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JDI、ディスプレイ技術を活用しセンサー事業に参入
~ディスプレイ企業からインターフェイス企業への変革を目指す
2018年12月4日 19:51
株式会社ジャパンディスプレイ(JDI)は、は、2018年12月4日、新規ビジネスによる戦略発表会「JDI Future Trip -Creating Beyond-」を開催した。
会見では、ライブパフォーマンスプレーヤー「XLP-01 MiOn」やヘルメットに着脱可能な車載用ヘッドアップディスプレイ「XHD-02 KAIKEN (懐剣)」、北九州市などの連携によって導入を開始したスマートバス停など、同社のディスプレイ技術やセンサー技術を活用した製品や協業案件などを紹介。12本のリリースを発表してみせた。
同戦略発表会は、2018年8月1日の開催に続いて2回目となる。
中国ハイアールが、三洋電機の冷蔵庫/洗濯機部門を買収して設立したアクアで社長を務めた伊藤嘉明氏が、2017年にジャパンディスプレイ入りし、常務執行役員 兼 チーフマーケティングオフィサー(CMO)として、新設したマーケティング・イノベーション&コミュニケーション戦略統括部を率いている。
同部門では、「ものづくりだけではない、コトづくり」に挑んでいるところだ。今回の会見では、その成果として、世界初となるコンセプトプロダクトを、8月に続き、いくつも発表してみせた格好だ。
伊藤氏は、「これまでのジャパンディスプレイは、ディスプレイを開発し、供給することだけをビジネスにしていた。だが、8月の発表で、最終製品ビジネスへの参入、定期課金ビジネスの導入、テクノロジーでの社会課題の解決という、3つの新たな取り組みを開始することを発表した。
それを実現するには、これまでの延長線上の取り組みでは実現しない。そこで、この100日間に渡り、オープンイノベーションへの取り組み、海外展開の開始、戦略的アライアンスの締結を進めてきた。すでに、23の企業、団体と共同開発や実証実験を開始している」と説明。
ここでは、スーパーフォーミュラに参戦しているダンデライアンレーシングと、鈴鹿サーキットで走行実験を行なったことや、エアレースワールドチャンピオンの室屋義秀氏と技術協力して、最高時速370km、10G超の極限環境下での操縦パフォーマンスを支援する技術を提供していることなども紹介した。
8月の発表では、オートバイなどに乗るさいに利用するヘッドアップディスプレイ搭載スマートヘルメット「スパルタ」を発表したが、今回の会見では、車載用ヘッドアップディスプレイを応用して、ヘルメットに着脱可能な外付けユニット「XHD-02 KAIKEN (懐剣)」を発表した。
スピードメーターやナビ情報などを走行中の視線を維持した状態で確認できるのが特徴だ。2019年中に発売するという。
「ディスプレイ技術だけでなく、センサー技術とブレインコンピュータインタフェイス(BCI)を活用して製品化するものである。モータースポーツだけでなく、警備やレスキュー分野などに応用できる。従来のスパルタは、安全基準をクリアする必要があり、製品投入までに24カ月以上かかる。だが、KAIKENは外付けタイプであり、ヘルメットにアドオンすれば良い。ハイパフォーマンスを求められる環境でも貢献できる」とした。
ライブパフォーマンスプレーヤー「XLP-01 MiOn」は、立体感のある映像表現により「見る音楽」を再現することができる。
ジャパンディスプレイの高精細ディスプレイを採用し、独自開発のボックス型光源を組み合わせることで、奥行き感のある立体映像を表示する。映像コンテンツは、Webを通じたダウンロード購入で追加することも可能だ。会見では、初音ミクのライブ映像をデモストレーションしてみせた。
「サウンドインタラクティブ機能を搭載し、卓上でライブさながらの臨場感を実現できる。2.5次元映像による楽曲に連動したグラフィックと、光を使った音楽演出が可能になる。2019年にはクラウドファンディングを実施する予定である」と語った。
一方、ジャパンディスプレイでは、ディスプレイ機能を中核に「見・聞き・触れ・香り・味わえる」という五感を通じた体験やソリューション提案を目指している。今回の会見では、それを実現する五感デバイスとして、映像と香りで新たな顧客体験を提供する「紡ぎシリーズ」を投入することを発表した。
鳴海製陶との協業によって開発した「XAQ-01 AQUARIUS」は、陶器に埋め込まれたディスプレイから、花が咲く映像が流れ、花の動きとあわせて香りが空間を包み込む製品。
また、湘南工科大学とデザイン分野で協働した「XHK-Hally」は、ディスプレイによる視覚と、香りによる嗅覚によって、空間演出を可能にする製品だ。オフィス空間での利用なども想定しており、満足度の向上、生産性向上などを目指すという。
スマートバス停では、これまで紙で表示していた必要情報をディスプレイに表示。時刻表の今の時間帯を拡大表示したり、バスが走っている場所や、地域で行なわれているイベントの紹介のほか、災害時には災害情報や避難情報などを表示することが可能だ。
ジャパンディスプレイ 執行役員 ディスプレイソリューションズカンパニー社長の湯田克久氏は、「バス停で使用されている紙ベースの時刻表の張り替え作業は、運行時間外に人手で行なう必要があり、バス事業の労働環境の悪化やコスト増加の要因となっていた。スマートバス停によって、これを解決できる」とした。
また、「現在、日本国内には50万カ所のバス停があるが、スマートバス停になっているのは、1%未満。それは、電源が供給されていないバス停が約7割に達していることが理由。当社の超低消費電力反射型液晶ディスプレイを使用すると、0.3Wで動作することから、外部電源供給の無いバス停でも、太陽光発電パネルとバッテリの組み合わせでスマートバス停の実現が可能になる。オフグリッドで動作する地域情報発信の中心的役割を果たすことができる」とする。
スマートバス停では、西鉄グループおよび安川情報システムと連携し、2018年8月から、北九州市明和町バス停での実証実験を行なっている。今後、バス停の数をさらに拡大。その成果をもとに、2019年以降、本格展開していくことになる。
また、2020年には欧州やアジアにも展開。2021年には、オセアニア、アフリカ、南アメリカも展開していくという。
さらに同社は、トレジャーデータとの協業も発表した。IoTプラットフォームである「Arm Pelion IoT Platform」やデジタルマーケティング領域で実績を持つ「Arm Treasure Data eCDP」を活用して、データを活用した新たなサービスやビジネスの創出、BtoBマーケティングの強化、インダストリー4.0の実現を進めるという。
伊藤氏は、「新規ビジネスは、いままでのジャパンディスプレイとは違う方向に急加速している。愚直に、スピード感を持って、ディスプレイだけのビジネスから変わろうとしている」と前置き、「トレジャーデータとの協業によって、データを活用したソリューションを実現するものになる。ジャパンディスプレイは、ディスプレイからインターフェイスの会社になろうとしている。
また、情報を『みる』から『活かす』ことに力を注ぐ。その観点から、トレジャーデータとの戦略的提携には意味がある。モビリティ、メディカル、スポーツ、教育などの分野に、ディスプレイやセンサーを活用してもらえる環境が整う。
社会課題解決に関する新規事業ソリューションであり、我々の取り組みを次のレベルに進めることができる」などとした。
トレジャーデータとの協業発表において、興味深いのは、ディスプレイ技術を活かして、新たにセンサーの開発に着手したことを明らかにしたことだ。
ジャパンディスプレイ 常務執行役員兼CTOの永岡一孝氏は、同社のセンサーに関する事業戦略について説明。「ジャパンディスプレイがセンサーを開発することに違和感を持つ人も多いだろう。だが、インプットデバイスとアウトプットデバイスは形が似ているものが多い」と前置きし、糸電話を例にあげながら、紙コップがインプット側にも、アウトプット側にもなることを示した。
「ディスプレイは、アウトプットデバイスであるが、その技術を使って、インプットデバイスであるセンサーを作れる。かなり似通った技術である。しかも、ディスプレイで培った技術を使って、大画面や透明、曲がる・伸びるといったものを作ることができる。
だが、センサーではディスプレイの1,000倍の感度が必要であること、リーク電流を1,000分の1に抑える必要があるなどの課題がある。これに対して、研究開発チームは、新たにセンサー用トランジスタを開発するとともに、新規センサー用回路アルゴリズムも開発。ジャパンディスプレイならではのセンサーを開発できた」とした。
ここでは、ディスプレイ全体に利用できる大面積認証センサーを開発し、2019年から量産すること、直接画面に触れなくてタッチ操作ができるホバーセンサーを開発し、同じく2019年から量産すること、曲げたり、伸ばしたりできるストレッチャブルセンサーの開発に取り組んでおり、2019年に製品発表することを明らかにした。
「大面積認証センサーでは、ディスプレイ画面のあらゆるところで認証できることから、これまでにはない用途を提案できる。ホバーセンサーは、食品工場や手術室などの直接画面にタッチできない場所でも利用できる。また、ストレッチャブルセンサーは、腕に巻き付けて脈拍を測るなど、ヘルスケア分野を中心とした応用や、これまでにはセンサーが使えなかった場所でも利用できる。
センサーも開発することで、インプットデバイスのビジネスを開始でき、トレジャーデータの解析、分析技術とつながり、これをアウトピットデバイスに表示できる。デバイスの販売だけでなく、ソリューションやプラットフォームを提供し、新たなアイデアも生むこともできる。センサー開発は、今後も強化していく」と述べた。
最後に伊藤氏は、「ジャパンディスプレイは、ディスプレイからインターフェイスの企業に変わること、競争力の核になるデータを活用して次のフェーズに行くための準備が整った」とする一方、「ジャパンディスプレイは、BtoCの経験がないので、こんなものを作っても大丈夫かと言われる。BtoCをやったことがないのは明らかである。だが、私は30年近く、BtoCをやってきた。素人ではない。次回のJDI Future TripではBtoC戦略の発表を行なう」と発言。
また、「(経営再建中の)ジャパンディスプレイが厳しい状況にあるのは重々承知である。そのなかで、こうした新たな取り組みを発表していいのかということもかなり悩んだ。だが、思うことがある。新たなことにトライしようとすると、そんなことはできるわけがないと言われる。前例や経験がないので無理だと言われる。問題は、できる、できないではない。やるか、やらないかである。ジャパンディスプレイは『やる』を選択する」と強い口調で語った。