【MWC 2012レポート】
Intel、新OEMとしてOrange、Lava、ZTEを獲得
~2013年に性能2倍のAtom Z2580をリリースへ

会期:2月27日~3月1日(現地時間)

会場:スペイン・バルセロナ Fira Montjuic



 IntelはMWC(Mobile World Congress)の会場近くで2月27日(現地時間)に記者会見を開催し、1月のInternational CESに続き、スマートフォン向けSoC「Atom Z2460」を採用する新しいOEMメーカーを発表。同社の社長兼CEOであるポール・オッテリーニ氏自ら登場した記者会見で、新しい顧客として、ヨーロッパの通信キャリアであるOrange、インドの端末メーカーであるLava、さらには中国のデバイスメーカーZTEを獲得したことを明らかにした。

 また、Atomプロセッサのロードマップについて、現行製品のAtom Z2460の動作周波数を2GHzに引き上げた製品を出荷する予定であること、さらには2013年に現行製品の現行製品の2倍の性能を持つAtom Z2580、ローエンド向けで1GHzで動作するZ2000を投入することを明らかにした。

 さらに、2013年には22nm、2014年には14nmと最先端の製造技術をモバイル向けプロセッサで採用する予定だとし、同社の強みである最先端の製造技術を積極的に取り入れていくことで、ARM陣営など競合他社との差別化を図っていく方針を改めて強調した。

●Intelが力を入れているスマートフォン向けSoC

 現在Intelが非常に力を入れてマーケティングしている製品が2つある。1つは薄型でスタイリッシュなクラムシェル型のノートPCであるUltrabookであり、もう1つがMWCでの主役であるモバイル(スマートフォン、タブレット)向けのSoC(System on a Chip)だ。なぜIntelが熱心にモバイル向けSoCを訴求しているのは、これまでIntelはその市場で0パーセントと言ってよいほど市場に参入できていなかったからだ。

 特にスマートフォン向けプロセッサの市場は、ARMプロセッサベンダ(NVIDIA、TI、Qualcommなど)が席巻しており、Intelが製造しているx86の命令セット(Intelが言うところのIA=Intel Architecture)を採用しているプロセッサはほとんど採用されていなかった。Intelは一昨年(2010年)に、Atom Z600(開発コードネームMoorestown)を投入したものの、採用するOEMメーカーは事実上なく、採用を予定していたメーカーも開発を取りやめるなど、散々な状況だった。

 そうした状況が大きく変化したのが、1月にラスベガスで行なわれたInternational CESだった。CESにおいてIntelは、同社がCESで発表した新しいスマートフォン向けプロセッサAtom Z2460(開発コードネーム:Medfield)を2つのOEMメーカーが採用することを明らかにしたのだ。1つは中国のPCメーカーであるLenovoで、Atom Z2460を搭載したスマートフォンを第2四半期に中国市場向けとして出荷する予定になっている。もう1つが大手スマートフォンメーカーの1つであるMotorola Mobilityで、2012年後半に最初の製品を発表し、さらには今後複数年にわたり製品を出荷していくことなどが明らかにされ、大きな注目を集めた。

●Orange、Lava、ZTEが新しいカスタマーとして発表される

 壇上に登場したオッテリーニ氏は、「CESに引き続き、新しいカスタマーを紹介できることを喜んでいる」と述べ、同社が新しい顧客を獲得した喜びを表明した。

 通常、オッテリーニ氏が直接製品レベルの記者会見に登場することはほとんどなく、製品を担当する事業部のトップ(事業本部長)が説明するのが大半のケースだ。それだけに、このスマートフォン向けSoCにどれだけ思い入れをもって取り組んでいるかということがわかると言えるだろう。

 オッテリーニ氏が紹介した新しい顧客とは、ヨーロッパ各国で携帯電話ビジネスを展開するキャリアのOrange、インドの端末メーカーであるLave、中国の端末メーカーであるZTEの3社だ。

 Orangeが発表したのはAtom Z2460とIntelのXMM6260というHSPA+のモデムを組み合わせた端末で、Orangeの発表によれば4型のディスプレイ、16GBのストレージで、サイズは63×123×9.99mmで重さは117gだという。OSは当初はAndroid 2.3だが、Android 4.0へのバージョンアップも計画されているという。Orangeによれば、まずはイギリスとフランスで投入され、製品のブランド名などはその時に発表されるとのことだった。

 インドのキャリアであるLavaは、「XOLO X900」というスマートフォンを2012年後半にインド市場に投入することを明らかにした。やはりAtom Z2460とIntelのXMM6260というHSPA+のモデムを組み合わせた製品で、4型液晶、800万画素のカメラ、HDMIポート、NFCなどのスペックになっている。

 中国のZTEに関しては開発意向表明があり、今後Atom Z2460などを搭載したスマートフォンをリリースする予定とのみ明らかにされた。

 また、クレジットカードの国際ブランドで知られるVisaと、戦略的な提携を結んだことも明らかにされた。それによれば、VisaのNFC決済システムなどが、Atomベースのスマートフォンなどでも動作するように認証がとられ、OEMメーカーは容易に自社のシステムに搭載することが可能になるという。

Intel 社長兼CEO ポール・オッテリーニ氏CESでも利用された、Atom Z2460とARMプロセッサとの性能比較。ベンチマークで他のARMプロセッサを凌駕しているMWCでは新しいパートナー企業が発表された
1社目はヨーロッパのキャリアであるOrange。上級副社長のYves Maitre氏が壇上に呼ばれ、Intelとの提携について語ったOrangeの自社ブランドで販売される予定のAtom Z2460搭載スマートフォン(製品名未定)。Atom Z2460とIntel XMM6260の組み合わせで4型の液晶を備えている
インドの端末メーカーLavaの共同創始者兼事業本部長のVishal Sehgal氏。XOLO X900というスマートフォンをインド市場に投入する予定
ZTEの上級副社長 He Shiyou氏はIntelのモバイルプロセッサに関する期待感を表明
Visa社長のJohn Patridge氏は、VisaのNFCなどによる決済システムをIAプロセッサ向けに動作するように最適化を進めると発表

●Atom Z2580は2013年前半に搭載製品が登場

 オッテリーニ氏は、Intelのスマートフォン向けSoCのロードマップについての説明も行なった。それによれば、現在1.6GHzで動作しているAtom Z2460だが、クロック周波数が最大で2GHzにまで引き上げられたSKUが用意されることが明らかにされた。

 また、Atom Z2580という製品が計画されていることも明らかにされ、Atom Z2460の2倍の処理能力を実現するほか、IntelのLTEコントローラになるXMM7160と組み合わされてLTE/3G/2Gなど複数のモードの無線に対応する機能などが追加される予定だと説明された。

 さらに、Atom Z2460/Z2580は、どちらかと言えばハイエンドを狙った製品ということになるが、「我々はメインストリーム市場のことも忘れていない。2015年にはスマートフォン市場が5億台になると予測しているが、その市場にはもっとローエンドなチップが必要だ」と述べ、クロック周波数が1GHzに下げられたAtom Z2000というチップを投入する計画も明らかにした。Atom Z2000向けには、XMM6265というHSPA+に対応した無線コントローラとの組み合わせで提供され、非常に低価格なスマートフォンをOEMメーカーが製造することが可能であるとオッテリーニ氏は強調した。

 Atom Z2580は2012年後半にサンプル出荷が開始され、2013年の前半に搭載されたスマートフォンがOEMメーカーから提供されるスケジュールだという。Atom Z2000は2011年半ばまでにサンプル出荷が開始され、2013年の初頭にはOEMメーカーから搭載製品が提供されるスケジュールを予定しているとのことだった。

Intelのスマートフォン向けプロセッサのロードマップAtom Z2000を利用することで、非常に低価格なスマートフォンを製造することができるようになるとオッテリーニ氏

●ムーアの法則を上回る勢いで新しい製造技術をSoCに投入する

 最後にオッテリーニ氏は、スマートフォン向けSoCの製造技術について触れ、「Intelはムーアの法則を上回る勢いでスマートフォン向けSoCに新しい製造技術を適用していく。来年には22nmプロセスルールで製造されたSoCが通信キャリアの認証が可能になるように出荷され、さらに14nmプロセスルールで製造されるSoCに関しても開発を開始している」と説明。同社の強みである最先端のプロセスルールを積極的にスマートフォン向けのSoCにも前倒しして導入し、ライバルとなるARM陣営のSoCベンダーと差別化していくという方針を改めて表明した。

2013年に22nmプロセスルールで製造された製品を出荷し、2014年には14nmと、通常2年に1度新しいプロセスルールの導入というムーアの法則を超える勢いでモバイル向けのSoCを出荷していく

 Atomプロセッサのプロセスルールを前倒しして、2013年には22nmプロセスルールを、2014年には14nmプロセスルールを導入するという計画は、昨年(2011年)の投資家向けの説明会ですでに明らかにされている計画だが、MWCに出席しているモバイル機器関連の報道関係者に向けて改めて強調された形だ。

 現状では、スマートフォン市場ではARMアーキテクチャのシェアが圧倒的な状況だが、このように最先端のプロセスルールをPCのプロセッサ並みに投入し、性能でARM陣営のSoCを大きく引き離すというのがプロセスルール前倒しの狙いだ。自社でプロセスルールを開発しているIntelだからこそできる戦略であり、その効果も小さくない。

 計画通りに製品を投入することができれば、消費電力あたりの性能でARMプロセッサ陣営を大きく引き離すことが可能になる。Intelにとって撤退は許されない市場だけに、製品の投入時期に注目したい。

(2012年 2月 29日)

[Reported by 笠原 一輝]