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MIT、カーボンナノチューブ半導体で16bit RISC-Vプロセッサを作成

CNFETを使用したマイクロプロセッサの拡大写真

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)は8月28日(現地時間)、カーボンナノチューブを使った電界効果トランジスタ(CNFET)を内包する16bitのRISC-Vのマイクロプロセッサを開発したと発表した。

 現在の主力の半導体はシリコンを使用したものだが、そのトランジスタのさらなる微細化は困難な状況にある。次世代半導体材料として注目されているカーボンナノチューブは、シリコンに対して約10倍のエネルギー効率と高速性を有しており、CNFETを実用化すべく研究開発が進められている。

 今回、MITの研究者らは現行のシリコンチップの製造設備を使い、CNFETを製作。CNFETからなるRISC-Vマイクロプロセッサを作り上げた。この16bit RISC-Vには14,000基以上のCNFETが組み込まれており、実演ではフルセットの命令を正確に実行し、商業向けマイクロプロセッサと同じタスクを完了できた。

 MITは6年前にもCNFETのマイクロプロセッサを開発しているが、そのさいは178基のCNFETのみで、シングルビットのデータしか転送できなかった。新素材であるカーボンナノチューブを使ったCNFETの製作には難題が多く、デバイスとして動作させるためには素材および製造の不良、機能不全の3つの課題に取り組む必要があった。

 とくにカーボンナノチューブ製作における固有の問題として、カーボンナノチューブの小さな一部分が金属化し、スイッチングの速度低下もしくはスイッチングが阻まれてしまうという悩ましい症状がある。この欠陥を克服するためには今日の技術では不可能な純度99.999999%のカーボンナノチューブを用意する必要がある。

 そこでMITの研究者らは、演算に支障を来たさない程度に金属化したCNFETを配置させることで、純度を1万倍緩和する方法を考えついた。これにより、カーボンナノチューブの要求純度は99.99%まで下げることができ、現在の技術でも十分対応可能になった。

 また、金属化したカーボンナノチューブを論理ゲートのペアと組み合わせることで、異なる特性が得られることも発見。たとえば、ゲートAの単一のカーボンナノチューブではゲートAとB間の接続を断ってしまうが、ゲートBにあるいくつかの金属化カーボンナノチューブは接続に影響を与えないといったもの。

 研究者らはこれらゲートの組み合わせをシミュレーションし、堅牢もしくは脆弱になるすべてのパターンを探し当てた。そしてチップデザインのプログラムを改良し、金属カーボンナノチューブからもっとも影響を受けない組み合わせを自動学習。これにより、チップ設計のさいに、堅牢な組み合わせのみ適用されるようにした。

 CNFETの製造は、事前に設計したトランジスタ構造のウェハをカーボンナノチューブの溶液に堆積させるところからはじまるが、このさいに、いくつかのカーボンナノチューブが不可避的にくっついて大きなダマになり、チップ上で粒子汚染を発生させてしまう。これをなくすためには、カーボンナノチューブの粘着性を促進させる化学物質でウェハに前処理を施し、特定のポリマーコーティングをして特別な溶剤に浸す。そうするとポリマーが取り除かれるさいに、カーボンナノチューブのダマも除去できる。これにより同様の方法に比べてチップ上の粒子密度は約250倍下げることができる。

 また、MITの研究者らはCNFETで演算を行なうための、N型とP型の2つのトランジスタを作成。基本的にカーボンナノチューブで2タイプのトランジスタを作ることは難しく、たいていは性能に変動があるものが生み出されてしまう。そこで、プラチナやチタンをトランジスタに付着させ、P型とN型を構成。原子層堆積によってCNFETを酸化化合物でコーティングし、特定用途向けにトランジスタの特性を調整可能にした。たとえば、サーバー向けであれば高速でパワーがあるもの、ウェアラブルデバイスや医療用インプラントでは低速で低消費電力なものなど。

 CNFETは現在実用化を目指し、シリコンチップの製造施設に今回の製造技術の実装進めている状況にある。実用化時期についてMITの研究者は5年以内ではないかと予想している。