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驚異の1,000円で買える12コア「Xeon E5-2650 v4」と最新GeForceでゲームがどこまで動くのか?
2023年12月29日 06:14
AliExpressには日々、さまざまなPCパーツが出品されているが、最近はBroadwell-EP世代の12コアXeon(中古)が驚異とも言える1,000円程度で販売されている。性能を期待するにはさすがに旧世代過ぎるが、1,000円という価格はそれなら……と魔が差すには十分な安さだ。
というわけで、今回は「AliExpressで買える格安の中古12コアXeonは最新GPUの性能をどこまで引き出せるのか?」というテーマで検証を行なう。比較対象として、2023年最強ゲーミングCPUの1つ「Ryzen 7 7800X3D」も用意したので、旧時代のメニーコアCPUと最新鋭ゲーミングCPUの性能差にも注目してみよう。
なお、今回用意したXeon E5-2650 v4は約1年前に購入したもので、3,000円程度だったことを付け加えておく。現在は1,000円程度という価格だ。
かつては約15万円のメニーコアCPUだった「Xeon E5-2650 v4」
AliExpressで入手した中古のXeonは、Broadwell-EP世代の12コア/24スレッドCPU「Xeon E5-2650 v4」だ。
2016年に発売された当時は約15万円の高価なCPUであったXeon E5-2650 v4が、中古とはいえ3,000円(今は1,000円程度)で入手できたのだから時の流れとは恐ろしい。偽造品と疑いたくなるような価格だが、実際に入手したCPUは正しくXeon E5-2650 v4として認識され、特に異常なく動作した。
このXeon E5-2650 v4の比較対象として用意したCPUが、2023年における最高のゲーミングCPUの1つである「Ryzen 7 7800X3D」。
AMD最新のZen 4アーキテクチャと、3D V-Cacheによる96MBの大容量L3キャッシュを組み合わせたRyzen 7 7800X3Dは、ゲームで特に高いパフォーマンスを発揮する最新の8コア/16スレッドCPUだ。
今回、Xeon E5-2650 v4でテストする最新GPUとして、GeForce RTX 40シリーズから「GeForce RTX 4080」、「GeForce RTX 4070」、「GeForce RTX 4060」の3製品を用意した。
そもそもゲームに向かないサーバー・ワークステーション向けメニーコアCPUであるXeon E5-2650 v4が、ハイエンドGPUであるGeForce RTX 4080の性能を十分に引き出せないことは容易に想像できるが、ミドルレンジ上位のGeForce RTX 4070や、ミドルレンジ下位のGeForce RTX 4060ならどうなるのかに注目だ。
そのほか、今回の検証で使用する機材は以下の通り。
なお、GeForce RTX 40シリーズはバスインターフェイスにPCIe 4.0を採用しているが、Xeon E5-2650 v4はPCIe 3.0までしかサポートしていないため、上位の2GPUはPCIe 3.0 x16、GeForce RTX 4060はPCIe 3.0 x8での接続になっている。また、Xeon E5-2650 v4ではResizable BARも利用できない。
最新鋭のRyzen 7 7800X3Dに対して、インターフェイスや機能面でも不利な部分が多いXeon E5-2650 v4だが、旧世代のCPUとはそういうものなので仕方がない。
CPU | Xeon E5-2650 v4 (12コア/24スレッド) | Ryzen 7 7800X3D (8コア/16スレッド) |
---|---|---|
CPUリミット設定 | PL1=105W、PL2=126W、Tau=16秒、TjMax=95℃ | PPT=162W、TDC=120A、EDC=180A、TjMax=89℃ |
マザーボード | MSI X99S XPOWER AC (BIOS=1.D0) | ASUS TUF GAMING X670E PLUS (BIOS=1813) |
メモリ | DDR4-2400 8GB×8 | DDR5-5200 16GB×2 |
CPUクーラー | ASUS TUF GAMING LC 240 ARGB (ファンスピード=最大) | |
GPU-1 | GeForce RTX 4080 Founders Edition | |
GPU-2 | GeForce RTX 4070 Founders Edition | |
GPU-3 | ZOTAC GAMING GeForce RTX 4060 8GB SOLO | |
GPU用PCIe | PCIe 3.0 | PCIe 4.0 |
Resizable BAR | 非対応 | 有効 |
GPUドライバ | GRD 546.33 (31.0.15.4633) | |
システムSSD | Crucial MX500 500GB (6Gbps SATA) | Samsung SSD 980 PRO 500GB (PCIe 4.0 x4) |
ゲーム用SSD | CFD CSSD-M2B2TPG3VNF 2TB (USB 5Gbps) | CFD CSSD-M2B2TPG3VNF 2TB (USB 10Gbps) |
電源ユニット | 玄人志向 KRPW-PA1200W/92+ (1,200W/80PLUS Platinum) | |
OS | Windows 10 Pro 22H2 (build 19045.3803、VBS無効) | |
電源プラン | バランス | |
室温 | 約25℃ |
ゲームでのパフォーマンスを検証
それでは早速、ゲームでXeon E5-2650 v4がGeForce RTX 40シリーズの性能をどこまで引き出せるのか検証していこう。
今回テストしたゲームは、「エーペックスレジェンズ」、「フォートナイト」、「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」、「サイバーパンク2077」、「Microsoft Flight Simulator」、「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」の6本。
エーペックスレジェンズ
まずは、定番のバトルロイヤルFPS「エーペックスレジェンズ」の結果だ。テストではグラフィック品質を可能な限り高く設定して、フルHD/1080pと4K/2160pでの平均フレームレートを計測した。テスト時の上限フレームレートは300fps。
結果は、意外にもXeon E5-2650 v4が健闘していると言えるもので、フルHD/1080pではGeForce RTX 4080で約12%、GeForce RTX 4070で約4%、それぞれRyzen 7 7800X3Dを下回っているが、GeForce RTX 4060では同等のフレームレートを記録。GPUがボトルネックになりやすい4K/2160pに至っては、Ryzen 7 7800X3Dと遜色ない結果を記録してみせた。
フォートナイト
バトルロイヤルTPSの「フォートナイト」では、グラフィックプリセット「最高」をベースにNaniteを無効に設定して、フルHD/1080pと4K/2160pでの平均フレームレートを計測した。テスト時のグラフィックスAPIはDirectX 12。
エーペックスレジェンズでの健闘が一転、Ryzen 7 7800X3Dが200~360fpsを記録したフルHD/1080pにおいて、Xeon E5-2650 v4のフレームレートは110fps前後で頭打ちになってしまっている。
4K/2160pでもXeon E5-2650 v4の平均フレームレートはRyzen 7 7800X3Dを4割近く下回っており、もっとも安価なGPUであるGeForce RTX 4060の性能も十分に引き出すことができない様子がみてとれる。
ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON
ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICONでは、グラフィックプリセットを「最高」に設定して、フルHD/1080pと4K/2160pでの平均フレームレートを計測した。テスト時の上限フレームレートは120fps。
フルHD/1080pでは、Ryzen 7 7800X3DがGeForce RTX 4060でも上限の120fpsに近い平均フレームレートを記録している一方、Xeon E5-2650 v4はまるでフレームレートが制限されているかのように61fpsで全てのGPUが横並びとなっている。Xeon E5-2650 v4でもテスト中に最大で70fps以上を記録することもあるので、本当にフレームレートが制限されているわけではない。
4K/2160pでもXeon E5-2650 v4には60fps当たりに天井が存在しているが、平均フレームレートが46fps前後まで低下するGeForce RTX 4060でのみ、Ryzen 7 7800X3Dと遜色ない結果を記録している。GeForce RTX 4060の性能を十分に引き出せた結果とも言えるが、60fpsを割り込むこの設定自体がGeForce RTX 4060には適していないことも考慮する必要がある。
サイバーパンク2077
サイバーパンク2077では、グラフィックプリセット「レイトレーシング:ウルトラ」をベースにDLSS 3のフレーム生成を有効化。DLSS超解像をフルHD/1080pで「クオリティ」、4K/2160pでは「パフォーマンス」にそれぞれ設定して、ベンチマークモードを実行した。
フルHD/1080pでのXeon E5-2650 v4は、GeForce RTX 4080とGeForce RTX 4070が115fps前後で横並びとなっており、フレーム生成なしなら60fps前後でCPUのボトルネックが生じていることが伺える。これら上位GPUはRyzen 7 7800X3Dに大きな差をつけられているが、GeForce RTX 4060については80fps付近でRyzen 7 7800X3Dに肉薄している。
4K/2160pに関しては、なぜかXeon E5-2650 v4が全ての条件でRyzen 7 7800X3Dの結果を上回った。いずれもCPUより先にGPU性能がボトルネックになった結果で、Ryzen 7 7800X3Dとの差も僅差ではあるのだが……なんとも不思議な結果である。
Microsoft Flight Simulator
Microsoft Flight Simulatorでは、グラフィックプリセット「ウルトラ」をベースに、アンチエイリアスを「TAA」、DLSS 3のフレーム生成を「オン」に設定して、フルHD/1080pと4K/2160pでの平均フレームレートを計測した。
フルHD/1080pでのXeon E5-2650 v4は、3つのGPU全てでフレームレートが43fps前後となっている。88.9fps~163.8fpsを記録したRyzen 7 7800X3Dとの差は圧倒的な上、DLSS 3のフレーム生成が有効であるにも関わらず43fps前後ということは、フレーム生成がなければ20fps少々で頭打ちになると考えられる。
4K/2160pでもXeon E5-2650 v4は43fps前後で頭打ちとなっているが、それを割り込むGeForce RTX 4060の結果のみRyzen 7 7800X3Dをやや上回った。もっとも、この設定でのGeForce RTX 4060はVRAM容量不足で十分に性能を発揮できていない。
ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク
ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマークでは、グラフィックプリセットを「最高品質」に設定して、フルHD/1080pと4K/2160pでのスコアを計測した。
フルHD/1080pでXeon E5-2650 v4が記録したスコアは15,267~16,443となっており、GPUの性能差をCPUのボトルネックがほぼ埋めている。28,011~44,446を記録したRyzen 7 7800X3Dとの差は圧倒的というほかない。
4K/2160pになると、GeForce RTX 4060についてはRyzen 7 7800X3Dとほぼ同等のスコアを記録しているが、GeForce RTX 4070で約14%、GeForce RTX 4080では約36%もRyzen 7 7800X3Dを下回っている。
CPUベンチマークテストでのパフォーマンス比較
エーペックスレジェンズでは最新鋭のゲーミングCPU相手に悪くないパフォーマンスを発揮したものの、ほかのゲームではGeForce RTX 40シリーズのミドルレンジからハイエンドまでが横並びになってしまうほど大きなボトルネックを生じさせてしまったXeon E5-2650 v4。
改めてそのCPU自体の性能がどれほどのものなのか、Cinebench R23と3DMark「CPU Profile」で検証してみた。
CPUのマルチスレッド性能を計測するCinebench R23「CPU (Multi Core)」のスコアは、12コア/24スレッドCPUのXeon E5-2650 v4が「8,991」で、8コア/16スレッドCPUのRyzen 7 7800X3Dが「17,506」。メニーコアCPUの十八番とも言えるベンチマークテストなのだが、Ryzen 7 7800X3Dに2倍近い差をつけられてしまっている。
また、CPUのシングルスレッド性能を計測するCinebench R23「CPU (Single Core)」では、Xeon E5-2650 v4が「690」、Ryzen 7 7800X3Dが「1,818」を記録しており、Ryzen 7 7800X3Dに約2.6倍の差をつけられている。
CPUの性能をスレッド数ごとに計測する3DMark「CPU Profile」でも、CPUの全コア全スレッドを使用するMax Threadsから1Threadまで、全ての条件でRyzen 7 7800X3Dに大差をつけられている。
Ryzen 7 7800X3DはゲーミングCPUの最高峰ではあるが、CPUの演算性能自体が特別優れているというわけではない。特に、マルチスレッド性能に関してはより高性能なCPUが個人PC向けにも存在しているわけだが、それでもかつてのメニーコアCPUを全く寄せ付けないほどのパフォーマンスを発揮している様子には、隔世の感を禁じ得ない。
最後に、Cinebench R23「CPU (Multi Core)」実行中の消費電力を計測した結果を紹介しよう。
Xeon E5-2650 v4のシステム消費電力は平均144.1W(最大146.4W)で、Ryzen 7 7800X3Dが平均159.5W(最大162.5W)を下回っている。
CPU消費電力(CPU Package Power)については、どちらのCPUも電力リミット値を下回っている。大電力を消費して高い性能を発揮するCPUが多い現在、Ryzen 7 7800X3Dの消費電力はかなり大人しい部類だ。だが、かつてはメニーコアCPUであるXeonであっても、スペック上のTDP値より低い電力で動作する時代が確かにあったのだ。
検証して遊ぶのは楽しいが、実用性は価格相応なXeon E5-2650 v4
AliExpressから3,000円で買えたXeon E5-2650 v4で最新GPUの性能をどこまで引き出せるのか検証してきたわけだが、ほとんどのゲームで大きなCPUボトルネックが生じてしまった。ミドルレンジ下位のGeForce RTX 4060に対しても十分なCPU性能を提供できるとは言えない結果だ。
もとよりゲーム向けではないメニーコアXeonなので当然の結果ではあるが、メニーコアCPUの十八番と言えるマルチスレッド性能でもRyzen 7 7800X3Dに圧倒されており、7年間でいかにCPUが進化したのかを再認識させられた。
実用性という面では価格相応とも言えるXeon E5-2650 v4だが、今回のように最新CPUと比較して遊んでみるのはなかなか面白い体験であったし、CPUボトルネックが生じやすいゲームとそうでもないゲームを再確認することもできた。最新パーツには最新パーツの面白さがあるが、ときにはこうして古いパーツの性能を再検証してみるのも面白いかもしれない。