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ロジクールが考える、これからのマウスが考えなければならないポイント

~「ユーザーにとってタッチの感触が興味の的」

Logitech Global VP PC PeripheralsのCharlotte Johs(シャーロット・ジョーズ)氏(右)と、ロジクール日本法人 代表取締役社長の竹田芳浩氏

 タッチ操作を前提としたタブレット/スマートフォンの普及については言うに及ばず、Windows 8以降はタッチ機能を搭載するPCが増えるなど、従来はマウスやキーボードが当たり前であったPCのヒューマンインターフェイスデバイスも変革期を迎えているといって良いだろう。

 スイスのLogitech(日本法人:ロジクール)はマウスやキーボードを販売してきた代表的なメーカーだが、今後、どのような方向へ進むのだろうか。Logitech本社のグローバルバイスプレジデントとしてPCデバイス部門でブランディングとポートフォリオを担当するシャーロット・ジョーズ氏に話を聞いた。

タッチ製品にフォーカスするロジクール

 ロジクールはゲーマー向けを含め依然として継続的にマウス、キーボードを発売しており、直近では10月3日にBluetoothおよび無線タイプのマウスを発表している。さらにシャーロット氏が最新の製品として提示したのが、タッチ機能を搭載するBluetoothマウス「T630」だ。

 T630は、2012年11月に発売された「T620」の後継となるマウスで表面全体をタッチセンサーとしたマウスだ。シャーロット氏は「この製品はタッチの感触にフォーカスを置いている製品です。それは、PCでも、タブレットでも、スマートフォンでも、タッチの感触というものがユーザーの興味の的だと思っているからです」と述べる。こうしたインタビューで真っ先にこの製品を紹介した辺りからも、同社がいま一番訴求したい製品が、こうしたタッチ機能を持った製品であることが分かるだろう。

 ちなみにロジクール製品の型番は、マウスが「M」、キーボードが「K」で始まるものだが、タッチ機能搭載製品については、「T」で始まる型番はタッチ機能を持ったマウス、「TK」で始まる型番はタッチ機能を持ったキーボードに使っている。

T630。国内では7,000円ほどになる見込み
先代のT620

 マウスが普及して“ダブルクリック”などの操作が当たり前のものとして人々に根付いたのと同様、“スワイプ”や“フリック”などのタッチ特有の操作も、タッチ機能の普及によって世に根付こうとしているといっていいだろう。そこで、タッチをよりよい感覚/感触で操作できることが重要で、同社はそこにフォーカスして取り組んでいるというわけだ。

 本製品の表面に使われているタッチセンサーは、非常に感度が高いものになっているという。表面の感触はT620には近いが、134×129mm(幅×奥行き)の面積をタッチパッド製品「T650」とは明らかに違う。

 「マウス製品はタッチの範囲が狭いので、小さな動きでも検知できるように感度を高くしないと、同じような操作感にはならないのです」とシャーロット氏は説明する。同社は9月に大型のタッチパッドを備えたキーボード「TK820」を国内発表しているが、このパッドの表面は、タッチパッド製品のT650に近い感触となっており、大きさやコンセプトに合わせて感度や表面コーティングを変えている。

名刺ケースと比べても一回り小さいT630

 また、昨今のデバイス情勢からは新たな課題も生まれているという。「PC以外にスマートフォンやタブレットが長時間使われるようになっていますが、そこに課題が生まれています。1つ例を出します。休日の予定をたてる際、ホテルを探すときにはPCを使い、それを娘に知らせるときはスマートフォンを使う、といったことがあるでしょう。ここで、複数のスクリーン(ディスプレイ)を、いかにして同時に扱うかということが重要になってくるのです」。

 シャーロット氏が挙げた例でいえば、複数のスクリーンは複数のデバイスと同義である。さらにいえば、ホテルを探すときにはPCに向かってPCに接続されたキーボードとマウスを使い、メールを送るためにスマートフォンへ持ち替えてタッチ操作をするわけで、操作感もまるで違うものとなる。T630はBluetooth接続で2デバイスと同時にペアリングしておき、切り替えながら使用できるようになっているが、こうした状況を少しでもラクなものにするために搭載した機能だそうだ。

 さらにいえば、そもそもBluetoothを採用したのも先代のT620からの変更点の1つで、無線レシーバを持ち歩くこと必要をなくし、本体サイズもポケットに入るほどにまで小型化。「今後の動向として、PCの成長セグメントはUltrabookなどの、どこへでも持って行ける薄型PCだと思いますので、マウスの持ち運びやすさも利点になると考えます。デザイン面では、こうした薄型PCの横に置いて同じぐらいの高さになるようにしています」とコンセプトを述べている。

従来的なマウスはどうなるのか?

 こうした新しい時代に適合したマウスを投入する一方で、従来的なマウスの進化はどうなるのだろうか。

M950

 ロジクールは初めてレーザーセンサーを搭載した「MX1000」や「MX1100」、「MX Revolution」といった1万円クラスのハイエンドマウスを一般ユーザー向けに投入してきた。その最新モデルは「M950」となるが、これが発売されたのは2009年11月。すでに4年近くが経過する息の長い製品となっている。

 これらの製品は形状も人間工学的な設計で、長時間の使用でも疲れないなどの快適さを追求したものとなっていた。人間工学設計のマウスとしては「M500」系統で継続的に発売されているが、これらは左右対称に近い設計で、先述のようなハイエンドマウスのユーザーには物足りなく感じるところもある。

 こうしたハイエンド製品というものに対する問いかけに対してシャーロット氏は「消費者のセグメントに合わせた物作りを考えています。ゲーマー向けにはゲームに勝利するための機能を追求します。パワーユーザーにはM560のように長時間使えて、いろんな仕事に対応するもの。そしてモバイル製品ですね。ハイエンドというものに対して、“ハイエンドの何をイノベート(改革)すべきか”と考えると、やはりタッチの感触が重要なのではないかと思います」と回答。

 MX Revolutionという製品名もあったように、マウスの世界における革命的な製品として投入されてきたハイエンドマウスだが、今はタッチの世界を取り込んだ革命的な製品を生み出そうとしていると判断していいだろう。

 ちなみに、昨今はKinectやジェスチャーなど新しいタイプのインターフェイスも考案され、実用化に向けての動きが大きい。こうした分野に対しては、「モーショントラッキングやアイトラッキング(視点追従)など、新しい世代に向けての変化はありますので常に考えてはいます。素晴らしいものだと思いますが、ジェスチャーで長時間も動き続けるのは難しいなど、コンピューティングのあり方を考えると疑問もありますので具体的に何かしているということはありません。ですが、良いところを取り入れていこうとは思っています」とした。

(多和田 新也)