Windows 10ユーザーズ・ワークベンチ

盛りだくさんの新機能追加をチェック

 Build 2016カンファレンスの開催タイミングでは特に新しいビルドは公開されなかったが、その1週間後に公開されたビルド14316では、数々の新機能が追加されている。今回は、そのあらましを見ていくことにしよう。

Xデーは7月29日か!?

 3月30日~4月1日にかけて開催されたMicrosoftのカンファレンス「Build 2016」では、Windows 10の次期メジャーアップデートとして、Aniverssary Updateがこの夏にリリースされることが発表された。夏といっても、どのタイミングになるかは未定だが、Windows 10の最初のリリースが7月29日だということを考えると、その前後ではないかと考えるのが妥当だ。前回のメジャーアップデートは11月のバージョン1511だったので、それよりは少し間が空くことになるかもしれない。

 カンファレンスのタイミングでは新しいビルドは公開されなかったが、新しいWindows 10 SDKが公開された。そして、その受け皿としてのビルドが4月6日公開のビルド14316だ。その前のビルド14295が3月25日だったので、約2週間でのアップデートとなる。

 センセーショナルな話題になったのは、Ubuntuがネイティブサポートされ、Bashが動くようになったことだ。サブシステム「Windows Subsysstem for Linux(WSL)」としてUbuntuがユーザーモードで動き、そこでシェルとしてのBashを使うことができる。

 インストールは、設定の「更新とセキュリティ」の「開発者向け」で、開発者モードにした上で、コントロールパネルの「Windowsの機能の有効かまたは無効化」で「Windows Subsystem for Linux (Beta)」を有効にする。

 その後再起動すると、スタートメニューには「Bash on Ubuntu on Windows」がプログラムとして追加され、その実行によってコマンドプロンプトがrootとして開く。あるいは、通常のコマンドプロンプトでbashコマンドを実行することもできる。

 Windowsのファイルシステムは、/mnt/cとしてマウントされていて、Windowsにサインインしているアカウントの権限でファイルを操作することができる。sedやawk、grepといったお馴染みのツールはもちろん、RubyやGit、Pythonなども動く。

 もし、標準で含まれないコマンドを実行した場合は、パッケージが検索され、apt-get installでパッケージをインストールすることができる。例えばテキストエディタなら、viについてはvimが標準で含まれているが、emacsを実行すると、複数個のパッケージが検索され、どれをインストールするかが促される。

 ベータであることから完全なものではない点でスクリプトなどが完全に動くとは限らないし、また開発者のためのツールセットであり、さらにサーバープラットフォームではないため、間違ってもWebサイトを運用するようなことのないようにといった注意が促されている。

 また、このLinuxはWindowsアプリやツールとの対話ができない点にも留意したい。例としてWindowsのクリップボードなども使えない。ただ、bashで作成したファイルは、瞬時にWindowsのエクスプローラで表示された。

 実際に使ってみたところ、Ctrl+Zで実行中のコマンドをバックグラウンドに回すようなことも普通にできた。参考までに、/binにおかれた標準コマンドのlsの結果を挙げておこう。

標準コマンド一覧
bashbunzip2busyboxbzcat
bzcmpbzdiffbzegrepbzexe
bzfgrepbzgrepbzip2bzip2recover
bzlessbzmorecatchgrp
chmodchownchvtcp
cpiodashdatedbus-cleanup-sockets
dbus-daemondbus-uuidgendddf
dirdmesgdnsdomainnamedomainname
dumpkeysechoedegrep
falsefgconsolefgrepfindmnt
fuserfusermountgrepgunzip
gzexegziphostnameip
kbd_modekillkmodless
lessecholessfilelesskeylesspipe
lnloadkeysloginloginctl
lowntfs-3glslsblklsmod
mkdirmknodmktempmore
mountmountpointmtmt-gnu
mvnanoncnc.openbsd
netcatnetstatnisdomainnamentfs-3g
ntfs-3g.probentfs-3g.secauditntfs-3g.usermapntfscat
ntfsckntfsclusterntfscmpntfsdump_logfile
ntfsfixntfsinfontfslsntfsmftalloc
ntfsmoventfstruncatentfswipeopen
openvtpidofpingping6
plymouthplymouth-upstart-bridgepspwd
rbashreadlinkredrm
rmdirrnanorunning-in-containerrun-parts
sedsetfontsetupconsh
sh.distribsleepssstatic-sh
sttysusynctailf
tartempfiletouchtrue
udevadmulockmgr_serverumountuname
uncompressunicode_startvdirwhich
whiptailypdomainnamezcatzcmp
zdiffzegrepzfgrepzforce
zgrepzlesszmoreznew
Bashのインストールには、開発者モードにしておく必要がある。
bashは、Windowsの機能としてWindows Subsystem for Linux(Beta)をインストールする。
スタートメニューのすべてのプログラムに登録されたBash on Ubuntu on Windows。
コマンドプロンプトに似ているが、実際にはrootとしてUbuntuにログインしている。

Windows 10 PCを拡張ディスプレイとして使える

 個人的に今回の新機能追加でもっとも嬉しかったのは、新しい「接続アプリ」によって、Continuumの受信機としてWindowsを使えるようになったことだ。その部分が強くアピールされているが、実際にはMiracastの受信機能が標準でサポートされるようになったということで、実に汎用性の高い新機能となっている。

 これによって、Miracastアダプタや専用ドックなどを使わずに、ワイヤレスアダプタを持つPC同士で片方を送信側、片方を受信側として設定することができる。つまり、ノートPCとタブレットPCがあれば、片方をもう片方のセカンダリディスプレイとして使えるわけだ。これがOSの標準機能だけでできるようになったのは大きい。もちろんノートPCを2台でも構わない。

 受信側は、スタートメニューのすべてのアプリに追加された「接続」アプリを開くだけでいい。このアプリはUWPで、フルスクリーンはもちろん、ウィンドウ状態でも実行できる。接続アプリは用意ができた旨を表示し、別のPCから接続されるのを待機する。

 ケーブルを接続するように、またタッチスクリーンを使うにはUSBケーブルが必要といった表示があるが、これは不具合とのことで、実際にはワイヤレスのみで完結する。逆に、有線LANでは機能しない。

 一方送信側は、従来のようにアクションメニューから「接続」を使ってワイヤレスディスプレイを探し、受信側として待機するもう一台のPCを見つけて接続する。接続時に「Allow input from a keyboard or mouse connected to this display」をチェックしておくことで、受信側がタッチに対応していれば、タッチ操作で受信している画面を操作できるし、キーボードやマウスでの操作も可能だ。ただし、受信側はマウスとキーボードについては表示中の受信画面以外を操作できなくなってしまう。タッチだけは例外で、受信画面以外の操作ができる点にちょっと違和感がある。この辺りの仕様は今後変わる可能性があると考えてよさそうだ。

 実際に使ってみたところ、「接続」アプリを実行する受信側の環境が、カスタムの拡大率を使っているとうまくいかないようだ。一旦接続すると、通常のマルチディスプレイ環境のように、拡張/複製/セカンドスクリーンのみといった切り替えができる。

 Miracastそのものなので、画面情報はP2Pで伝送されるWi-Fi Directだ。従って、受信側と送信側が同じLAN内にいる必要もないし、必要がなければインターネット接続も不要だ。手元の環境では、AndroidスマートフォンからのMiracastも伝送でき、スマートフォンの画面をPCのデスクトップに常時表示させておくような用途にも使えるかもしれない。もちろん、Windows 10 MobileのContinuumでも有効に活かせるだろう。

 ただし、遅延は発生する。今後、この遅延がより少なくなるのかどうかは分からない。スクロールなどではさほど気にならないのだが、送信側のマウスを使って受信側を操作しようとした時には、マウスカーソルの動きがギクシャクして結構なストレスを感じるかもしれない。さらに、頻繁に切断されてしまう点なども覚悟して欲しい。それでも、こうした機能がサポートされたことは高く評価したい。Aniverssary Updateに向けてより洗練されたものになっていって欲しいと思う。

 ちなみにこの受信機能、以前、日本マイクロソフトのエバンジェリストにリクエストしたところ、そんなニーズはゼロだと言われたのを覚えている。それでも海の向こうではきちんと作っていてくれたのかと思うと、ちょっと嬉しい。

受信側で接続アプリを実行し待機状態にさせる。ケーブルが必要と表示されているが、実際にはワイヤレスのみで機能する。
送信側でアクションセンターで「接続」を実行すると、受信準備ができているデバイスが表示される。ここでは syosurface3がそれ。
一旦繋がれば、モードやキーボード、マウスの扱いについて指定できる。切断もここで指示する。

英語表記の目立つ新機能

 今回のビルドでは、これらのほかにも多くの機能が追加されている。

 例えば、アクションセンターの通知について、アプリケーションごとの優先順位を3段階で指定することができるようになった。通知が煩わしく感じる場合に、通知を完全にオフにするだけではなく、「上」(Priorityの訳語らしい)、「High」、「Normal」の3段階で指定できるようになり、通知をより便利なものにすることができる。

 ダークテーマが追加されてもいる。こちらは、設定の「個人用設定」の「色」で指定する。モードは「白」と「黒」の2種類から選ぶ。英語版では「dark」と「light」なので、ここは「明」と「暗」か、素直に「ダーク」、「ライト」とすべきではないかと思う。ここでモードを切り替えると、独自に色を制御しているアプリ以外はそのモードにしたがってムードを変える。

 仮想デスクトップにも手が入った。実行中のアプリについて、「ウィンドウをすべての仮想デスクトップに表示」、「アプリをすべての仮想デスクトップ」に表示を指定できるようになった。つまり、ウィンドウやアプリのピン留め的な機能だ。複数の仮想デスクトップを使っている時にも、メッセージング系のウィンドウだけはいつも開いてデスクトップに配置しておきたいとか、音楽再生のミニプレーヤーをいつも表示させておきたいといった時に使うと便利かもしれない。仮想デスクトップのビュー画面で、目的のウィンドウを右クリックし、そのショートカットメニューから設定する。

 さらに、Windows Updateが適用される時間をコントロールすることができるようになった。こちらは、設定の「更新とセキュリティ」の「Windows Update」で、「Change active hours」として設定する。デフォルトでは8~17時がアクティブな時間になっているが、それをもっと遅い時間まで延長しておけば、残業中にWindows Updateで処理が重くなるようなことを回避できる。また、現時点で再起動のオプションの設定ができなくなっている。これは最終的にはActive Hoursと統合されるのかもしれない。

 これらの新機能には、まだ英語表記が目立つ。日本語化作業が少し滞っているのだろうか。

ダークモードが追加されている。白と黒という訳語がついているが黒がダーク。
ダークモードにすると設定画面もダークなムードになる。
通知には3段階の優先順位をつけられるようになった。
Active Hoursを自由に指定できるようになった。これで残業中に邪魔されることもなくなるはず。

「忍」という字を待ちながら

 一方、Microsoftが強く推進しているUWPアプリだが、新ビルドには、「Skype UWP Preview」が含まれている。また4月11日には、FacebookのMessengerが一部のテスター向けに配布されている。

 これらのUWPアプリだが、共通する不具合として、日本語キーボードを使っていて、ほかのアプリでは正常に認識されているにもかかわらず、UWPアプリではUSレイアウトと見なされてしまう。Previewステータスのアプリのみならず、メールやストアといった標準アプリでも同様の現象を確認できる。また、タイミングによって日本語IMEからの日本語入力がフリーズしてしまい、アプリを終了させるしかない状況にも頻繁に遭遇する。

 IMEについては、手元の環境では通常の使用においても、まったくオンにできない状態になり、再起動するしかないことも頻繁に起こっている。

 Windowsはサードパーティに対して、入力周辺を開放していない。これはアプリ開発者の責任ではどうしようもできないWindows 10 SDKの不具合か、Windows 10そのものの不具合だと予想される。セキュリティ的にそのポリシーを通すことの是非は別の議論であるとして、開放しないのなら、余計にこのあたりはシビアにチェックして欲しいと思う。

 MessengerアプリのUWP対応は待望のものだっただけに、これらの不具合はもちろん、そのいわゆる中華フォント表示などには失望してしまう。「忍」という文字が正しく表示されるまでは、耐え忍ばなければならないようだ。

リリースされたばかりのfacebook messengerのUWPアプリ。山田祥平の文字が正しくないのが分かる。これが治るまでは忍ぶしかない。

(山田 祥平)