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バイオロギングで7億件の行動データを解析、「猫様」を総合的に健康管理する「Catlog」
2021年5月12日 17:13
Amazon Web Services(AWS)は2021年5月12日、「日本発スタートアップの最先端テクノロジーが織りなすニューノーマル」と題したメディア向けオンラインラウンドテーブルを開催し、猫を対象としたIoTデバイスを展開している株式会社RABOと、深層学習を活用した自然言語処理サービスを提供している株式会社Studio Ousiaによるプレゼンテーションが行なわれた。
この記事では、コンシューマ向けに商品を展開している株式会社RABOのプレゼンについてレポートする。
従来は見えなかった猫の行動データから猫を見守る「Catlog」
株式会社RABO代表取締役社長の伊豫愉芸子氏は、Snap Cameraのフィルタを使って頭の上に猫を乗せた姿で登場した。RABOは2018年2月22日、猫の日の創業。同社が展開している「Catlog」は猫向けのIoTサービスで、「世界中の猫と飼い主が1秒でも長く一緒にいられるように、猫の生活をテクノロジーで見守る」ことをコンセプトとしている。
具体的には猫に着ける首輪型デバイスの「Catlog(キャトログ)」と、猫用トイレの下に敷く「Catlog Board(キャトログボード)」、そしてスマホアプリからなる。「Catlog」は加速度計が内蔵されたデバイスで、リアルタイムにデータを収集して猫の行動を判定し、スマホに表示することができる。「Catlog Board」は猫の体重や排泄物の量、トイレでの滞在時間を計測する。
前述のようにRABOのサービスは「1秒でも長く愛猫の顔を見ていられれるように」というのがコンセプト。ペット市場規模は約1.6兆円。いま猫を飼っている家庭では「猫も家族の一員」であることは既に当たり前となっており、1匹あたりにかける費用は増加している。特に健康管理に関連する支出が増えて市場を牽引しているという。
「Catlog」が解決している課題は何か。通常、多くの猫が留守番をしており、見守り対策ができてない家庭が57%となっている。ペット向けカメラもあるが、猫は歩き回るのでカメラでは死角が多く、猫がなかなか映らず、異常があってもわからない。また動物病院への来院頻度も年に1回未満であり、獣医も普段の様子がわからず手探りの問診となることが多い。このように、飼い猫であっても人が見ることのできない猫の時間は非常に多い。
バイオロギング技術で猫の行動を取得、総合的な健康管理が可能に
一方、動物の行動を見る科学に「バイオロギング」と呼ばれる分野がある。小型センサーを動物につけて動物の行動を詳細に調べる分野だ。RABOの伊豫氏は、ペンギンやオオミズナギドリを対象にしたバイオロギングを大学院修士課程まで専攻し、そのあとはリクルートでプロダクト開発を行なっていた。また猫については20年以上飼育し、一般社団法人日本ペット技能検定協会認定キャットケアスペシャリスト/キャットシッターの資格を保有している。RABOの事業は、伊豫氏の持つこの3つのバックグラウンドをフル活用したものとなっているという。
首輪型デバイスの「Catlog」は、バイオロギング解析技術を猫のデータに対して応用したものだ。首輪型のペンダントに内蔵した加速度センサーで行動データをリアルタイムに収集し、「Home」というデバイスを経由してAWSクラウド上にデータを送信。機械学習を使って解析/分類して、食事/運動/睡眠/水飲みなどの行動の様子を判定し、スマホに表示する。ささいな体調変化もデータからわかる。「24時間365日、猫の一生を見守る」ものだという。
2020年秋には「Catlog Board」を発表。猫のトイレの下に敷くだけで体重、尿や糞など排泄物の量、トイレ回数・滞在時間がわかるデバイスで、2021年5月現在は予約受付中。2021年夏に発売予定だ。2つのプロダクトを一緒に使うことで、猫の総合的な健康管理が可能になるという。
AWSを活用し、「とことん猫様仕様」で設計
データの解析・判定にはAWSが用いられている。コンテナ向けサーバレスコンピューティングエンジンの「AWS Fargate」とリレーショナルデータベースサービス「Amazon Aurora」を用いることで、猫のデータを管理/分析し、ほぼリアルタイムに近い速度で猫の行動をスマホ上で見ることができるという。
伊豫氏は「未知の市場を拓くスタートアップにとっては開発しやすいプラットフォームが成長の源泉」と語り、AWSは高速なサービス開発を高い次元で成立させるために不可欠であり、同社のサービスは「とことん猫様仕様で設計されている」と強調した。
「Catlog」の首輪の色は現在52色で展開している。スマホアプリでは、ご飯を食べている様子や寝ている様子などが、ほぼリアルタイムで確認できるため、飼い主は外にいても一緒にいられるような感覚を得られるという。写真もアップロードできる。
また1日の行動記録がタイムラインで表示されるので、猫と交換日記をしているような感覚もあるという。行動水はグラフで確認することもできる。ご飯を食べる回数に変化がないかといったことや平均運動時間、ほかの似ている猫との比較なども示される。これらすべての機能を使って、一緒に暮らす飼い主や獣医師と猫の様子を見守ることができる。最近は実家の猫を遠方から見守る人も増えているという。普段の行動との変化の検知も可能で、ゆくゆくは予兆検知も行なっていく。
パッケージの配送はリリース当初からクロネコヤマトとコラボしており、輸送パッケージも猫仕様となっている。「ラストワンマイルまで猫様がお届け」というコンセプトだという。オリジナルの輸送箱は猫が入りやすい大きさで、ダンボールのなかに猫が入ってくる様子がSNSでは多くアップロードされているそうだ。
7億件の行動データで早期発見、フードケア事業にも
これまでに蓄積された行動データはすでに7億件を超えており、「日本最大級の猫様行動データベース」となっている。このデータを活用し、健康管理についても従来は目で見える様子を見てからの介入だったが、今後は、より早期発見/早期介入を目指す。
7億件のデータは今後、さまざまな事業に展開する予定だ。多くの飼い主は猫の食事に関心がある。休息と運動はCatlogが既にカバーしているが、今後は栄養面をカバーするためにもデータを活用する。「Catlog_Foodcare」は5月中にリリース予定のサービスで、摂取カロリーと運動量による消費カロリーから食事量のバランスを計算。フードのレコメンドサービス、購入サービスを展開する。
かかりつけ獣医との連携も進める。蓄積されている普段のデータを獣医に提供して、問診・診察時にデータを参照してもらうことで、より正確な診療が可能になる。また通院タイミングのレコメンドなども行なう。
さらに猫の行動は万国共通なので、すべての事業において世界展開も視野に入れている。Catlogを使うことで、猫の普段の生活と健康管理ができるようになったという。Catlogを使うことで、出かけるぎりぎりまで甘えていた猫が外出直後にぐーぐー寝ていることがわかったり、帰宅直前に玄関まで走ってきた様子がわかったりと、「データに想像を載せられる」ようになったそうだ。
伊豫氏は「健康に関してはこれまではマイナスをゼロにするサービスしかなかったが、ゼロをプラスにすることもできるのがCatlog」だと述べて、猫の生活をテクノロジーで支え、ペット業界に新たな産業を創造していくと語った。