日本HDD協会2010年1月セミナーレポート
~急速な回復を遂げたPC市場とHDD市場の2010年

セミナー会場に映された、講演前のスライド

1月15日午後 開催

会場:発明会館(東京都港区)



 ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は、「アナリストと主要企業トップに聞く、2010年のHDD業界展望」と題するセミナーを1月15日に開催した。HDD業界を代表するアナリストが、2009年のPC市場とHDD市場を振り返るとともに、2010年の市場を展望した。

 なお、セミナーの講演内容は報道関係者を含めて撮影と録音が禁止されている。本レポートに掲載した画像は、講演者と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものである。

 今回のセミナーで講演したアナリストは以下の3名である。

  • 久保川昇氏(インフォメーションテクノロジー総合研究所 チーフアナリスト)
  • 佐藤昌司氏(J.P.モルガン証券 株式調査部 アナリスト)
  • マーク・ギーネン(Mark Geenen)氏(TrendFOCUS, Inc. President)
●PCとHDDの出荷は2009年2月に底打ち

 1年前の2009年1月に、HDD業界は底なし沼に急速に沈むような気分を味わっていた。2008年の秋から雪崩のようにHDDの出荷数量は下がり続けており、底が見えない状態だったからだ。1年前の日本HDD協会セミナーでも講演した久保川氏は「景気の底は2009年下半期に見えてくる」と述べ、2009年のPC出荷台数を前年比6.4%減の2億6,390万台、2009年のHDD出荷台数を同7.9%減の5億130万台と、いずれもマイナス成長になる予測していた。2009年がマイナス成長になるとの予測は久保川氏に限らず、HDD業界では大半の見方だった。

 ところが実際には2009年2月頃という非常に早い時期に景気は底を打ち、PCとHDDの出荷はその後、急速に回復した。2009年が終わってみれば、PC出荷とHDD出荷はともに、前年に比べて拡大した。下記はセミナーで講演したアナリスト3名の推定値である。いずれも全世界の出荷台数だ。

  • 久保川氏の推定:PC出荷台数が前年比1.9%増の2億9,550万台、HDD出荷台数が同2.2%増の5億5,010万台
  • 佐藤氏の推定:PC出荷台数が前年比3.5%増の3億1,059万台、HDD出荷台数が同3.6%増の5億5,600万台
  • ギーネン氏の推定:PC出荷台数が前年比微増の約3億台、HDD出荷台数が前年比3%増の5億5,500万台強

 2009年には、およそ3億台のPCと、およそ5億5,000万台のHDDが出荷されたことが分かる。四半期ベースの出荷台数でみていくと、2008年第3四半期(2008年7~9月期)にピークを迎えたあとに第4四半期(2008年10~12月期)、2009年第1四半期(2009年1~3月期)と続けて急速に減少し、第2四半期(2009年4~6月期)、第3四半期(2009年7~9月期)と急速に回復した。いわゆる「V字回復」をたどった。2009年第4四半期(2009年10~12月期)は、第3四半期とほぼ同じ出荷数量であり、その水準は過去最高だった2008年第3四半期に近い。

PC出荷台数の四半期ごとの推移。出典:インフォメーションテクノロジー総合研究所HDD出荷台数の四半期ごとの推移。出典:インフォメーションテクノロジー総合研究所HDD出荷台数の四半期ごとの推移を予測した結果を、予測時点の違いでならべたもの。2009年2月時点では予測が大きく下方修正されているが、2009年11月時点では上方修正されて2008年12月時点の予測と2009年後半についてはあまり変わらないものとなっている。出典:TrendFOCUS, Inc.

 PC出荷が回復した要因は、ネットブックが特に新興国でヒットしたことが挙げられる。新興国は先進国に比べると電力事情が悪い。突然の停電に対しても安心して使え、しかも安価なネットブックが普及した。久保川氏は、2009年第3四半期には全世界のPC出荷に占めるポータブル機(ノートPCやネットブックなど)の比率が50%強に達したとのデータを示していた。

 HDDメーカー別の出荷シェアは、久保川氏とギーネン氏がそれぞれ、講演で述べていた。シェア・トップをSeagate TechnologyとWestern Digitalの2社が争う構図は変わっていない。

  • 久保川氏が推定したシェア(2009年):Seagate Technologyが31.2%、Western Digitalが29.3%、日立グローバルストレージテクノロジーズ(HGST)が16.7%、Samsung Electronicsが9.2%、東芝が8.9%、富士通が4.7%
  • ギーネン氏が推定したシェア(2009年第3四半期):Seagate Technologyが30.4%、Western Digitalが28.9%、HGSTが16.4%、東芝が10.3%、Samsung Electronicsが9.5%、富士通が4.4%

●2010年のPC出荷とHDD出荷はいずれも二桁成長へ

 2010年のPC出荷とHDD出荷はいずれも順調に増大すると、アナリストはみている。出荷台数はともに二桁成長となる。「中国に代表される新興国が景気拡大期に入っていることと、日米の個人向けPC出荷が堅調である」(久保川氏)といった理由からだ。

 HDDのフォームファクタ(外形寸法)別では、2.5インチHDDの出荷台数が伸びて全体を牽引する。3.5インチHDDの出荷台数は微増であり、1.8インチHDDの出荷台数は縮小していくと予測していた。

  • 久保川氏の予測:PC出荷台数が前年比11.1%増の3億2,830万台、HDD出荷台数が同12.2%増の6億1,710万台
  • 佐藤氏の予測:PC出荷台数が前年比13.5%増の3億5,267万5,000台、HDD出荷台数が同16.7%増の6億4,900万台
  • ギーネン氏の予測:HDD出荷台数が前年比19.5%増の6億6,400万台

2010年のPC出荷台数とHDD出荷台数の予測。出展:インフォメーションテクノロジー総合研究所HDDとPCの出荷台数予測(2004年~2012年)。出展:J.P.モルガン証券 株式調査部
HDDのフォームファクタ別出荷台数予測。出展:J.P.モルガン証券 株式調査部HDDの四半期別出荷台数予測(2008年~2010年)。出展:TrendFOCUS, Inc.

 ギーネン氏は、HDDメーカー各社の生産能力と出荷台数を示し、生産ラインの稼働率が非常に高い水準に達していると述べていた。2009年第3四半期の段階で、全体の稼働率は87.3%である。全体の生産能力は四半期当たりで1億7,450万台と推定していた。この生産能力とギーネン氏の予測を照らし合わせると、2010年第4四半期には需要を満たせなくなる。あるいは、設備投資によって生産能力をあらかじめ増強していくことになる。

 HDDの生産台数と出荷台数は依然として、過去最高を塗り替えつつ拡大している。にも関わらず、HDDメーカーの数は減る一方だ。2009年には富士通のHDD事業が東芝のHDD事業に統合され、メーカー数は5社となった。HDDメーカーの数が減る理由は、粗く言ってしまえば、HDDの価格が非常に安く、メーカーの利幅が薄いからだ。スケールメリットを活かし、薄い利幅でも事業収支が黒字になる構造を追求せざるを得ない。

 HDDメーカーの再編成は、まだ続くとの見方もある。富士通が脱落した現在は、Samsung Electronicsに興味が集まっている。SamsungはHDDメーカー5社の中で、市場のシェアが最も小さいからだ。ただしストレージ事業として見たときには、SamsungはSSD(Solid State Drive)とNANDフラッシュメモリの大手メーカーでもある。同社がHDD事業をどのように位置づけていくのか。その行方は現在、HDD業界の注目を集めている。

(2010年 1月 26日)

[Reported by 福田 昭]