3日の電力復旧までをやり過ごす非常用電源として、その利用価値が一般の皆さんよりさらに高いものになるだろう!
【11時15分訂正】一部誤字、脱字などを訂正しました。
【17時7分訂正】一部追記をいたしました。