イベントレポート

「nano tech 2015」レポート

~究極のメモリ誕生か?「スキルミオンメモリ」が提案される

nano tech 2015は、今回で14回目となるナノテクノロジーに関する総合展示会である

 2015年1月28~30日、東京ビッグサイトで、ナノテクノロジーに関する総合展示会「nano tech 2015」が開催された。この展示会は、今回で14回目となる展示会であり、内外の企業や研究機関、大学などの最新の研究成果が発表される場として定着している。nano techの開催にあわせて、関連展示会も多数併催されており、そのうちの1つが、すでにレポートした「3D Printing 2015」である。ここでは、nano tech 2015の出展の中から、特に本誌読者が興味を持ちそうな話題を紹介していきたい。

理化学研究所がナノサイズの渦状構造「スキルミオン」を利用した究極のメモリを提案

理化学研究所ブースのスキルミオンメモリに関する展示パネル

 理化学研究所のブースでは、「スキルミオンメモリ」に関する展示が行なわれていた。スキルミオンとは、ある種の磁性体に現れる、ナノサイズの渦状構造である。通常、磁性体では、電子スピンの向きが揃っており、それによって磁性が生まれるのだが、近年、磁性体の中で、電子スピンが渦状に倒れる現象が発見された。この構造をスキルミオンと呼んでいるが、スキルミオンのサイズは1~100nmほどと極小であり、スキルミオンの生成/消去を制御できれば、高集積化が可能なメモリとして使うことが可能になる。スキルミオンは、リフレッシュ動作が必要なDRAMと違って、保持に電力を消費する必要がなく、フラッシュメモリなどと同じ不揮発性メモリとして利用でき、書き込みや消去に必要な時間も数十ps~数μs秒と非常に短時間だ。スキルミオンメモリは、現時点で最速のメモリであるSRAMよりも高速で、現時点で最も集積度の高いNANDフラッシュメモリと同等の高集積が可能な、まさに夢のメモリになるポテンシャルを秘めている。

 理化学研究所創発物性科学研究センターの金子良夫氏らは、磁性体の一部に切り欠きを作り、電流を流すことで、スキルミオンの生成や消去に成功しており、今後、メモリとしての実用化に向けて、さらなる研究を進めるとのことだ。スキルミオンメモリは、現在のSRAMやDRAM、フラッシュメモリなどの置き換えだけでなく、HDDの置き換えも狙えるという。もちろん、スキルミオンメモリは、まだ基本原理が発見されただけであり、メモリとして利用するには、長年の研究開発が必要である。しかし、その潜在能力の高さは、ポストDRAMやポストフラッシュメモリとして大いに期待できそうだ。

スキルミオンメモリの性能について。縦軸が1平方cm当たりの容量、横軸が書き込み/消去時間。スキルミオンメモリは、現存する全てのメモリを上回る性能を持つ
スキルミオンメモリの実現アイデア。上がシンプルなセルメモリ、下の左はスキルミオンの位置をスライドさせるスライドスイッチメモリ、下の右はトラック状の回路でスキルミオンを走らせるレーシングサーキットメモリ
こちらはスキルミオンをHDDの代わりとして使うアイデア。磁界を使って制御する方式と熱を使って制御する方式が考えられている

CNT透明導電フィルムやウェアラブル電極インナーを展示していた東レ

CNT透明導電フィルムの応用例。手前が3D成形タッチパネル&タッチスイッチ、奥が電子ペーパー

 東レは、カーボンナノチューブ(CNT)を利用した透明導電フィルムに関する展示を行なっていた。透明導電フィルムは、液晶やタッチパネルなどになくてはならないもので、現在は、ITO導電フィルムが広く使われている。CNT導電フィルムは、繰り返し曲げたり、延ばしたりしても、特性が劣化しにくいことが利点である。透過率についても、ITO導電フィルムと遜色のないものができているという。ただし、透過率と表面抵抗値はトレードオフの関係にあり、透過率を高めると、表面抵抗値も高くなってしまう。ブースでは、CNT透明導電フィルムを使った3D成形タッチパネルやタッチスイッチ、電子ペーパーなどが展示されていた。

東レブースの「CNT透明導電フィルム」に関する展示パネル
東レが開発したCNT透明導電フィルム。これは標準グレードで、透過率90%、表面抵抗値500Ω/□である
上は、現在主流のITO導電フィルム。透過率はCNT透明導電フィルムとほとんど変わらない
こちらは高透明グレードのCNT透明導電フィルム。透過率は92%とさらに高いが、表面抵抗値も2500Ω/□と高くなっている

 また、ウェアラブル電極インナー「hitoe」に関する展示も行なっていた。hitoeは、ナノファイバー生地に高導電性樹脂を特殊コーティングした素材であり、耐久性に優れ、生体信号を高感度に検出できることが利点だ。hitoeは、NTTドコモのトレーニング支援サービス「Runtastic for docomo」用のトレーニングデータ計測用デバイス「C3fit IN-pulse」に使われている。

東レが開発したウェアラブル電極インナー「hitoe」に関する展示パネル
hitoeのデモ。グレーの部分に触れることで、心電波計を計測できる
hitoeの実用例。NTTドコモのトレーニング支援サービス「Runtastic for docomo」用のトレーニングデータ計測用デバイス「C3fit IN-pulse」

カーボンナノチューブヤーンやナノファイバーに関する展示を行なっていた帝人

カーボンナノチューブヤーンの実物とカーボンナノチューブヤーンを使用したオーディオケーブルの例

 帝人は、カーボンナノチューブをよじりあわせた連続糸「カーボンナノチューブヤーン」に関する展示を行なっていた。カーボンナノチューブヤーンは、100%カーボンナノチューブで構成されており、金属と同等以上の熱伝導率と優れた電気伝導性を実現していることが特徴だ。電気伝導性の高さを活かして、オーディオケーブルなどの応用が考えられる。

帝人ブースの「カーボンナノチューブヤーン」に関する展示パネル
カーボンナノチューブヤーン(CNTy)は、100%カーボンナノチューブで構成された連続糸であり、金属と同等以上の熱伝導率と優れた電気伝導性を実現する

 また、直径700ナノメートルという超極細のナノファイバー「ナノフロント」を利用したアンチスリップ素材や遮熱シートについての展示も行なわれていた。ナノフロントの表面積は、通常の繊維の数十倍あり、それを活かすことでアンチスリップ機能や高い遮熱性を実現できるという。

ナノファイバー「ナノフロント」を利用したアンチスリップ素材に関する展示パネル
オモチャの二足歩行ロボットの足にナノフロントを履かせて滑らないことを示すデモが行なわれていた
ナノフロントで作った靴下を履かせていた
ロボットの研究開発者にアンチスリップ素材を無償で提供するという
こちらはナノフロントを使用した遮熱シートに関する展示パネル。表面積をアップすることで、近赤外線を効果的に反射する
一般の遮熱シート(右)とナノフロント使用遮熱シート(左)の比較。一般のシートの温度が49.1℃なのに対し、ナノフロント使用シートでは45.1℃と4℃低くなっている

 そのほか、ポリ乳酸繊維を圧電体として利用し、電極に導電繊維、摩擦によって密着性を上げるため、ナノフロントを複合させた圧電ファブリックに関する展示や金属や色素を用いることなく、ナノオーダーのポリマー層を数百層重ねることで、構造発色を実現した「モルフォテックス」に関する展示も興味深かった。

圧電ファブリックに関する展示パネル。ポリ乳酸繊維を圧電体として利用し、電極に導電繊維、摩擦によって密着性を上げるため、ナノフロントを複合させている
圧電ファブリックを使用した皮ジャン
こちらは圧電ファブリックを使用したスパイク
ナノ技術を用いた加飾技術に関する展示パネル
ナノ技術を用いた加飾技術「モルフォテックス」の見本。金属や色素を用いることなく、ナノオーダーのポリマー層を数百層重ねることで、構造発色を実現している

NEDOがカーボンナノチューブを利用したアクチュエータのデモを行なう

NEDOブースのカーボンナノチューブを使った単層CNTアクチュエータのデモが行なわれていた

 NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のブースでは、CNT(カーボンナノチューブ)やグラフェンを利用した材料のデモなどが行なわれていた。CNT関連では、単層CNTを使ったアクチュエータのデモに注目が集まっていた。この単層CNTアクチュエータは、CNTとイオン液体、ベース樹脂からなる電極2枚の間に、イオン液体とベース樹脂からなるゲル電解質を挟み込んだ構造をしており、数ボルトという低い電圧で動作することが特徴だ。このCNTは、産総研ナノチューブ応用研究センターらが開発したスーパーグロース法を利用して作製されている。スーパーグロースCNTは、従来のCNTに比べて純度が極めて高く、量産化がしやすく、価格も安くなることが期待されている。

単層CNTアクチュエータの動作の様子
スーパーグロースCNTの粉末やフォレスト

 また、電極にCNTを使ったカーボンナノチューブキャパシタやグラフェンを利用した超軽量フレキシブル透明導電膜のデモも行なわれていた。カーボンナノチューブキャパシタは大容量を実現できるため、バッテリ交換時のメモリバックアップ用途などにも向いている。

電極にカーボンナノチューブを利用したキャパシタ
カーボンナノチューブキャパシタ。薄くて小さいが、3.3Vで800mFもの容量を実現している
カーボンナノチューブキャパシタに蓄電したエネルギーでLEDを点灯させるデモを行なっていた
グラフェン透明導電フィルムを利用した透明タッチスイッチ
グラフェン透明導電フィルムでLEDを点灯させるデモも行なっていた
グラフェンを利用した超軽量フレキシブル透明導電膜のデモ
超軽量フレキシブル透明導電膜がひらひらと曲がっても、左下のテスターの電流値はほとんど変化しない

科学技術振興機構が体に貼る生体情報センサーや高効率高輝度照明を展示

 科学技術振興機構のブースでは、体に直接貼る生体情報センサーやナノ中空粒子を用いた高効率高輝度照明に関する展示などが行なわれていた。この生体情報センサーは、有機トランジスタを利用したもので、非常に薄く、粘着性ゲルを用いて生体に貼り付けるため、生体が動いても位置がずれず、正確に生体情報の計測が可能なことが利点だ。

 LEDは省エネ光源として広く用いられているが、指向性が強く、液晶バックライトや照明に使う際には、光を拡散する必要がある。通常は、拡散フィルムなどを利用しているが、照度が低下してしまう問題があった。そこで、ナノサイズのシリカの中空粒子を作成し、拡散フィルムに分散させることで、全透過率を低下させずに、拡散透過率を高めることができ、従来に比べて約2倍の明度を実現したという。同じ明度なら、LEDの消費電力を下げることが可能であり、バックライトの低消費電力化にも貢献できる技術である。

科学技術振興機構ブースの染谷生体調和エレクトロニスプロジェクトに関する展示パネル
染谷生体調和エレクトロニスプロジェクトの研究成果の一つである「体に直接貼る生体情報センサー」。湿布のように体に貼り付けて利用する
科学技術振興機構ブースの「ナノ中空粒子を用いた高効率高輝度照明の開発」に関する展示パネル
左が新開発のナノ中空粒子を用いたLED照明。右が従来の中実粒子を用いたLED照明。ナノ中空粒子を用いたもののほうが明るい

(石井 英男)