やじうまミニレビュー
「Intel Arc A580」ついに発売へ。シリーズ最後のピースの性能やいかに?
2023年10月10日 22:00
2022年9月に発表されて以来、未発売となっていたIntelのデスクトップ向けGPU「Arc A580」が10月13日に発売される。
この発売に先立って、Arc A580を搭載するビデオカードをテストする機会が得られたので、上位モデルであるArc A750やGeForce RTX 4060との比較を通してそのパフォーマンスを確かめてみよう。
1年越しでの発売となるArc Aシリーズの中位モデル
IntelのArc A580は、2022年9月8日に発表されたデスクトップ向けArc Aシリーズ4製品の1つにして、唯一未発売となっていたGPUだ。既に発売されているArc A750の下位モデルで、Xe HPGアーキテクチャに基づいてTSMCのN6プロセスで製造されている。
Arc A580のGPUコアでは、24基のXe-coreが有効化されており、384基のXeベクトルエンジンとXMX AIエンジン、24基のレイ・トレーシング・ユニットが利用できる。また、メディアエンジンはAV1エンコードに対応する。
VRAMには16Gbps動作のGDDR6メモリを8GB搭載しており、GPUコアと256bitのメモリインターフェイスで接続することで512GB/sのメモリ帯域幅を実現した。バスインターフェイスはPCIe 4.0 x16で、消費電力指標のTBPは185W。
【表1】Arc A580の主な仕様 | ||
---|---|---|
GPU | Arc A580 | Arc A750 |
アーキテクチャ | Xe HPG | Xe HPG |
製造プロセス | TSMC N6 | TSMC N6 |
Xe-core | 24基 | 28基 |
レイ・トレーシング・ユニット | 24基 | 28基 |
Xeベクトルエンジン | 384基 | 448基 |
XMX AIエンジン | 384基 | 448基 |
GPUクロック | 1,700MHz | 2,050MHz |
メモリ容量 | 8GB (GDDR6) | 8GB (GDDR6) |
メモリスピード | 16Gbps | 16Gbps |
メモリインターフェイス | 256bit | 256bit |
メモリ帯域幅 | 512GB/s | 512GB/s |
AV1エンコーダ | 搭載 | 搭載 |
PCI Express | PCIe 4.0 x16 | PCIe 4.0 x16 |
消費電力 (TBP) | 185W | 225W |
Arc A580を搭載する「ASRock Arc A580 Challenger 8GB OC」
今回テストするArc A580搭載ビデオカードは、ASRockの「Arc A580 Challenger 8GB OC」。
2.5スロットを占有する大型GPUクーラーを搭載したビデオカードで、基板裏面にはバックプレートも装備している。カードの動作に必要な補助電源コネクタはPCIe 8ピン×2系統で、ブラケット部の画面出力端子はHDMI(1基)とDisplayPort(3基)。
比較GPUとテスト環境
Arc A580の比較用として用意したビデオカードは、上位モデルであるArc A750を搭載する「玄人志向 AR-A750D6-E8GB/DF」と、NVIDIA最新のミドルレンジGPUであるGeForce RTX 4060搭載ビデオカード「MSI GeForce RTX 4060 VENTUS 2X BLACK 8G OC」。
各ビデオカードのテスト時動作仕様と、GPUドライバについては以下の表の通り。
【表2】各ビデオカードの動作仕様 | |||
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GPU | Arc A580 | Arc A750 | GeForce RTX 4060 |
ビデオカードベンダー | ASRock | 玄人志向 | MSI |
製品型番 | Arc A580 Challenger 8GB OC | AR-A750D6-E8GB/DF | GeForce RTX 4060 VENTUS 2X BLACK 8G OC |
ベースクロック | 1,700MHz | 2,050MHz | 1,830MHz |
ブーストクロック | ─ | ─ | 2,490MHz |
メモリ容量 | 8GB (GDDR6) | 8GB (GDDR6) | 8GB (GDDR6) |
メモリスピード | 16Gbps | 16Gbps | 17Gbps |
メモリインターフェイス | 256bit | 256bit | 128bit |
メモリ帯域幅 | 512GB/s | 512GB/s | 272GB/s |
PCI Express | PCIe 4.0 x16 | PCIe 4.0 x16 | PCIe 4.0 x8 |
Power Limit | 150W | 180W | 115W |
温度リミット | 90℃ | 90℃ | 83℃ |
Resizable BAR | 有効 | 有効 | 有効 |
GPUドライバ | 31.0.101.4830 | 31.0.10.4826 | GRD 537.42 (31.0.15.3742) |
ビデオカードを搭載するベース機材には、Core i9-13900Kを搭載したIntel Z790環境を用意した。
なお、今回はIntel Arc Aシリーズの省電力機能を有効化するために、ASPMを有効化した上でWindowsの電源管理設定にて「PCI Express/リンク状態の電源管理」を最大限の省電力に設定している。そのほかの機材については以下の通り。
【表3】テスト機材 | |
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CPU | Core i9-13900K (8P+16Eコア/32スレッド) |
CPUパワーリミット | PL1=PL2=253W、TjMAX=100℃ |
CPUクーラー | ADATA XPG LEVANTE 360 ARGB (ファンスピード=100%) |
マザーボード | ASRock Z790 Steel Legend WIFI [BIOS=10.08] |
メモリ | DDR5-4800 16GB×2 (2ch、39-39-39-76、1.1V) |
システム用SSD | KIOXIA EXCERIA PRO 1TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4) |
アプリケーション用SSD | CFD CSSD-M2B2TPG3VNF 2TB (NVMe SSD/USB 10Gbps) |
電源 | 玄人志向 KRPW-PA1200W/92+ (1200W/80PLUS Platinum) |
OS | Windows 11 Pro 22H2 (build 22621.2361、VBS有効) |
電源プラン | バランス、PCIeリンク状態の電源管理「最大限の省電力」 |
計測 | ラトックシステム RS-BTWATTCH2 |
室温 | 約27℃ |
ベンチマーク結果
今回実施したベンチマークテストは、「3DMark」、「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」、「STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール」、「エーペックスレジェンズ」、「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」、「Blender Benchmark」。
3DMark「Speed Way」
3DMarkのDirectX 12 Ultimateテスト「Speed Way」では、Arc A580がArc A750を約10%、GeForce RTX 4060を約18%下回った。
比較製品中最下位という結果ではあるが、GPUのグレードを考えればこのあたりが妥当なところだろう。
3DMark「Port Royal」
3DMarkのDirectX Raytracing(DXR)テスト「Port Royal」では、Arc A580がArc A750を約13%、GeForce RTX 4060を約5%下回った。
順位としてはSpeed Way同様Arc A580は最下位となっているが、全体ベストはArc A750となっており、Arc A580は上位のArc A750よりGeForce RTX 4060に近い性能を発揮しているのは興味深い。
3DMark「Solar Bay」
3DMarkの「Solar Bay」は、グラフィックスAPI「Vulkan 1.1」によるハードウェアレイトレーシングを取り入れたテストだ。
Solar Bayにおいて、Arc A580はArc A750を約13%、GeForce RTX 4060を約20%下回った。
3DMark「Time Spy」
3DMarkのDirectX 12テスト「Time Spy」において、Arc A580はArc A750を約11%下回る一方で、GeForce RTX 4060を2~6%上回った。
3DMark「Fire Strike」
3DMarkのDirectX 11テスト「Fire Strike」において、Arc A580はArc A750を7~11%下回った。
GeForce RTX 4060に対しては、比較的負荷の軽い無印Fire Strikeと同Extremeでは4~5%下回ったものの、4K解像度で実行されるFire Strike UltraではGeForce RTX 4060を約1%という僅差ながら上回った。
3DMark「Wild Life」
3DMarkのVulkanテスト「Wild Life」において、Arc A580はArc A750を約13%下回る一方で、GeForce RTX 4060を1~10%上回った。
3DMark「DirectX Raytracing feature test」
DXRによるレイトレーシング性能の計測に特化した3DMark「DirectX Raytracing feature test」において、Arc A580がArc A750を約16%、GeForce RTX 4060を約8%下回った。
ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク
ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマークでは、描画品質を「最高品質」に設定して、フルHD/WQHD/4Kの3解像度でテストを実行した。
このテストにおいてArc A580は比較製品中最下位となっており、Arc A750を6~10%、GeForce RTX 4060を13~22%下回った。
STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール
STREET FIGHTER 6 ベンチマークツールでは、画質プリセットを「HIGHEST」に設定して、フルHD/WQHD/4Kの3解像度でテストを実行した。上限フレームレートはFIGHTING GROUNDが60fpsで、BATTLE HUBとWORLD TOURが120fps。
メインコンテンツにして上限60fpsのFIGHTING GROUNDでは、フルHDとWQHDで比較製品すべてが上限60fpsの維持に成功しており差はついていない。4Kでは逆にすべてのGPUが60fpsを割り込んでおり、Arc A580はArc A750を約7%、GeForce RTX 4060を約10%下回った。
上限120fpsのBATTLE HUBとWORLD TOURではすべてのGPUが上限フレームレートを割り込んでいる。BATTLE HUBにおいてArc A580はArc A750を3~12%、GeForce RTX 4060を8~18%下回った。WORLD TOURではArc A580がArc A750を9~11%、GeForce RTX 4060を16~19%下回った。
エーペックスレジェンズ
エーペックスレジェンズでは、描画設定を可能な限り高く設定して、フルHD/WQHD/4Kの3解像度でフレームレートを計測した。テスト時の上限フレームレートは300fps。
Arc A580の平均フレームレートはフルHDで約167.6fps、WQHDで約126.7fps、4Kで約71.9fpsとなっており、いずれの解像度でもプレイ可能なパフォーマンスは得られている。他のGPUとの比較では、Arc A750を7~13%、GeForce RTX 4060を19~21%下回った。
ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON
ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICONでは、画質設定を「最高」に設定して、フルHD/WQHD/4Kの3解像度でフレームレートを計測した。テスト時の上限フレームレートは120fps。
Arc A580の平均フレームレートはフルHDで約80.7fps、WQHDで約65.3fps、4Kで約41.0fps。最高画質設定での4K解像度は厳しいが、WQHD以下であれば60fpsを上回っているのでおおむね快適にプレイ可能だ。他のGPUとの比較では、Arc A750を5~9%、GeForce RTX 4060を13~27%下回った。
システムの消費電力とワットパフォーマンス
次のグラフは、ワットチェッカーを使って各GPUを搭載したシステムの消費電力を計測して結果をまとめたもの。アイドル時消費電力は最低値、ベンチマーク実行中は平均値と最大値をまとめている。
もっとも低いアイドル時消費電力はGeForce RTX 4060の55.1Wで、Arc A580はそれより約10W高い65.3Wで全体2番手。これは、もっとも高かった72.0WのArc A750より7W弱低い数値だ。
ベンチマーク実行中のArc A580が記録した平均消費電力は267.9~335.2W。これは全体ベストのGeForce RTX 4060(192.9~250.0W)と、ワーストのArc A750(328.7~399.8W)に挟まれた全体2番手の数値となっている。
次のグラフは、ベンチマーク実行中のシステム平均消費電力でベンチマークスコアを割ることによって「ワットパフォーマンス」を算出したもの。また、Arc A750搭載システムのワットパフォーマンスを基準に指数化したグラフも用意した。
Arc A580搭載システムのワットパフォーマンスは、Arc A750搭載システムを7~10%上回る一方、Arc A750搭載システムを32~80%と大きく上回るGeForce RTX 4060との間には大差をつけられている。
なお、システム消費電力で算出したワットパフォーマンスには、単なるGPU消費電力のほかにビデオカード上に実装されているVRMの電力効率なども影響する。この程度の差しかついていない様子を見ると、ASRock Arc A580 Challenger 8GB OCが玄人志向 AR-A750D6-E8GB/DFより電力効率が高いことは確かだろうが、Arc A580がArc A750より電力効率に優れたGPUといえるほどの結果ではない。
価格次第では面白いかもしれないArc A580
Arc A580は、WQHD/1440p以下の解像度ならそれなりの画質でゲームを楽しめる実力を備えており、価格次第ではエントリーゲーマー向けGPUとして存在感を発揮できる可能性を秘めている。AV1のハードウェアエンコードに対応しているという点も、AMDやNVIDIAの旧世代GPUに対するアドバンテージになり得る。
もっとも、Arc A580にとって最大のライバルとなりそうなのは上位GPUのArc A750だろう。記事執筆時点ではArc A750搭載ビデオカードが3万円台で入手可能であり、Arc A580はこれらに対してコスト面での優位性を示す必要がある。もしそれが可能であるのなら、予算を節約したいゲーマーにとってArc A580は魅力的な存在となるだろう。