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東北大学ほか、不揮発性メモリなどの性能向上に必要な“強磁性体中の磁化ダイナミクスの仕組み”を解明

27℃(左列)と-269℃(右列)における、強磁性共鳴スペクトル。上段はCoFeBの厚さ1.5nm、下段はCoFeBの厚さ2.6nmの試料に対する測定結果。薄い試料ほどスペクトルの線幅が広い。CoFeBが厚い試料では、スペクトル線幅は温度にほとんど依存せず、薄い試料では温度低下によって線幅が大きく拡がる

 東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)は、「強磁性体薄膜中の磁化運動に影響を与える散乱機構」を明らかにしたと発表した。

 研究は、WPI-AIMR 松倉文礼教授、東北大学電気通信研究所 岡田篤博士後期課程学生(日本学術振興会特別研究員)、同 大野英男教授(兼WPI-AIMR、CSIS、CSRN、CIES)のグループと、シンガポール南洋理工大学 Christos Panagopoulos教授のグループ、日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター 前川禎通センター長のグループとの共同で行なわれたもの。

 研究グループは、強磁性共鳴法という手法を用いて、界面磁気異方性を有する強磁性体薄膜中の磁化の散乱機構の解明に取り組み、共鳴スペクトル線幅が温度の低下に伴い先鋭化する振る舞いを観測。その結果、「モーショナル・ナローイング(運動による線幅の先鋭化)」と呼ばれる機構が、散乱の性質を決める主要な一因となっていることを示したという。

 同機構は電子スピン・核スピンの散乱に対する重要な機構として知られているが、本研究によって、強磁性体中の磁化運動に影響を及ぼしており、結果、界面磁気異方性の変動が磁化運動に大きな影響を与えていることが明らかとなった。

 界面磁気異方性は、材料系の開発でよく利用されている性質で、WPI-AIMRでは、今回の成果内容はさまざまな材料系の評価に適用可能と考えられ、不揮発性メモリなどを実現する、高機能素子に利用される磁性材料系の開発に加速をもたらすことが期待されるとしている。

磁界変動に伴う回転周波数の時間変化と、強磁性共鳴スペクトルの模式図。磁化が1回転する間にランダムな磁界変動が頻繁に生じると、磁化の歳差運動周波数の変化は平均化され、磁界変動が稀な時と比べて強磁性共鳴で観測される線幅は狭くなる