インテル株式会社は20日、プレス向けツアーを開き、つくばにある本社のラボを公開した。ツアーの始めではセミナーを開催し、インテルの製造技術や、Nehalemアーキテクチャ、アクティブ・マネジメント・テクノロジー(AMT)、Anti-Thefeテクノロジー、My WiFi技術などについて紹介した。
冒頭で、同社取締役 技術開発・製造技術本部 本部長の阿部剛士氏が、半導体業界の現状や、製造技術について説明した。
同氏はまず、TSMCなどの半導体製造専門会社を除く半導体企業では、Intelがトップの売り上げであること、設備投資や開発研究への投資の継続などを紹介。また、第2四半期の決算で巨額の制裁金で赤字に転落したこと、CPUの平均売価の変化があまりなかったこと、Atomとそれに伴うチップセットの収入が3億6,200万ドルに達したことを説明した。
メーカー別の収入推移 | 設備投資費(左のグラフ)と研究開発費(右) | Intelの収入と純利益の推移。2009年第2四半期は赤字だった |
ファブについては、オレゴンにあるD1D、アリゾナにあるFab 32、ニューメキシコにあるFab 11を強化したFab 11X、およびイスラエルにあるFab 28においても、最新プロセスである45nmで製造を開始した。同氏は「プロセス技術を迅速に各Fabにコピーすることで生産性と収益性を高めている」と述べた。
さらに、新たに大連にFab 68を、ベトナムにもファブを建設する予定を明らかにした。大連のFab 68は最新世代の2世代前となる製造プロセスで半導体を製造する予定。一方、ベトナムの工場はパッケージングの後工程を担う場所となる。
半導体技術については、45nmで導入したHigh-Kとメタルゲートでいったん成功を収めつつも、「2009年に開発が完了する32nmも順調に開発が進んでおり、これも自信を持って成功するプロセスだと確信している」とした。
さらに今後については、2012年に22nmプロセス、2014年に16nmプロセス、2016年に11nmプロセスを予定しているという。同氏は、「11nmプロセスまでに関して言えば、Intel自社だけで開発できるのではないかと予想している。8nm以降は何らかの形でブレイクスルーが必要だ」述べた。また、CPUだけでなくプロセスにおいても、奇数の年はプロセスを開発完了し、その次の偶数の年に最新プロセスで大量生産を行なうTick-Tockモデルを改めて紹介した。
45nm対応済みのファブは4カ所、大連とベトナムにも新しいファブを建設 | High-Kとメタルゲートの導入は順調だった | 今後予定しているプロセス |
Intelが挑戦をしている製造技術としては、露光技術、取り扱う金属の増加に伴う処理、アセンブリ、および製品テストなどがある。露光に関して言えば液浸露光やEUVの採用、金属の種類の増加については汚染管理、アセンブリに関しては後工程の難しさ、テストに関しては機能増加に伴うテスト項目の増加などを挙げた。
インテルが挑戦している製造技術 | プロセッサのTick-Tockビジネスモデル | 32nmプロセスの立ち上げは順調で2010年にも量産を開始する |
半導体の平均売価については「CPUはNANDフラッシュやDRAMと比較してまだ良い位置にある」としつつも、ボリュームが増加している一方で、売り上げが伸び悩むという現象が起きているという。さらに景気の衰退によって、半導体開発の投資をするメーカーは減ってきているが、その状況下でもIntelが巨額の投資を継続していることをアピールした。
半導体平均売価の推移 | ボリュームは増えているが売り上げが伸び悩む |
設備や研究開発に投資するメーカーが減少している | 半導体に携わるメーカーも減少している |
その景気についてだが、アメリカでのリサーチによると、2008年12月に38と過去最低になったコンシューマの購買意欲のインデックス値「CCI」が、2009年の7月に46.6まで回復していること、企業の投資意欲を示す「ISM」も、32.4から48.9まで回復していることを紹介し、「もうすぐ景気が回復すると見込んでいる」という見解を示した。
阿部氏は、「今回不景気に、米国政府はNASA以上の金額を費やして景気回復に励んでいるが、我々の投資もそれに負けず、32nmプロセスのファブに70億ドルを投資すると発表した。これは元Intel会長Craig Barret氏が辞任したときの“ルール”のうちの1つでもあり、そのルールとは“景気が回復した時に投資を回収できるから、不景気の時においても投資をすべきである”」と紹介した。
一方、今後のターゲットは新興市場であることを紹介。世界の人口のうちまだ2割しかインターネットを使っていないことを掲げ、残りの8割にPCを利用させることがIntelの使命であるとした。そのためには、低コストなシステムだけでなく、世界にサプライチェーンを展開しなければならないとした。
企業の購買意欲を示すISMの回復 | コンシューマの購買意欲を示すCCIの回復 | 米国政府は巨額の支援金で景気回復に励んでいる |
Intelの投資の継続 | 世界の残りの8割の人にもPCを使ってもらうためには、20ドル程度のPCを実現しなければならない |
●製品技術など
製品技術のセミナーでは、既に過去記事で紹介しているものが多かったので、ここでは簡単に概要のみを紹介する。
Nehalemについては、モジュール化されたコンポーネントによってノートPCからサーバーまでスケーラビリティをもったアーキテクチャであること、メモリコントローラ内蔵で高いメモリ性能を実現できること、Turbo Boostテクノロジーによってシングルスレッドで高い性能を出せること、ループストリームデコーダの改良で命令ループに対する性能が向上していること、Hyper-Threadingによってコアの実行効率を向上できること、C6ステートの改良とパワーゲートの採用により使われていないコアの消費電力をほぼ完全にカットできること、新命令による性能向上などについて紹介された。
プラットフォームレベルでの検証については、ハードウェアだけでなく、BIOSやファームウェア、ソフトウェアを含めた検証を、PCメーカーと緊密に連携し、サンプルを頻繁に提供することにより、信頼性に優れたプラットフォームを提供できるとした。
プラットフォームレベルでの検証 | PCメーカーとの緊密な連携により信頼性を高める |
vProに搭載されているAMTについては、ハードウェアベースの管理によるソフトウェアの非依存性についてアピールされ、問題の検出、修復、およびデータの保護について紹介した。会場では、Serial Over LANによるリモートのコンソール操作や、IDE Redirectionによる内蔵HDDのデータの直読み出しなどをデモした。
AMTは対応チップセットに内包される。なお、AMTは専用のロジックで動いており、CPUの負荷はほぼゼロに等しいという | 写真下のThinkPadはブルースクリーンになっているが、管理コンソール画面では依然として情報の取得などができる |
盗難防止のAnti-Theftテクノロジーについては、万が一PCを盗まれた際に、リモートで「Poison pill(毒薬)」を送信することによるPCのロック、一定間隔による定期パスワード認証、パスワードの規定入力回数を超えるとPCがロックされるなどの設定ができるとし、これらにより盗難された際の情報漏えいを防げるとした。
My WiFiでは、ルータがない環境でもデバイス間のネットワークを構築できるとアピールされ、デモではiPhoneで撮った写真をPCに転送して印刷したり、無線LAN対応のロボットなどを動かすデモなどを行なった。
My WiFiではルータなしでネットワークを構築できる | My WiFiのユーティリティ画面 | 無線LAN対応のロボットを動作させるデモ |
(2009年 8月 21日)
[Reported by 劉 尭]