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ダイアログ、新技術を用いたUltrabook/液晶一体型PC向けマルチタッチ技術
~低コストで最大40点タッチに対応
(2013/3/19 17:42)
ダイアログ・セミコンダクター株式会社は19日、Ultrabookや液晶一体型PCに適用可能なマルチタッチディスプレイセンサーIC“SmartWave”「DA8901」を発表。米本社の事業開発 & 企業戦略担当バイスプレジデントのマーク・ティンドール氏が来日して記者説明会を行なった。また、説明会後に個別インタビューの機会も得たので、そこで得た情報も含めて紹介する。
会見においてティンドール氏は現在のPC市場とマルチタッチ技術の現状について説明。「IntelやMicrosoftはタッチ機能に注力している。PC業界で唯一伸びているのがUltrabookなどの薄型PCの分野。タブレットにシェアを奪われているPC業界だが、当社のタッチ製品を使えば対抗していける」と自信を見せた。その自信の根拠となっているのはコストと技術だ。
静電容量方式を用いたマルチタッチ機能を14型のUltrabookに適用すると、マルチタッチ機能の部分だけで60ドルほどのコストがかかるという。市場の価格帯が600ドルの製品であっても60ドルがかかることは大きな負担になる。また、23型クラスの液晶一体型PCでは120ドルほどのコスト増になる。同社の技術を用いれば、14型なら40ドル、23型なら90ドル程度のコストに抑えられるという。
また、現在製品化されているタッチ技術には、それぞれに課題があってWindows 8を搭載するメインストリームのUltrabookなどへの採用が難しいとする。
2枚の抵抗層の間にスペーサーを挟んだ構造で、タッチした場所に電力が流れることで検知する抵抗膜方式は、コスト面では有利だが、マルチタッチに対応できないほか、スクリーンの透過性が落ちる。
液晶表面に音波を発生させておき、タッチしたときに音波が指に吸収されることで場所を検知する表面弾性波方式は、やはりマルチタッチができないほか、周囲に音波を発生するユニットを取り付ける必要があるため、ベゼルが大きくなる。また、非常に敏感で指以外のものにも反応しやすい。
スマートフォンやタブレットで採用例が多い静電容量方式は、マルチタッチに対応でき、ベゼル幅も狭くできるが、透明電極の層(ITOレイヤー)を挟む必要があるためコストが高くなる。ITOレイヤーの製造工程も複雑で、とくに11型以上になるとコストが飛躍的に増すという。
赤外線を液晶表面に照射し、カメラを用いて赤外線の乱れを検知する画像処理タイプでは、マルチタッチは可能だが、カメラを搭載する必要があるためにベゼル幅、厚みともに大きくなる傾向がある。
ダイアログ・セミコンダクターが示したのは、「SmartWave」と呼ばれる、従来とは異なる仕組みのマルチタッチ技術およびセンサーICである。スウェーデンのベンチャー企業「FlatFlog」が開発したPSD(Planar Scatter Detection)技術を独占的にライセンスし、ダイアログ・セミコンダクターが「DA8901」として商用化したもの。
タッチの検出には赤外線を用いる。赤外線のエミッタ(送出器)とディテクタ(受信器)をペアにし液晶パネルを囲うように裏側へ設置する。エミッタからは送出された赤外線は、液晶パネルのカバーパネルの中で波打つように受信器側へ流れていく。
この状態で、カバーガラス表面を指で触れることで赤外線の波が乱れ、受信器へ届く光のパターンが変わる。それをチップ内に統合された高精度のADコンバータがデジタル信号化し、同じく統合されているARM Cortex-M0プロセッサによって解析。タッチされた位置を判定するという仕組みになる。
必要なエミッタ/ディテクタの数は液晶サイズごとに異なり、14型なら72個、23型なら100個程度のペアが必要となる。こうすることでパネル面全体に赤外線の波が張り巡らされることになる。
DA8901には12個のエミッタ/ディテクタのペアを接続でき、さらにマスター/スレーブとして複数のチップを接続できる。マスター1個に対して複数のスレーブを接続して、多量のエミッタ/ディテクタを接続できるようにするわけである。マスターとスレーブは同じチップであるが、マスターとして動作させた場合は管理専用チップとして動作させ、ここにはエミッタ/ディテクタは接続しない。具体的例を挙げると14型液晶で72個のエミッタ/ディテクタペアを使用する場合は、マスターとして動作するDA8901×1個と、エミッタ/ディテクタを接続する同チップ×6個で72ペアを接続する。23型の場合はマスター1個とスレーブ8個程度が必要となる。
ハードウェアの構造としては、必要数のDA8901とエミッタ/ディテクタを搭載したPCBをカバーガラスの裏側に取り付けることになる。説明で示されたモックアップサンプルでは、PCBの厚みは約1.5mm。幅は具体的なコメント得られなかったが、説明会のモックアップは目測でおよそ10mmほど。DA8901のチップサイズは5.7×5mmの59ピンQFNパッケージとされている。
液晶が元々持っているカバーガラスの裏側に取り付ける必要があるが、ITOレイヤーなどの新規の層は必要ないことから、透過性は液晶ディスプレイ本来の性能を100%発揮できる点もメリットとして挙げている。また表面弾性波方式などと異なり、赤外線をカバーガラス内に通すことが従来技術との大きな違いとなるが、この素材は問わず、あらゆる液晶製品に適用ができるとしている。
また、タッチした圧力の検知も可能だ。押したときの力具合によって指の表面の水分や指紋の影響で赤外線の乱れ方が異なり、それを解析して圧力を検知するという。圧力は10bitレベルで分解される。また平面の解像度は400dpiとなっており、いわゆるRetinaクラスの液晶パネルにも適用可能としている。
マルチタッチにも対応しており最大40点タッチが可能。それほどのマルチタッチは必要ないという意見もあるだろうが、あくまでのソフトウェア側の処理の問題で、40点タッチのためにハードウェアを用意しているわけではないため、コストに影響があるものではないとしている。また、基本的には表面に触れることでタッチを検出するので、指やスタイラス以外、例えば手袋をした状態でも利用が可能。
なお、赤外線という光を用いて検出するため、強烈な光が液晶パネルに当たるような状況では正しく動作しないケースがあり得る。しかし、環境光センサーを内蔵しており、それを打ち消して検知を行なう機能を備えるので、ほとんどのシーンで問題になることはないだろうとしている。
消費電力については具体的な数値は公開されなかったが、静電容量方式と同等かやや低いとしている。
ビジネス展開として、この技術の適用ターゲットを11型以上の液晶ディスプレイとした。これは10型以下では静電容量が受け入れられており、コスト面での優位性が大きい11型以上を対象にしているとするが、ベゼルにある程度のスペースが必要な点などの技術的なことも考慮されているのだろう。ただし、10型タブレットについては、積極的に売り込みはしないものの、要望があれば対応するとしている。
現在、大手PCベンダー4社と話を進めているほか、液晶ディスプレイやODMのパネルベンダーと交渉を行なっており、液晶一体型PCにおいて具体性ある話が生まれているという。搭載製品は今年中には発売されるのではないかとした。
スケジュールについては、2013年夏までにリファレンスデザインを提供。2013年第3四半期に量産化と設定している。2014年春の新製品のタイミングではUltrabookなどに搭載されてほしい、という希望を述べた。