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Intel、oneAPIツールキット2023年版を12月に提供開始

Intel CTO グレッグ・ラベンダー氏、手に持っているのはIntelの量子コンピューター向けQubit制御モジュール

 Intelは9月27日~9月28日(現地時間、日本時間9月28日~9月29日)の2日間にわたり、米国カリフォルニア州サンノゼ市にあるサンノゼ・コンベンション・センターで同社年次イベント「Intel Innovation」を開催した。

 9月28日午前に行なわれた2日目基調講演では、同社CTO グレッグ・ラベンダー氏が講演を行ない、「Intelは長年オープンソースに積極的に参加してきた。これからもoneAPIに代表されるようなベンダーロックインのないオープンなソフトウェア開発環境の提供を続けていく」と述べ、データセンターおよびHPC市場でIntelと直接競合するようになったNVIDIAがCUDAで自社ハードウェアのみをサポートしていることを意識したような、「オープン」であることを強調するIntelのソフトウェア開発環境をアピールした。

 ラベンダー氏によれば、Intelは今年の12月にIntel版oneAPIの2023年版の提供を開始する計画で、Intelの最新GPUアーキテクチャやFPGAなどのサポートが開始される他、SYCLomaticと呼ばれるオープンソースのソースコード変換ツールを含めることで、CUDAのソースコードをSYCLに変換することを可能にし、CUDAからの乗り換えをより容易にする計画だ。

ベンダーロックインのないソフトウェア開発環境を提供するとIntelは強調

Innovationは開発者による、開発者のためのイベント

 Intel Innovationの2日目基調講演に登壇した、ラベンダー氏は「Intelは長い間オープンソースコミュニティーに貢献してきた。Linuxコミュニティへの貢献はその代表だ。Intelはこれからもソフトウェアの開発環境に関してはオープンの姿勢をとっていきたい。重要なこいとはベンダーロックインをなくし、ソフトウェア開発者が自由にアーキテクチャを選ぶことができる開発環境を提供していくことだ」と述べた。

Intelはオープンソースに多大な貢献をしている

 近年のIntelは、こうしたソフトウェア開発環境の説明を行なう時には「オープン・プラットホーム」であることを強調するようになっている。その背景には、IntelにとってのデータセンターやHPC市場での競合が、NVIDIAになってきていることが影響している。

 よく知られているように、NVIDIAはCUDAという同社のGPU向けに提供しているソフトウェア開発環境がソフトウェア開発者に支持されていて、同社のGPUがデータセンターやHPCなどで利用されることが増えているからだ。

 そうしたIntelにとっての「相手の弱点」は、CUDAで使えるGPUがNVIDIAのGPUだけだという点にある。つまり、CUDAの開発環境を使っている限りは、NVIDIAのGPUを購入せざるを得ず、「そのコストはお高いでしょ?」というのが、Intelがつけいる隙というわけだ。そうしたある1社の製品が事実上の標準になっていることを、IT業界の用語では「ベンダーロックイン」と呼び、それは皆さんにとってメリットではないですよね? というのが平たく表現した「Intelの言いたいこと」ということになる。

 では、データセンターのCPUがx86プロセッサーしか選べないのはいいのか? というのは置いておき(少なくともAMDという別の選択肢もあるわけだし)、確かにそうした状況が発生しているのは事実ではある(別にNVIDIAが悪いわけではなく、みんながよりよいものを選択してきた結果なのだが)。そこがIntelにとってのつけいる隙だというのは、Intelの立場に立ってみると無理はないだろう。

oneAPI

 そうした状況を認識しているからこそ、Intelはここ数年、データセンターやHPC向けの開発環境としてオープンソースで開発されている「oneAPI」構想を推進してきた。誤解を恐れずにoneAPIを平たく言えば、Intel版CUDAなのだが、CUDAとoneAPIの最大の違いは、CUDAが事実上NVIDIAのGPU専用なのに対して、oneAPIはGPUだけでなく、CPU、FPGA、しかもIntel以外のCPU、GPU、FPGA、アクセラレータなども利用できるオープン・アーキテクチャが大きな違いになる。

 oneAPIはオープンソースとして公開されているので、Intel以外のハードウェアベンダーがoneAPIに自社のハードウェア(CPUやGPU、FPGA、そのほか)を最適化することが可能になるのだ。

 従って、ArmがoneAPIをArm CPUに最適化し、AMDが自社のGPUをoneAPIに最適化して、その結果ArmやAMDのGPUが売れる……そうしたことが起こる可能性も秘めているオープンな開発環境、それがoneAPIの特徴と言える。つまり、データセンターやHPC向けCPUにおけるIntelの優位性が崩れる可能性があっても、GPU市場でNVIDIAの優勢を突き崩す方が重要、そう考えてIntelはオープン・アーキテクチャに舵を切った象徴がoneAPIなのだ。

 それがラベンダー氏のいう「オープン・プラットホームなソフトウェア開発環境を提供する」という言葉の本当の意味になる。

Intel版oneAPIの2023年版が発表され、CUDAからSYCLへと変換するツールSYCLomaticが含まれる

Intel版oneAPIの2023年版は12月から提供開始

 Intelにとって、oneAPIの開発環境を充実させ、データセンターやHPCのソフトウェア開発者に開発環境としてoneAPIを選んでもらうことは喫緊の課題と言える。oneAPIには、オープンソースとして提供されるオープンソース版と、Intelのハードウェア向けなどに最適化され、有償サポートも提供されるIntel版があり、それぞれ別途に提供されている(正確に言うと、オープンソース版から枝分かれしたものがIntel版となる)。

oneAPIの2023年版

 Intel版は年々機能がアップデートされて提供されており、現状の最新版は2022年版(2022.2)となっているが、今回のInnovationではその次期バージョンが2023年版として12月から提供開始されることが明らかにされた。この新バージョンでは、Intelの新GPUアーキテクチャや新FPGAのサポートが追加されている。

 また、オープンソースで開発された「SYCLomatic」が含まれており、開発者が既にもっているCUDA向けのソースコードを、oneAPIのC++のプログラミングモデルを利用したコンパイラーであるSYCLソースコードに変換することが可能になる。SYCLomatic自体は、Intelが5月にオープンソースのツールとしてリリースしたことを発表していたが、今回それがIntel公式版のoneAPIに含まれるようになった形だ。

CUDAに代わるC++のプログラミング環境として注目を集めているSYCL、NVIDIA以外のGPU、CPU、FPGAなどにも対応していることが大きな違い
上がCUDAをそのままコンパイルしたもの、下がCUDAをSYCLのソースコードに変換してコンパイルしたプログラムの実行結果。性能差はほぼない

 基調講演後に行なわれた技術トラックでは、そうしたSYCLomaticなどを利用して、CUDAのソースコードをSYCLのソースコードに変換したものをそれぞれプログラムにコンパイルして実行したデモが行なわれ、どちらのプログラムも性能差がないことがアピールされた。

量子コンピュータを制御する制御チップのウェハ

 このほか、ラベンダー氏はIntelが開発する量子コンピューターを利用するためのソフトウェア開発環境になる「Intel Quantum SDK」も発表している。これにより、開発者は量子コンピュータのシミュレータを自分の環境に構築することが可能になり、量子コンピュータのソフトウェア開発を始めることが可能になる。ベータバージョンのSDKは既に提供開始されており、Intelが開発者向けに提供しているクラウドベースの開発環境「Intel Developer Cloud」上で利用可能になっている。

 このように、今回IntelはInnovationで、oneAPIなどの開発ツールの説明に多くの時間を割いていた。Intelにとって、NVIDIAという脅威に対処する意味でも、それだけoneAPIが重要である、そうした事情を反映していると考えることが可能だろう。