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GPD Pocketの二番煎じではなかった「OneMix」

~ONE-NETBOOK社長・Jack Wang氏を訪ねる

ONE-NETBOOK TechnologyのJack Wang氏

 ONE-NETBOOK Technologyの「OneMix」シリーズは、7型の液晶を備えた超小型の2in1だ。同社が初代「OneMix」を発売したのは2018年5月。そしてCPUをパワーアップさせた「OneMix 2」も同年10月に発表するなど、矢継ぎ早に新製品を投入している。

 こうした10型以下のUMPCは、かつて日本メーカーの独擅場であったが、Atomプロセッサの登場とともに現れたネットブックに駆逐された経緯がある。その市場を再度復活させた役割を果たしたのは、言うまでもなく深センGPD Technologyだ。最初に投入した「GPD WIN」シリーズこそゲームに特化した製品であったが、これに続く「GPD Pocket」シリーズは、日常利用に耐えうる7型の液晶サイズと、タッチタイピングが可能なキーボードを備え、UMPC市場を席捲した。

 こうしてUMPC市場はしばらくGPDが独占することとなったのだが、GPD Pocketの登場から約1年後に現れたのが、OneMixであった。CPUこそGPD Pocketよりスペックが低かったが、同じ7型液晶を備え、バックライト付きキーボードや2in1機構、そしてペン対応という武器を携え、この独占市場に挑んできた。そして5月、いよいよ日本の代理店・テックワンから、日本市場向けにも製品が投入されることとなる。

 今回、代理店の協力により、ONE-NETBOOKの社長・Jack Wang氏を取材する機会を得た。世間では、OneMixはGPD Pocketの模倣品だという認識が多いようで、筆者もそうだと思い込んでいたのだが、Wang社長の取材のなかで得られたのは、そうした想像とはまったく異なる事実だった。

日本製品が大好きな王社長

--ONE-NETBOOKが設立された時期と経緯について教えてください。

Wang ONE-NETBOOKの母体となる会社自体は2006年に立ち上げられました。当初はMP3プレーヤーやODM/OEM事業を手掛けていましたが(筆者注:親会社の名前は先方の希望によりぼかしています)、2010年代からはWindows PCも手掛けるようになりました。

 2015年辺りから、出張のときに持っていけるミニノートが必要だという市場のニーズがあることに気づきました。ノートPCを小型化すれば、ユーザーはその空間に出張に必要なほかのものを詰め込むことができます。私個人も、小さいPCが好きでして、大学時代にソニーのノートなどを購入していたりしました。これがONE-NETBOOKを設立するきっかけです。ONE-NETBOOKは2017年に設立しましたが、それまでに2年の準備期間があったと言えますね。

--すでに母体となる会社があったのに、どうしてONE-NETBOOKという会社を設立しようと思いましたか。

Wang UMPCを作るのが楽しいことだと思ったからです。母体となる会社に名前があり、PC市場ではすでに一定の知名度がありましたが、ONE-NETBOOKこそわれわれの神髄だと考えています。つまりコアの部分ですね。

 われわれは当初から山東省に優れた開発チームがあり、生産拠点もありました。IntelとMicrosoftともすでにパートナーシップを結んでおり、こうした基礎の上に成り立っているのがONE-NETBOOKです。

 私自身のこととなりますが、叔母が大阪にいるほか、弟も日本に留学したことがあります。なので、これまで日本の文化にもある程度触れていました。今も家のあらゆるところで日本製家電をたくさん使っています。日本製家電を使っていると、やはり中国産より優れた耐久性や、言葉では表せない心地よさを体感できます。ONE-NETBOOKもそうしたところを目指したいと思いますね。

--ONE-NETBOOKが掲げている目標はなんでしょうか。

Wang ONE-NETBOOKは中国語で「壱号本」です。この“壱”(一と同意)には、UMPC市場で第“一”になる(一番になるという意味)、そしてUMPCを開発する専“一”(専門になるという意味)の企業になる意味を込めています。そのためには、顧客第一の製品とサービスを展開する必要があると自負しています。

--開発や製造の規模を教えてください。

Wang 開発・マーケティングは約60人、生産などは約200人関わっています。UMPCなどの小さいものは、価値観が共通していないと作れないと思っています。後ほど基板をお見せしますが、IntelのノートPC向けのリファレンス基板はかなり大きく、それをOneMixに収まるサイズまでシュリンクするのは、決して容易ではありませんよ。

ONE-NETBOOKオフィスの入口にて

小型PCが好きだから手掛けたOneMix

--OneMixのような小型製品に注力する理由を教えてください。

Wang やはり私自身がこういった小さいもの好きだからですね。また、海外など世界中のユーザーの意見を吸い取り、製品に反映して開発していくことも楽しく、やりがいのある仕事です。

 ONET-NETBOOKの母体となる会社はボリュームを重視した製品づくりをしているのですが、そこで培ったサプライチェーンと得られた利益を、私の好きなONE-NETBOOKで活かし、小さいPCを作るのは楽しいことです。先ほど述べたとおり、ONE-NETBOOKこそわれわれの神髄ですから。

--今はないのですが、かつて日本では盛んにUMPCが開発されてきました。こういった日本メーカーからもインスピレーションを受けていたりしますか。

Wang もちろんです。大学時代に購入したソニーのノートPCだけでなく、パナソニックの製品などからも小型化のヒントを得ています。日本の企業には、1つの製品を究極にまで突き詰める匠の精神がありますが、そういった精神が好きです。

 また、日本は部品1つにも品質にこだわってきて、世界の品質基準をリードしてきました。OneMixを手掛けたのは、そうした品質への追及を学ぶいい機会だとも思っております。

--GPDのようなUMPCを手掛ける競合が今後も増えていきそうな予感ですが、その点どう思われますか。

Wang 市場に競争があるのは致し方がないことです。競争のなかで、われわれのようにすでに大規模な開発チームや生産ラインを有しているのは有利だと思っています。すでに広範囲にわたるサプライチェーンを敷いているため、ビジネスの継続性でも有利です。

 競争というのは市場のニーズによって生まれたものでもありますが、競争によって品質が向上し、製品が進歩していくのはとてもいいことだと思っています。だからむしろ競争を歓迎しています。

--GPDはクラウドファンディングなどを使っていますが、OneMixは代理店体制をきっちり敷くなど、体制に違いがみられますね。

Wang はい、われわれの会社はこれまで、伝統的な開発、設計、生産、製造、および一連のサプライチェーンの構築に多大な投資をしてきました。製品の提供なども代理店などを通し、地域に合わせたローカライズやサービスを展開してきています。つまり、ソニーやHuaweiといった会社と同じ体制です。

 GPDのような企業は、クラウドファンディングを通して製品の流通コストを下げ、ユーザーに最終的な利益を還元しようとしています。これはこれでやり方の1つではありますが、われわれはすでに旧来のビジネスモデルに特化した一連の体制を敷いているので、これを継続させていこうと思ってます。

 一方で、われわれも製品のDiscordチャンネルなどを通じて、ユーザーと直にコミュニケーションをし、ユーザーの声を製品に反映していきます。つまり、新旧のビジネスモデルの融合を目指していますね。

2年の歳月をかけた初代OneMix。1から3までを併売

--初代OneMixはいつ頃から構想が固まりましたか。また、開発のさいに苦労した点などがあれば教えてください。

Wang OneMix初代は2018年5月に発売されましたが、2年程度の準備期間がありました。Intelからリファレンスデザインなどが提供されましたが、それを7型というサイズに詰め込むのに苦労しました。市場にニーズを汲み取り、1つずつ応え、製品に反映していく必要がありました。

 とくに7型という制限は大きく、すべてのパーツの小型化が課題でした。なかでも放熱に関しては念には念を入れ、繰り返してテストしてきました。ファンが必要なさいに回転させるといったソフトウェア面の制御なども苦労しました。でも製品が小さいからこそ、成功したときに大きな達成感が得られました。目の前に立ちはだかった困難を解決していくのは楽しみでもありましたね。開発には1年程度かかりましたね。

一般的なノートPCの基板(右)と、OneMix 2Sの基板。左は大きさ比較用の名刺

--OneMix 2もすぐに発表しましたね。こちらもいつ頃から開発に着手しましたか。

Wang OneMix初代の開発から8カ月目で、すでに2の開発に着手していました。ディスプレイの大きさ、スペック、デザインなどはもう決まっていましたから、マザーボードを中心に開発し、繰り返しブラッシュアップを図りました。

 OneMix 2で一番苦労したのはSSDです。これは競合のGPDがチャレンジしなかった部分です。今回われわれが採用したのは、NANDとコントローラを1チップに統合した特殊なパッケージのSSDで、発熱やそれに伴う制御など、高い技術が要求されました。先述のとおり、われわれはUMPCの第“一”(一番のUMPC)を目指しています。それを体現するためにチャレンジすることにしました。

OneMix 2Sに搭載されたSSD。GPDもこのチップを検討したが、発熱の問題で採用しなかった。ONE-NETBOOKではCPUと同じヒートシンクを共有する放熱設計とし、熱を下げることで信頼性を確保している。

--次期OneMix 3についてはもう発表されていますね。どのような製品に仕上げる予定ですか。

Wang OneMix 3は一回り大型化し、8.4型となります。Discordチャンネルではすでにクローズドベータが開始されていて、NDA(機密保持契約)を結んで機器を送付したユーザーからフィードバックを受けています。ただ、今のところ驚くほどに問題のフィードバックが少なく、すでにエンジニアリングサンプル時点での完成度の高さがうかがえます。

 実際のPCユーザーの多くは大きいノートPCを所持していますが、UMPCを所持していません。UMPCがなければ、当然買い増しという選択肢が生まれます。そこに市場があると考えています。OneMix 3は既存ユーザーにとってサプライズがある製品に仕上がっていくと思います。

--今後はGPDのように製品ラインナップを広げる予定はありますか。

Wang はい、ONE-NETBOOKからゲーミングブランドを立ち上げようと思っています。まだどういったフォームファクタになるのか構想中ですが、Ryzen採用は必至になるでしょうね。

 OneMixは初代から2、3まで、異なるセグメントを賄うことになるので、しばらくは併売する予定です。今後はもっとチャレンジングな製品を手掛けていきたいですね。

 販売については、いま中国でGT(自動車レース)にスポンサーシップをしていて、より多くの消費者にONE-NETBOOKを知ってもらおうと努力しているところです。今後もこうしたコラボレーションやスポンサーシップの取り組みを拡充していきたいですね。

--最後に日本の読者に向けたメッセージをお願いします。

Wang ONE-NETBOOKへの多大なる支持をありがとうございます。われわれは初心を忘れずに製品を開発し、日本における事業拡大を目指しているので、なにとぞよろしくお願いします。

決してGPDの二番煎じではない、こだわりの品質と、想像を絶するCPUの在庫

 じつは、筆者が当初予定していた王社長のインタビューはここまでだった。差し障りのない程度の質問が続いたので、答えも差し障りのない程度のものだ。そこで、もっと踏み込んだ質問をすることにした。冒頭で述べたとおり、読者の大半は「OneMixはGPD Pocketの模倣品で、このスピード感をもって投入できるのが深セン企業」と思っているに違いないからだ。

 この思いを伝えたところ、「さすがにいくら深セン企業と言えどもそこまで仕事は早くない」と笑う王社長。OneMixの準備期間は2年と2カ月にもおよび、逆算するとGPD Pocketと同程度か、むしろ若干開発が先行した程度になる。OneMixは実際の登場までにしっかり機密保持していて、サプライヤーがONE-NETBOOKが何を作ろうとしていたのか予測困難だった。だから製品の発売こそGPD Pocketが先行したが、OneMixの登場はユーザーのみならず、サプライヤーにとっても驚きのニュースだった。OneMixは、GPD Pocketの二番煎じではないのだ。

 OneMixの開発も時間との勝負だった。会社の入り口のカギは王社長を含め3人しか所持していないのだが、休み返上で会社に通い続けた。帰宅は早くて22時。普通は24時、残業組が多いと26時。そんな毎日が続いても、「メーカーが苦労して消費者に良い製品を届けるのは当たり前。そんな苦労を読者が知る必要はないから、インタビューでは答える必要はない」と笑う。

 お人好しで、つねに穏やかな態度を取る王社長だが、製品の品質問題となると態度が豹変する。それは初代OneMixで起きた。出荷した製品の部品の1つが取れた状態でユーザーのところに届き、返品されてきたのだという。OneMixは設計時、製造時のパーツのお互いの噛み合わせまで考慮しているため、完成品でパーツが脱落することは考えられないからだ。王社長は大会議室に責任者を集め、最後まで原因を究明した。以降、ONE-NETBOOKの品質チェックはより一層厳しくなった。

 2018年10月にOneMix 2を発表したが、12月に品薄になることがあった。「これはやはりIntel CPU不足の問題か」と問うと、そうではないのだという。OneMix 2シリーズはCore m3-7Y30もCore i5-7Y54も載せられるが、Core m3-8100Yを前提とした設計にしているいるため、2018年7月より“一般の人が想像を絶するほどの量”のCore m3-8100Yの在庫を貯めこんでいたのだ。ではなぜ12月に品薄になったのかといえば、液晶の品質に問題があったからだ。

 「サプライヤーから液晶が納品されたが、われわれの品質チェックを通したところ、品質基準を満たすパネルが100枚中1枚しかなかった。そのことを信じようとしなかったサプライヤーを品質検査室に連れていき、パネルを1枚ずつ繋げ、8時間かけて100枚の液晶すべてでテストパターンを見せた。すると、たしかに1枚しか良品が存在しなかった。これは、われわれの品質基準がサプライヤーより高いからだ。サプライヤーはわれわれの品質基準を満たすパネルの供給を約束したが、代わりに倍の価格を要求してきた。1時間の会議による決定で、その倍の価格を飲むことにした。これも品質に対する責任だ。12月の品薄は、これに起因しており、Intel CPU不足に悩まされたわけではない」と担当者は言う。

 ONE-NETBOOKは、GPDとは異なるベクトルで攻めている企業だ。製品は似通っている点があるものの、開発や製造スタンスには相違点がみられる。GPDは中小企業らしさがあり、ONE-NETBOOKは大企業らしさがある。ただ、どちらも競争が激しいPC業界において生き残る道を見つけようと、ユーザーの意見と素直に向き合い、各々の長所を活かしながら熱心に開発に取り組んでいる姿勢が伺えたというのが、今回の取材をとおして感じたことだ。

日本語版の底面プレートとACアダプタ、マニュアルなど。技適やPSEなどを取得している