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12コア光ファイバーで7,280kmの長距離伝送に成功。NECとNTT
2024年3月22日 06:31
NECとNTTは、世界で初めて12コア光ファイバーを活用し、7,280kmの長距離伝送実験に成功したと発表した。2030年に実用化することを目指しており、さらなる大容量化が求められる光海底ケーブルの次世代伝送基盤技術としての利用を想定しているほか、NTTが推進しているIOWN構想の基盤技術の1つになると位置づけている。
既存の光海底ケーブルには、1本のファイバー内にコアと呼ばれる光伝送路を1本設けたシングルコアファイバーが用いられており、現行の海底ケーブルでは、1ケーブルあたり最大で2時間の映画を約1万本、1秒間に大陸間送信することが可能になっている。
NEC アドバンストネットワーク研究所 ディレクターのル・タヤンディエ・ドゥ・ガボリ・エマニュエル (Emmanuel Le Taillandier de Gabory)氏は、「シングルコアファイバーに比べると12倍のコア数になるが、海底ケーブルとして使用する際には、海底内に設置する増幅中継器に電力供給することから、それに伴う伝送量の制限が生じるため、伝送容量は単純には12倍にはならない。だが、伝送設計、光ファィバー設計、信号処理において、さらなる研究開発を進めることで、12倍に近づけていきたい」とした。
実験では、52km分の12コア光ファイバーを巻き付けた環境を用意。これをループさせて、52km間隔で増幅を行ない、7280kmでの光伝送を成功させたという。7,280kmの距離は、太平洋横断には距離が足りないが、大西洋の横断は可能だという。1波あたり100Gbpsの信号を長距離に伝送。コアごとに異なる波長を送信することができるという。
「12コア結合型マルチコアファイバーによる大洋横断級の伝送が可能になり、光海底ケーブルの大容量化に向けて大きく前進した」と位置づけた。
今回開発した技術
今回、長距離伝送の実験に成功した12コア結合型マルチコアファイバーは、標準的な光ファイバーと同じ125μm(0.125mm)の中に、光が通る路を12本設け、大容量光通信を実現できるのが特徴で、「標準的な外径の光ファイバーに4コア以上を設けると、コア間の光信号の漏れ(クロストーク)による通信品質の劣化が深刻になり、一般的な伝送装置を用いるだけだと容量が低下する。今回の技術では、多数のコアを設けた結合型マルチコアファイバーを活用するとともに、MIMO(Multiple Input Multiple Output)技術を用いることでクロストークを補償。大容量伝送の実現につなげた」とした。
NECが長距離伝送対応の高速MIMO信号処理技術の開発を行ない、NTTは12コア結合型マルチコアファイバーの設計技術と、長距離用光伝送路設計評価技術の開発を担当した。
NECが担当したMIMO信号処理技術は、従来は2偏波多重信号までの対応規模となっており、12コア結合型マルチコアファイバーになると、光信号がさらに多重化されるため、より大規模な信号処理が求められるほか、長距離伝送によって、クロストークがランダムに発生する課題にも対応する必要があった。
NECでは長距離伝送に対応したアルゴリズムを開発し、多重化した多数の光信号を元の信号情報に復調。大規模な24×24 MIMO(12コア×2偏波)の高速光信号のデジタル信号処理が行ない、高速な受信信号を正確に分離、復調することができるという。
また、NTTでは、12コア結合型マルチコアファイバー光伝送路の開発を担当し、信号の遅延と損失の不均一性の影響を低減する結合型マルチコアファイバーのほか、入出力装置の設計技術および長距離用光伝送路設計評価技術の開発を行なったという。
マルチコアファイバーを用いた長距離の光通信においては、多重光信号間の伝搬に遅延が発生し、不均一性が生じると、受信時のMIMO信号処理に必要な回路リソースが増え、実装や実現が困難になるという課題があった。また、伝搬損失の不均一性が生じると、伝送可能な距離が大きく制限されるという課題もあったが、それらを解決する技術の開発により、今回の実験を成功させた。
NTT 未来ねっと研究所 トランスポートイノベーション研究部 特別研究員の芝原光樹氏は、「NTTでは、2023年12月に、10空間モード多重光ファイバーを用いて1,300kmの長距離伝送の実証実験に成功している。長距離伝送では、信号間の遅延のばらつきや損失のばらつきの制御がポイントとなるが、損失のばらつきについては、ファイバーの接続部であるファインファンアウトで発生するばらつき、光増幅中継器で発生するばらつきの解決が課題となる。新たなファインファンアウト装置を試作、評価し、7,000kmまで伝送が可能なレベルに達することができた」とコメント。
NTT アクセスサービスシステム研究所 特別研究員の坂本泰志氏は、「NTTが数年前に提案した光ファイバーとほぼ同じものを使用し、送受信機とつなげるファインファンアウト装置を含めて伝送路を構築した。クロストークは考慮しない設計とする一方で、信号処理しやすい特性を実現することに力を注いだ。コアの間隔を最適なバランスで配置することで、コア同士が影響を受けないようにしている」という。
光海底ケーブルだけでなく陸上コアネットワークシステムとしての実用化も
NECでは、海底ケーブル事業では60年以上の歴史を持ち、地球10周分にあたる約40万kmの敷設実績がある。また、2コアのマルチコアファイバーを用いた長距離光海底ケーブルシステムの敷設プロジェクトとして、米Googleが推進しているTPU(Taiwan-Philippines-US)に参画している。TPUは、2025年から運用が開始される予定だ。
NECのドゥ・ガボリ氏は、「2018年から2022年までに国際インターネット通信量は、年平均成長率30%で増加しており、海底ケーブルはこれを支える重要なインフラとなっている。インターネットの普及に伴い、海底ケーブル1本あたりの容量は、この20年で100倍になっており、さらなる大容量化が見込まれている。大容量化する手段としては、バンド幅の拡大、信号/雑音比の改善、伝送経路数の拡大の3つがあり、今回の12コア結合型マルチコアファイバーは、空間多重技術による伝送経路数の拡大の取り組みになる」と位置づけた。
なお、標準的な光ファイバーのマルチコアファイバー化については、学界では最大19コアまでの報告が行なわれているという。
NECとNTTでは、今回の技術の研究開発をさらに進め、NTTのIOWN構想やBeyond 5G/6G時代に求められる大容量光伝送基盤を実現。長距離大容量の光海底ケーブルシステムとしての活用だけでなく、NTTでは陸上コアネットワークシステムとしての実用化も目指すという。
NTT未来ねっと研究所 イノベイティブフォトニックネットワークセンタ フェローの宮本裕氏は、「陸上コアネットワークシステムで使用する際には、ケーブル構造が大きく異なる。また、海底での利用に比べると、電力制限や芯数制限が緩和されるために、12コア結合型マルチコアファイバーを使うことによって、通信容量を12倍にするポテンシャルがあると考えている」とした。