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新就航のAirJapanに乗って、座席USBのスペックを検証してきた

 2024年2月9日、ANAグループの中距離国際線向け新ブランドAirJapanが成田-バンコク間に就航した。アジア路線を中心に展開をしており、執筆時点ではバンコク路線のみだが、2024年2月22日から成田-仁川、4月には成田-シンガポール間も就航予定だ。

 AirJapanは、フルサービスキャリア(FSC)とローコストキャリア(LCC)の中間に位置するブランドとなっている。ハイブリッドエアラインやミドルコストキャリア(MCC)と呼ばれることもある。

 FSCのような機内での食事やドリンクは無料で付かないが、その一方でLCCのような窮屈なシートピッチでもないメリハリを利かせている。すでにシートの快適さは各ニュースサイトで伝えられているが、PC Watch的に言えば機内でノートPCやタブレットをどれだけ活用できるのか気になるところ。

 ということで、筆者はたまたまAirJapanの初便を確保していたため、電子機器まわりの利用についてレビューしていく。なお、今回の記事は作成にあたってANA広報部より許諾を得て取材ならびに検証をさせていただいた。ご協力に感謝したい。

AC電源はなし、USB Type-AポートとUSB Type-Cはある

 AirJapanではWebページ上で「*AC電源は使用できません。」と記載がある通り、ANA国際線の各クラスで搭載されているユニバーサルタイプのPC電源はない。しかし、その代わりAirJapanではUSB Type-A及びType-Cが使えると記載がある。

AirJapanのUSBポート

 注目すべきところはUSB Type-Cの性能だが、実際どの程度使えるかAirJapanの公式サイト上では分からない。

 筆者の経験上、飛行機に搭載されているUSBポートといえばUSB Type-Aポートの5V/1Aクラスという、一応充電はしているが本当に充電しているのか心配になってくるようなものばかりという印象だった。

 今回、実際に初便に乗り、座席のUSBポートを見る限りUSB Type-Cについては27Wの表記がある。スマートフォンやタブレットでは十分なスペックと言えるだろう。

USB Type-Cポートには27Wの表記があった

 と、ここで終わってしまっては「USB Type-Cだがよく分からん」になってしまうため今回はUSBテスターを機内に持ち込んだ。

 USB Type-C用として、POWER-Z製の「KM002C」、USB Type-A用として同じくPOWER-Z製の「FL001SUPER」を持ち込んでいる。

 なお、さすがに行動が怪しすぎたのか隣の方々に「他社のスパイですか!?」と冗談を言われたりしたが、決してそんなことはないので安心してほしい。

FL001SUPER(左)、KM002C(右)。KM002CはUSB PD EPR 240Wまでの測定に対応している。現在はより画面が大きくなったKM003Cが発売中だ

USB Type-Cのスペック

 USB Type-C側が対応している規格はUSB PD3.0 27WとBC1.2(Battery Charging Specification 1.2)のDCP(Dedicated Charging Port)となった。もっと特殊なプロトコルが隠れているかと思ったが、素直なラインナップといえよう。

 USB PD3.0のPDO(Power Data Object)は

  • 9V/3.0A
  • 5V/3.0A

の2つだ。

 ノートPCの充電で主に用いられる12V以上のPDOには対応していないところが少し曲者だ。

個人的な感想を言えばもう少し頑張って30Wに対応しているとうれしいのだが

 今回はノートPCとして富士通のLIFEBOOK U9312/Kを持ち込んだ。

 富士通および富士通クライアントコンピューティング製のUSB PD充電に対応しているLIFEBOOKは、モバイルバッテリからの充電もしくは給電に対応している。ただし、AirJapanのUSB Type-Cポートで定義されている最も高い9V/3AのPDOに対応していないため、5V/3Aで充電される。

 15Wと言われると充電されているのか心配になる電力だが、第12世代Core i5のUプロセッサを搭載していることもあり、ハードな作業をしない限り少しずつ充電されていく。

 もし機内でノートPCの使用を検討している場合は、自身のデバイスが対応するPDOを確認しておくと良いだろう。とはいえ、ほとんどのメーカーが公開していないのだが……。

LIFEBOOK U9312/Kがデスクから飛び出ない程度に収まるサイズだ
LIFEBOOKは9V/3Aのリクエストを出さない

 次にiPad Proの11インチモデルだ。

 2018年に発売したUSB Type-Cポートを搭載したiPad Proは27Wの充電に対応している。AirJapanのUSB Type-Cポートのスペックと合致しており、ある意味想定されていた仕様のデバイスとも考えられる。タブレットホルダーへ取り付けるとき少し力は必要だったがその分しっかりと固定できる。そして自分の目の前でタブレットの大画面を堪能できるのは気分が良い。

iPad Pro 11インチ(第1世代)、タブレットホルダーに取り付けると迫力のあるサイズになる
5V/3A→9V/3Aの順に移行していく
ほぼ上限の25Wの出力を確認した

USB Type-Aのスペック

 USB Type-A側も見ていこう。こちらもUSB Type-Cと同じく特殊なプロトコルはなく、USB BC1.2のDCPに加えてApple向けとして2.1A(10W)が使えるくらいだ。

 Apple向けについては最大で2.4A(12W)まで定義されているが、使えないということは、おおよそ10Wくらいが限度ということなのだろう。

 そのため、もしUSB Type-AとUSB Type-Cのどちらを使うべきかと問われた場合、USB PDに対応している機器であればUSB Type-Cと答えることになる。

USB Type-Aポートが逆向きに搭載されているため画面が見えず、スマホの前面カメラを使って操作を実施していた
USB Type-AポートでiPad Pro 11インチモデルを充電するとUSB DCPが選択され、上限となる5V/1.5Aに近い電力で充電された

 なお、USB Type-CポートとUSB Type-Aポートは独立しており、少なくとも1席で27W+7.5Wの34.5Wは供給できる想定だ。

機内インターネット接続サービス(有料)と機内エンターテイメント

 AirJapanの機内には乗客が利用できる以下の2つのSSIDが存在する。

  • Air Japan WiFi Service……機内インターネット接続サービス(有料、Wi-Fi4)
  • AJX-Inflight-Service……機内エンターテイメント(Wi-Fi5)

 このように、2つのSSIDでサービスを振り分けている。そのため、基本的に機内エンターテイメントを楽しみながらインターネットに接続することはできない。

 なお、どちらも5GHzの周波数帯を使用しているため、数年前まで存在していた5GHz非対応のエントリークラスのスマートフォンなどではSSIDを見つけることができない。

機内インターネット接続サービス(有料)

 AirJapanの機内インターネット接続サービスはパナソニックアビオニクスが提供するANA WiFi Service 2相当のサービスとなっており、料金メニューも同一だ。

  • 30分プラン:6.95ドル
  • 3時間プラン:16.95ドル
  • フルフライトプラン:21.95ドル

 こちらは1デバイスのみ利用可能で、別のデバイスから再接続をすると、元のデバイスはインターネットが切断される仕様となる。

 今回筆者は3時間プランを購入してみた。2月9日に16.95ドルをRevolutで支払ったところ2,540円だった。円安が憎い……。

 実際に使ってみると、アクセス不可になることも頻繁にあり、とても安定しているとは言えない状況だったが、2月12日付けで「当社機内インターネット接続サービス(有料)は、当面の間、ご利用を停止させていただいております」とリリースされたこともあり、おそらく再調整をしているのだと考えられる。再開後に期待したい。

プラン選択画面、購入後再接続する場合は下の再接続を選択する
アクセスタイプを選択する。筆者は今回新しくアカウントを登録する
名前やメールアドレス、パスワードなどを登録する
クレジットカード番号、カード記載の氏名、有効期限、コード(CVC)を記入して支払い
インターネットに接続された

機内エンターテイメント

 機内エンターテイメントは乗客自身のスマートフォンやタブレット端末でアクセスするタイプのものを採用している。AirJapanのWebサイト上では記載がないが、ノートPCでもコンテンツを楽しむことが可能だ。

 システムとしてはBLUEBOX製のIFEが搭載されており、食事やアメニティの注文、ビデオのストリーミング、地図の表示を行なうことができる。

機内エンターテイメントのトップ画面
マップ表示
機内販売画面、物によっては購入可能数でポチりたい衝動が抑えられなくなるだろう

 初便となるNQ1便ではBLUEBOX側の不調で機内販売ができない状況が続いた。機内でBLUEBOXの社員の方がノートPCを片手にひたすら歩いている姿が印象に残ったが、筆者が2月12日に搭乗した復路のNQ2便では復活しており、実際に購入することができた。

とりあえずカートに入れて販売開始を待つ。右上のステータスが販売中になったら注文へを選択する
氏名とメールアドレス、座席番号を記入する
確認画面が表示される
これで注文完了(注文時刻表示がおかしい気もするが……)

 注文が完了すると客室乗務員が注文した商品を席まで持ってきてくれるため、その場でクレジットカードの決済をする。もちろんコンタクトレス決済も可能だ。

 執筆時点ではVISA、Mastercard、American Expressのみで、JCBは後日対応ということになる。

 ビデオプログラムについて初便では以下のタイトルが配信されていた。

  • グランツーリスモ
  • ドント ウォーリー ダーリン
  • シング・フォー・ミー、ライル
  • SCRAPPER
  • スパイダーマン・アクロス・ザ・スパイダーバース
  • ザ・フラッシュ
  • ドラえもん
  • PEANUTS スヌーピーショートアニメ
  • トムとジェリー
  • ひつじのショーン

 これらは、ANAが2024年2月時点で配信しているタイトルの一部を厳選した形だ。再生中にANA、ALL NIPPONと表示されるため、このあたりは共通化されているのだろう。

 ただ、少なくとも筆者が視聴していた映画タイトルについては、英語音声+日本語字幕しかなかった。今後積極的にインバウンド客を取り込んでいくのであれば、より広い言語に対応しているとうれしいのではないだろうか。

機能として音声とサブタイトルの制御は実装されている

FSCとLCCの間、それは電子機器まわりも同じ

 AirJapanのノートPCやタブレットで関わりそうな点を紹介してきたが、この点に絞ってもFSCとLCCの中間という位置づけが感じられる。FSCのANAの国際線であればユニバーサルタイプのプラグを搭載していることがほとんどだが、LCCのPeachの場合、電源については「モバイルバッテリがあると安心!」と記載があるとおり提供がない。今回のAirJapanはUSB Type-Cの27Wに対応するため、グループ間で言えばまさに中間を攻めた形と言えるだろう。

 同じ位置付けでいえばJALグループの「ZIP AIR」もあるが、こちらは機内インターネット接続サービスが無料で全席にユニバーサルタイプのプラグを搭載している。この点に関してはZIP AIRの方が優れている……というかFSCのJALを下剋上しているのだが、乗客としてはありがたいポイントとなっている。

 衛星を使ったインターネット回線も無限ではないため、全員でアクセスされても困るのだろうが、AirJapanもインターネット接続サービスについてはもう少し手頃な値段のメニューや施策も検討してくれるとうれしい限りだ。

 今回は往路の初便で機内エンターテイメントの不調、復路では機内インターネット接続サービスの提供停止とトラブルもあったが、今後の解決および安定化に期待したい。その上で価格とサービスの「ちょうど良い」をフレキシブルに突き詰めていってほしいところだ。筆者もまた機会を作り乗ってみたいと思う。

今回の運賃
成田→バンコク
運賃:SIMPLE1万5,500円
税金・料金等3,850円
オプショナルサービス2,000円(座席指定)
バンコク→成田
運賃:SIMPLE1万5,500円
税金・料金等2,690円
合計3万9,540円
タブレットとノートPCを同時にセットすると、縦に2画面セットしているようにも見える