【IDF 2011レポート】
【基調講演編】GoogleによるAndroidでのIA最適化が発表
~太陽電池で動くCPUなどをデモ

基調講演会場

会期:9月13日~15日(現地時間)
会場:米国サンフランシスコ モスコーンウエスト



 Intel Developer Forum(IDF)2011は、13日(現地時間)に予定通りIntel社長兼最高経営責任者のポール・オッテリーニ氏による基調講演で幕を開けた。

 今回のテーマは「Fundamental Transformation(根本的な変革)」。すでに日々の生活の密接と結びついているコンピューティングが、向こう10年でどのような変化をもたらすかについて概説するとともに、Googleとの提携について発表を行なった。

 2年前オッテリーニ氏は、「Compute Continuum」(コンピューティングの連続体)というビジョンを掲げた。これは、コンピューティングにおいて、端末が主体となるのではなく、端末のみならず場所や時間を問わず、ユーザーが同じ体験を享受できるというもの。例を挙げると、スマートフォンであれ、PCであれ、いつでも同じような体裁でメールを読み書きできるのもその1つ。もちろん端末も重要だが、それよりも体験の方が重要。そして、これも根本的な変革の1つであり、ここにはIntelおよびIDF来場者にとってとてつもない機会が存在している、とオッテリーニ氏は説く。

 Compute Continuumが想定する世界では、ユーザーは1つの端末に縛られず、時と場合によって複数のデバイスを使い分ける。また、いつでもどこでもネットに接続できるので、ソーシャルサービスにアップロード/共有される写真や動画なども必然的に増えてくる。これによってもたらされるのは、生産、出荷されるトランジスタ量の指数的な爆発だ。

 オッテリーニ氏の示した資料によると、2005年までに出荷されたトランジスタの総量は500京(5×10の18乗個)にも及ぶ。しかし、2005年から2010年の間で、この数字は8,000京個にまで膨れあがり、2015年には12垓(1.2×10の21乗)個という途方もない数に達する。そのため、1980年から2015年までの数字をプロットすると、過去30年はグラフがほぼ真っ平らになってしまう。それほどの需要がこの業界を待ち受けているというわけだ。

ポール・オッテリーニ氏コンピューティングとは体験そのもの現在ユーザーの扱うデータ量や、デバイスの数、クラウドの投資額は指数的に増加
しかし、今後10年のトランジスタの出荷量に比べると、過去30年間はゼロに等しいくらいになる

 その需要に応えるには、トランジスタ側の革新が必要となる。半導体の集積度は18カ月から24カ月で2倍になるというムーアの法則がある。しかし、法則という名前がついているものの、これは科学的な法則ではなく、経験則である。そのため、これまで何度も、ムーアの法則に終わりが訪れるとの見通しが述べられてきた。しかし、その度にIntelは、新しい素材や技術を使って、この法則を延命させてきた。

 その最新例としてオッテリーニ氏が紹介したのが、先だって発表された3Dトランジスタである。22nmプロセスに用いられる同トランジスタは、立体化することで、性能と電力効率をさらに一段高められる。そして、オッテリーニ氏は、「すでに2013年に投入予定である14nmも視野に入っており、すでに開発が進められている」と述べ、プロセス技術の展開が滞りなく進行していることをアピールした。

 もう1つオッテリーニ氏が同社の強みとして強調したのが、Intelアーキテクチャ(IA)を取り巻く開発者の層の厚さだ。同氏によると、IA関連の開発者は世界に1,400万人おり、現在600万のアプリケーションが利用可能になっており、これは、「世界最大のApp Store」におけるアプリケーション数の10倍に及ぶという。

22nmで3Dトランジスタを採用。すでに14nmも視野に入っているIAの背後には1,400万の開発者が存在

これからのコンピューティングに求められる要素

 ここからオッテリーニ氏は、未来の話しへと話題を転じ、今後コンピューティングをより進化させていく上で、「魅力」、「一貫性」、「セキュリティ」の3つの要素を叶えなければならないと述べた。

 魅力的であるコンピューティングの具体例としてオッテリーニ氏が引き合いに出しのは、「Ultrabook」。Ultrabookは、キャッシュに始まり、複数のコアや、グラフィックス、動画再生エンジンなどを1チップに統合することで実現した、安価で、薄くて軽く、バッテリが持続するノートPCのジャンル名。どこへでも持ち運びでき、迅速に反応するため、ユーザーの創造性や潜在能力を遺憾なく発揮できるという。

 Ultrabookは、6月にCOMPUTEXで発表され、9月のIFAではメーカーによる製品発表もなされており、未来の話しではないが、オッテリーニ氏は、2012年にはUltrabookに同社初の22nmプロセスCPUとなる「Ivy Bridge」が、2013年にはその次の「Haswell」が搭載されるとのロードマップを紹介した。

 Haswellは、同社のチック・タック戦略の内、チックであるアーキテクチャ刷新にあたる製品で、詳細はまだ公開されていないが、消費電力削減を1つの重点としている。現行の第2世代Coreプロセッサと比べると、接続スタンバイ状態での消費電力は3割削減。また、システムレベルでの電両管理フレームワークを盛り込んでおり、プラットフォームレベルでは消費電力が1/20以下に抑えられるという。また、オッテリーニ氏は、Haswell搭載機が、時期的にWindows 8との非常により組み合わせになり、過去の資産を継承しつつも、コンピューティング体験を変革させるものになるだろうと語った。

 そして、オッテリーニ氏は、さらに消費電力低減を推し進めた未来のプロセッサの姿として、太陽電池で駆動するプロセッサのデモを披露した。

 これは、Intel Labsが研究/開発したもので、トランジスタのしきい電圧程度で駆動できるプロセッサ。詳細については明かされなかったが、このCPUは切手大の太陽電池に1個の白熱球の明かりを与えるだけで動作し、Windowsも駆動できる。マザーボードはPentium用のものが使われており、Socket 7に専用の下駄を履かせて、その上にCPUを実装していたことから、アーキテクチャはPentiumベースと思われる。なお、太陽電池で駆動しているのはCPUだけで、それ以外のパーツは別途電力を供給している。

Haswellは現行のCPUより消費電力を3割削減システムレベルでの電力管理により、プラットフォームレベルでは1/20以下にHaswellは2013年登場予定で、Windows 8 Ultrabookおよびタブレット向けとなる
太陽電池で動くCPUのデモ機。システムはPentium用パーツで構成CPUはSocket 7に下駄をかませて実装。左上の赤と黒のケーブルがCPUの電源ケーブルで、たった1つの電球の光を使った太陽電池で駆動できる

 続いてオッテリーニ氏は、サーバー側のデモとして、ワシントン大学が開発した写真から3Dモデリングを行なうソフトウェアを紹介した。同様のものとして2008年にMicrosoftが複数の写真を組み合わせて、立体的なパノラマ写真を作成できるサービスを発表したが、こちらは建物などの精密なモデリングまでしてしまう。当然、その処理には複雑なアルゴリズムと高性能なハードウェアが必要となるが、現行のXeon 5600から次世代のXeon E5に変更することで、レンダリング処理時間を半分に短縮できるという。

【動画】膨大な写真を元にして、建造物の構造を割り出し、写真をテクスチャとして3Dオブジェクトを生成

 2つ目の要素である一貫性については、Atom+AndroidをベースとしたCisco製オフィス電話機「Cius」や、Intelの「Pair & Share技術」、「Teleport Extender」を披露した。

 一貫性というのはCompute Continuumと同じような意味を指す。Ciusは、Androidベースとなっているので、普段使い慣れた自分のスマートフォンと同じように扱うことができ、電話のみならずメールやインスタントメッセージなども送受信できる。また、液晶部分は取り外すとタブレットとして機能する。

 Pair & Share技術、Teleport Extenderは年末に登場するPCに実装される予定。前者はPCとスマートフォンなどをペアリングすることで、両者間で簡単に画像を送受信できる技術。後者は、電話で受信したSMSや着信履歴などをPCに表示させるもの。

CiscoのCiusOSはAndroid。電話以外にもコミュニケーション用のさまざまな機能が利用可能液晶部分は単体でタブレットになる

 3つ目の要素となるセキュリティに関しては、McAfee Endpoint Security担当副社長兼ジェネラルマネージャのCandace Worley氏を壇上に招いて説明を行なった。

 Worley氏は、現在世界各地で発生している脅威を30分遅れで地図上に示すシステムを紹介しながら、これまでのソフトウェアによる対処法では、間に合わなくなると指摘。例えばカーネルレベルで自身を埋め込むマルウェアをアンチウイルスソフトで検出するのは非常に困難である。実際には、署名を使って既知のルートキット検出するわけだが、この時点でシステムはすでにルートキットに感染している。

 そこでその対策としてWorley氏は、メモリやCPUの活動を監視することで未知の脅威による新入を検出する「Deep Dafe Technology Platform」を発表した。これは、CoreプロセッサのVT技術を利用したもので、IntelとMcAfeeが共同で開発した。これにより、ゼロデイアタックなども防ぐことができるという。

McAfeeのCandace Worley氏Intel VTを活用したDeep Safe Platform Technology

 最後にオッテリーニ氏は、「もう1つ言っておきたいことがある」として、「Medfield」ベースのスマートフォンリファレンスデザインが完成したことを発表した。

 実は、先にデモで使われたスマートフォンはこのリファレンスデザインのものだった。CPUには次期AtomをベースとしたSocであるMedfieldを採用しており、すでにOEM顧客向けに出荷中。2012年上半期にも実際の製品が登場の見込みという。

 さらに、オッテリーニ氏は、Googleのモバイル担当上級副社長のAndy Rubin氏を招き、両社が開発パートナーシップを結んだことを発表した。

 これまでもデータセンター、Google TV、Chrome OSなどでは協業してきた両社だが、今回の提携によりスマートフォンでも協業を行なう。これにより、現行および将来のAndroid OSはIAに最適化され、IA CPUのメモリ管理、低消費電両アーキテクチャ、マルチメディアや3Dグラフィック処理など全ての機能をフル活用できるようにする。

 最後にオッテリーニ氏は、ここで述べた今後10年に起きる根本的な変革のためには開発者の協力が必要であると来場者に呼びかけ、講演を締めくくった。

先のデモで使ったスマートフォンがMedfiledベースのリファレンスデザインであることを明かしたAndroidをIAに最適化させることでIntelとGoogleが提携GoogleのAndy Rubin氏
握手を交わす両者これはMedfieldを使ったタブレット締めくくりのスライド

(2011年 9月 14日)

[Reported by 若杉 紀彦]