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アマゾン、国内AWSインフラに2兆2,600億円を追加投資
2024年1月19日 18:37
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(AWSジャパン)は1月19日、顧客需要の拡大に対応するため、2027年までに東京と大阪のクラウドインフラに2兆2,600億円を投資すると発表した。AWSの推計によれば、この投資は日本の国内総生産(GDP)に5兆5,700億円貢献し、国内で年間平均3万500人以上の雇用を支えるという。
AWSは2011年から2022年にかけてすでに日本で1兆5,100億円を投資しており、国内でのクラウドインフラへの総投資額は2027年までに約3兆7,700億円に達する見込み。なお、全世界での投資金額総額は公表されていない。
顧客から逆算しながら投資を継続
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 代表執行役員社長の長崎忠雄氏は初めに、最近はテクノロジーを使った経営革新、生成AIの利活用、そしてデジタル人材の育成の3つがよく話題に上がると述べた。続けて、能登半島地震でのアマゾンによる災害支援チームの活動を紹介。アマゾンは災害対応拠点「Disaster Relief Hub」を稼働させ、支援物資を被災地に送ったという。その上で、「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」というアマゾンのミッションステートメントを紹介した。
クラウドサービスを展開するAWSは、2009年に日本でオフィスを開設。その後、2011年に東京、2021年には大阪リージョンを開設した。2023年には生成AIが脚光を浴び、膨大なデータを学習する基盤モデルの開発も加速した。AWSでもAPIを使って複数種類の基盤モデルを使える「Amazon Bedrock」を米国に次いでサービス開始し、クラウドスキルのトレーニングも提供。利用拡大と人材育成の底上げを図ってきた。長崎氏は「顧客から逆算しながら今に至っている」と述べた。
AWSは今後、マレーシアやドイツ、タイにもリージョンを開設予定。長崎氏はアメリカ以外で一国で2つのリージョンを持っているのは日本が最初であり、それだけ日本の顧客からのクラウドニーズは業界、規模を問わず高いと語った。公共セクターからのニーズも高く、デジタル庁が推進する「ガバメントクラウド」にも選択されている。2018年、政府から「クラウド・バイ・デフォルト原則」の方針が発表されてからその流れは加速しており、AWSも設備・運用投資を継続してきた。
2027年までの投資予測と日本全体に及ばす経済効果
今回発表された日本における将来的な投資計画については、各地域に投資をしていくことで測定可能な効果をもたらしたいと考えている一環だと述べた。公開された「(AWSの経済効果に関するレポート」には日本への経済効果の例も紹介されている。
AWSの投資拡大によって、日本の顧客はデータを国内で処理可能になり、低遅延で利用できるメリットがある。また、雇用確保やクラウドに関する教育、先端技術の活用といったメリットもあると述べた。2027年までに149.6億米ドル(日本円で約2兆2,600億円)の投資を行なうが、これには各種設備投資、運用・保守費用が含まれる。
日本全体への経済効果の推定数値については、データセンターの建造に必要な材料運搬やサプライチェーンにも多くの影響があり、5兆5,700億円のGDP効果と年間平均3万500人の雇用を見込む。そのほか、スタートアップや中小企業を含む企業のデジタルトランスフォーメーション、地域社会の発展、再生可能エネルギープロジェクトの加速といった経済効果が推定として見込まれている。
クラウドは最重要インフラ
会見には衆議院議員で自民党デジタル社会推進本部長の平井卓也氏も登壇。平井氏はウクライナ情勢を踏まえて「クラウド・バイ・デフォルト」方針は正しかったと述べ、「戦争に限らず災害時のBCP(事業継続計画)を考えても、トータルで考えるとデータをクラウドに持っていくのは間違いない方針」だと語った。
そして「ガバメントクラウドは大変な事業。日本にとって最大の行政改革プロジェクト。地方自治体含めて原則全部クラウドに持っていく。国家として乗り切らなくなければならない」と述べ、「日本にとっては今やネットワークとデータセンターが最重要インフラになっていることは間違いない。能登地震ではネットワークを使ったリカバリーはできているとは言えない。今後見直していかなければならない。今後、南海トラフ地震もあるので、災害時の情報提供サービスは何かという宿題が今回増えた。バックアップもさることながら、サイバー攻撃にも強靭なものでなければならない。最先端のセキュリティを支える投資が常に必要。国内の業者にもそれを踏まえて提供者になってもらった」と語った。
また、自民党としても政策立案や広報の場において、「AWS Bedrock」を使って複数のLLMにデータを学習させることで説明能力を高めようとしていると紹介。データの中のバイアスなどの問題が起こることも見越して、AIへの技術的・モラル的見地からの監査を行なう組織も立ち上げる予定だと述べた。そして「AIは所詮ソフトウェア。安心なクラウド環境とネットワークがないとちゃんと動かない。AWSからの日本への長期的投資を大歓迎する。日本はデジタル分野での伸び代はまだまだある。それに合わせた日本の政策が進めばデフレから脱却して成長できるのではないか」と語った。
デジタル人材への投資が必要
AWS長崎氏はデジタル人材への投資の必要性を強調。人への投資が特に重要なポイントであり、AIなど新しい技術を活用して成長を実現するためには、人への投資が加速しなければならないと述べた。そして「官民すべてのセグメントでクラウドの利活用が進んでいるので、クラウドスキルは重要。AWSでも7年間で60万人を超える人材に教育を提供した。デジタル関連知識のさまざまな育成プログラムを日本全国で進めている」と語った。
そして、利用顧客の利便性だけでなく日本の産業界、地域経済、クラウドコミュニティ全体でさまざまな経済波及効果をもたらすと述べ、AWSでも再生可能エネルギーの導入にも力を入れていくなどして日本の成長に貢献していきたいと考えていると語った。
年次カンファレンス「re:Invent」で発表された新サービス
続けて、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 執行役員 技術統括本部長の巨勢泰宏氏が、AWSの年次カンファレンス「re:Invent」(再発明)で紹介された新技術やサービス関連の新しい取り組みを紹介した。
AWSは2006年以来、顧客からのフィードバックをもとに新機能をリリースしてきた。インフラ技術提供から始まったクラウドだったが、さまざまな領域に拡張しており、サービス数は今では240を超えている。
仮想サーバーの「EC2」はAWSのコア技術として、過去18年の間に多くの進化を遂げた。多くの種類のEC2インスタンスを開発。750を超えるインスタンスがあり、多様な要件に応えている。
Amazonが2015年に買収したイスラエルの半導体開発企業のAnnapurna Labs(アンナプルナラボ)での成果をもとに、チップレベルの開発にも着手しており、AWSの基盤技術も開発している。AWSの共通処理を専用ハードウェアにオフロードする「Nitro」システム、EC2上のワークロードをコストパフォーマンスよく実行できるプロセッサの「AWS Graviton」、マシンラーニング専用のアクセラレータの「AWS Inferentia」と「Trainium」などである。
その中で「AWS Graviton」は、エネルギー消費量の軽減やコストパフォーマンス最適化を目的とした汎用コンピューティングサービスとして2018年から提供されており、Graviton3まで開発されている。現在ではEC2のラインナップに150種類のGravitonベースのインスタンスが加わっており、グローバルで5万以上の顧客が使っているという。中でもSAPは「Graviton」を活用して35%プライスパフォーマンスを向上、45%カーボンフットプリントを削減した。
「Graviton4」は、前世代の「3」と比較して最大30%高い計算能力を発揮し、コア数は50%拡張、75%高速なメモリ帯域を持つ。データベースで最大40%、ウェブアプリで最大30%高速化しているという。「re:Invent」ではGraviton4ベースのR8g for EC2のプレビュー開始も同時に発表された。AWSはこのように基盤拡張を継続的に進めており、現在では33リージョンからサービスを提供し、可用性の向上を進めている。
衛星群を通じてブロードバンドを提供するプロジェクト「Kuiper」
ネットワーク領域では「Project Kuiper」が紹介された。Kuiperは、LEO(Low Earth Orbit、地球低軌道)を使った衛星通信サービスで、あらゆる場所でブロードバンドサービスを提供することを目指す。地上590〜630kmに3殻軌道とする予定で、2023年10月には2機の試作衛星の打ち上げに成功している。衛星同士のメッシュネットワークを作り、2026年には半数の衛星コンステレーション(人工衛星を群で運用するシステム)の運用を開始する予定だ。
「Project Kuiper」では、世界中どこからでもAWSにアクセスできる世界を目指す。日本国内でもNTT、スカパーJSATと戦略的合意に同意したと2023年11月に発表している。
生成AIは3層で取り組み
生成AIに関してはAWSは3層で取り組んでいる。一番下のレイヤーは、自社で基盤モデルを開発したい顧客向けに計算基盤を提供する。中間レイヤーはアプリケーションを開発するためのツール群の提供で、それを代表するサービスが「AWS Bedrock」である。一番上位は基盤モデルを使ったアプリケーション層である。ここの代表が「Amazon Q」である。
まず、一番下のレイヤーから。AWSとNVIDIAとは過去13年にわたってパートナーシップを組んでGPUインスタンスを提供している。前述のチップレベルの開発成果については、学習性能を高めるために「Trainium2」と、推論アプリケーションを低コストで実行できる「Inferentia2」がAIアクセラレータとして開発されている。
基盤モデルを活用してアプリケーションを構築するツール群を提供する中間レイヤーについては「AWS Bedrock」がある。LLM(大規模言語モデル)には得意不得意がある。そのため、業務課題を解決に取り組む上で、1つの汎用的基盤モデルだけでは課題を解決できるとは限らない。そこで、共通APIを使って必要に応じてLLMを切り替えてアプリケーション開発ができるのが「AWS Bedrock」である。
プライベートな環境で自社レベルでセキュアなカスタマイズが可能になるほか、「ガードレイル機能」でLLM特有のハルシネーションのような望ましくない出力をフィルタすることができる。なお、Amazon自体も「TITAN」という基盤モデルを開発しており、これもBedrockで提供されている。
画像生成においてはウォーターマーク機能の利用が可能になるという。アプリケーションの開発に柔軟性と俊敏性を提供するが、顧客データはプライベートかつセキュアで、顧客データがLLMの学習に使われたりすることはないという。
ファイザーや竹中工務店での生成AI活用事例紹介も
Bedrockはグローバルで1万以上の顧客に用いられている。アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 執行役員 デジタルトランスフォーメーション本部本部長 広橋さやか氏は事例を2つ紹介した。
1つ目は製薬会社のファイザー。ファイザーは18カ月で19の医薬品開発を行なうことを目標としており、「AWS Bedrock」を使って社内利用用の生成AIプラットフォームを構築している。17のユースケースがあり、中には年間10億ドルのコスト削減ができる例も含まれているという。
2つ目は竹中工務店。竹中工務店では建設業界の生産性向上を目的に取り組んでおり、ベテランの知識や経験を利活用できるようにするために生成AIを使って「デジタル棟梁」の構築を行なっている。専門知識の検索にはマシンラーニングを使った検索サービスの「Amazon Kendra」、そして生成AIへのアクセスには「Bedrock」が使われている。
「AWS LLM開発支援プログラム」も進行中
基盤モデルの開発例も紹介された。2023年7月から開始された「AWS LLM開発支援プログラム」では、LLMを開発しようとする日本国内に法人・拠点を持つ顧客向けに、リソース支援やクレジットの提供を行なっている。このプログラムには幅広い業界分野から応募があり、現在、10社以上がLLM構築に取り組んでいる。将来的にはこの支援プログラムで開発されたものもBedrockで使えるようになるかもしれないという。
実際に支援プログラムを活用している会社としてリコーが紹介された。リコーは業務現場で活用できる言語能力を持った「仕事のAI」を開発。AWSのGPU利用環境を用いることで、わずか3カ月でLLMを構築できたという。
自然言語で使える社内向け生成AIアシスタント「Amazon Q」
生成AIを使ったアプリケーションの1つである「Amazon Q」は、業務用に設計された顧客専用の生成AIアシスタントだ。ボリュームの大きい文書や社内で頻繁に発生する共通タスクに対してインサイトを与えることができる。AWSの複数のサービス、マネジメントコンソールやQuickSight等と統合することもできる。
要するに簡単に社内向けチャットボットを作ることができるサービスだ。参照情報リンクも併せて紹介される。なお、「Amazon Q」も複数種類の言語モデルを使い分けているが、内部のロジックはまだ公開されていない。
AWS上のアーキテクチャ作成支援も行なえる。自然言語で「AmazonQ」に頼むと、考えられるガイダンスや操作方法をガイドする。AWSのアーキテクトが支援するような技術的支援が提供でき、設計業務の生産性を向上させることができる。問題発生の警告、原因分析と解決策の提示も可能だ。
生成BI(ビジネスインテリジェンス)として分析作業のサポートも行なえる。Amazon QuickSightとも統合し、実用的インサイトを数秒で生成できる。データ準備からダッシュボード作成、分析、レポート共有などが可能となる。Amazon Qをさまざまなサービスと統合することで、多くの業務を効率化できるようになるという。