やじうまミニレビュー
iPad ProをノートPC化する「Magic Keyboard」はタブレットとの両用には難あり?
~キーボードの打鍵感は良好でトラックパッドも快適
2020年5月2日 11:00
Appleは、2018年および2020年モデルの11インチ/12.9インチiPad Proに対応したトラックパッドつきキーボードカバー「Magic Keyboard」を3月18日に発表、4月15日に予約開始、4月20日着で配送を開始した。当初は5月発売予定だったので、大幅に販売が前倒しされたことになる。これはApple製品として異例なことだ。
最初に結論じみたことをお伝えしておくと、iPad Pro用のMagic Keyboardは、従来のキーボードカバー「Smart Keyboard Folio」や、Surfaceシリーズの「タイプカバー」とはまったく毛色の違う製品だ。なぜなら装着したままタブレットスタイルで利用できないからだ。率直に言って、Magic Keyboardは万人向けの製品ではないと考えている。
さて今回は個人的に購入した12.9インチiPad Pro用Magic Keyboardでレビューを行なう。入手してから約10日が経過しているが、そのぶん日常的に使ったうえで気づいたことを盛り込んだレビューにしている。
公式に開示されているスペックは最小限
Magic Keyboardには、「11インチiPad Pro(第2世代)用Magic Keyboard - 日本語」と「12.9インチiPad Pro(第4世代)用Magic Keyboard - 日本語」の2種類が存在する。製品名では「第2世代」、「第4世代」と記載されているが、第1世代11インチ、第3世代12.9インチiPad Proでも利用可能。なお日本のApple Storeでは日本語以外に英語(UK)、中国語(注音)、中国語(拼音)、韓国語、英語(US)、スペイン語なども購入可能だ。
Magic Keyboardは、製品公式サイト、製品販売ページ、ニュースリリースのいずれを見ても、細かなスペックが記載されていない。掲載されているのは下記の項目のみだ。
- 対応モデル
- シザー構造のキーを採用
- キーボードバックライトを内蔵
- 1mmのキーストローク
- トラックパッドがマルチタッチジェスチャーに対応
- 画面を見やすい角度に調整可能
- iPad Proを充電できるUSB Type-Cポートを装備
- 前面と背面をカバー可能
Microsoftのタイプカバーは技術仕様にサイズと重量が掲載されている。持ち運んで使用するMagic Keyboardでサイズ、重量が記載されていない点は少々不親切だと思う。
公開されていない各種スペックをチェック
ここからは公開されていない各種スペックを確認していこう。ただし一般向けの計測機器などを使っているため、多少誤差がある点はご容赦いただきたい。
第3世代12.9インチiPad ProにMagic Keyboardを装着した状態の本体サイズは実測約280×228×15mm(幅×奥行き×高さ)、重量は実測約1,348g。ちなみにMagic Keyboard単体の実測重量は約705gで、Smart Keyboard Folio単体が実測約406gなので、その差は約299gということになる。
13.3インチで700gを切るノートPCも存在しているが、個人的には2in1 PCカテゴリに含まれる12.9インチiPad Pro&Magic Keyboardで実測約1,348gというのは許容範囲だ。ナップサックなどに入れれば、毎日持ち歩いてもとくにストレスは感じないと思う。
キーボードのキーピッチは実測19mm前後、キーストロークは公称1mm。つまり12.9インチiPad Pro用Magic Keyboardはフルサイズクラスのキーボードを搭載していることになる。今回入手していないが11インチiPad Pro用Magic Keyboardは、左右のキー幅が狭められている。変則的なキー配列が苦手な方は12.9インチ用を購入したほうがいい。
なお、12.9インチiPad Pro用Smart Keyboard Folioのキーピッチは実測19mm前後、キーストロークは実測0.8mm前後だった。Magic Keyboardは打鍵感の向上が謳われているが、キーストロークよりもシザー式のキーに採用されているキーキャップ、シザーメカニズム、ラバードームの構造や材質が効果を発揮しているものと思われる。
これはちょっと細かすぎる違いだが、Magic KeyboardとSmart Keyboard Folioの背面カバーのヒンジ上側に内蔵されている磁石の数をマグネットシートで確認してみたところ、Magic Keyboardは108個、Smart Keyboard Folioは99個配置されていた。いくつか位置も変更されている。おそらく、iPad Proを浮かした状態でもしっかりと固定するために、磁石の数を増やしたものと思われる。
キーボードとしての使い勝手は◎、カバーとしては△
さてキーボードとしての使い勝手は、Magic KeyboardがSmart Keyboard Folioより大きく向上したことは間違いない。もっとも大きな違いは底打ちしたときの打鍵感。Smart Keyboard Folioはテーブルを直接叩いているようなショックが指先に響くが、Magic Keyboardは衝撃を和らげてくれる。長時間タイピングするほどその恩恵と受けるはずだ。
ただし、同じくシザー構造のキーボードを採用した16インチMacBook ProやMacBook Airと同じかというと、そのレベルには達していない。具体的な構造は不明だが薄いキーボードカバーに収めるために、設計が異なるのだろう。打ち比べていると、16インチMacBook Proや新型MacBook Airのほうが打鍵感は上質で、打鍵音も低めに抑えられている。Magic Keyboardのフィーリングに過度な期待は禁物だ。
ダイビングボード構造を採用したトラックパッドは実測99×50mm。ストロークは短めでしっかりとしたクリック感が与えられており操作しやすい。面積が狭いのでピンチアウト操作はやや窮屈だが、3本指ジャスチャーなどには支障ない。見た目のイメージより快適なトラックパッドに仕上げられている。
本体を浮かせて固定し、角度を無段階で調整できる「フローティングカンチレバー」機構も便利だ。無段階で角度を変えることで照明などの反射を避けられる。また、ディスプレイを77度に立てて下部を接地させれば、ディスプレイ上部もフットプリントのなかに収まる。ヒンジのぶんフットプリントは大きくなっているが、飛行機や電車のなかなどの奥行きの狭いテーブルにも設置しやすくなっている。
個人的に不便に感じたのはタブレット端末としての使い勝手が損なわれてしまうこと。たとえばMagic Keyboardに装着した状態では、Apple Pencilで書き込もうとしてもiPad Proの下部が固定されていないため画面が揺れてしまう。注釈程度ならいいが、Magic Keyboardに装着したままイラストなどを描くのは現実的ではない。
また、一般的な2in1 PCのようにキーボードを背面に回せないので、Magic Keyboardを装着した状態でタブレットモードに切り替えられない。つまりタブレット端末として使いたいときにはMagic Keyboardをはずさなければならないわけだ。屋外でMagic Keyboardをはずしたら置き場に困ってしまう。Magic Keyboardを装着したiPad Proは、あくまでも「ノートブック」だと割り切る必要がある。iPad Proをノートブック化するMagic Keyboardは万人向けの製品ではないと思う。
Magic keyboardはiPad Proをノートブック化するための最高のデバイス
iPadは「iPadOS 13.4」でマウスやトラックパッドに正式に対応した。トラックパッドを搭載したMagic Keyboardは、ほぼすべての操作がトラックパッドで可能となり、画面に触れることなくキーボード&トラックパッドで作業が可能となった。Magic keyboardはiPad Proをノートブック化するための最高のデバイスであることは間違いない。
しかし個人的には、Magic Keyboard以外にもトラックパッドつきキーボードの選択肢がほしい。ぜひサードパーティから、iPad Proのマルチタッチジェスチャーに対応したトラックパッドつきキーボードが発売されることに期待したい。