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NVIDIA、メモリ24GBのQuadro P6000でレイトレVRをデモ

~VR向け機能を積んだPascal世代のQuadroを活用

 NVIDIAは18日、Pascal世代のワークステーションGPU「Quadro P6000」および「Quadro P5000」を使ったプロフェッショナル向けVR体験会をメディア向けに開催した。

 Quadro P6000とP5000は今年(2016年)の7月に発表されたGPUで、現在コンシューマ市場で手に入るPascal版の最上位GPU「TITAN X」よりもメモリ容量などが多く作られている。主な違いは下表の通り。

Quadro P6000/P5000のスペック
Quadro P6000Quadro P5000TITAN X(Pascal版)GeForce GTX 1080Quadro M6000
CUDAコア数3,840基2,560基3,584基2,560基3,072基
メモリGDDR5X 24GBGDDR5X 16GBGDDR5X 12GBGDDR5X 8GBGDDR5 12GB
単精度浮動小数点演算12TFLOPS8.9TFLOPS11TFLOPS8.2TFLOPS7TFLOPS
最大消費電力250W180W250W180W250W
インターフェイスPCI Express 3.0 x16
Quadro P6000
Quadro P5000

 今回のプロフェッショナル向けVR体験会では、NVIDIAが取り組んでるQuadroを活用したビジュアライゼーションプラットフォームに焦点を当て、Quadroがプロフェッショナルの世界でどのように使われているかといった紹介が行なわれた。

Kepler世代から2倍性能が向上したQuadro P6000/P5000

エヌビディア ジャパン マーケティング本部 エンタープライズ マーケティング マネージャーの田中秀明氏

 エヌビディア ジャパン マーケティング本部 エンタープライズ マーケティング マネージャーの田中秀明氏は、Quadro P6000/P5000の説明の中で、1つ前のMaxwell世代のQuadroと比較して、CUDAコアが増えただけでなく、Quadro P6000に至ってはGDDR5Xを採用したことでメモリ帯域が100GB/s以上も増えていることを言及。最大4基の5K表示が可能になったことなどを挙げた。

 さらに、VR環境に向けた機能として、ジオメトリを演算し直さずに最大16の視点を設定できる「同時マルチプロジェクション(Simultaneous Multi-Projection)」をサポートしたこと、ダイナミックロードバランシングやピクセルレベルのプリエンプションによってGPUのワークロード管理が改善されたことも大きいという。

Quadroが提供するビジュアライゼーションプラットフォーム
Pascal世代のGPU技術
Quadro P6000/P5000の用途

 Quadro P6000/P5000での活躍の場は主に「3Dモデリング/4K編集」、「物理ベースレンダリング」、「プロフェッショナルVR」であり、国内での使いどころとしてもは自動車デザイン、BIM(Building Information Modeling)/CIM(Construction Information Modeling)を活用した建築土木設計に使われており、今回の主題であるプロフェッショナルVRでは手術シミュレーション、自動車デザインの開発でも、フォトリアルな建築空間、建築施工性の確認といった用途で力を発揮するという。

 田中氏は、Quadro P6000/P5000がKepler世代の製品と比較した場合に、2倍ほど性能が向上していることをグラフで示し、ビデオメモリの増大とGDDR5による帯域の向上が、プロフェッショナル向けのVR環境に最良の性能を提供できるとする。下位モデルのQuadro P5000については、昨今12GBを超えるグラフィックデータが扱われることもあり、ビデオメモリが16GBになったことで活用の幅が広がっていることを強調した。

プロフェッショナルVRでの活用
Quadro P6000の仕様
P6000とM6000との機能比較
Quadro P6000と前世代の性能比較
Quadro P5000の仕様
P5000とM5000との機能比較
Quadro P5000と前世代の性能比較
Quadro P6000/P5000がVR環境で優位な理由の1つとしてビデオメモリの増強を挙げている

Iray VRでフォトリアルなVR空間を表現

 次いで、エヌビディア ジャパン エンタープライズソリューションプロダクト事業本部 Quadroプロダクトマネージャ シニア ソリューションアーキテクトの柿澤修氏がPascal世代のGPUによるIrayのVR活用について説明を行なった。

 Irayは昨年(2015年)にNVIDIAが提供を開始したレイトレーシングソフトで、Mayaや3dsMax、Cinema 4DなどのCG制作アプリ向けにプラグインという形で提供されている。柿澤氏はOpenGLといった程度のレンダラーでは、フォトリアルな絵を描き出せないとし、NVIDIAはこのほかにも、mental ray、OptiXなどといったレンダラーを擁していることをアピールした。

エヌビディア ジャパン エンタープライズソリューションプロダクト事業本部 Quadroプロダクトマネージャ シニア ソリューションアーキテクトの柿澤修氏
IrayプラグインはMayaや3dsMaxなど、さまざまなCG制作アプリ向けに提供されている
Irayを採用しているアプリ
mental ray
同社のレンダリングエンジンを使ったCG

 NVIDIAは、IrayによるVR向けのレンダリングソリューションとして「Iray VR」を発表しており、こうしたフォトリアルなレンダリング技術をVR環境にも提供している。Iray VRでは、IrayでレンダリングしたCGを映像として見るといった活用が行なわれ、自動車の外見から内部、建築物の内部構造把握といったプロトタイプ設計を仮想体験を通して作り込んでいくことができる。柿澤氏は例として、オリンピック会場を建造する際に注意が必要とされる選手らを映すための最適なカメラ位置、光の加減といったシミュレーションを建物を建てる前にあらかじめ割り出し、設計者がVR HMDを通して確認が行なえるといった活用の場を挙げ、仮想とは言え実際に建物内に入った体験を行なえる点は大きな影響があるとした。

 ただ、現状提供されているIray VRによる仮想体験はリアルタイムレンダリングではなく、プリレンダリングとなっている。昨年にNVIDIAが行なったIrayの説明会ではハンドドリルをIrayでリアルタイムレンダリングする様子をデモして見せたが、建築物や自動車といったマテリアルが豊富なシチュエーションにおいては、リアルタイムレンダリングでVR提供することは難しいという。

Iray VR体験の様子。Quadro P6000搭載マシンにHTC Viveが接続されている
NVIDIAの建設予定という新社屋を体験。プリレンダリングなので歩き回ることはできない

 そのため、NVIDIAが今回のIray VRのデモで披露した一昔前のイギリスの銀行を使ったVR体験では、指定されたいくつかの定点で風景を確認するといった内容になっていた。それでも、VR HMDを通して360度あたりを見回しつつ、時間帯を変えて光りの加減を見るといった操作を行なうことができ、内部構造の確認といった使い方ではそれなりの感触が得られるものだった。おそらく自動車の車内を再現したデモがあれば、そもそも動き回る必要がないので、プリレンダリングであっても十分な体験ができると思われる。ただ、現状のVR HMDの解像度が不足気味であり、デバイスがフォトリアルを表現し切れていないという残念な点が目についてしまった。

 Iray VRのレンダリングにはTesla P100を8基搭載する同社スパコンの「DGX-1」またはQuadro VCAが用いられ、現状ではこの2つの選択肢しかない。また、プリレンダリングと言えども、ビデオメモリは24GB縛りになっており、その映像を見るにはQuadro P6000かM6000を搭載したマシンである必要がある。

Tesla P100を8基搭載する「DGX-1」
「Quadro VCA」の仕様
DGX-1はVCAと比べて、インターコネクトのNVLinkを持っているため、巨大なシーンであるほど性能に違いが出てくる
Iray VRのワークフロー。VCAサポート環境で素材を作り、DGX-1かQuadro VCAでレンダリング。そしてプリレンダリングしたVR映像をQuadro P6000またはM6000のシステムで閲覧する

 柿澤氏は、今日の時点ではこれだけの建造物をVRで作るにはハードルは高いが、今後数年でこういった使い方が増え、マンション内の配管どのようになっているかなど、事細かな部分をも映し出すようになっているだろうとした。

Iray VRは世界初のフォトリアルなVRとしている
1クリックで作成
Cinema4Dで作られた近未来的な医療環境のVRモデル
作成画面
隈研吾建築都市設計事務所がデザインしたフィリピンのホテルのVRモデル
画面はまだ建設されていないNVIDIA新社屋のVRモデル
体験会にはUnreal Engineを開発しているEpic Games日本法人代表の河崎高之氏も登壇。Unreal Engineによる3D CGやアニメーション制作をアピールした
Unreal Engine 4を使ってバンダイナムコらが作成している「Project LayereD」。アニメとゲームで展開される予定で、Unreal Engine 4を使うことでMayaなどのレンダラーを使うよりもトライアンド&エラーなどが早く行なえるとする
NASAのための訓練用コンテンツもUnreal Engine 4作成されたという。これは国際宇宙ステーションでの作業をVR体験できる
既に国内でもUnreal Engineによるゲーム以外でのビジネス展開が進んでいる
会場に設置されていたIray VR体験マシン
マシンはHPの「Z440 Workstation」で、Xeon Et-1680 v3、Quadro P6000を搭載する
Quadro P6000
クーラーがかなりゴツい。メモリ冷却とVRM冷却のためと思われるファンが追加されているのが見える
前面
背面
HTC Vive
Quadro P6000の上部
インターフェイス
Quadro P6000の上部