Intel Developer Forum 2011 Beijingで、4月13日に2日目の基調講演が行なわれた。この基調講演には、Intel 副社長兼IA事業本部データセンター事業部 事業部長のカーク・スコーゲン氏が登場し、IA(Intel Architecture)プロセッサに関する方針などを説明した。
スコーゲン氏は「2012年のプラットフォームに、USB 3.0の機能を統合する」と述べ、2012年にリリースされる、次世代Coreプロセッサ向けのプラットフォームにおいてUSB 3.0の機能をチップセットに統合していく方針を、公式で初めて明らかにした。また、Intelのクラウドコンピューティングに関する方針を説明したほか、Many Integrated Core(MIC)と呼ばれる数多くのx86プロセッサをPCI Expressの拡張カードに統合したHPC用のモジュールの提供を開始したことを明らかにした。
●今後もトラフィックや消費電力が増えるクラウドコンピューティングスコーゲン氏は、Intelの中核事業部とも言えるIA事業本部において、データセンター事業部と呼ばれるサーバー関連の製品を扱う事業部を率いている。従って、本来はサーバー向けのプロセッサ向けの戦略を説明するのが役割なのだが、今回はクライアントPC向けプロセッサを扱う事業部の担当者である副社長が誰も来ていないため、IAプロセッサ全般の説明を行なった。
講演は、同氏の本来の担当分野であるデータセンターについての話から始まった。「インターネットの負荷は高まるばかりだ。2009年には150EB(エクサバイト、百京バイト)だったものが、2010年には245EBに増えている。150億台のデバイスがインターネットに接続されると考えられる2015年には、インターネットを経由して送られるデータは1,000EBを超えると見られている」と述べた。そうした状況で問題になるのは、消費電力や消費電力あたりの性能であり、問題を解決していくためには、より効率の良い形でコンピューティングモデルを形成していく必要があるとした。
その取り組み例の1つとして、スコーゲン氏は「Intel Cloud Computing Vision 2015」という構想を紹介した。「これまでよりもプライベートクラウドやパブリッククラウドを活用し、さらにクラウド側にあるサーバーで自動構成機能を活用し、効率化を実現していく。そしてクライアント側でもハードウェアとクラウドとの親和性をあげていく」と述べ、クラウドコンピューティングをよりよく活用していくことで、結果的に消費電力あたりの性能や、消費電力そのものの削減などに取り組んでいくというIntelの方針を説明した。
その具体例として挙げたのは、Intelが技術アドバイザーを務めており、クラウドコンピューティングを利用する企業の業界団体である「Open Data Center Alliance」で、新しい形のメンバーシップを追加し、より加入しやすくするなどの取り組みを行なうという。また、クラウド向けのハードウェアやソフトウェアを提供するベンダーなどにより構成されているIntel Cloud Builder Programを紹介し、よりオープンな形でのクラウドコンピューティングを推進していくことにより、導入する側が低コストで導入できるようになるとアピールした。
●Atomマイクロアーキテクチャベースのサーバープロセッサを2012年に投入
クラウド側にあるサーバーの効率強化としては、Intelが導入を進めているマイクロサーバーと呼ばれる、従来のラックサーバーに比べて密度を4倍に高めたブレードサーバーの説明を行なった。このマイクロサーバーにより、従来よりも処理能力を高めつつ、電力効率などを解決できるため、サーバー側の電力効率などを高めることができるという。
IDFで紹介されたコンテナ型のデータセンターは、バッテリとAC電源のハイブリッド方式の電力を利用するという。AC電源からバッテリに切り替わったときに、自動的にシステムのパフォーマンスを調整して消費電力を下げる様子などがデモされた。
さらにスコーゲン氏は「2012年に、初めてAtomマイクロアーキテクチャを採用したサーバープロセッサを投入する。その消費電力は10W以下になる」と述べた。これは、x64、ECC、VTなどサーバー向けの機能はフルに実装された製品になるという。
クライアントでの改善という点では2つのデモが行なわれた。1つ目は、クライアント端末からのログオンに関するデモ。クライアントからクラウドサービスにログオンする場合、現在ではそれぞれのサービスに個別にログオンしなければならない。パスワードを多数持つ必要がある観点から、セキュリティ上の問題にもなっている。そこで、サーバー上で1つのログオン画面でログオンするだけで、Gmailなどのパブリッククラウドと、社内システムなどのプライベートクラウドに同時にログオンするようなシステムを作ることで、ユーザーの利便性の向上とセキュリティ性の向上を同時に実現できる。
もう1つのデモは、Lenovoと共同開発したもので、クラウドのソフトウェアからPCの状態を認識する機能を付加したものだ。通常、こうしたクラウドのソフトウェアはPCの状況を把握できないものがほとんどだ。しかし、現在のWindowsなどはAPIでハードウェアの情報を取得できるようになっており、そうした機能を利用したソフトウェアを作ることで、クラウドのソフトウェアであってもそうした情報を取得することは可能だ。
今回はLenovoが自社のThinkPadシリーズ上で動かすデモを行ない、バッテリの残り容量やCPU負荷率などをクラウドのソフトウェアが認識して、それらを利用してクライアント側のパフォーマンスをサーバーからコントロールするなどのデモが行なわれた。
従来のブレードサーバーよりも密度を高めたマイクロサーバー | 消費電力などを自動で調整する機能を付加し、より効率を高めたコンテナデータセンター | シングルログオンで、Gmailなどのパブリッククラウドと、社内システムなどのプライベートクラウドを利用できるシステム |
LenovoのThinkPad上で動いているクラウドソフトウェア。PCのハードウェアの情報にアクセス可能になっており、クライアントPC側の状況に応じたクラウドサービスを提供できる | バッテリ駆動の状態では、メンテナンスプログラムはエラーになって起動できないが…… |
ACアダプタが接続されると…… | クラウドプログラムがそれを認識すると、テストプログラムを走らせる |
●2012年にUSB 3.0をCoreプロセッサ向けプラットフォームに投入すると正式に明らかに
クライアントPCの話題としては、すでに今年(2011年)の1月に発表されているSandy Bridgeこと第2世代Coreプロセッサファミリーに関する解説が行なわれた。特に新しい内容はなく、1月の発表時に行なわれた内蔵GPUのデモなどが繰り返された。
また、先週発表されたばかりの「Xeon E3 1200」を搭載したワークステーションの3Dモデリングソフトウェアのデモが行なわれ、Xeon E3に内蔵されている内蔵グラフィックス(Intel HD Graphics P3000)がSolidworksの3Dモデリングソフトウェアの動作認証を獲得したことを明らかにした。ワークステーション市場では、こうしたサードパーティソフトウェアベンダー(ISV)の動作認証を取ることが非常に重要なのだが、それを内蔵グラフィックスが取得したのは「これが初めてのケース」(スコーゲン氏)なのだ。
クライアントPCの話題の最後に、スコーゲン氏はUSB 3.0とThunderboltの話題について触れ、「2012年のプラットフォームに、USB 3.0の機能を統合する」とした。
業界筋によれば、2012年にリリースされる次世代プラットフォーム「Chief River(チーフリバー、開発コードネーム)」のチップセットである「Panther Point(パンサーポイント、同)」において、USB 3.0の機能を統合する計画であることを、IntelはOEMメーカーに通知している。スコーゲン氏の言う2012年のプラットフォームというのは、これらを指していると見て良いだろう。
現在PCメーカーがUSB 3.0を実装する場合、外部のコントローラを基板上に実装する必要があり、追加のコストがかかってしまっている。このため、USB 3.0はハイエンドなPCにのみ実装されている状態で、なかなか普及が進まない要因の1つになっていた。AMDも今年の後半にUSB 3.0の機能を標準に実装したチップセットを投入する予定であるため、Intelの次期チップセットと合わせて、2012年の前半には出荷するほとんどのPCがUSB 3.0対応になることが予想される。
クライアントPC向けプロセッサの話はSandy Bridgeの話だけ | デモは、1月のCESと同じでCUDAとSandy Bridgeのハードウェアエンコードの比較。Sandy Bridgeが勝利という内容 |
Xeon E3 1200のデモ。内蔵GPUなのに、3Dモデリングがグリグリと動いていた | 3DモデリングソフトウェアのISV認証を統合型GPUとして始めて獲得 |
●IntelはItaniumへのコミットメントを続ける
最後にスコーゲン氏は、同氏の本来の担当であるサーバー向けプロセッサの話題に戻り、同社のサーバー向けプロセッサビジネスについての解説を行なった。
スコーゲン氏は「2002年にはサーバービジネスではRISCプロセッサがシェアを占めていたが、現在はIAベースのサーバーがユニット数で95%のシェアを占めており、RISCはわずか2%だ。この市場は、売上ベースでは1,500億ドルの大きさがあり、Itaniumは400億ドルの売上があり、Opteronの280億ドルを上回っている」と述べた。
同氏がこうした発言をする背景には、このIDFが行なわれる前に、OracleがItanium向けのソフトウェア開発を打ち切ると発表したことで、IntelがItaniumの開発を打ち切るのではないかという憶測が広がっているためだ。
こうした見方を否定するかのように、「次世代Itaniumの開発は順調に進んでいる。次世代製品となるPoluson(ポールソン)は2012年に投入する」しべ、Polusonのウェハを公開し、Itaniumの開発は継続し、今後もIntelはItaniumへのコミットメントを継続していくとアピールした。
また、IntelがKnights Ferry(ナイツフェリー)として開発を続けている、Intel Many Integrated Core(MIC)に関しても、ソフトウェアの研究開発などのために、今年の終わりまでに100以上のユーザーに対して提供することを明らかにした。
このKnights Ferryは、以前はLarrabee(ララビー)で知られていたHPC向けプロセッサをベースにしたもので、Larrabeeとしての製品化は見送られたものの、形を変えて開発が続けられている。PCI Expressベースの拡張カード上に、28nmプロセスルールで製造された50以上のコアを持つプロセッサが実装されており、x86命令をパラレルに実行することができる。
おそらく大学などにカードを配布し、どのような形のソフトウェアが可能になるのか研究開発をしてもらうという形になるのではないだろうか。こうしたHPCの分野では大学の研究者が第一線であり、NVIDIAもTeslaをリリースする前に同様の取り組みを行なってきたからだ。
スコーゲン氏は、金額ベースでItaniumはAMD Opteronを上回っているとアピール | スコーゲン氏は、ミッションクリティカルなビジネスにはXeon“も”利用可能だが、Itaniumはさらに信頼性などが高いとアピール |
Polusonの詳細 | スコーゲン氏が手に持つのがPolusonのウェハ | HPC向けのKnights Ferryは、引き続き開発が進めれており、今年の末までに100ユーザーに提供され、研究開発などが進められる見通し |
(2011年 4月 14日)
[Reported by 笠原 一輝]