消費者が使う個人向け電力管理システムを紹介
IDF 2010 Beijing最終日の基調講演は、トリを務めることが恒例になっているIntel CTOのジャスティン・ラトナー(Justin Rattner)氏が登壇した。テーマはIntelラボで研究中のパーソナルエネルギーマネージメントというものだ。
温室効果ガス排出は将来さらに伸びる可能性があるとするリサーチ結果 |
CO2などの温室効果ガス排出量を抑えるため、エネルギー消費量を減らすという取り組みを、ITを使って個人が行なえるようにするためのシステムを提供するという内容だ。1つは最近耳にする機会が一気に増えたスマートグリッドへの取り組みで、インフラを近代化して効率よく電力供給、利用するものだ。しかし、Intelラボの研究は、それ以上になにか貢献できることはないか、というものだという。
ここで着目しているのは、冒頭で触れたパーソナルエネルギーマネージメントである。つまり、消費者個人単位でエネルギー消費を節減していくためのシステムである。アメリカでは1億1,300万世帯、2億5,000万台の自動車が全エネルギー消費の35%を、中国では3億6,000万世帯、7,600万台の自動車が28%を占めており、個人のエネルギー消費節減は、大規模工場での取り組みと同じように重要なことであるとする。
しかし、電気製品を使わないなどといった、ライフスタイルを犠牲にするということではなく、消費者にエネルギー消費を節減できるような力を与えることが大事なことだという。今コンピュータの世界ではPCやスマートフォンを使って、情報を個人が管理しているが、これと同じようにエネルギーの管理も個人の手にもたらそうというのが、Intelラボの考え方だ。
例えば、ハイブリッド車において、エネルギーマネージメントディスプレイが人気だというが、このエネルギーマネージメントディスプレイを、すべての車が搭載したら、一夜にして20%も燃費が改善するという、この道の権威の意見を紹介。消費者が消費行動を変化させるからだ。
そして、こうした管理を家庭に当てはめ、実際に自宅に導入して使っているという、Intel Embedded Computing GroupのMary Murphy-Hoye氏が登壇した。Hoye氏はセンサーコンピューティングの研究に長年携わっている人物だ。
自宅に多数の電力センサーを設置し、電力を監視したところ、洗濯をする際に洗濯機の水を温める装置が多大な電力を消費していること。そして、宿題後にXbox 360を楽しむと約束した息子が、実は宿題をやる前にXbox 360で遊んでいたことが分かるなど、自宅全体をモニタするスマートモニターだけでは分からなかった消費動向が分かったという。
一方で、自宅全体にセンサーを張り巡らすことは苦労を伴う。もっと実現しやすいようにすることもパーソナルエネルギーマネージメントには重要なことである。
ここでもう1人、IntelエネルギーラボのJames Song氏が登壇。Song氏は無線技術を使って、どの電気製品が使用中であるかをモニタする装置を紹介。この装置は無線で電力情報を送信し、管理システム側ではその電圧信号のパターンから、どの家電が使われているかを判定するというものだ。電気を途絶えさせることなく、電気製品の利用状況を管理できる。
Intel Labs, Energy Systems Labs Research ScientistのJames Song氏が、無線とパターン認識を利用した電力監視システムを紹介 | ワイヤレスで送信されてくる電圧信号のパターンを認識し、どの家電が現在動作しているかを把握することができる。写真の例では電子レンジを稼働させることで信号パターンが変わっていることが分かる |
さらにHoye氏は、マネージメントシステムの簡素化も必要なことであるとし、もっと楽しんで行なってもらえるよう開発した、家庭向けのエネルギーマネージメントダッシュボードを紹介した。
このダッシュボードは、エネルギー消費が集中する時間帯の把握、家庭内の全電力、どの家電が一番電力を消費しているか、どの日の消費電力が多いか、そして電気代はいくらになるのかなど、エネルギー消費に関するあらゆる情報を得ることができるようになっている。
また、普段は時計として使えるほか、ユーザーによるアプリケーションのインストールも可能という。現在はリファレンスデザインを作っているところだが、デベロッパに対しては、こうしたダッシュボードが、パーソナルエネルギーマネージメントの分野に参入するチャンスであると紹介した。
Hoye氏は降壇のさい、「私1人では水やヒーターを消しても影響は小さい。しかし、こうしたシステムを使えばエネルギー消費量を15~30%節減できる」と述べ、多くの人々が参加することで、地球温暖化に多大な貢献ができることをアピールした。
●マイクログリッドでの電力管理と標準化へ取り組み
ここまでは個人単位のエネルギーマネージメントの話題であったが、ここからは地域に向けた取り組みである。エネルギー発電と消費を地域単位で管理するマイクログリッドという概念がある。
例えば、将来的に電気自動車を各家庭が持つような時代になったとき、この充電のピークが集中するような事態が起こり、スマートグリッドを持ってしてもピークキャパシティを超えてしまうのではないかという懸念がある。
時間帯としては、仕事から帰ってくる夕方に人々の家での行動が活発化する。そのために、電気自動車の充電を深夜に行なうなどの措置が必要になる。時間帯を変えたところで、全戸が同時に充電を行なえばピークキャパシティを超える可能性があるため、電圧を下げ、時間をかけて充電を行なうことで回避する必要も出てくる。
マイクログリッドにおいても、電力や時間を個人が管理して、誰にも負担にならないようにしなければならない。ゆえに、消費者がDIYで購入できるものでエネルギーマネージメントを行なうようになり、エコシステムを構築するものであるとする。
ラトナー氏は、エネルギーマネージメントを既製品で行なうというのは現状では考えられないことかも知れないが、PC周辺機器と同じように標準化を確立することが、投資奨励、ソリューションの提供につながるとして、この必要性を訴えている。
また、先にHoye氏も触れたが、温室効果ガス排出削減の個人的な取り組みを行なうことは、みんなに必要とされていることであり、デベロッパもパーソナルエネルギーマネージメントという変革に携わっていけるのだと改めてアピールした。
(2010年 4月 15日)
[Reported by 多和田 新也]