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量子コンピュータでも解読困難。宇宙線ミュー粒子を用いた暗号通信技術

COSMOCATの原理(出典: Hiroyuki Tanaka/Muographix)

 東京大学国際ミュオグラフィ連携研究機構は13日、ミュー粒子を用いた高セキュリティワイヤレス技術「COSMOCAT」を開発したと発表した。世界初としている。東京大学国際ミュオグラフィ連携研究機構 機構長の田中宏幸教授による研究。

 ミュー粒子は電子に近い性質を持つ荷電粒子で、宇宙線の中から発見された素粒子の一種。宇宙線が地球の大気と衝突した際に生成され、宇宙線のうち地表に到達する荷電粒子のほとんどがミュー粒子であるとされる。貫通力が強く透過性が高いことから、中性子線やX線でも透過できない構造物の調査などに利用されている。

 COSMOCATでは、ミュー粒子が地表に到達する時刻の「きわめて高い任意性」と、高い透過性による「飛行速度の普遍性」を利用して、暗号鍵の生成/エンコードとデコードを行なっている。具体的には、ミュー粒子が地表に到達した時刻と送受信者間の距離からミュー粒子の飛行時間を計算することで、通信の暗号化を成立させている。

 ミュー粒子の地表への到達時刻は予測不可能な真性乱数であり、送信者はこれをピコ秒(1兆分の一秒)精度で記録し、10桁以上の真性乱数からなる暗号鍵として扱い文書をエンコードする。受信者は同一のミュー粒子を別の場所で検出することでその時刻を保存する。ミュー粒子はその高い透過性によって飛行速度に普遍性を持つことから、受信側ではミュー粒子が地表に到達した時刻を正確に計算することができる。

 結果的に送受信者間で暗号鍵のやりとりを一切行なわないため、通信経路上でハッキングを受けるおそれがないほか、ミュー粒子の速度は地球上のどこにいても一定の速度が担保されているため、実施場所を選ばないなどの利点がある。

 真性乱数によって生成された暗号鍵は、量子コンピュータを用いても現実的な時間で解読できないとしており、さらにパケットごとに暗号化されているため、データ量が増えるほど暗号解読に時間がかかる。現時点で最新の古典的コンピュータをデコードに用いた場合は1GBあたり5万年程度かかるという。

 なおCOSMOCATの利用にはミュー粒子の到来事象が必要であることから、その到来頻度が暗号化通信の速度に影響するが、この問題はパケットあたりのデータ量を増やすことで速度の向上を図ることが可能であるとしており、今後は次世代の近距離通信におけるワイヤレスセキュリティ技術としての普及が期待される。

左:COSMOCATの暗号化通信速度、右:総当たり攻撃で暗号を解読するためにかかる時間(出典: Hiroyuki Tanaka/Muographix)