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Seagateの60TB SSDはNANDフラッシュを1,280枚搭載

~Micron製384Gbit 3D NANDを採用

FMS展示会のSeagateブースに出品された60TBのSSD(試作品)を見に来た来場者

 大手ストレージ装置ベンダーのSeagate Technology(以下Seagate)は、記憶容量が60TBと極めて大きなSSD(Solid State Drive)を試作し、フラッシュメモリに関する世界最大のイベント「Flash Memory Summit(FMS)」の展示会に出品したと8月9日(米国時間)に発表した

 60TB SSDの基本性能はどのようなものか、60TBという極めて大きな記憶容量をどのようにして実現したのか。Seagateの発表リリースにはあまり書かれていなかった。これに対してFMS展示会のブースでは、ある程度は詳しく、大容量化の要素技術を説明していた。説明員との質疑応答から得た情報を加え、60TB SSDの基本性能と要素技術をご報告しよう。

 まずフォームファクタ(外形寸法)は、3.5インチのHDDと互換である。通常のHDD互換SSDのフォームファクタは2.5インチのHDD互換なので、フォームファクタを拡大することで内蔵可能な半導体チップの数を増やしている。

 インターフェイスは12GbpsのSASが2チャンネル。読み書き性能は、シーケンシャル読み出し(128KB単位)が1,500MB/s、シーケンシャル書き込み(128KB単位)が1,000MB/s、ランダム読み出し(4K単位)が150KIOPSであるとする。動作時の平均消費電力は15Wである。

FMS展示会のSeagateブースに出品された60TBのSSD(試作品)。実際に動作しており、筐体の底(金属部分)を指で触るとかなり熱かった

 記憶素子となるNANDフラッシュメモリは、Micron Technology(以下Micron)が供給した。シリコンダイ当たりの記憶容量が384Gbitと極めて大きなNANDフラッシュである。3D NAND技術とTLC(3bit/セル)技術を導入したシリコンダイで、昨年(2015年)12月に半導体デバイスの国際学会「IEDM」で、MicronとIntelが共同で技術内容を公表したシリコンダイと基本的には変わらないとみられる。だとすると、ワード線の積層数は32層、シリコンダイ面積は168.5平方mmである。

 試作した60TB SSDでは、384Gbitの大容量シリコンダイを1,280枚ほど内蔵した。単純計算だと、384Gbit×1,280で480Tbit(60TB)に達する。つまり、そのままの記憶容量であることが分かる。

 当然ながら、1個のNANDフラッシュメモリのパッケージに1枚のシリコンダイを収容していては、3.5インチHDDのフォームファクタには収まりきらない(パッケージの数が1,280個になってしまう)。このため、複数のシリコンダイを1個のパッケージに収容する、マルチダイのパッケージング技術を採用した。

採用した3D NANDフラッシュフラッシュメモリの概要。エンタープライズ用の書き換え寿命とあるのが少し興味深い

 試作したSSDでは、1個のNANDフラッシュパッケージに16枚のシリコンダイを内蔵した(多分積層されている)。この結果、パッケージの数は80個になった。2.5インチの標準的なSSDでは、高密度に詰め込んでも内蔵可能なパッケージは32個くらいであることを考えると、実装設計が嫌になるくらいの多さだ。

 Seagateは、半導体(NANDフラッシュメモリやコントローラLSIなど)を実装するプリント基板を3枚と多くし、プリント基板の両面に半導体パッケージを搭載する構成とした。標準的なSSDのプリント基板が1枚ないしは2枚(1枚はサブ基板)であることを考慮すると、3枚というのはかなり多い。

 3枚のプリント基板の中で、1枚はコントローラLSIを搭載するので、NANDフラッシュの搭載個数が下がる。展示ブースで説明用ディスプレイに表示していた、プリント基板の配線パターン(プリント配線設計ツールの出力画面)から推定すると、2枚のプリント基板は片面に16個ずつ、合計で64個のNANDフラッシュメモリを載せる。残りの1枚はコントローラLSIなどがあるため、片面に8個ずつ、合計で16個のNANDフラッシュメモリを搭載する。このようにして、80個と数多くのNANDフラッシュメモリを収納した。

 3.5インチHDDのフォームファクタだと、高さは25mmほどである(見た目もそのくらい)。内部の実装高さは20mmほどしかない。ここにプリント基板を3枚入れて両面実装すると、プリント基板の片面当たりの実装高さは、単純計算で3mm未満になってしまう(3mmを確保すると3mm×6面イコール18mmで残りが2mmになり、そもそもプリント基板が入らない)。かなりの薄さだ。

実装技術の概要を説明した画面。右側にあるのはプリント基板の配線設計図面。片面に16個のNANDフラッシュメモリ(パッケージ)を搭載していることが分かる

 このほか、RAIDに類似した不良救済技術「RAISE」を載せていることを示していた。既にSeagateのSSD製品に搭載されている技術で、一塊のデータを複数のシリコンダイに冗長性を持たせながら分散して書き込むことで、不良が発生した後で紛失したデータを再構成できる。試作した60TB SSDでは、20カ所を超える不良が発生しても、データを救済できるという。

不良救済技術「RAISE」の説明画面
フラッシュコントローラLSIの概要を説明した画面

 なお説明員によると、搭載したNANDフラッシュメモリは、全て検査済みの完全動作品をMicronからSeagateに納品してもらったという。Micronは384Gbitのシリコンダイの完成品を、少なくとも1,280枚は生産し、パッケージングしてから検査してSeagateに納品したと考えられる。製造工程では、ウェハレベルでの不良はもちろんのこと、パッケージングでも不良は発生する。不良品は検査で見つけて取り除く。3D NANDフラッシュの製造歩留まりがそれほど高くないという業界の情報を考慮すると、Micronの努力は相当なものだったろう。

 試作した60TB SSDは、来年(2017年)には製品になる可能性がある。製品になったとして、価格はどれほどになるだろう。気が遠くなるほど高価であることは、間違いなさそうだ。