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1時間100円でテレワークできる場所を提供。神戸市が実証実験

 神戸市とスペースマーケットは、飲食店の稼働していない空席を、テレワークに利用できる実証事業「KOBE Work Space Share」を2月4日から開始した。1時間あたり、1席100円で利用できる。実証事業の期間は2021年3月31日まで。自治体がスペースシェア事業者との連携により、飲食店支援を行なうのは全国ではじめてとなる。

 実証事業では、スペースを簡単に貸し借りできるWebプラットフォーム「スペースマーケット」を活用。店舗内の稼働していない空席を有効活用したい飲食店と、テレワークできる場所を探している就労者をマッチングさせ、飲食店をワークスペースとして活用する機会の創出につなげるという。

 対象となるのは、神戸市内にある中小企業基本法第2条に規定する中小企業者(中小規模飲食店)。インターネット環境を提供できる店舗に限定する。

 スペースマーケットの仕組みでは、通常、飲食店は利用料の70%を得られるが、今回の実証事業では、残りのサービス手数料の30%のうち、15%を神戸市とスペースマーケットが補助するため、あわせて85%の収入が得られる。

一方、利用者は、居住地や勤務先を問わずに利用が可能であり、KOBE Work Space Shareのサイトから、店舗を検索し、空席状況を確認。予約、決済までの一連の作業を行なえる。利用後の領収書の発行も可能だ。また、ワークスペース利用者に対して、対象店舗で利用できる5%割引クーポンを、KOBE Work Space Shareのサイトで配布する。

 飲食の持ち込みは、水およびお茶に限定。1人での利用を前提とする。また、利用者には感染症対策の徹底も呼びかける。

 神戸市企画調整局つなぐラボ 特命係長の長井伸晃氏は、「新型コロナウイルスが感染拡大するなかで、飲食店の売上げ減少という課題がある一方、オフィスワーカーは、在宅勤務が進むものの、自宅で仕事をするスペースがなかったり、共働きのためお互いに配慮しながら在宅勤務をしなくてはならなかったりといった課題がある。家から一歩も外出しないため、働くモチベーションが上がらないという人もいる。

 居酒屋では、掘りごたつの席を利用できるなど、気分転換にもつながるだろう。また、喫茶店でテレワークをしている人もいるが、コーヒー1杯で長時間いるのがはばかられるという人も、事前に予約をして、決められた時間内で、安心して利用できるというメリットもある」とする。

 また、「飲食店にとっては、ワークスペース利用に伴う飲食での収益や、新規客や新たな固定客の確保といったことでも効果が期待できる。飲食店を応援するという意味でも、個人や企業の方々に利用してもらいたい。神戸市の食文化を守ることにもつながるだろう」と述べた。

 神戸市では、飲食店のモデルケースをいくつか示す。

 小規模飲食店では、ランチタイムは通常営業、ディナータイムは午後8時までの時短営業をする一方、仕込み時間などにあたる午前と夕方の時間帯をワークスペースとして貸し出し、必要に応じて、ワークスペース提供中もドリンクや軽食を提供することができる。

 また、店舗面積が広く席数が多かったり、個室があったりする中規模飲食店では、基本的には飲食も提供。個室や2階スペースなどの一部エリアをまとめたかたちで、ワークスペースとして提供する。
これらはモデルケースとして示したものであり、時間帯やサービス内容については、各店舗で自由に設定できる。

 神戸市経済観光局担当部長(商業流通担当)の古泉泰彦氏は、「神戸市内の飲食店が厳しい状況にある。補助金の対象にならない事業者や補助金の対象となっても状況が厳しい事業者もあり、今回の仕組みが少しでも活性化につながればいいと考えている。商店街の活性化という点でも活用してもらいたい」と述べた。

 なお、神戸市では、同実証事業に関して、飲食店向けのオンライン説明会を、2月10日まで毎日開催し、サービス概要や登録方法、活用方法などについて説明する予定だ。

 スペースマーケットの重松大輔社長は、「スペースマーケットに掲載しているスペースは、全国47都道府県にわたり、1万4,000以上ある。一般住宅や会議室、飲食店、スポーツ施設、結婚式場のほか、廃校や寺、城まで幅広い。スペースを提供するホストは、初期費用や登録費用は無償であり、利用されることで収益が上がる。

 神戸市では、現在、194件が登録されており、そのうち28件が飲食店。住宅やオフィス、住宅展示場、古民家、撮影スタジオも登録されている。TV局やYouTuberの使用も増えている。仕事ができるスペースマーケットWORKに登録している神戸市内の飲食店は3店舗だが、今日から募集を行ない、増やしていきたい。飲食店の活性化、地域の活性化という観点からも貢献したい」としている。

 今回の実証事業に参加する意思を示している神戸市内で喫茶店を展開するカフェ英國屋の小川嘉之氏では、「やりたかったと思っていたことがかたちになった。外出自粛要請により、喫茶店は厳しい状況にあり、売上げ減少は致命的なほどである。テイクアウトもあるが、お客様に来ていたただいて空間を利用してもらうのが喫茶店の基本である。

 今回の実証事業に参加したいと思っている店舗は、元町にある2階建てだが、2階フロアは終日使っていないという状況が続いており、まったく回転していない。それをどう活用していくかを考えていたときに、この話をもらった。空間を貸し出し、空間を使ってもらうことにつながる。この仕組みを活用していきたい」とコメント。

 神戸を中心に居酒屋を展開するワールドワンの羽場洋介氏は、「居酒屋は、夜の営業が中心であり、午後7時までのアルコール提供といった時短要請は売上げに大きく響いている。それを打破するために、テイクアウトを開始したり、定食を用意したりといったことにも取り組んできたが、効果が上がらない。

 居酒屋は大きなスペースがあり、その有効活用を模索し、テレワークの利用提案も行なってきたが、居酒屋で仕事をするということが、イメージとして受け入れられにくい。しかし、神戸市の仕組みのなかでやれば、利用者の印象も変わる。

 飲食業界がもっとも恐れていることは、飲み会や宴会がなくなってしまい、居酒屋で飲むことが忘れられてしまうことである。どんなかたちでもいい。儲けがなくてもいいので、昼間にちょっとでも来てもらって、『また今度、ここで飲みたいなぁ』と思ってもらえれば幸せである」と語った。

 なお、実証事業の期間終了後は、登録状況や利用状況をみながら、飲食店以外にも広げることも含めて検証。それをもとに、2021年度の取り組みを検討する予定だという。事業が継続されない場合でも、ワークスペースに特化したスペースマーケットのサービスは継続的に提供する。

 「料金はホスト側で設定できるため、そのまま1時間100円でのサービス継続も可能である。一般的には、1時間500円で提供しているものが多い」(スペースマーケットの重松社長)としている。

(右から)神戸市企画調整局つなぐラボ 特命係長の長井伸晃氏、スペースマーケット 代表取締役社長の重松大輔氏、神戸市経済観光局担当部長(商業流通担当)の古泉泰彦氏