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ZOTACが日本支社「株式会社ゾタック日本」を設立
~ビデオカードのみならず、VRやIoT分野にも進出
2018年9月12日 20:08
ビデオカードおよび小型PCでお馴染みのZOTAC Technologyが、日本支社「株式会社ゾタック日本(にっぽん)」を立ち上げた。9月12日に都内で開かれた記者会見で、その経緯と戦略について語られた。
ZOTACは自社工場を持つコンピュータ機器製造業者、PC Partnerのいちブランドとして2006年に立ち上げられた。全世界で70カ国以上で製品が販売されているが、日本はZOTACにとって重要な市場であるとし、中国・北京、韓国・ソウル、ドイツ・ミュウヘン、アメリカ・ロサンゼルスに次いで現地法人を立ち上げることとしたという。
冒頭で挨拶したZOTAC Technology PresidentのTony Wong氏は、「われわれはPCの小型化に注力した製品を継続的に開発してきたが、日本法人の設立によってZOTAC本社および親会社であるPC Partnerに技術的な貢献をするだけでなく、PCの小型化によって実現するVR、ビッグデータインフラ、クラウドコンピューティング、ゲーム分野において、十分な品質をもって製品を提供できるよう注力していきたい」と語った。
ZOTAC Global Marketing Directorを務めるChinny Chuang氏は、「ZOTACは“ZOTAC GAMING”というブランドを立ち上げ、これから日本国内で盛り上がるであろうeスポーツ業界に貢献している。無料で利用できるオンライン対戦プラットフォーム“ZOTAC CUP”も提供しており、世界各国のゲーマーとPUBGやOverwatchのオンライン対戦ができる。これまでに3,000以上のカップを開催し、150以上の国から100万人が登録している。また、オフライン大会も開き、これまでに6,000万円相当の賞金を用意するなど、積極的に展開してきた。ゾタック日本の立ち上げによって、日本のプレイヤーの参加も期待したい」と述べた。
ゾタック日本の取締役営業部長 関智之氏は「われわれのミッションは、ゲーマーからエンタープライズ用途まで、情報化する社会のさまざまな領域において必要とされる道具を提供することを掲げる。われわれは単にハードウェアを提供しているだけだが、これを道具として活用するためには、ソフトウェアやパートナーの協力が欠かせない」とし、日本法人の設立は協業も含めた目的もあることを窺わせたた。
また、ZOTACの語源は「ZONE」と「TACT」、つまりさまざまな分野で腕を振るう意味なのだが、今後はGeForce RTXシリーズの提供やZOTAC CUPをはじめとしたeスポーツ分野のみならず、小型PC「MEK」の実況ストリーミングニーズの対応、小型/静音PCによるホームリビング/寝室での利用、Quadro GPU搭載によるクリエイター/デザイナー向け小型PC、デジタルサイネージ向けの小型PC、VR用バックパックPCの商業展開、監視カメラなどによるAI画像認識、IoT/M2M分野向けの小型製品など、強みを活かして幅広く展開したいと語った。
日本での展開が期待されるバックパックPCとIoT向け小型PC
発表会のあと、特別ゲストとして株式会社ハシラス代表取締役社長 安藤晃弘氏、および立命館大学教授 西尾信彦氏による特別講演が開催された。ZOTACの製品と直接関わるわけではないのだが、興味深かったのでご紹介したい。
安藤氏が語ったのはVRのこれまでとこれから。同氏はじつはそれまで江戸古典奇術師だったのだが、VRの体感デザインを得意とし、2014年にチームハシラスを結成し、以降ロケーションベースのVRに携わるようになった。過去4年に40種類/108筐体を制作し、17の施設への導入実績がある。
2012年に「Oculus DK1」からはじまったVRだが、当時は3DOF(3軸方向だけ自由度がある)ものだった。また、ケーブルにより動きの制限も強く、インタラクションするデバイスが限られていたため、このときの施設型のVRはおもにライドデバイス(動く椅子のようなもの)に乗って、単に流れてくる映像を体験するものが多かった。
これに、ユーザーが前後左右に動く自由度を与えたのが6DOF型で、このときコントローラによってインタラクションも可能になった。また、映像転送を無線化するものや、Outside-In(外部からヘッドセットの動きをトラッキングするタイプ)からInside-Out(ヘッドセット単体で空間を認識可能)への進化もあったとする。
ただ、映像転送を無線化するキット--直近では「Vive Wireless Adapter」--は日本国内で技適が取得できなかったうえに、同一空間内で転送する場合、4台程度が上限となる。また、Oculus GoのようなInside-Out型では複数の人が同じ空間内にいた場合、トラッキング精度に難があり、ハシラスが展開するような複数人を対象にしたアトラクション施設での展開は難しい(同一空間内に入る人が少ないとコスト高で割に合わない)。
そういったなか、バックパックPCは有力な選択肢であるとし、Vive Proと組み合わせれば安価でかつ高品位な映像体験を実現できるとした。海外では、すでにこうしたフリーローム+キャラクターVRの施設でバックパックPCが使われており、同社としても今後採用していく意向を示した。
一方で西尾教授は、「産業革命4.0」や「社会5.0」への変遷について解説。人間社会は狩猟からはじまり、農耕、工業、そして情報へと進化した社会はいま、IoTやビッグデータ、AIなどの技術によって5.0へ変革しようとしている。情報社会ではビッグデータを持つクラウドがモノを言う「クラウド至上主義」の社会だったが、「社会5.0はそれが終焉に向かい、エッジコンピューティングが再度見直されるようになる」とした。
その理由の1つは「エッジコンピューティングの性能が強化されれば、なにもすべてのデータがクラウドで処理される必要はない」ことに最近注目が集まっている点である。たとえば自動運転車の運転のデータ、渋滞の情報などは、データの容量、そしてレイテンシの観点から、車自身、または交差点ごと(同氏はこれをフォグと呼ばれる小さなクラスタにわけている)で解決したほうが良い。
また、たとえばGPSなどが届かない地下でナビゲーションを行なうのであれば、Google Tangoのような技術が必要になるし、Amazonがこれから行おうとしている物流の革命(飛行船が倉庫代わりで、パラシュートつきのドローンが降下して街灯にパッケージをポストしたり、一般人が運んだりするもの)もかならずしもクラウドに依存しているわけではない。
同氏はこれを「インテリジェンスの偏在化」だと説明した。直接ZOTACの製品を指し示したわけではないが、ZOTACの小型コンピュータがこうした技術に使われる可能性があることを示唆した。