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DRAMを作らないキオクシアの株がなぜ上がる?AI時代にSSDが重宝される理由

NVIDIA GPUにほぼ直結のGP1シリーズ

 AI向け半導体といえば、話題の中心はGPUに載るHBMや、品薄が続くDRAMだ。NANDフラッシュはデータをしまっておく“倉庫”に過ぎず、AIブームとは縁が薄いように見える。ところが、DRAMを1つも作っていないキオクシアの株価は、2024年12月の上場以来急騰を続け、今年(2026年)6月には時価総額で一時トヨタ自動車を抜くまでになった。市場はNANDフラッシュに何を期待しているのか。

 その答えは、キオクシアが9月3日に都内で行なった説明会にあった。キオクシアは、8月4日から6日にかけて米国カリフォルニア州サンタクララで開催されたメモリ/ストレージ業界の大規模イベント「FMS: the Future of Memory and Storage」における発表内容と、AI時代のSSDの役割について報道関係者向けに説明。AIが必要とするメモリ容量にDRAMの供給が追いついていないが、そこをSSD、つまりNANDフラッシュが埋め始めたことが明らかとなった。

 FMS 2026では約100社がAIを主題に講演や展示を行なったが、キオクシアはメインスポンサーとして参加。基調講演でAI時代におけるSSDの役割を提示したほか、NVIDIAをパートナーとして壇上に呼び、協業の内容について語った。基調講演会場には約3,000席が用意されたが、約200人の立ち見が出るほどの盛況だったという。

 またブースでは、GPUからのダイレクトアクセスを想定した超高IOPSを実現したSSD「GP1」、直接液冷(DLC)に対応したデータセンター向けSSD「NX1」、PCIe 6.0対応エンタープライズSSD「CM10」、第10世代BiCS FLASH、「XL-FLASH」搭載のCXLメモリモジュール「XL1」などを実機で展示。GP1シリーズはFMSのSpecialized Storage部門で「Best of Show Award」を受賞した。ちなみにGP1のデモ機が稼働したのはFMSの約1週間前だったといい、急遽展示することになったという。

NX1
CM10
XL1
LC9
第10世代BiCSのNANDのウェハ

AI向けに不足するDRAMをNANDフラッシュで補う

 冒頭では、同社メモリ事業部メモリ応用技術統括部技術統括部長の松寺克樹氏が、AI市場を取り巻く状況とそれに対応するための自社製品ラインナップについて解説した。

 同氏がまず示したのが、AIの利用形態の変化がデータ量を爆発的に増やしている事実だ。3年前ぐらいまで、AIは一部の先進的なユーザーが扱うもので、データも生成物もテキストだけだった。しかし現在はほとんどの人がAIを使い、扱うデータも画像や音声、動画といったマルチモーダルに広がった。そして今後、AIがAIを呼び出す「エージェンティックAI」時代がやってくると、データはさらに増加することが見込まれる。

 一方で、AIを実行するためのメモリには限りがある。2026年のDRAMの総容量は50EB(エクサバイト)程度で、フラッシュメモリは1,000EBとかなり開きがある。1チップあたりの最大容量もDRAMが32Gbなのに対し、フラッシュは2Tbに達しており、容量面の差は開く一方だ。

 そこでキオクシアは、DRAMが提供できない領域をフラッシュメモリで補うことを考案した。これまで、フラッシュはDRAMよりレイテンシが大きく、書き換え回数にも制限があるため、メインメモリの代替には向かないというのが一般的な認識だった。ところが実際のアクセスパターンを見ると、頻繁に読み書きされるのは全データのうちの2割程度で、残りの8割はほとんどアクセスされていないのだという。そのような状態下では、メモリとほぼ同等の階層にSSDを置けば、DRAMの容量不足を補いつつ、性能低下を最小限に抑えられるとした。

生成AIの登場に伴うデータ量の爆発
DRAMの容量とNANDフラッシュの容量出荷推移
DRAM不足の状況をNANDが補う
メインメモリ拡張への貢献

 しかし従来のNANDフラッシュはレイテンシの問題があり、DRAMのように扱うことはできない。そこでキオクシアでは、低レイテンシ/高耐久を実現したフラッシュメモリ「XL-FLASH」を開発。読み出しレイテンシは5μs以下、書き換え回数は15万回を実現した。なお、15万回の書き換えは少なく感じられるかもしれないが、5年間の利用を想定しているという。

 ただ、XL-FLASH自体は短い読み出しレイテンシを実現したものの、プログラム(書き込み)や消去に時間がかかるという課題を残した。そこで、同社はこれを隠蔽する専用コントローラを開発することで10μs未満の超低レイテンシを実現、CPUから直接読み出せるCXLインターフェイスと組み合わせることで製品化したとしている。なお、そのレイテンシを隠蔽する具体的な仕組みについて尋ねてみたが、現時点では非公開とのことだ。

 CXLメモリモジュールを利用し、同一容量(DRAMだけで225GBの環境とDRAM 148GB+XL-FLASH 77GBの環境)で比較した場合、95%超の性能を維持できた。またコスト面で見ると、DRAMだけの環境と比べて2倍の容量を実現でき、それにより1.3倍の性能を発揮できる数字が示された。

XL-FLASHの特徴
XL-FLASH導入による性能改善

 NANDフラッシュのような不揮発性メモリをDRAMとして使う構想としては、かつてNVDIMM-Pというのがあった。これはマザーボード上のDIMMスロットにNANDフラッシュを接続するものだった。しかし実際にはこれをベースとした製品がなかなか登場せず、その間に設計しやすいCXL規格が登場したため、今はCXLが主流となっている経緯がある。

CXLメモリとして使われるNAND

 また、SSDの進化において今後はNANDフラッシュの電力効率向上が重要になるとした。データセンターでは電力が制限されており、ビット密度を上げるだけでなく、電力制限下の性能も問われる。また、大容量SSDには多数のダイを積層する必要があり、チップ数が増えるほどインターフェイスによる性能低下が起きやすい。

 そこで第10世代BiCS FLASHでは、ロジック回路とメモリセルアレイのウェハを個別に製造して貼り合わせるCBA(CMOS directly Bonded to Array)技術を採用し改善を図った。これにより、パッケージあたりの容量は最大4TBを実現し、読み出し電力効率は2倍、書き込み電力効率は40%向上したとしている。

電力効率や性能の改善

AIデータセンター投資は7兆ドル、データが原動力に

 続いて同社SSD事業部の濱田誠氏が、SSDの市場動向について解説した。同氏は、2030年までにAIデータセンターへの投資額が7兆ドル(1,000兆円超え)に達するという予測を紹介し、これは国のGDPに相当する規模の投資であると説明した。

 AIモデルの開発は多くの企業からモデルが次々と発表される成熟期に入り、今後の鍵はそれらを推論に活かして収益に転換することだと指摘する。また、AI処理は学習から推論までワークロードが一様ではなく、細分化された異なる需要が、新しいSSDカテゴリの形成につながっているという。

一国のGDP(国内総生産)を超える投資額に達する見込みのAI市場
コストを回収し利益化につなげるためには推論が必要
さまざまなカテゴリにおけるSSDの需要

 まず、AIが生成したデータを保存するアーカイブ層において、HDDは容量こそ増えているが性能密度が追いついておらず、ニアラインSSDが消費電力と性能の両面でHDDを置き換えていく。そのため、QLC SSDはニアラインでシェアを拡大するとの見方だ。

 学習データを大量に取り込む必要がある用途においては、大容量の代表格である245.76TBの「LC9」シリーズで対応する。こちらはすでに出荷を開始しており、これを搭載したDellの「PowerEdge R7725xd」では、1台で9.8PBに迫る容量を実現でき、AI向けのデータインジェストなどに適するという。

アーカイブ向けのSSD
学習データ取り込み向けのSSD

 一方、学習と推論、モデルのロード、チェックポイント、RAG、コンテキストスイッチングといった用途では、さらに高速なPCIe 6.0の帯域と高いIOPSが求められる。これに対してはCM10シリーズを用意し、すでに一部顧客向けにサンプル出荷を開始しているとした。

 そして最後は、ほぼGPU直結となるNVIDIAの「Storage-Next」構想に対応したSSD。512B単位の粒度の小さいアクセスで極めて高いIOPSが要求されるが、これに応えるのがGP1シリーズだ。第2世代XL-FLASHを採用し、512Bアクセスで最大1,000万のランダムリードIOPSを実現。2026年末にサンプル出荷し、2027年以降の量産を見込む。2028年には1億IOPSへの拡張も視野に入れるとしている。

モデルのロードやチェックポイント、RAG、コンテキストスイッチにおける高性能SSDの需要
NVIDIAのStorage-Next構想では、細かい粒度のデータアクセスや最小のリードレイテンシ、最高のIOPS/Wが求められる。それに応えるのがGP1シリーズだ
2028年には1億IOPSに達する目標を掲げる

 また、AIがストレージ容量の消費をさらに増加させている原因が「トークン化」だ。AIは、データに意味を持たせるトークン化を行なう。その過程で細分化されたデータに数KBのメタデータが付く。これによりデータセットの容量は100倍、1,000倍に膨れ上がるという。

 そして、産業革命が生産ラインで製品を量産したように、推論においてAIデータセンターはトークンを回答へと変換する「トークンファクトリー」となるのだが、その経済性は生産量と単位あたりのコストで決まる。つまり、GPUをいかに効率的に使うかが鍵となるわけだ。

データのトークン化
推論を量産するトークンファクトリー
ここで新たな指標がコストと時間
コンテキストメモリストレージが、この新たな指標を達成する鍵となり、同社はすでに製品を用意している

 そこで効率向上の役割を果たすのが「コンテキストメモリストレージ」だ。過去に計算したトークンの結果を捨てて新たに再計算するのではなく、SSDに保持したコンテキストキャッシュから再利用することで、GPUは新しいトークンの生成に専念できるようになり、1秒あたりのトークン生成数は5倍に達するという。

 コンテキストキャッシング用SSDで、従来なら5台のGPUを並べなければならなかった処理を代替できるため、コストと電力効率の面でゲームチェンジャーになりうる。これもSSD市場がこれから伸びていく原動力の1つだ。そして、キオクシアはこの用途に対応するSSDとして「CM9」シリーズを用意している。こうした新技術を含め、NANDフラッシュのフルラインナップで、これからAI時代の変革を支えていくとした。

CM9シリーズでトークンファクトリーに対応