次期DRAMの本命、DDR4とLPDDR3の実動作チップが登場
現在のDRAM市場では、2種類の技術仕様が主流となっている。1つは、サーバーやPCなどに使われているDDR3仕様のDRAMである。もう1つは、スマートフォンやメディアタブレットなどのモバイル機器に使われているLPDDR2仕様のDRAMだ。
DRAMの共通技術仕様は、半導体ベンダーと大手半導体ユーザーで構成される業界団体JEDECがこれまでずっと策定してきた。JEDECはすでにDDR3の次期DRAM仕様「DDR4」とLPDDR2の次期DRAM仕様「LPDDR3」の策定を進めており、いずれも2012年には詳細な技術仕様が公表される予定になっている。
●DDR4 DRAMの試作チップで3.3Gbpsを達成DDR4 DRAMは、基本的な考え方としてはDDR3 DRAMの2倍の高速化を実現する目的で開発される。DDR3 DRAMの入出力ピン当たりのデータ転送速度は1.6Gbps(1,666Mbps)が最大とされており、DDR4 DRAMでは入出力ピン当たりで3.2Gbpsのデータ転送速度を実現する。
DDR4 DRAMはまず、サーバーに導入される見込みだ。導入時期は早くても来年(2013年)。PCへの導入は2014年以降になるとみられる。
DDR3 DRAMからDDR4 DRAMへの移行スケジュール。DDR4 DRAMは2013年にサーバーから導入される見込み。このスライドはJEDECが2011年11月に開催した「Server Memory Forum」で示されたもの | DDR3 DRAMとDDR4 DRAMの主な仕様。このスライドはJEDECが2011年11月に開催した「Server Memory Forum」で示されたもの |
言い換えると、来年の導入のためには、遅くとも昨年(2011年)の時点で性能を評価できるDRAMチップが存在していなければならない。例えばSamsung Electronicsは昨年1月4日に、DDR4 DRAMを開発したと発表している。
そしてISSCC 2012では、Samsung ElectronicsとHynix SemiconductorのDRAM大手がそれぞれ、DDR4 DRAMの開発成果を発表した。
Samsung Electronicsが開発したのは、記憶容量が4GbitのDDR4 DRAMである(K. Sohnほか、講演番号2.1)。製造技術は30nmのCMOS、3層金属配線技術。電源電圧は1.2Vである。
試作チップは高い性能を示した。電源電圧が1.14Vのときに、入出力ピン当たりで3.3Gbpsのデータ転送速度を確認してみせた。DDR4 DRAMの量産には30nmではなく、さらに微細な20nmの製造技術が使われる。30nm技術の試作チップでDDR4の目標仕様である3.2Gbpsを超えたのは、高く評価すべきだろう。
4Gbit DDR4 DRAMのシリコンダイ写真と主な仕様(ただし最終製品ではない)。シリコンダイ面積は76平方mm | データ転送速度の測定結果(左)とDDR3およびDDR4の主な仕様(右)。DDR4の表で青色の部分がDDR3からの変更・追加 |
Hynix Semiconductorが開発したのは、記憶容量が2GbitのDDR4 DRAMである(K. Kooほか、講演番号2.2)。製造技術は38nmのCMOS、3層金属配線技術。電源電圧は1.2Vである。
試作チップとDDR3 DRAMを2,133Mbpsのデータ転送速度で動作させたときに、試作チップの消費電流はDDR3の8割程度に下がることを示していた。また電源電圧が1.0Vのときに、入出力ピン当たりで2.4Gbpsのデータ転送速度で動くことを確認した。38nmの製造技術であることを考慮すると、かなり高い性能を発揮していると言える。
2Gbit DDR4 DRAMのシリコンダイ写真と主な仕様(ただし最終製品ではない)。シリコンダイ面積は不明 | 試作チップ(DDR4)とDDR3 DRAMの消費電流比較(左)とデータ転送速度の測定結果(右) |
●406mWで6.4GB/secを実現したLPDDR3チップ
LPDDR3 DRAMは、基本的な考え方としてはLPDDR2 DRAMの高速版である。原理的には、LPDDR2の2倍のデータ転送速度(入出力ピン当たり)を達成できる。モバイル機器への搭載は、2013年に始まるとみられる。
LPDDR3 DRAMの主な目標仕様。このスライドはJEDECが2011年6月に開催した「Mobile Memory Forum」で示されたもの | LPDDR3 DRAMの仕様(暫定版)とシリコンダイのレイアウト。このスライドはJEDECが2011年6月に開催した「Mobile Memory Forum」で示されたもの |
ISSCC 2012では、Samsung ElectronicsがLPDDR3 DRAMの開発成果を発表した(Y-C. Baeほか、講演番号2.4)。記憶容量は4Gbit。製造技術は30nmである。電源電圧は1.2V。IOは×32bitである。温度が85℃のときに電源電圧が1.05Vに下がるまで、1.6Gbpsのデータ転送速度(入出力ピン当たり)で動いた。読み出し動作(入出力ピン当たりのデータ転送速度1.6Gbps)時の消費電力は406mWとかなり低い。×32bitのチップ全体では、6.4GB/secのデータ転送速度になる。
4Gbit LPDDR3 DRAMのシリコンダイ写真。シリコンダイ面積は82平方mm | データ転送速度の測定結果 |
このほかHynix Semiconductorが、シリコンダイ面積が30.9平方mmと小さな4Gbit DDR3 DRAMを発表した(K-N. Limほか、講演番号2.3)。製造技術は23nmのCMOS、2層銅配線、1層アルミ配線。電源電圧は1.2Vで、低電圧版DDR3の「DDR3U」に相当する。製造技術を23nmと微細化したことが、シリコンダイ面積の削減に寄与した。相当に高いコスト競争力を備えると見られる。
シリコンダイ面積が30.9平方mmと小さな4Gbit DDR3 DRAMのダイ写真 | 試作チップの主な仕様 |
ISSCC 2012でDRAMチップを発表したのはSamsungとHynixのいずれも韓国のDRAMメーカーだった。DRAM大手でもエルピーダメモリやMicron Technologyなどの発表はない。昨年のISSCC 2011でも、DRAMチップを発表したのは韓国の2社だけだ。例えばエルピーダメモリは昨年の11月に4Gbit LPDDR3 DRAMの開発を報道機関向けに発表している。ISSCCでのDRAMチップの発表が韓国の2社だけというのは、いささか寂しい気もする。来年のISSCC 2013では、ほかのDRAMメーカーによる発表も期待したい。
(2012年 2月 23日)
[Reported by 福田 昭]