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多関節アームで超高層ビルの窓を人のように“手拭き”清掃するロボット
~新丸ビルで実証実験
2019年3月4日 18:44
三菱地所株式会社は、日本ビソー株式会社と共同で、新丸の内ビルディングにて、多関節アーム搭載「多目的壁面作業ロボット」を活用した外窓清掃の実証実験を実施している。
ロボットアームを外窓清掃業務で活用し、作業性能や清掃品質を検証する。期間は2月28日(木)から3月15日(金)の16日間。3月4日にはプレス公開が行なわれた。
多関節アーム搭載「多目的壁面作業ロボット」 今後は外壁診断や塗装などにも対応
既存の無人自動清掃・有人清掃の代替を狙う「多目的壁面作業ロボット」は、箱のなかにロボットアームが搭載されているシンプルな外観。開発品番は「MWR-1(Multi-Purpose Wall Working Robot)」。
大きさは3,200×940×2,000mm(幅×奥行き×高さ)。ゴンドラ内には産業用ロボットとして活用されている7自由度の多関節ロボットアームを搭載しており、超高層ビルなど高所外壁で行なわれるさまざまな作業を自動化できる。ロボットアームは安川電機製。電源は外部から供給される。
本体はベースシステムと作業ヘッドで構成されている。7自由度の多関節アームに、さらに横移動させるための走行システムを追加し、より広い可動範囲を確保した。同じ建物で窓の大きさが異なる場合や、形状が複雑な場合にも柔軟に対応できるという。
位置決めには、本体外枠やアーム先端に取り付けられた光電センサーを用いてルーパーを検知、そして空圧を使って窓枠に先端部を押し付けて清掃作業をする。
従来の外窓清掃は、窓面の大きさに合わせた無人の自動清掃ユニット数台、もしくは有人による清掃で行なっていた。
既存の自動清掃ユニットは、縦または横方向のみに清掃するが、人が行なう清掃動作を記憶させた作業ロボットは、縦横自在にスクイジーを動かせるので、清掃のクオリティ向上が期待できるという。
また、作業ロボット導入により外気温の影響なく作業を進められるほか、執務室内に対して、作業員の人目を感じさせずに作業することが期待できるとしている。
今回の実証実験では、清掃作業者の窓清掃用スクイジーを作業ヘッド部に使用した。新たな作業ヘッドを開発することで、今回の窓拭きだけでなく、外壁調査・診断をはじめ改修工事で行なわれる塗装やシール打替え、洗浄などさまざまな作業にも活用が期待できるという。市場投入時期は未定。
ビル運営管理における人手不足をロボットで代替・合理化
三菱地所株式会社 ビル運営事業部 専任部長の川口英彦氏は、今回の実証実験には、
- ビル運営管理の合理性の追求
- 人手不足に対する機械化代行
の2つの視点があると述べた。
従来のビル管理業務においても、合理化できる点は合理化してきたが、外窓清掃については自動清掃ユニットを取り入れており、これをさらに合理化できないかと考えたという。
既存の自動清掃ユニット(新丸ビルにも4台導入されている)は窓の形状に合わせて作らなければならず、更新が必要となる。これを集約できないかと考えていたという。
また、人手に依存する清掃や警備をできるだけ機械化できないかと考えており、外窓清掃も場所によっては人手で行なっているので、機械で代用できないかと考えていたとのこと。
この2つの考えを持って日本ビソーに提案したところ、同社も既に同じような問題意識を持っていたことから、今回の実証実験に至ったという。
アームの先端のハンド部分を変えることで、多目的な使い方ができるのではないかと考えており、今後は、窓の清掃だけではなく外回りの安全面の確認などにも使えないかと話を深めているところだと述べた。
人と同じ作業をロボットで
ロボットの詳細は、日本ビソー株式会社 本設ゴンドラ事業本部 技術統括部 部長の道越正大氏が解説した。
日本ビソー株式会社は、高所外壁に関する機器サービスを提供しており、本設ゴンドラ事業、仮設ゴンドラ事業、外装工事事業、そして橋梁・橋脚点検などを行なうインフラメンテ事業の4事業を、いずれもオペレーター付きのレンタルで提供している。
企業理念として「外壁のメンテナンスエンジニアリングを通じて、建造物の価値を高め都市を美しくする」を掲げている。
高所の窓の清掃は、一般的には人が乗るゴンドラを使って清掃されている。超高層や大型物件では自動窓拭き機が使われている。屋上からワイヤーロープで吊り下げられ、下まで降りながら清掃を行なう機械だ。
自動窓拭き機は、清掃ヘッドを窓すれすれまで出して位置決めをして、窓を清掃していく。終了時点に来ると、センサーで窓枠を検知して、最後に「アオリ拭き」をして、清掃ヘッドを退避させて、次の窓へ行く。これが既存の自動窓拭き機の動きだ。
今回のロボットは、人が使っているウインドウモップと水切りスクイジーを使って、人が行なっているような動きで清掃を行なう。
本体にはエア供給装置や制御装置が内蔵されており、7自由度の多関節アームと、横移動する装置を組み合わせている。今回は、あえて人が使う道具をそのまま用いている。そのほかにガイドローラー、水受け装置などが搭載されている。
日本ビソーには、以前から社内に基礎研究の仕組みがあり、この開発もその枠組みで行なった。窓の自動清掃機についても、2008年、2015年に試作機を開発していた。そこに三菱地所からの話があり、新丸ビルでの実証実験となった。
清掃だけに留まらない、多目的作業ロボットを目指す
従来の自動機は縦拭きだが、今回は手拭き。従来機に比べて拭き残し範囲は少なく、清掃対象の窓形状は問わない。構成部品の点数も少なくなりメンテナンスなどで多くの利点が今後出てくると考えているという。
だが、清掃速度は現時点では従来機の倍くらいかかっているとのこと。機械自体のコストは従来機とほぼ同等で、動作については、今回はティーチング・プレイバックで行なわれている。画像認識を使った動作生成も試験は行なっているが、まだ実用段階にはないとのこと。
特徴は、作業ヘッド部の交換による機能拡張も可能である点。窓拭きロボットではなく「多目的」壁面作業ロボットとした理由は、外壁劣化の調査、打診調査、塗装など高層ビルで行なわれるさまざまな作業の自動化を目指しているため。
2014年には、タイル補修を行なうための自動穿孔ロボット試験機を開発して試したことがあるという。
丸の内を「オープンイノベーションフィールド」に
三菱地所は、丸の内エリアの「オープンイノベーションフィールド」化を進めている。先端技術・テクノロジーの街づくりにおける有用性等について調査・研究を行なう「Marunouchi UrbanTech Voyager」プロジェクトに取り組んでいる。今回の実証実験もこのプロジェクトの一環。
これまでに「LPWA」を活用した通信網構築実験、ウェアラブルカメラと移動式モニタリング拠点「オンサイトセンター」を活用した、先端セキュリティシステムの運用実験、自動運転バス走行実験、カメラ映像のAI解析を使った「新たなおもてなしサービス」実証実験、自律飛行ドローンによる地下トンネル内の点検実験、コミュニケーションロボットを用いた会議室案内実験、「セグウェイ」による街のコンシェルジュサービス、警備ロボット「Reborg-X」の導入、小型ロボットの顔認証による店舗案内サービス実験、複数の清掃ロボットの導入検証などを行なっている。