イベントレポート
IntelとHTC、5G対応の無線VR HMDを共同開発。今後放送にも5Gを活用
2018年9月12日 14:12
Intelは、9月12日(現地時間)よりアメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスのロサンゼルス・コンベンション・センターで開催される予定のMWC Americaに先立って「5G Summit」と題した記者会見を開催し、通信機器インフラ企業やメディア企業と一緒に5Gの普及を目指していくと明らかにした。
爆発的に増えているモバイルネットワークへの負荷、5Gがその解決策
Intel上級副社長兼ネットワークプラットフォーム事業本部事業本部長のサンドラ・リビエラ氏は「2023年には1分間に2PBのモバイルデータが消費されると予測されており、これは2017年の8倍に相当する。そのうち75%はストリーミングビデオなどの動画再生によって消費され、現在よりも45%増加するとされている。
そうしたネットワークを支える技術が5Gだ。5Gでは現在の4Gの延長線上にあるモバイルブロードバンドだでなく、高信頼性で超低レイテンシ、より増加する機械同士のやりとりなどの特徴を備えている」と、5年後に想定されているネットワークへの要求や、新しいアプリケーション(IoTや自動運転など)に向けて5Gが必要だと強調した。
IHSの調査によれば、2035年に5Gがもたらす経済効果は2.5兆ドル(日本円で275兆円、1ドル=110円換算、以下同)で、10兆ドル(110兆円)、220万人の雇用を米国で生み出すとされており、経済へのインパクは大きい。
Intelは、ここ数年5Gの開発に取り組んでおり、4Gの延長線上にある5GNR、RANやSDNなどの新しいネットワークインフラ、さらにはクラウドのデータセンターにまでおよんいる。クライアント側のモデムだけでなく、インフラ側(基地局など)に向けても新しい技術を開発している。
たとえば、平昌での冬期オリンピックや、上海メルセデスベンツ・アリーナなどで5Gを利用したデモを行なった。平昌ではオリンピックとしては初めて5Gの低レイテンシという特徴を生かしてブロードバンドを利用した中継を行ない、5千人観客がそのメリットを楽しんだ。
Nokia、EricssonがIntelのソリューションを採用
5Gではインフラへの投資が重要になるためIntelは、これまで取り組んできたオープンシステム、オープンスタンダードをベースにした4Gから5Gへの移行を進めていく。Linux Foundation、OpenNFV、OpenStack、Kubernetesなどのオープンスタンダードがすでに新しいユースケースをサポートしている。
基地局の手前でコアネットワークへの接続を実現するRAN(Radio Access Network)と呼ばれる機器は、これまでは、専用のハードウェアによって実現されてきたが、じょじょにSDNと呼ばれる汎用のプロセッサ+ソフトウェアの組み合わせに置き換えが進んでいる。
Intelはこの積極的な旗振り役となっており、今回IAのプロセッサ(Xeonなど)にソフトウェアを組み合わせて、フィンランドのNokiaおよびスウェーデンのEricssonの2社に提供しており、今後世界中で導入が始まる5Gのインフラとして通信キャリアに納入していく。
今回の発表会には、NokiaおよびEricssonの幹部が呼ばれた。両社のRAN機器などには、Intel製品が採用されている。
Nokiaネットワークマーケティング&コミュニケーション担当副社長のフィル・ツイスト氏は「われわれは、クラウドやRANの開発でIntelと協力している。Nokia Future Xアーキテクチャに基づくReefSharkチップセットを利用した場合、従来世代に比べて50%小さなサイズのMassive MIMOアンテナを構成可能で、64%も消費電力を削減できる」と説明。
これらのインフラはすでにVerizonの4G/5GのRANで採用。このほか、28GHzのミリ波を利用したNokia自社の5Gのテスト、China Telecomの5Gの実証実験などにも使われている。
もう1つ紹介されたはNokiaと並んでワイヤレスインフラの大手となっているEricssonで、Ericssonネットワークポートフォーリオマネージメント責任者のジャワード・マンソール氏。マンソール氏は「5Gでは無線周りからクラウドまでがハードウェアとソフトウェアの組み合わせで大きく変わる」と述べ、EricssonもIAのような汎用プロセッサとソフトウェアを組み合わせたネットワーク機器を今後投入していくことを明らかにした。この記者会見の翌日(9月12日、現地時間)に開幕するMWC Americaでは、39GHzのミリ波を利用したライブデモを行なう。
Fox SportsがU.S.オープンの中継カメラに5Gを使用
5Gのアプリケーションと言えば、誰もが思い浮かべるのはスマートフォンやモバイルルーターなどの5G版だろう。しかし、5Gでは、自動運転、IoT(Internet of Things)や放送など、従来はセルラー通信が使われてこなかったエリアでの新しいアプリケーションも大きな注目を浴びている。
Intelのリビエラ氏は「5Gはメディア業界に大きなインパクトを与える。2028年における5Gによるメディア事業の売り上げは総計で4億2千万ドル(日本円で約462億円)、うちAR/VRは1億4千万ドル(同154億円)、うちデジタル広告は1億7800万ドル(同195億8000万ドル)、うち自動運転自動車で消費されるコンテンツの売り上げは3500万ドル(日本円で38億5千万円)となる」と述べ、5Gを利用したメディアビジネスの市場が今後大きくなるだろうと説明。その上で、米国のメディア企業、通信キャリア、通信機器メーカーの関係者を壇上に呼び、メディアと5Gというテーマで座談会を行なった。
米国のスポーツテレビ局となるFox Sportsは、先日行なわれたゴルフのU.S.オープンでは複数の4Kカメラの映像を5Gで転送した。レガシーの機材との融合も可能で、わずか6カ月で実現することができた。従来は経済的に難しかったマルチアングルの映像なども5Gで可能になり、5Gはスポーツ中継のユーザー体験を変えるという。
AT&Tでは、5Gは放送の用途にも十分使うことができると考えており、5Gを利用した放送にも取り組んで行く。
台湾のHTCと共同で試作した5Gを利用したワイヤレスHMDを公開
また、Intelは、韓国通信キャリアのSK Telecomと、今後スポーツ中継などの分野で5GとIntelのVR技術を利用した取り組みを行なっていく。
台湾のVR HMDのメーカーであるHTCと協力して、ミリ波を利用した5Gによるワイヤレス化を実現したVR HMDの参考展示を行なった。
最後のゲストとしてワーナー・ブラザーズ・エンターテインメントCTO(最高技術責任者)のビッキー・コルフ氏をステージに呼び、ワーナー・ブラザーズ・エンターテインメントとIntelの取り組みについて説明。5Gの普及でメディアの配信はどう変わるのかについて議論した。
動画やゲーム、AR/VRなどのコンテンツ配信はモバイルエッジコンピューティングをことになるという見通しや、コネクテッドカー向けにより個人のニーズに即した配信を行なっていくことなどが説明された。
Intelのリビエラ氏は「5Gは始まりに過ぎず、将来の大きな変革に向けた基礎になる。Intelではクライアントからネットワーク、クラウドまで一気通貫に5Gのソリューションを提供していく」と述べ、今後も5Gへの取り組みを続けていくとアピールして講演を終えた。