やじうまPC Watch
【懐パーツ】デュアルSocket 370初のDDR266対応マザー「Iwill DVD266-R」
2020年4月8日 06:00
今や日本のPC自作市場で販売されているマザーボードと言えば、ASRock、ASUS、BIOSTAR、GIGABYTE、MSIなどの5社程度が展開する市場になってしまっているが、自作PCが全盛期だった1990年代後半から2000年代の前半にかけては、無数のマザーボードベンダーが登場し、市場でユーザーが選択に迷うほどの選択肢があった。
それは、チップセットとよばれるCPUにI/Oを接続するような周辺チップも同様で、Intel、AMDのCPUメーカー2社が自社製品向けに製造するチップだけでなく、VIA Technologies、ALi(当初はAcer Laboratories Inc、後にALi,inc.)、SiS(Silicon Integrated Systems)などの台湾のサードパーティチップセットベンダーも元気なころで、そうしたサードパーティのチップセットを搭載したマザーボードも盛んに提供されていた。
今回紹介する「DVD266-R」のメーカーである「Iwill」もそうしたベンダーの1つだ。台北市の隣に位置する新店市(現在の新北市の新店区)に本社を置いていたIwillは中堅のマザーボードベンダーで、大手にはないキワモノのマザーボードを多く出すベンダーとして認知されていた(現在はEMSベンダーに買収されて自社ブランドのマザーボードは販売されていない)。
日本にも早くから導入されており、日本法人となる「株式会社アイウィルジャパン」も設立されていた。ここで掲載しているDVD266-Rもアイウィルジャパン経由で販売された製品となる。
低価格なデュアルCeleronブームの後を受けて登場した低価格デュアルSocket 370
DVD266-Rの特徴は、見てわかるとおり、Socket 370のCPUソケットを2つ搭載していることにある。IntelのクライアントPC向けのチップセット(同時期に発売されていたIntel 815など)はデュアルソケットに対応していない仕様になっていたが、このDVD266-Rが採用しているVIA TechnologiesのApollo Pro266はデュアルソケットに対応可能だった。このため、Coppermineのコードネームで知られるSocket 370用Pentium IIIをデュアルソケットで利用できるようになっている。
クライアントPC向けのマザーボードでデュアルプロセッサのブームが起こったのは、Covingtonの開発コードネームで知られるL2キャッシュレスで低価格なCeleronプロセッサが登場して以降だ。それまでは2つ買うとなかなかいいお値段のするPentium IIIがデュアルプロセッサに対応していたのだが、Slot1のモジュール形式で提供されていたCeleronのある番号のピンを通電しないようにする(たとえばテープなどでマスクする)だけで、デュアルプロセッサとして動かすことができることが判明して、通の間では静かなブームとなっていた。
その後、Mendocinoのコードネームを持つ128KBのL2キャッシュを内蔵したCeleronが発売されると、Socket 370用のPPGAパッケージが追加された。このSocket 370用のPPGAパッケージ向けに、ユーザーが自分でピンをマスクしなくてもデュアルプロセッサの機能を有効にできるSocket 370からSlot1に電気信号を変換する「下駄」(CPUが下駄を履いているようだったのでこの名前がついた)が登場することになり、デュアルCeleronのハードルはさらに下がった。
その後、ABITという今はないこちらもキワモノに特化したマザーボードベンダーから、Socket 370のCeleronを最初からデュアルソケットで使うように細工したマザーボードが登場すると、誰でもマザーボードを買うだけでデュアルCeleronが実現できるとあって、本格的な「デュアルCeleronブーム」が到来することになった。
DVD266-RのようなデュアルSocket 370マザーボードは、そうしたデュアルCeleronブームの後に登場した製品で、Celeron用ではなく、そもそもデュアルプロセッサに対応していたSocket 370のPentium IIIを利用するマザーボードとして2001年の4月頃に日本で販売が開始された製品だ。RAIDありのDVD266-RとなしのDVD266の2つのSKUが用意されており、今回紹介するのはRAID搭載のDVD266-Rになる。
Apollo Pro266を搭載したデュアルPentium IIIマザーボードとしてははじめてのDDR対応
チップセットは前述のとおりVIA TechnologiesのApollo Pro266が採用されている。Apollo Pro266はノースブリッジ(CPUとメモリ、グラフィックスバスとなるAGP、サウスブリッジをつなぐチップ、ブロック図でCPUに近いところ上=北にあるのでノースブリッジとよばれる)がVT8633、サウスブリッジ(PCIやIDEなどのストレージをつなぐチップ、ブロック図でCPUから見て遠いところ下=南にあるのでサウスブリッジと呼ばれる)がVT8233という2つのチップから構成されている。
Apollo Pro266の特徴は、IntelのP6バス(Pentium/Pentium II/Pentium III/Celeron用のチップセットとCPUを接続するバスのこと)用のチップセットとしてははじめてDDR SDRAMに対応したことだ。
この時期のIntelは、Rambusと共同開発したRDRAMの導入に失敗して、メモリ周りのロードマップが大混乱を来たしており、99年の9月にはPentium III向けにもIntel 820というチップセットを導入しようとして、発表直前に延期が決まるなどしていた。
このため、クライアントPC向けにはIntel 815/810という製品が用意されていたが、メモリはSDRAMという1世代前で、VIA Technologiesなどのサードパーティが先に新しいDDR SDRAMを導入するという状況だったのだ(DDR SDRAMへの対応をなかなか打ち出さなかったIntelにプレッシャーをかけるため、DRAMベンダーがVIAのようなサードパーティベンダーをうまく活用していた、という側面もある)。
DDR SDRAMは、現在のDDR4などの直接のご先祖様に当たるメモリで、SDRAMと比較すると1クロックサイクルで2倍のデータが送れる(だからDDR=Double-Data-Rate)というのが特徴だった。メモリデバイスそのものの動作周波数を引き上げることなく、帯域幅を引き上げることができるため、Intelが導入を計画していた高性能だけど高価なRDRAMに比べるとコストパフォーマンスが良いと考えられていた(実際DDR SDRAMは一般的に利用されるようになり、その後DDR2、DDR3、DDR4と発展して現在につながっている)。
なお、当時のAKIBA PC Hotlineによれば、DVD266およびDVD266-RはデュアルPentium IIIが実現可能なマザーボードとしてははじめてDDR SDRAMメモリが利用できるようになった製品として紹介されている。
Apollo Pro266のもう1つの特徴は、CPUバスのクロック周波数とメモリのクロック周波数が同期していなかったことだ。Intelのチップセットを搭載したマザーボードでは、メモリバスのクロック周波数とCPUバスのクロック周波数が同期しており、オーバークロックのためにCPUバスのクロックを上げようとすると、メモリのクロックも上がってしまい、オーバークロックに失敗するということが、当時のオーバークロッカーにとっては悩みだった。しかし、VIAの場合にはこれを非同期にすることが可能なように設計しており、CPU単体のオーバークロックには有利という状況があった。
このDVD266-RでもCPUバス(当時はFSB=Front Side Busとよばれていた)に33MHzプラスしたり、逆に33MHzマイナスした設定が可能になっていた。当時のCPUバスは、たとえば、Celeronから66MHzになっていたりするので、CPU側を100MHzにオーバークロックしながら、メモリ側は66MHzにするなどの設定が可能だった。
なお、現在のPC用のチップセットはRAIDの機能が標準搭載と言っていい現状だが、この当時のチップセットはIDEとよばれるSATA登場以前の規格が採用されていたため、まだRAIDの機能は標準では搭載されていない。そこで、DVD266-RにはAMI(American Megatrends Incorporated)が提供していた「MG80649」というRAIDコントローラがPCIバス接続でオンボード搭載されている。
DVD266-Rには4つのIDEポートが用意されており、うち2つはチップセットのサウスブリッジ(VT8233)からの2ポート、MG80649から2ポートになっており、MG80649側のポートに接続された2つのIDEドライブを利用してRAID 0/1/1+0に対応する。