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WQHDで240Hz VRR対応モニターを買って配信環境を更新しようとしたら、かなりの沼だった。パススルーのまやかしにも遭遇

筆者の現在の配信環境

 それまで使っていたゲーミングモニターが壊れた。画面の左下あたりにうねった黒いシミがうっすら現われたのだ。白一色のような画面以外ではほとんど気にならないので、もしかしたら何かの弾みに直るかもなどと思いつつ、1カ月ほどはだましだまし使っていたのだが、ちょっとずつシミが濃くなってきた感もあるので新しいものに買い換えることにした。

 壊れたのは、最大240Hz表示に対応するフルHD(1,920×1,080ドット)のゲーミングモニター。プレイする多くのゲームが、格闘ゲームやFPS系ゲームなど、画質よりも表示速度を重視するタイプなのでフルHD解像度でも十分なのだが、最近ではその1つ上のWQHD(2,560×1,440ドット)でも240Hz対応製品が増えている。また、主なプレイタイトルがWQHDでも快適に動作するのと、DisplayPortだけでなく、HDMIでも240HzかつVRRにも対応するものがちらほら出てきた。

 と言うことで時間をかけて吟味し、白羽の矢を立てたのがBenQの「MOBIUZ EX270QM」だ。Amazonでの購入価格は約9万9,000円だった。しかし、結論から言うと筆者が目論んでいた環境は実現できなかった。どのあたりに問題があったのか、説明していく。

壊れたモニター。写真では目立たないし、ゲーム画面などでも気にならないが、妙なシミが表示されている

裏技(?)でHDMIでキャプチャしつつ、240Hz VRR環境でゲームをプレイ

 筆者は時々個人でもゲーム配信を行なっている。ゲーミングPCと配信PCを別々にして、ゲーミングPCの映像をUSBキャプチャ経由で配信PCに取り込んで配信に載せるという形を取っている。2台配信は、コストがかかり、配線や技術の面でも面倒なのだが、OBSのプラグインを使ってゲーム画面を3次元に傾けたり、その上にリアルタイムで自分を合成したりといった凝ったことをやった結果、ゲームよりOBSの方がGPU負荷が高くなると言う逆転現象が起きてしまったので、やむを得ず2台に分けたのだ。

 この2台に分けた時に悩んだのが、キャプチャのやり方だ。元々使っていたモニターはDisplayPortもHDMIも最大240Hzに対応していた。しかし、このHDMIはG-SYNCやFreeSyncといったVRR(Variable Refresh Rage:可変リフレッシュレート)に対応していない。一方で、基本的に一般向けのキャプチャユニットはHDMIにしか対応していない。

 つまり、2台構成で配信する場合は、V-Syncをオンにして"テアリングは発生しないが、かくつきが発生する"か、V-Syncをオフにして"かくつきは発生しないが、テアリングが発生する"のいずれかに甘んじるしかない。

 だが、どちらもイヤだった筆者は、とある裏技(?)にたどり着いた。それは、同じゲーミングPCから同じモニターにHDMIとDisplayPortの両方を同時につなぐという方法だ。その上で、この2つの出力をWindows上で「複製」状態にする。すると、HDMIでキャプチャしながら、DisplayPort側はG-SYNCを有効にできるのだ。

 この場合も、2系統に同時出力する無駄はあるものの、おおきな不満なく使っていた。

HDMI 2.1でHDMIでもWQHD 240Hz VRRに対応可能……に見えたMOBIUZ EX270QM

BenQ「MOBIUZ EX270QM」

 そして、モニターを買い換える事になったわけだが、壊れたから買い換えるという理由でも、スペックは同じではなく、今までより上のものにしようと考えた。その結論が、解像度をWQHDに上げることと、HDMI 2.1対応のものにするということだ。

 WQHDにする理由は前述の通りで、HDMI 2.1にするのは、HDMIでも240Hz VRRが実現できるからだ。HDMIは2.0でも帯域的にはWQHDの240Hz表示に対応できる(ただし、YCbCr 4:2:0にはなる)が、VRRには対応しない。

 また、ちょうどAVerMediaやElgatoからWQHD 240Hz VRR、つまりHDMI 2.1に対応するキャプチャユニットが登場しており、いずれも検証用にメーカーから提供を受けていた。EX270QMとこれらのキャプチャユニットの組み合わせにより、HDMIとDisplayPortに同時配線というまどろっこしいことをしなくて済むようになる。そう考え、10万円払ってこのモニターを買ったのだ。ちなみに、HDMI 2.1に対応するモニターは今ではそこそこあるが、その大半は4Kで、WQHD製品は希少だ。

 しかし、1つ大きな盲点があった。AVerMedia製品、Elgato製品、どちらもこのモニターではWQHD 240Hzのパススルーには"完全対応"できないことが分かったのだ。WQHDでパススルーできるのは144Hzまでとなる。原因はモニターのDSC機能にあった。

 DSCとはDisplay Stream Compressionの略でHDMI 2.1から取り入れられた。DSCにより、人間の目では認識できなレベルの映像圧縮を行なうことで、HDMI 2.1では8K 60Hzなどにも対応できるようになっている。DSCは、基本的には8Kなどの高解像度をにらんだ技術なのだが、実はEX270QMのHDMIは、WQHDの240HzをDSCによって実現しているのだ。

 加えて、WQHD 240Hz VRRパススルーに対応するAVerMediaの「Live Gamer ULTRA 2.1 - GC553G2」もElgatoの「4K X」も、これについては"DSCモードではない環境なら"という制約がある。

 EX270QMのサイトを見る限り、HDMIがDSC対応とは書かれておらず、DSCをオフにすることもできない。また、AVerMediaのサイトには「モニターのDSC機能を使用しないことをお勧めします」とのみ書かれていて、ElgatoのサイトにもDSCのことはほとんど書かれていない。今回、この検証を行なっていてキャプチャ経由でWQHD 240Hzのパススルー出力ができなかったため、AVerMediaとElgatoに問い合わせをして「モニターがDSCを使っていない」ことが必須だという事実を知ったのだ。

Live Gamer ULTRA 2.1 - GC553G2のページの注意書きには「モニターのDSC機能を使用しないことをお勧めします」と書かれていている

 では、どのモニターなら、これらのキャプチャユニットを使いながら、WQHDで240Hz出力ができるのか? AVerMediaに問い合わせたところLGの「27GR95QE-B」については動作確認が取れているとの返事があった。逆に、EX270QM以外にも、CORSAIRの「Xeneon 27QHD240」とGIGABYTEの「M28U」もDSCでの接続となるので、WQHD 240Hzパススルー出力はできないらしい。Elgatoのサイトも英語のサポートページにはDSC非対応の旨が記載されている。

 そこで、LGから27GR95QE-Bを借りて試したところ、GC553G2でも4K XでもWQHD 240Hzのパススルー出力ができた。ということで、WQHD 240Hzでのパススルーをしたいなら、おそらくこのモニターが唯一の選択肢となる。

LG「27GR95QE-B」

 この環境は非常に快適だ。適切にG-SYNCを設定すれば、テアリングで画像が乱れたり、スタッタリングで描画がカクついたりすることはない。そして、ゲーミングPCと配信PC、キャプチャユニットの配線も必要最小限で済む。

 本製品は、解像度がWQHDで240Hz対応のDisplayPortとHDMI×2を搭載し、色域がDCI-P3を98%カバーする点はEX270QMと同じ。大きな違いとして27GR95QE-Bはパネルが有機ELとなっている。

 2台配信のメリットは、OBSなど配信ソフトの影響でゲーム性能が低下するとか、ゲームのせいでPCがクラッシュして配信が落ちるといった心配がない点。同じマシンでOBSで配信をしていると、ゲームによってはフレームレートが10%程落ちるものもある。普段の配信だけでなく、大会も配信したいというような高レベルなプレイヤーなら、2台配信は十分検討の価値がある。

 また、ブラウザを配信に映したらひょんなことから自分の本名が書かれたアカウント情報が表示されてしまった、あるいは、日本語入力システムの変換候補から自分の住所が表示されてしまったというセキュリティ/プライバシー問題についても、ゲーミングPCではブラウザにログインしない、日本語入力システムに学習をさせないといった対応を行なうことで防げるというメリットもある。

1台のマシンでOBSとゲームを同時稼働させた場合のフレームレートの変化。配信ソフトは、OBS Studio 30.0.0を使用し、YouTubeのフルHD/60fps/8Mbps/H.264の設定を利用。映像エンコーダは「NVIDIA NVENC H.264」を選択。ゲームの画質は最上位とし、フルHDと4Kの解像度でフレームレートを測定
オーバーウォッチ2の結果: 画質“エピック”、Botマッチを実行した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定
サイバーパンク2077の結果: 画質“レイトレーシング: ウルトラ”、DLSS“バランス”、ゲーム内のベンチマーク機能で測定

240Hzパススルーのまやかしと今回筆者が取った選択肢

 実は、今回の検証を行なっている中で、4K Xについては、設定次第で"WQHD 240Hzのパススルー"ができることが分かった。設定次第というのは、独自ソフトの「4K Capture Utility」で「入力EDIDモード」を「結合済み」にする。ちなみにこれはデフォルトの設定だ。なので、最初筆者は、「4K Xなら俺の望みを叶えられるじゃん!」と思っていたのである。

入力EDIDモード」が「結合済み」だと、「4K Capture Utility」での入力信号も、OSでの認識もWQHDの240Hzとなっている

 しかし、ここにも盲点は存在した。

 確かに4K XとEX270QMの組み合わせで、Windows上ではWQHD解像度で240Hzを指定できる(かつHDRもオンにできる)。そして、NVIDIAコントロールパネルでは、G-SYNCを有効にもできる(HDMI 2.1のVRRはG-SYNC Compatibleという形でG-SYNCにも対応可能)。実際、NVIDIAコントロールパネルで「G-SYNCの互換性インジケータ」を有効にしてゲームを起動すると、「G-SYNC」の文字が表示されており、G-SYNCが機能しているように見える。

 だが、このG-SYNCはまやかしなのだ。実際にオーバーウォッチ2動かすと、フレームレートは230fps程度で安定しているのに、テアリングが発生するのだ。G-SYNCが機能している場合、GPUのフレームレートがモニターのリフレッシュレート(ここでは240Hz)に収まっていれば、テアリングは起きないはずだ。

NVIDIAコントロールパネルでもWQHDで240Hzと認識されており
G-SYNCも有効にできる

 これは、垂直同期が取れていないことを意味する。実際、NVIDIAコントロールパネルを確認したところ、いろいろ検証している間に垂直同期がオンになっていなかった。

 G-SYNCを有効にするにはまず、NVIDIAコントロールパネルの「G-SYNCの設定」で「G-SYNC、G-SYNCとの互換性を有効化」および「選択したディスプレイモデルの設定を有効化」にチェックを入れる。

 続いて、「3D設定の管理」の「グローバル設定」において、「モニターテクノロジ」が「G-SYNCとの互換性」(デフォルト)、「優先的に使用するリフレッシュレート」が「利用可能な最高値」(デフォルト)になっている上で、「垂直同期」を「3Dアプリケーション設定を使用する」(デフォルト)から「オン」に変更し、「最大フレームレート」を「オフ」からモニターリフレッシュレートより4ほど低い数値に変更する必要がある。G-SYNCを有効にしても、垂直同期がオフだと、フレームレートがモニターリフレッシュレートを超えたときテアリングが発生するためだ。

 ちなみに、本来は垂直同期をオンにするだけでいいはずなのだが、最大フレームレートがオフだと、フレームレートが天井に達した時、若干の入力遅延が発生する場合があるため、安全なマージンとして4フレームほど低い値に強制するといいと言われている。

G-SYNCを機能させるには、垂直同期をオンにする必要がある

 と言うことで、ひとまず垂直同期をオンにしてオーバーウォッチ2をプレイすると、テアリングは解消されたが、同時にフレームレートが140fps程度に落ち込んだ。何が起きたのか?

 実は、4K XとEX270QMの組み合わせでデフォルト状態だと、システムはWQHDで240Hz表示できると"勘違い"しているのだ。しかし、4K X+EX270QMの環境において、WQHDで本当にパススルーできるのは、DSCを必要としない144Hzが上限なのだ。そのため、垂直同期をオフにして、240fpsでGPUから映像を送り出すと、4K Xのキャパシティ(144Hz)を超えたフレームレートとなるためテアリングが発生してしまうというわけだ。

「モニターテクノロジ」は「G-SYNCとの互換性」、「優先的に使用するリフレッシュレート」は「利用可能な最高値」とした状態で、「垂直同期」を「オフ」にすると、「G-SYNCの互換性インジケータ」による「G-SYNC」の表示がされているが、フレームレートがモニターのリフレッシュレート(240Hz)を超えている。この状態ではテアリングが発生する

 では、なぜ上記のような"勘違い"が発生するのか? これは、4K Xの入力EDIDモードによる。デフォルトの「結合済み」は、モニターとキャプチャのいいとこ取りをしたEDIDを設定する。これによってパススルー状態であっても、モニターが対応する240Hzが上限だと思ってしまうのだ。

 入力EDIDモードにはこのほかに、「内部」と「ディスプレイ」がある。内部に設定すると240Hzも選択はできるのだが、モニターには映像が映らない。4K Capture Utilityでは取り込み画面が表示されているので、GPUから表示され取り込みまではできているのだが、パススルーができていない。144Hzでは問題なく表示される。「ディスプレイ」を選んだ場合は、そもそもOSで設定可能なリフレッシュレートの上限が120Hzとなる。

 なお、EX270QMにDisplayPortとHDMIを両方接続して、画面を複製させた場合でも、DisplayPort側では一見240Hzを利用できるように見えるのだが、G-SYNCを完全な形で有効にするとリフレッシュレートの上限は144Hzとなる。

 ちなみに、AVerMediaのユーティリティでもEDIDモードは変更できるのだが、この製品ではWQHD+EX270QMでの上限は常に144Hzとなる。

AVerMediaのGaming Utilityを使うとEDIDを変更できるが、WQHDでは144Hzが上限だ

 と言うことで筆者が購入したEX270QMでは購入前に思い描いていた環境は実現できなかった。8年前に4K TVを買ったとき、HDMIの帯域が狭く、4K/HDRだと60fpsの入力ができないのが後から判明した"事件"を思い出してしまった。

 失意に暮れながら筆者が選択したのは、144HzなVRR環境で利用するというものだ。テアリングを受け入れれば240Hz表示もできるが、これは個人的に受け入れがたい。モニターの最高性能を利用できないのは残念だが、144Hzと240Hzの体感差はかなり小さく、プロゲーマーであってもギリギリその違いを認識できるかどうかのレベルなので、諦めることにした。

USBキャプチャの最高峰となるAVerMediaの「Live Gamer ULTRA 2.1」とElgatoの「4K X」

AVerMedia「Live Gamer ULTRA 2.1」

 今回利用したAVerMediaの「Live Gamer ULTRA 2.1」とElgatoの「4K X」は、ここまでで紹介した通り、(モニターがDSCを利用しない場合)WQHDでの240Hzパススルー出力にも対応可能なUSBキャプチャユニットだ。細かいところでの仕様の違いはあるが、高解像度や高リフレッシュレートでキャプチャをしたい人にとっての最高スペックの製品と言っていい。それぞれの特徴を紹介しよう。

 Live Gamer ULTRA 2.1は、フルHDは360Hzまで、WQHDは240Hzまで、4Kは144Hzまでのパススルーに対応。いずれもHDRとVRRにも対応する。キャプチャ(録画)については、フルHDは240Hz SDRか120Hz HDR、WQHDは120Hz SDRか60Hz HDR、4Kは60Hz SDRか30Hz HDRまで対応する。これ以外にも、21:9となる、2,560×1,080ドットや3,440×1,440ドットにも対応できる。

Live Gamer ULTRA 2.1の対応解像度/リフレッシュレート

 特徴的な点として、3.5mmの音声端子が2つあり、キャプチャした音声の出力および、外部マイクの音声入力ができる。前面にカスタマイズ可能なRGB LEDを備えるのも特徴だ。

Elgato「4K X」

 4K Xは、フルHDは240Hzまで、WQHDは240Hzまで、4Kは144Hzまでのパススルーに対応。こちらも、HDRとVRRにも対応する。キャプチャについては、フルHDは240Hz SDRか120Hz HDR、WQHDは144Hz SDRか60Hz HDR、4Kは144Hz SDRか60Hz HDRまで対応する。

4K Xの対応解像度/リフレッシュレート

 特徴的な点として、OBSなどでゲーム画面とカメラ画像などを重ね合わせ配信に出力しつつ、キャプチャで取り込んだゲーム画面だけを別途同時に録画する機能もある。このほか、3.5mm音声入力端子もある。

 いずれの製品もUSBは10Gbpsの3.2 Gen2に対応している必要がある。また、いずれもUVCに対応しているので独自ドライバなどをインストールしなくても動作する。


 と言うことで、当初の目論見通り動かせなかったEX270QMだが、キャプチャをしないのであれば、HDMIについても制約はない。筆者のゲーミングPCはGeForce RTX 4070 SUPERを搭載しているが、このGPUはDSC接続にも対応する。そのため、キャプチャを行なわず、GPUとEX270QMをHDMI 2.1ケーブル対応ケーブルで直結するのであれば、WQHD 240HzでG-SYNCを利用できる。

 パネルはIPSで応答速度は1ms(中間色)、色域はDCI-P3を98%カバーし、DisplayHDR 600にも対応する。HDR対応ゲームを表示させたときの画質は、輝度も十分でメリハリのきいた色味で、画質の満足度は非常に高い。

 加えて、リモコンが付属するのも、筆者のような2台環境では重宝する。ゲーミングPCはEX270QMにしかつないでいないが、配信PCは、配信以外に仕事でも使うので、こちらもEX270QMにつなぎ、計4画面で使っている。そのため、ゲームをプレイするときは、EX270QMを切り替える必要があるのだが、これを画面下にあるOSD操作ボタンでやるのは結構面倒。しかし、リモコンなら「入力切替ボタン」と、方向ボタンと決定ボタンを押すだけで、3秒で済む。

 DSCという罠はあったものの、トータルでは満足度の高い製品だ。