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芝生で「狙い撃つぜ」?世界初「DOOM」が動作する芝刈り機をMWCで見てきた!

Husqvarnaの芝刈り機Automower NERA(左下)と初代DOOMの画面

 タイトルを見てこの記事を開いた読者の多くは、おそらく筆者が何を言っているか分からないかもしれない。別に筆者が錯乱しているわけでもなんでもなく、これは本当で至ってマジな話なのだ。ここで記事を閉じずぜひ最後まで読んでいただけるとうれしい。

 スウェーデンのHusqvarnaは、1689年に創業した実に300年以上の伝統を持つ老舗企業。近年では芝刈り機メーカーとして、欧州などを中心に電動自動芝刈り機を販売している。その芝刈り機とDOOMの組み合わせってどういうことなのだろうか?

MS-DOS時代からPCを使っているユーザーにはおなじみのDOOM

Husqvarnaの芝刈り機Automower NERAで動作しているDOOM

 筆者のようにオールドスタイルのPCユーザーにとって「DOOM」という名称は懐かしさをもって迎えられるものなので説明は不要だと思うが、若いPCユーザーにとってはイマイチ馴染みがないかもしれない。そもそもDOOMが何だか分からないかもしれないので説明しておこう。

 DOOMは1993年に当時既に天才プログラマーとして知られていたジョン・カーマック氏(後にMetaに買収されるVR HMDのパイオニア的企業Oculus VRのCTOに就任する)などが創業したソフトウェア企業「id Software」により開発、販売されたFPSゲーム(First Person Shooter、プレイヤーが主人公になって敵を射撃で倒していくスタイルのゲーム)の草分け的な存在とされる。

 IBM PC互換機向けのゲームとしてMS-DOS(ないしはそのIBM版のPC-DOS)向けに販売され、瞬く間に人気を得ていってゲームだ。もう1つの人気の理由は、ネットワーク対戦機能が用意されており、LANなどで接続されているネットワーク上にあるほかのPCでプレイしているプレイヤーと対戦することが可能になっていたのだ。

 日本では、1993年はIBMがPC-DOS/Vを1990年に市販するようになってから数年が経過した段階で、PC-9800シリーズの寡占市場が徐々にDOS/V機と言われたIBM PC互換PCへ移行する時期にあたっており、DOS/V PCを購入して、DOOMをやるのが一種の流行になっていた。当時、PCマニアの間では「DOOM酔い」(画面がフラッシュしたりするので、それによって車酔いのような状況になること)という言葉ができたほどだ。

 なお、その後DOOMは、Doom II、Doom 3と進化していき、その後はid Software自体がEA(Electric Arts)に買収され、その後DOOMなどの権利はBethesda Softworksが管理・販売するようになり、Bethesda Softworksが現在はMicrosoftの傘下企業となって今に至っている。

江戸時代に創業したお堅いHusqvarnaだが、発想は柔軟でできちゃうからDOOM載せてみた

Husqvarnaの自動芝刈り機Automower NERA、バッテリとモーターにより駆動される電動型
充電ステーション

 その一方、今回のDOOM搭載芝刈り機を作ったスウェーデンのHusqvarnaに関しても紹介しておく必要があるかもしれない。Husqvarnaは、なんと1689年に創業した老舗企業。1689年は日本の元号で言うと貞享3年で、江戸幕府の将軍で言うと犬公方の別名で有名な第5代将軍徳川綱吉の時代に相当する。日本でその時代から存在している企業と言えば、三越のもとになった呉服店の越後屋などが数えるほどしかないが、それぐらい歴史がある企業と理解することができるだろう。

スマートフォンのアプリで動作範囲やどのくらいの深さで芝を刈るかなどを設定できる

 現代のHusqvarnaは芝刈り機のメーカーとしてビジネスを行なっており、近年では電動芝刈り機を販売してきたという。ここ最近はそれがさらに進化してIoT(Internet of Things)として、LTE回線などを経由してスマートフォンなどから動く範囲や、どのぐらい刈ればいいかなどを指定すると、自動で芝刈りを行なってくれるというインテリジェントな芝刈り機「Husqvarna Automower NERA」に進化している。

 で、ようやくDOOMが動作している芝刈り機の話に入るが、今回Husqvarnaが作成したのは、その自動芝刈り機の制御用のディスプレイでDOOMをプレイすることを可能にしたものとなる。

 自動芝刈り機には、制御用のCPUとしてArm CPUが入っており、それを利用してOSが動作している。その上で、新しい機能をアプリケーションとして追加できるようにしているそうなのだが、ある時エンジニアが「これでDOOM動いたらおもしろいのではないか?」というとてもスタートアップのCEO的な発想で作ってみたところ、社内でも大受けになり、DOOMの版権を持つBethesda Softworksとの協業として本格的にプロジェクトになっていったのだという。

芝刈り機の管理用の小さなディスプレイでDOOMが動作している
画面下の「START」ボタンが前進
ホイールを左右に回すと左右をむくことができる
ホイールの中央を押すと射撃
動作している様子

 公開されたDOOMが動作する自動芝刈り機だが、スタートというボタンを押すとキャラクターの前進(PC版では「↑」キー)、ホイールを左右に回すキャラクターの左右の方向転換(PC版では「←」キーと「→」キー)に相当し、ホイールを押すと射撃(PC版では「Ctrl」キー)に相当する。後進などはないため、方向を変えて前に進むしかないが、まぁまぁ操作することができた。

動いているのはArmネイティブ版。Cortex-M4上で

動いているのはまさにあのDOOM

 このDOOMはx86版のエミュレートなどではなく、いわゆるMODのようにユーザーの有志によりArmにポーティングされたバージョンをベースに開発されたもので、Armネイティブ版ということだった。

 CPUはCortex-M4というCPUになっており、ハイエンドスマートフォンに採用されているような高性能なArm CPUではなく、ロースペックのCPUとなる。それでもDOOMを動かすには十分なスペックということになる。筆者も実際にプレイしてみたが、十分な応答速度を実現していた。

芝刈り機の基板、CPUのCortex-M4で動作させている

 なお、この芝刈り機専用DOOMはAutomower NERAを利用しているユーザーなどにインターネットなどを経由してアップデートとして公開される予定。今回はそうしたユーザーに公開されるバージョンにはない機能として初代DOOMのネットワーク対戦機能が、Wi-Fiにより再現され、芝刈り機 vs 芝刈り機というシュールなDOOM対戦も実現されていた……。大の大人が芝刈り機に向かってゲームをしている……これってすごいことなのかそうではないのか……。

 この芝刈り機、Husqvarnaがスウェーデンで実際に販売しているそうなので、どうしてもDOOMを芝刈り機でやりたい読者の方は、スウェーデンにいって購入してみてはいかがだろうか……日本の電波法をクリアしているかどうかまでは、まったく知らんけど!