レノボ・ジャパン株式会社は21日、ThinkPad史上最薄を実現した13.3型モバイルノート「ThinkPad X1」の設計や技術について解説を行なった。
高橋知之氏 |
X1の全体的なデザイン、およびキーボードのユーザビリティについては、デザイン・ユーザエクスペリエンス 部長の高橋知之氏が解説した。
同氏はまず、ThinkPadが従来から持つデザインエッセンスについて紹介。ThinkPadは、デザイナーのRichard Sapper氏と共同で設計されたものだが、5つのポイントとして、「シンプルで、閉じたらキッチリしまる形」、「無駄なくミニマムな筐体」、「手触りの良い黒い仕上げ」、「特徴的なロゴの佇まい」、「黒の中に赤いトラックポイントのアクセント」を挙げ、これまですべてのThinkPadが同じ流れを汲んでデザインされているとした。
レノボとしてスタートした後、大企業顧客向けに設計された「ThinkPad」シリーズに加えて、市場を広げるために中小企業顧客向けの「ThinkPad Edge」シリーズを設計。シンプルで先進的な機能を積極的に取り入れ、低価格を実現することで、大企業から“合理的に選択される”ものから、より“感覚的に選択される”ものへ変化したという。
そして、そのThinkPad Edgeシリーズの感性に訴える部分を、ThinkPadにフィードバックし、新しい価値観に基づいてデザインされたのが、ThinkPad X1であるとした。
ThinkPad Edgeシリーズの特徴 | ThinkPad Edgeシリーズの特徴をフィードバックしたもの |
まず、デザイン上でもっとも特徴的であるシェイプだが、薄さを強調して斜めにカットしたような側面を持つのが1つ目の特徴。そしてゴリラガラスを採用し、薄型と堅牢性を両立した液晶が2つ目の特徴、そして従来の7列キーボードではなく、6列のアイソレーションタイプ(同社ではアイランドタイプと呼んでいる)のキーボードが3つ目の特徴であるとした。
薄く見せるために斜めにカットしたような側面 | ゴリラガラスを採用した液晶パネル | X1は次世代のThinkPad Classicとしてデザインされた |
このうち、6列のキーボードを採用した理由として3つ挙げた。まず、ビジネスシーンにおいて、PrintScreenキー、ScrollLockキー、Pauseキーなどの使用頻度が減ってきている点。そして、2つ目にモバイルPCというスペースに制限のある製品において、専有面積と重量を減らせ、薄型化/軽量化に貢献できるといったメリットが得られるためだとした。
6列キーボードを採用したもう1つのメリットとしては、トラックポイント手前に大きな面積を持つ「クリックパッド」を実装できたことを挙げた。このクリックパッド自身も、専用のクリックボタンを設けるのではなく、パッドの下部手前側に埋め込み、パッドと一体化することで、大きな面積を確保し、優れた操作性とシンプルな外観を実現したという。
必要とされる機能を再考したキーボード | ミスタイプを減らす効果があるというアイランドタイプのキーボード | 大型のクリックパッド |
●キーボード設計/液晶
キーボードモジュールの設計について、第一機構設計の田村文雄氏が紹介した。
アイランドタイプのキーボードの設計については、パンタグラフとキーキャップ/アルミベースプレートのガタを少なくし、キーキャップのグラつきを抑え、フィーリングを向上させた。また、キーの間のプラスチック化粧フレームは、アルミベースプレートに熱溶着し一体化させることで、剛性を高め振動を抑えた。さらに、キーボード側面にフック機構を設けることで、側面の浮きを抑え、フィーリング、静音性を向上させたという。
なお、側面のフックの機構について、同じく機構設計を担当した森野貴之氏によると、従来のThinkPadは、ユーザー自身がキーボードを取り外して各種保守作業が行なえるよう想定しているため、キーボードの上下部分のみ固定する仕組みをとっていたが、X1ではフック機構を設けながらも、スライドすると外れる仕組みのため、同様のことを実現できたという。
X1のキーボードには、ThinkPadシリーズで初めてLEDバックライトを内蔵したが、LEDモジュールをトラックポイントモジュールのある中央に配置し、両側に光を拡散する機構を採用することで、薄型化を実現した。また、キーキャップとプラスチック化粧フレームの間から漏れる光が均一となるよう、設計の変更を重ねたという。
田村文雄氏 | 森野貴之氏 | パンタグラフ構造を見直し、フィーリングと静音性を向上させた |
LEDバックライトを中央に配置することで薄型化を実現 | 均一の光量が得られるLEDバックライト | 側面にフックを設け、キーボードの安定性を高めた |
X1に施された工夫により、薄型化と堅牢性を両立 |
また、森野氏によると、薄型化と堅牢性を両立させるために、液晶を天板に固定するのではなく、ゴリラガラス側に貼り付けることで強度を高められ、さらに背面からの加圧にも耐えうる構造とした。また、液晶とパームレスト/キーボード間に幅広いラバーを設けることで、液晶へのダメージを軽減できたという。
●薄型化のための放熱設計
上村拓郎氏 |
放熱設計については、 サーマルデザイン ノートブック製品 サブシステム技術 プラットフォーム機構設計の上村拓郎氏が解説。X1はThinkPad史上最薄を実現しながらも、最高の性能が出せることを目標としたため、標準電圧版CPU(35W)を搭載している。さらにThinkPadの温度と騒音規定をクリアする必要があり、熱設計は難しいチャレンジとなったという。
言い換えると、ファンの厚みに関しては、従来のほぼ半分に抑える必要があるが、同じぐらいの騒音に抑えながら、同じほぼ同じ風量を実現しなければならないということだった。
そこで、第5世代のフクロウ羽ファンを開発し、騒音を増加させることなく風量を増加させることを実現したという。フィンの形状や突起などを工夫することで、従来の第4世代フクロウ羽ファンと比較して、同条件の下(騒音や大きさ)では約1.4倍の性能を実現するという。
なお、騒音については、いわゆるdB(デシベル)で評価するものではなく、人間にとって耳障りな音かどうかについても評価しているということだった。
また、薄型部品を採用し、キーボードに開口部を設けるなど、ケース内のエアフローにも配慮したという。
史上最薄の実現と、標準電圧版CPUの搭載という課題 | 相反する要素を両立させるのが今回の課題 |
X1に採用された新しい放熱技術 | ファンの改善により、Tシリーズと比較して大幅な小型化を実現した |
●ThinkVantageの省電力と高速化に関する取り組み
柴谷淳治氏 |
最後に、研究開発 開発オペレーションズ TVTプロジェクト・マネージャーの柴谷淳治氏が、ThinkVantageテクノロジーについて解説した。
まず、昨今注目されている企業内での節電対策への対応として、ThinkVantageがPC業界で初めてCiscoの「EnergyWise」に対応したことを挙げた。EnergyWiseは、IT管理者が企業施設内すべての対応デバイスの電気使用量を計測/制御することが可能な技術だが、ThinkPad/ThinkVantageがハードウェア/ソフトウェアレベルで自身の消費電力をリアルタイムに監視可能なため実現を果たせたという。
また、日中の電力消費ピーク時間に、ACアダプタ駆動からバッテリ駆動に自動的に切り替えるピークシフトに対応するとともに、Active Directoryによる電源スケジュールの配信にも対応することで、企業内で一括して管理できるとした。また、ピークシフト機能については2010年モデル以降、Edgeシリーズを含むほぼすべてのThinkPadで利用可能にしたという。
CiscoのEnergyWiseのサポート | ピークシフト機能 |
Active Directoryを利用してピークシフトの設定を配信できる | ピークシフト機能対応機種の拡大 |
一方、性能向上に対する仕組みとしては「Lenovo Enhanced Experience 2.0」があるが、開発体制の確立や、BIOS、デバイスドライバ、アプリケーション最適化に対する継続的な取り組み、RapidBootテクノロジーの開発など、Enhanced Experience 1.0の時とは異なり全社的に本腰を入れて取り組むことで、さらなる性能向上を果たしたという。
特にRapidBootは、OS起動時に必須プロセスのみスタートさせ、PC起動後にその他のプロセスを順次立ち上げることで起動時間を短縮し、アプリケーションの追加によりPCの起動が遅くなるといったことも防げるとした。
Enhanced Experience 1.0と2.0の比較 | 全社的に取り組むことでさらなる性能改善を図った |
RapidBootによる起動高速化の仕組み | ThinkPad X1の位置づけ |
ゴリラガラス側に貼りつけられた液晶パネル | 発表会場で展示されたX1 |
(2011年 6月 21日)
[Reported by 劉 尭]