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台湾GIGABYTE新CEOのEddie Lin氏に聞く、多角製品戦略の狙いと効果

台湾新北市新店区にあるGIGABYTE本社を訪れた

 今回、台湾GIGA-BYTE Technology(以下、GIGABYTE)の本社を訪れ、CEOのEddie Lin氏に話を伺う機会を得た。Lin氏は2023年1月より同社のCEOに就任したばかり。ただし、以前から同社の戦略的な部分で大きな役割りを果たしている。

 筆者は以前間接的にだが、当時GIGABYTE副社長だったLin氏に、どのような改革をしていくのか聞いたことがある。今回、満を持してLin氏本人にGIGABYTEの過去、現在、そして未来について話を聞いた。

GIGABYTEの多角化戦略の立役者

台湾GIGA-BYTE Technology CEOのEddie Lin氏

Q: まずは経歴について教えてください。

Lin: 最初はマザーボードのプロダクト・マネージャー(PM)としてGIGABYTEに入社しました。その後は、当時まだGIGABYTEがビデオカードビジネスに新規参入したばかりの頃でしたが、そのPMや研究開発、セールスマネージャーなど、ビデオカードに関するありとあらゆる仕事に携わってきました。

 長らくビデオカードを担当してきましたが、2017年、副社長(VP)となりビデオカードだけでなくマザーボードの責任者も兼任することになりました。以降、GIGABYTEはモニター、SSD、電源など新しい分野の製品を数多く手掛るようになりました。

Q: 2017年にEddie氏がビデオカードとマザーボードのビジネスユニットを統合したというのをお聞きしたことがあります。それ以前はそれぞれ別々に事業されていたのですか?

Lin: 2017年以前は、マザーボードとビデオカードはそれぞれ独立したビジネスユニットとして活動していました。ビジネスユニットが独立しているメリットはあり、エンジニアは自分の製品により集中できました。納得できるまで徹底的に作り込んで、「よい製品を作る」というGIGABYTEの基礎はこの頃培われたと言えるでしょう。

 一方、マーケティングの面ではデメリットがありました。集中的に予算を使えない、マーケティング戦略もバラバラ。私はこうした状況を改善しようと考え、それまで分かれていた部署を統合しました。それにより、効果的にマーケティング予算を投入できるようなり、この方針は現在のところ成功しています。実際、ここ数年間売り上げ増が続いています。そして2020年からはノートブックも私が責任者になりました。

さまざまな製品を扱うからこそ、そこでシナジーが生まれる

Q: GIGABYTEはどのようなメーカーを目指しているのでしょうか。また、PC DIYメーカーとしてのGIGABYTEの特徴はどのようなところにありますか

Lin: 今、PC DIY分野では大手メーカーが規模を拡大していくのに対し、小さなメーカーは淘汰されていく時代です。昔はマザーボードもビデオカードも電源も、などさまざまなパーツメーカーが存在していました。しかし今はその当時ほど多くはないですよね。大きなブランドしか残っていません。小さなブランドは消えていきました。

 (世界のユーザーすみずみまで製品を提供するには)大手ブランドがより幅広い製品を提供していく必要があります。GIGABYTEも世界的で大きなブランドを目指しています。だから、(マザーボード、ビデオカードだけにとどまらない)より幅広い製品ラインナップを提供していくのです。

 先にご説明したとおり、GIGABYTEはそれぞれのビジネスユニットが分かれていた時代のエンジニアたちが培ってきた高い開発力があります。これをさらに強化していき、ユーザーが今、真に求めているものに対して可能な限り応えるため、がんばっています。

 なお、それまで各々分かれていたビジネスユニットをまとめた格好ですが、もちろん開発部隊は別々に分かれています。マザーボードならマザーボード、ビデオカードならビデオカード専門のエンジニアが配属されているというところは変わりありません。マーケティングやセールスが一緒になったという意味です。

 エンジニアはそれぞれの製品開発に注力する一方、マーケティングやセールスは、統合された体制のもと、GIGABYTEとして世界シェアを拡大していけるよう頑張っています。すべてのやり方にはメリットがあればデメリットもあります。私がやろうとしているのは、デメリットをできるだけ抑え、メリットを大きく伸ばしていくことです。

Q: モニターやSSDなど、新規事業の研究開発はどのように行なっていますか。

Lin: たとえばモニターを開発しているのは、以前マザーボードやビデオカード部門で働いていたエンジニアです。もちろん新規製品ジャンルで足りない人材、たとえばパネル技術などはより専門的なエンジニアが必要ですよね。そうした人材は新たに招きつつ、チームを編成しています。

 SSDの開発部署は大半が元々GIGABYTEにいた社員です。SSDの開発に比べればマザーボードの開発のほうがよほど難しいですが、SSDのチューニングなどはマザーボード開発に似ていると言います。

Q: SSDが新規格になった際、すみやかに製品を投入されました。これを実現できた秘けつはありますか?

Lin: PCIe Gen4対応は、当時AMDがまず仕様を決めたわけですが、GIGABYTEはもちろんマザーボードを開発していますのでそのことを把握していました。そして、NANDコントローラチップメーカーであるPhisonの協力を得られたこともあり、GIGABYTEが持つソリューションを活かして速やかに製品化することができました。

Q: マザーボードも製造するGIGABYTEだからSSDの開発もスムーズにできたということでしょうか。

Lin: マザーボードだけに限りません。さまざまな製品を取り扱うことに意味があるのです。トレンドを追う意味でも、トレンドを切り開く意味でも、幅広い製品を取り扱うことは大きなメリットがあるのです。

 たとえば、新しいビデオカードが出れば、モニターの売り上げに影響しますし、関連するほか製品の売り上げにも影響します。PCパーツはそれぞれが相互に関係しています。GIGABYTEのようにさまざまな製品を手掛けているブランドだからこそ、SSDでも成功できたのです。

コロナの影響は皆無。成長が上回る

Q: 2022年はそれまでの巣ごもり特需が一段落したと言われていますが、実績はどうでしたか。

Lin: 実のところGIGABYTEの売り上げから言えば、2022年Q4の売り上げはコロナ以前の2019年第4四半期の2倍くらいに拡大しています。新たなビジネス分野でよい結果が出ているためです。

 たとえばノートブックではこの2年間でグローバル販売台数が5倍にまで成長しました。モニターの販売台数はコロナ需要が落ち着いたにも関わらず、今もまだ拡大しています。マザーボードは、Intel 700シリーズチップセット搭載モデルに特に力を入れていることもあり大きなシェアを獲得できました。

 そしてビデオカード。巣ごもり需要や仮想通貨で一時期大きく売り上げを伸ばしたことは事実ですが、今もまだ堅調なゲーミング、そして新たにAIという需要が生まれ、GIGABYTEに関して言えば売り上げは落ちてはいません。

 私がGIGABYTEに来たのは、まだビデオカードビジネスがゼロから立ち上がったような頃でした。そこから現在までの間、コロナよりももっと厳しい状況を何度も経験してきました(笑)。

新規格、新製品の登場に合わせすみやかに製品を投入

Q: PC DIY市場のトレンドについて、どのような見解をお持ちですか。

Lin: GIGABYTEはもともとマザーボードやモニターなど、パーツ中心の会社でしたが、B2Cに力を入れるビジネスモデルに変わりました。B2Cのビジネスモデルに切り換えると、ノートブックやモニターなど、製品ラインナップを増やしていかざるをえないのです。そうして製品ラインナップを増やしていくと、その中でチャンスも生まれてきます。

 GIGABYTEはIntelやAMD、NVIDIAといったサプライメーカーとともに製品開発を行なっています。新しい規格が世に出てから製品開発を始めるのではなく、サプライメーカーから次世代のスペックが出た時には、すみやかに開発を始められる。市場を一歩リードしていくことができます。

 なんでもやるブランドだからこそ市場へも大きな影響力を持つことができます。ユーザーに対しても、これからの時代はこんなスペックがいいですよといった提案ができるわけです。

 ゲーミングモニターは今、4Kをプッシュしています。4KゲーミングモニターおいてGIGABYTEは高いシェアを獲得することができました。マザーボードは特にDDR5の開発に注力しました。DDR5メモリにおけるOCや相性問題といった点で大きな自信があります。

 市場調査を行なう部署もあります。ゲーマーのこだわりなど、トレンドを調査し、製品やマーケティングに生かせます。もう少しするとDiablo IVがリリースされますね。これをきっかけにゲーミング市場がまた盛り上がるのではないかと期待しています。

在庫管理、品質の維持ができれば下降局面でもGIGABYTEは成長を果たせる

Q: PC市場の需要と供給のバランス、価格変動についてどう見ていますか。

Lin: 需要と供給のバランスは大きく変動するものですが、対策としては2つあります。1つは在庫管理を徹底することです。過剰な在庫を抱えることなく、新製品をリリースする際にはスムーズに切り換えられるよう心がけています。

 実際、もうGeForce RTX 30シリーズ搭載ノートブックの在庫はほとんど残っておらず、GeForce RTX 40シリーズグラフィックス搭載モデルはすみやかに投入できました。

 もう1つは高い品質を保ち続けることです。ユーザーはよりよい品質のものを求めています。こうした期待に応えていくことが重要です。GIGABYTEエンジニアの開発力はお話した通りです。さらに現在、GIGABYTEは世界各国のマーケティング、セールス、アフターサポートを拡大させています。

 そして、現在言われているような下降局面の際には、研究開発をさらに強化していくことも重要です。PC業界自体あまりよくない状況の今こそ、ノートブックで言えばパネル技術や筐体技術、壊れないヒンジなど、基本的な部分の技術を蓄積し、ユーザーから評価を得ていく。それこそ不況への一番の対抗策ではないでしょうか。

 在庫管理の徹底、品質の維持、この2つができていれば、GIGABYTEは過剰供給や価格破壊を恐れる必要はありません。思い起こせば過去20年、マザーボード、ビデオカードだけでも過剰供給の問題は何度かありました。弱いブランドではそうした危機的な状況に耐えられません。真に強いブランドだけが生き残ってきたのです。

日本のクリエイターにもぴったりな新ノートブックを投入

Q: 最後に日本のユーザーに向けて一言いただけますか。

Lin: 日本でのノートブックについては、GIGABYTEは現在ハイエンドモデル中心に取り扱っています。最新のクリエイター向けノートブックである「AERO 14 OLED(2023)」は薄型、軽量にこだわりながらも、GeForce RTX 4050を搭載し、性能も両立しています。AERO 14 OLEDは日本のクリエイターニーズにもマッチしているのではないでしょうか。

 また、マザーボードでは昨年末「Project Stealth」を発表しました。コネクタを基板の裏面に移設し、表面からはケーブルが見えないスタイリッシュなPCコンセプトです。こうしたモノづくりは日本の職人精神にも似ているのではないかと思っています。ぜひ、こうしたGIGABYTEの製品の特徴を、日本の消費者に伝えていきたいと考えています。

AERO 14 OLED(2023)

台湾にあるGIGABYTEの南平工場で製造工程を見学

台湾桃園市にある南平工場

 このインタビューの後、台湾桃園市にあるGIGABYTE南平工場も見学してきた。見学したのはマザーボードの製造ラインとノートブックのキーボード組み立てラインだ。

 マザーボードの製造ラインはSMT、DIPといった工程を見学した。筆者がここを訪れるのは2回目になるが、一部の製造機器は最新のものに置き換わり、SMTやDIPで用いるリールの管理、ピックアップに物流倉庫で用いられるようなロボットが導入されるなど、改善されていた。

SMTラインではプレーンなPCBにまずハンダを印刷し、SMTマシンがチップを実装していく
各工程で機械の目、人の目による検査が行なわれる
加熱しチップを固定するリフロー工程では、熱によるPCBゆがみを抑えるため、モデルごとにオリジナルの金属製トレーを用いる
通電チェックを行なう機械
ハンダの状態をX線で検査する機械。最新のもので3次元解析できる
リールの管理、ピックアップはロボット化
DIP工程。足のあるチップやコンデンサなどは自動で、スロットのように大きなものは人の手で載せていき、最後にハンダ付けを行なう
ノートブックのキーボード組み立て工程。部品自体はマザーボード同様に自動化されているが、ノートブックの組み立ては各工程で分かれているとはいえ、自作PCを組み立てに近いイメージ