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東大、「音で発電」する新素子
2023年9月4日 11:08
東京大学大学院工学系研究科の研究グループは、騒音などの「音力」で発電する超薄型音力発電素子を開発したと発表した。
ウェアラブルやIoT機器の進歩により、交換不要な電源の開発が望まれており、周囲の環境に存在する微小なエネルギーを電力に変換する環境発電技術は応用が期待されている。その中で「音響エネルギー」を用いた発電は、光や温度を用いるものと比較すると季節や地域の気候変動の影響を受けにくいため、注目を集めている。
その中で、これまでの圧電材料を用いた発電床や、特定の周波数を持つ音響エネルギーを共鳴させて増幅できる立体的な構造を持つ音力発電素子が提案されてきた。しかし、立体的な構造を薄型素子に持たせることが困難、音の増幅のための微細な穴といった構造を薄型素子に加工することが技術的に難しい、音により素子の変形が大きくなるため耐久性に難があるといった観点で、薄型/高効率化が難しいとされた。
今回研究グループは、「電界紡糸法」と呼ばれる技術で形成した複数のナノファイバーシートを積層し、50μm以下という超薄型の「ナノメッシュ音力発電素子」を開発した。この素子は、2層のナノファイバー電極シートで圧電材料であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)のナノファイバーシートを挟むことで形成され、多数の微細孔がある構造を持っている。
音による空気の振動が圧電材料であるPVDFナノファイバーシートに直接伝わるため、従来の素子よりも大きな電力を生み出せるといい、さらにPVDFナノファイバーシートのファイバーを一方向に配向させることで、8.2W/平方mという世界最高の電力密度を実現したという。
実際に開発したセンサーをマスクに貼り付け、会話の音や周辺からの音楽を電力に変換し、LEDを光らせることができたという。また、温湿度センサーによる計測や無線の伝送の電力源としても使用できることが確認できたという。今後、IoTやウェアラブル機器における電力供給源としての応用が期待される。