やじうまPC Watch
親指シフトキーボード、ひっそりと前倒しで販売終了。40年の歴史に幕
2021年3月8日 06:50
富士通の親指シフトキーボードの販売が、2021年1月末に、ひっそりと終了していた。
富士通クライアントコンピューティングおよび富士通によると、親指シフトキーボード仕様の企業向けノートPCカスタムメイドオプション「LIFEBOOK親指シフトキーボードモデル FMCKBD09H」は2020年中に販売を終了。法人向け外付けオプションの「親指シフトキーボードFMV-KB613」(PS/2接続)および「親指シフトキーボード FMV-KB232」(USB接続)は、いずれも2020年12月末に販売を終了。個人向けは、直販サイトのWEBMARTでの取り扱いは、2021年1月末で終了していた。
富士通では、「1980年5月の日本語ワードプロセッサ『OASYS100』の発表以来、親指シフトキーボードおよび日本語ワープロ・入力ソフト製品を提供してきたが、JIS配列キーボードがデファクトスタンダードとなり、親指シフトの機能優位性を十分に訴求できない状況が続いていた。これまで事業継続のため、業務効率化や商品の価格アップなどの施策を講じてきたが、このたびやむなく、親指シフト関連商品の販売・サポートの終了を決定した」としている。
同社では、2020年5月19日に、「親指シフトキーボードおよび関連商品の販売終了について」と題したリリースを発表。「LIFEBOOK親指シフトキーボードモデル FMCKBD09H」は、2021年3月に販売を終了し、外付けオプションの「親指シフトキーボード」は、2021年5月に販売を終了すると発表していた。
だが、それを前倒しにして販売が終了した格好だ。
同リリースでは、「在庫消化(販売終了)時期が早まる可能性がございます。お早めにご用命いただきますようお願い申し上げます」との一文が記されており、当初予定よりも早く、販売を終えたことになる。
だが、外付けオプションの「親指シフトキーボード」は、業務上、どうしても必要だという場合には、現時点でも、富士通の担当営業またはパートナーを通じて、購入できる場合もあるという。また、一部の販売店などにはまだ在庫がある模様だ。
親指シフトのこれまで
親指シフトキーボードは、富士通の日本語ワードプロセッサ「OASYS100」の発売にあわせて開発された独自のキーボードで、OASYSの生みの親である神田泰典氏が開発した。
パソコンでは、FM16シリーズやFM TOWNSにも親指シフトキーボードモデルを用意。1987年1月からはFMRシリーズに採用。1993年10月からはFMVシリーズでも提供してきた
「親指キー」という独自のキーが搭載されているのが特徴で、「親指キー」と「ほかの文字キー」を同時に打鍵することなどにより、直接日本語(読み)を入力できる。キートップには、2つのカナが表記されており、刻印された上の文字を入力するさいにはそのままキーを打鍵。キートップの下段に刻印された文字の場合には、2つある親指キーのうち、同じ手で親指キーを同時に押せば入力できる。また、濁音および半濁音の文字は、文字キーと反対側の手で親指キーを同時に押せば入力される。
日本語を効率的に入力できるキーボードとして、多くの人に利用されており、作家などでもユーザーが多かった。また、かつてはワープロ検定合格率でナンバーワンのキーボードとされていたり、ワープロコンテストでも親指シフトキーボードを採用したOASYSが上位を独占することもあった。
富士通によると、「ローマ字入力は、思いついた言葉の音(読み)を頭の中でローマ字に変換する必要があるが、親指シフトキーボードでは、それが不要であり、同時打鍵方式の採用により、打鍵数が少なくて済むというメリットがある。また、かな入力と比較しても、文字キーを上下3段にまとめたことにより、ホームポジションから手を移動させずにひらがなを入力でき。濁音や半濁音も一回の同時打鍵で入力できる。さらに、英字モードにすることなく、最上段の数字が入力できるため、テンキーがない場合に大変便利である」としていた。
2010年3月には、社団法人情報処理学会による情報処理技術遺産に、「OASYS 100および親指シフトキーボード試作機」が認定されている。
多くの人に愛された親指シフトキーボードだが、1980年5月の発売以来、40年に渡る歴史は、静かに幕を閉じていた。