笠原一輝のユビキタス情報局
「Surface Pro 4」ファーストインプレッション
(2015/11/20 13:11)
日本マイクロソフトが、「Surface Pro 4」を発売してから1週間が経過した。既に入手されているユーザーも多いと思うが、筆者も実機を触る機会を得たので、その最初のインプレッションをお届けしたい。
Surface Pro 4のフットプリントは「Surface Pro 3」と同じであるため、単なるマイナーバージョンアップと思われがちだが、実際にはキーボード、ポインティングデバイス、そしてペンという、クリエイティブ系のユーザー、そして生産性向上を目指すビジネスユーザーにとって使い勝手に直結する部分が大きく改善されており、Surface Proシリーズの使い勝手を1段階引き上げる高い完成度を持った2-in-1デバイスに仕上がっている。
フットプリントはSurface Pro 3とほぼ同じだが、さらなる薄型化を実現
今回のSurface Pro 4がどのような製品であるかを理解するためには、ある程度これまでのSurface Proシリーズがどのような製品だったかを知っておく必要がある。図1は、縦軸が価格、横軸が時間軸にしてSurfaceシリーズ製品の歴史を図にしたものだ。
Surface RT | Surface 2 | Surface 3 | ||
---|---|---|---|---|
SoC | ブランド | NVIDIA Tegra 3 | NVIDIA Tegra 4 | Atom X7 |
CPU ISA | ARMv7 | ARMv7 | IA(Intel64) | |
CPUコア | Cortex-A9(4コア) | Cortex-A15(4コア) | Airmont(4コア) | |
GPU | Tegra GPU | Tegra GPU | Intel GMA Gen8 | |
EU | - | - | 16 | |
メモリ | 2GB | 2GB | 2/4GB | |
ストレージ | 種類 | eMMC | eMMC | eMMC |
容量 | 32/64GB | 32/64GB | 64/128GB | |
ディスプレイ | サイズ | 10.6型 | 10.6型 | 10.8型 |
解像度 | 1,366×768ドット | 1,920×1,080ドット | 1,920×1,280ドット | |
デジタイザーペン | - | - | オプション(N-Trig)/256段階 | |
無線 | Wi-Fi/BT | IEEE 802.11n/BT4 | IEEE 802.11n/BT4 | IEEE 802.11ac/BT4 |
WANオプション | - | LTE(バンド3/7/20) | LTE | |
カメラ | 前面 | 720p HD | 350万画素 | 350万画素 |
背面 | 720p HD | 500万画素 | 800万画素 | |
センサー | 光センサー | ○ | ○ | ○ |
加速度センサー | ○ | ○ | ○ | |
ジャイロスコープ | ○ | ○ | ○ | |
近接センサー | - | ○ | ○ | |
電子コンパス | ○ | ○ | ○ | |
GPS | - | △(LTEモデルのみ) | △(LTEモデルのみ) | |
ポート | USB 端子 | USB 2.0(フルサイズ) | USB 3.0(フルサイズ) | USB 3.0(フルサイズ) |
ディスプレイ出力 | Micro HDMI | Micro HDMI | Mini DP | |
カードスロット | microSDXC | microSDXC | microSDXC | |
オーディオ端子 | ヘッドフォンジャック | ヘッドフォンジャック | ヘッドフォンジャック | |
TPM | 内蔵 | 内蔵 | TPM2.0 | |
バッテリ | 約8時間 | 約10時間 | 約10時間 | |
ACアダプタ | 専用 | 専用 | Micro USB | |
キックスタンド | 1段階 | 2段階 | 3段階 | |
サイズ | 275×173×8.9mm | 275×173×8.9mm | 267×187×8.7 mm | |
重量 | 約680g | 約680g | 約622g | |
OS | Windows RT | Windows RT | Windows 8.1 | |
Office | Office 2013 RT | Office 2013 RT | Office Premium+Office 365サービス | |
米国での発表時期 | 2012年10月 | 2013年9月 | 2015年3月 | |
発表時の米国での価格 | 499ドル~ | 399ドル~ | 499ドル~ |
Surface Pro | Surface Pro 2 | Surface Pro 3 | Surface Pro 4 | ||
---|---|---|---|---|---|
SoC | ブランド | 第3世代Coreプロセッサ | 第4世代Coreプロセッサ | 第4世代Coreプロセッサ | 第6世代Coreプロセッサ |
CPU ISA | IA(Intel64) | IA(Intel64) | IA(Intel64) | IA(Intel64) | |
CPUコア | Ivy Bridge(2コア) | Haswell(2コア) | Haswell(2コア) | Skylake(2コア) | |
GPU | Intel GMA Gen7 | Intel GMA Gen7.5 | Intel GMA Gen7.5 | Intel GMA Gen9 | |
EU | 16 | 20/40 | 20/40 | 24/48 | |
メモリ | 4/8GB | 4/8GB | 4/8GB | 4/8/16GB | |
ストレージ | 種類 | SSD | SSD | SSD | SSD |
容量 | 64/128GB | 64/128/256/512GB | 64/128/256/512GB | 128/256/512GB/1TB | |
ディスプレイ | サイズ | 10.6型 | 10.6型 | 12型 | 12.3型 |
解像度 | 1,920×1,080ドット | 1,920×1,080ドット | 2,160×1,440ドット | 2,736×1,824ドット | |
デジタイザペン | 標準添付(ワコム)/1,024段階 | 標準添付(ワコム)/1,024段階 | 標準添付(N-Trig)/256段階 | 標準添付(N-Trig)/1,024段階 | |
無線 | Wi-Fi/BT | IEEE 802.11n/BT4 | IEEE 802.11n/BT4 | IEEE 802.11ac/BT4 | IEEE 802.11ac/BT4 |
WANオプション | - | - | - | - | |
カメラ | 前面 | 720p HD | 720p HD | 500万画素 | 500万画素 |
背面 | 720p HD | 720p HD | 800万画素 | 800万画素 | |
センサー | 光センサー | ○ | ○ | ○ | ○ |
加速度センサー | ○ | ○ | ○ | ○ | |
ジャイロスコープ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
近接センサー | - | - | - | - | |
電子コンパス | ○ | ○ | ○ | ○ | |
GPS | - | - | - | - | |
ポート | USB 端子 | USB 3.0(フルサイズ) | USB 3.0(フルサイズ) | USB 3.0(フルサイズ) | USB 3.0(フルサイズ) |
ディスプレイ出力 | Mini DP | Mini DP | Mini DP | Mini DP | |
カードスロット | microSDXC | microSDXC | microSDXC | microSDXC | |
オーディオ端子 | ヘッドフォンジャック | ヘッドフォンジャック | ヘッドフォンジャック | ヘッドフォンジャック | |
TPM | TPM1.2 | TPM1.2 | TPM2.0 | TPM2.0 | |
バッテリ | 非公表(42Wh) | 非公表(42Wh) | 約9時間(42Wh) | 約9時間 | |
ACアダプタ | 専用 | 専用 | 専用 | 専用 | |
キックスタンド | 1段階 | 2段階(24/40度) | 無段階(0~150度) | 無段階(0~150度) | |
サイズ | 275×173 ×13.46 mm | 275×173×13.5 mm | 292×201.3×9.1mm | 292.1×201.4×8.4mm | |
重量 | 約907g | 約907g | 約800g | 約786g | |
OS | Windows 8 Pro | Windows 8.1 Pro | Windows 8.1 Pro | Windows 10 Pro | |
Office | Office 2013 | Office 2013 | Office 2013ないしはOffice Premium+Office 365サービス | Office Premium+Office 365サービス | |
米国での発表時期 | 2012年10月 | 2013年9月 | 2014年5月 | 2015年10月 | |
発表時の米国での価格 | 899ドル~ | 899ドル~ | 799ドル~ | 899ドル~ |
Surfaceは、大きく分けると3つの製品群に整理できる。1つ目はProが付かない499ドルからの価格帯となる無印Surfaceのラインで、「Surface RT」、「Surface 2」、「Surface 3」と進化してきている。2つ目が899ドルからの価格帯のSurface Proのラインで、「Surface Pro」、「Surface Pro 2」、Surface Pro 3と進化してきており、Surface Pro 4はその4つ目の製品ということになる。そして、10月発表されたばかりの製品がSurface Bookで、こちらは新しいクラムシェルの製品群となり価格帯は1,499ドルからというプレミアム製品となる。
図1で示したように、クラムシェル型で別系統の製品となるSurface Bookは考慮しないとすれば、Surface/Surface Proシリーズは、製品のフットプリント(縦横のサイズ)で見ると、3つのグループに分類される。1つは、2012年に最初のSurface RT/Surface Proで採用された275×173mmというサイズだ。このサイズの製品は、翌年に発売されているSurface 2/Surface Pro 2でも維持されている。
そして、昨年(2014年)登場したSurface Pro 3で採用されたのが、292×201mmというサイズの大きさで、今回登場したSurface Pro 4でもそのサイズは(ほぼ)維持されている。よってMicrosoftの製品計画は、2年に一度筐体をリフレッシュし、1年に一度はマイナーバージョンアップを施す。いわゆるチックタックのビジネスモデルだ。ただ、今回のSurface Pro 4ではフットプリントこそ同じだが、厚さは9.1mmから8.4mmへと薄型化が実現されている。より小型のSurface 3が8.7mmであることを考えれば、十分賞賛に値する。
こうした2年に一度の完全なリフレッシュを行なうメリットは、周辺機器を使い回せるという点にある。実際、今回のSurface Pro 4は、ACアダプタ、キーボード、ペンなど、Surface Pro 3の周辺機器をほとんどそのまま使い回すことができる。
Surface 3 | Surface Pro 3 | Surface Pro 4 | |
---|---|---|---|
タイプカバー(Surface 3) | ○ | - | - |
タイプカバー(Surface Pro 3) | - | ○ | ○ |
タイプカバー(Surface Pro 4) | - | ○ | ○ |
Surfaceペン(Surface 3/Pro 3世代用) | ○ | ○ | ○ |
Surfaceペン(Surface Pro 4用) | △*1 | △*1 | ○ |
ペン先キット | - | - | ○ |
電源アダプター(36W) | - | ○ | ○ |
電源アダプタ(13W/Micro USB) | ○ | - | - |
Surface 3用ドッキングステーション | ○ | - | - |
Surface Pro 3用ドッキングステーション | - | ○ | △*2 |
Surfaceドック | - | ○ | ○ |
VGAアダプタ(Surface 3/Pro 3世代用) | ○ | ○ | ○ |
VGAアダプタ(Surface Pro 4用) | ○ | ○ | ○ |
HD-AVアダプタ(Surface 3/Pro 3世代用) | ○ | ○ | ○ |
HD-AVアダプタ(Surface Pro 4用) | ○ | ○ | ○ |
*1 筆圧検知256段階、Cortanaおよびマグネット収用には未対応 | |||
*2 Surface Pro 4で利用するにはアダプターが必要 |
なお、今回新たにSurface Dockと呼ばれるドックが用意されたが、従来のようにケースに本体を固定するタイプではなく、ケーブルで本体と接続する形状になっている。このため、本体の角度は自由に調整できるというのが大きな進化点となる。机の上で常にペンで入力に使用したいというユーザーには嬉しい配慮だ。
Core m3、Core i5、Core i7から選択できるCPU、メモリ16GBのモデル設定が嬉しい
フットプリントの観点から見ればマイナーバージョンアップだと述べたが、今回のSurface Pro 4はかなり大規模なマイナーバージョンアップだと言って良い。CPUのアーキテクチャはもとより、液晶ディスプレイはサイズも解像度も上がっており、さらには後述するが入力デバイスが大きく改善されている。言ってみれば、Surface Pro 3の弱点だった部分を潰してより完成度を高めた製品、それがSurface Pro 4だ。
CPUは開発コードネームSkylake(スカイレイク)で知られる、Intelの最新世代CPUとなる第6世代Coreプロセッサが採用されている。前世代となるSurface Pro 3には、22nmプロセスルールで製造される第4世代Coreプロセッサ(Haswell)が採用されていたので、14nmプロセスルールへとSkylakeを採用したことで性能は向上しつつも、アクティブ時の消費電力が減っていることが大きな特徴になる。
一般消費者向けモデル | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
型番 | SU3-00014 | CR5-00014 | CR3-00014 | CQ9-00014 | TH2-00014 | TH4-00014 |
CPU | Core m3 | Core i5 | Core i5 | Core i7 | Core i7 | Core i7 |
メモリ | 4GB | 4GB | 8GB | 8GB | 16GB | 16GB |
ストレージ | 128GB | 128GB | 256GB | 256GB | 256GB | 512GB |
Office | Office Home & Business Premium プラス Office 365 サービス | |||||
重量 | 766g | 786g | ||||
参考価格(税抜き) | 124,800円 | 139,800円 | 179,800円 | 214,800円 | 239,800円 | 289,800円 |
法人向けモデル | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
型番 | SUS-00013 | 9PY-00013 | 7AX-00013 | SU9-00013 | TH5-00013 | TN3-00013 |
CPU | Core m3 | Core i5 | Core i5 | Core i7 | Core i7 | Core i7 |
メモリ | 4GB | 4GB | 8GB | 8GB | 16GB | 16GB |
ストレージ | 128GB | 128GB | 256GB | 256GB | 256GB | 512GB |
Office | - | |||||
重量 | 766g | 786g | ||||
参考価格(税抜き) | 111,800円 | 126,800円 | 166,800円 | 201,800円 | 225,800円 | 276,800円 |
上記の表のように、Surface Pro 4に用意されているSkylakeは、Core m3、Core i5、Core i7という3つの選択肢があり、今回手に入れたSurface Pro 4の法人向けモデルにはCore i5-6300U(2.4GHzベース、Intel HD Graphics 520=GT2)が搭載されていた。なお、日本マイクロソフトでは、現時点ではCore i7のSKUが何であるかは明らかにしていない。Core m3はCore m3-6Y30であることが販売されているモデルから明らかになっている。
ちょっとした苦言になるが、日本マイクロソフトにせよ、Microsoftにせよ、CPUのSKUを明示しないというのは、消費者にとって親切な対応ではないと思う。おそらく競合他社が公開しない“真似”なのかもしれないが、消費者としては自分が買う製品がどのSKUのCPUを搭載しているのかは購入をするかどうかにも関わる重要情報であり、きちんと発売前に情報公開をお願いしたいところだ。
12月に販売が開始される予定のCore i7モデルでは、GPUとしてIris Graphics 540(GT3e、48EU、64MB eDRAM搭載)が内蔵されている。従来のSurface Pro 3にも、GT3を搭載したCore i7が搭載されていたが、SkylakeのCore i7に内蔵されているGT3eは、eDRAMと呼ばれる一種のキャッシュメモリが搭載されており、GPU利用時のメモリ帯域の圧迫を抑えられる。これにより、GPUを利用する時の性能向上が期待できる。ただ、Surface Pro 3のGT3搭載SKUは、熱設計周りに課題があって、負荷をかけるとサーマルスロットリング現象が起きていた。それがSurface Pro 4で解消されているかどうかは、12月に予定されているCore i7モデルのリリースを待って検証する必要がある。
また、ハードウェア周りでもう1つ新しいことはメインメモリとして16GBの大容量のSKUを選択することができるようになったことだ。AdobeのCreative Cloudのようなクリエイターツールを利用しているユーザーや、多数のアプリケーションを同時に起動して利用するユーザーなどは嬉しいところ。ただし、16GBを選べるのは、Core i7モデルだけとなるので、これも12月までお預けだ。
ストレージに関しては、128GB/256GB/512GBの3つのモデルが用意されている。米国向けには1TBのモデルが用意されているのだが、日本市場向けには1TBの製品はまだ発表されておらず、今後も投入されるかは未定だ。
別売りのタイプカバーキーボードの入力しやすさの改善は圧倒的
今回筆者が手にしたSurface Pro 4は、日本マイクロソフトの型番で7AX-00013となる、Core i5/8GBメモリ/256GBストレージの製品となる。
手にして一番最初に感じたことは、別売りのタイプカバーキーボードが圧倒的に使いやすくなったという点だ。正直、これまでのSurfaceシリーズは、そんなにキーボードにこだわってきた製品ではなかったと思う。最初の世代ではタイプカバーキーボードよりも、タッチカバーキーボード(キートップがなく、キーの場所がシルクで表示してあるだけのキーボード)の方が奨励されていたことからも分かるように、キーボードは補助的なデバイスという位置付けだった。しかし、Microsoftの関係者によればアタッチレート(Surface 1台に対してキーボードの売れている数)が100%を超えていると言われており、ほとんどのユーザーは1つ、場合によっては2つのキーボードを購入している計算になる。つまり、実質的には2-in-1デバイスとして使われているというのが一般的なのだ。
そうした実際のユースケースを反映して、Surface 2/Surface Pro 2世代からはタッチカバーキーボードは姿を消し、タイプカバーキーボードだけになった。さらにSurface Pro 3では、マグネットを利用して、キーボードに傾斜が付けられるようになり、より入力しやすくなったと言える。
今回のSurface Pro 4では、そうしたSurface Pro 3までの進化に加えて、大きく3つの改善が図られている。1つ目にはキートップのデザインが、最近のノートPCで一般的なアイソレーション型になったことだ。従来のSurface Pro 3/Surface 3世代では、キーとキーの間が狭いタイプのキーボードを採用していた。これはこれで好きな人はいるかもしれないが、最近のノートPCのトレンドはアイソレーション型だ。
また従来のキーボードでは、キーボードの縁の部分がやや大きく取られており、キーボードの端のキー、例えばエンターキーなどにしわ寄せがいき、それらのキーが小さくなるなどの課題があった。一方Surface Pro 4用のキーボードは縁がより小さくなっており改善されている。ちょっとした差だが、こうしたことが実際に入力する時には快適性に大きな影響を及ぼす。
3つ目はタッチパッドが大きくなったことだ。写真で見てもらえば一目瞭然だが、縦方向にも、横方向にも面積が大きくなっており、より快適に操作できる。もちろんSurface Pro 4の場合はタッチも使えるので、あまりタッチパッドは使わないユーザーもいるかもしれないが、従来のクラムシェル型PCに慣れ親しんでいるユーザーには嬉しい改良点だと言える。
新しいG6デジタイザICの採用で書き心地が進化した新しいペン
入力周りでのもう1つの大きな改善点は付属のデジタイザペンだ。Surface Proシリーズのデジタイザペンは、Surface Pro/Pro2世代ではワコム社製のデジタイザを利用したペンが採用されていた。ワコムのデジタイザは、プロユースでも定評があり、その使用感に慣れ親しんでいるユーザーも少なくないため、当初はビジネス向けとして販売開始されたSurface Proシリーズが、AdobeのCreative Cloudを利用するようなクリエイターなどにも好評を博した。ただ、ワコムのデジタイザペンは、タッチパネルとは別に1枚デジタイザのパネルが必要になる構造になっていたため、本体の厚さ方向が出てしまうという課題を抱えていた。
これをクリアするためにSurface Pro 3のタイミングで導入されたのが、イスラエルのN-trig社が開発した新しいタッチパネル一体型のデジタイザだった。N-trigのメリットは、タッチパネルのセンサーがデジタイザのセンサーを兼ねており、1枚のタッチパネルでデジタイザとタッチの両方を実現できる。これにより、低コストでかつ薄いデジタイザ対応タッチ液晶を作ることが可能になった。後に、MicrosoftはN-trig社を買収しており、現在はMicrosoftの一部門となっている。
しかしこのN-trigのデジタイザは、筆圧検知はソフトウェア的に1,024段階をサポートしていたのだが、ハードウェアとしては256段階のみをサポートする形になっていた。これに対してSurface Pro 2までで採用されていたワコムのデジタイザは1,024段階をサポートしていたので、ここは“スペックダウン”になってしまっていたのだ(ビジネスユースであれば256段階で不満を感じることはまずないが)。
Surface Pro 4で採用された新しいMicrosoftのG6センサー(N-trigの技術がベースになっている)は、新たに筆圧検知が1,024段階に対応し、Surface Pro 3ではスペックダウンとなっていたところに追いついたと言える。さらに、ペンの追従性なども改善されており、Surface Pro 3やSurface 3では書き始めてから文字が表示されるまで一瞬のもたつきがあったのだが、Surface Pro 4ではそれがなく、文字通り書いたままディスプレイに表示される。今のところ、発売されたばかりのiPad Proを含めて、ここまで思った通りに文字が書けるペンというのはお目にかかったことがないというのが筆者の正直な感想だ。
また、Surface Pro 4にはオプションでペン先を変えられるようになっている。ペン先が変えられるといっても、ペン先のサイズを変えたからより細い線が書けるというわけではなく、書く時の書き心地が変わる。N-trigのデジタイザペンは、ペン先が沈み込むことで筆圧を検知している。従って細いペン先にしたり、逆に太いペン先にしたりすると、その沈み込む量が変わる。これがペン先交換の効果だ。従ってどのペン先が自分にフィットしているかは、実際に試してみなければ分からない。
ただ、このペン先、標準以外はオプションになっており、2H、H、HB(標準添付)、Bの4つのペン先がキットとして販売されており、参考価格は1,400円(税抜き)になる。なお、オプションとして販売されているSurface Pro 4用のSurfaceペンにもこのペン先キットがバンドルされているので、予備のペンを買うつもりでペンごと買うのがおすすめだ。
Surface Pro 3から用意されているBluetoothでペアリングされるボタン機能は引き続きサポートされており、連続でボタンを押すとOneNoteが起動する機能は引き続き利用できる。加えてボタン部分で画面をこすると消しゴムとして利用できるようになっている。これによりソフトウェア的にペンを消しゴムに変える必要なくペンを逆さにするだけで消しゴム機能が利用できるので非常に便利だ。
このように、Surface Pro 4のペンは、従来のSurface 3/Pro 3世代のペンに比べて大きく進化している。なお、基本的なデジタイザのアーキテクチャはSurface 3/Pro 3と共通であるため、Surface Pro 4のペンをSurface 3/Pro 3に利用することも可能だ。もちろん、Surface 3/Pro 3世代は筆圧検知のハードウェアが256段階までにしか対応していないため、新しいペンをSurface 3/Pro 3に利用しても1,024段階の筆圧検知や応答速度の改善といった新しいデジタイザでしかサポートされていない機能は利用できないので、そこは誤解なきように。
Windows Helloに対応した3Dカメラを標準装備、顔認証でWindowsにログイン可能に
Surface Pro 4は、Windows 10からサポートされている生体認証機能「Windows Hello」を標準でサポートしている。Windows Helloは、3Dカメラないしは指紋リーダーを利用して生体情報でログインすることを可能にする機能だ。WindowsにMicrosoftアカウントを利用してログオンする時に、パスワードを人前で入力すると、それが盗み見られた場合には、それを利用してクラウドのアカウントにログインされてしまう危険性がある。それを避けるために、Windows 8/10ではローカルPINコードを設定することができるようになっているが、逆に容易に人に盗み見られ、知らない間にPCのロックが解除されてしまう危険性から逃れることはできない。しかし、生体情報であれば、本人がいなければログインできないため、確実でより安全なログイン方法だと言える。
カメラを利用した顔認証によるログインであれば、Windows Hello以前にもサードパーティがWebカメラを利用した製品をリリースしていた。しかし、Windows Helloの顔認証は、単なるWebカメラではなく、3Dカメラを利用する。具体的にはSurface Pro 4の前面に用意されている赤外線カメラを利用して、顔を2D方向(縦横)だけでなく、3D(縦横奥行き)で認識するため、写真によるなりすましなどを排除できる。
また、従来の顔認証ソフトウェアは、周囲が明るくなければ認証を行なうことができず、一時的にディスプレイの輝度を強制的に上げて、それによる光で認識するなどの工夫をしていたのだが、Windows Helloでは赤外線カメラを利用しているため、暗いところでも認識できる。例えば、カンファレンスの基調講演でメモを取ろうとPCを開いて顔認証しようとしたら認証できずに、結局PINなりパスワードなりでログインしたというのを筆者も経験している。しかし、Surface Pro 4とWindows Helloの組み合わせでは真っ暗な部屋でも認識できた。これは大きなメリットだと言えるだろう。
なお、Windows Helloには指紋リーダーを利用した認証も可能になっている。米国ではタイプカバーキーボードのバリエーションとして、指紋リーダー付が販売されているが、日本では残念ながら販売される予定はないとのこと。もちろん3Dカメラを利用した顔認証も便利なのだが、指紋でもすっと触るだけでログインすることができる。できれば日本でも、指紋リーダーが搭載したキーボードをオプションとして追加して欲しいものだ。なお、もちろん米国で販売されている指紋リーダー付のキーボードを輸入すれば、日本のSurface Pro 4で利用することは可能だが、キー配列は101配列(US-English)になってしまうため、その点は要注意だ。
“生産性の向上”に注力した製品
以上のように、Surface Pro 4の製品的な位置付け、強化点を見てきた。冒頭でも説明した通り、Surface Pro 4は、フットプリントという観点で考えてみれば、やはりSurface Pro 3のマイナーバージョンアップ版と考えるのが正しいが、キーボードやタッチパッド、さらにはペンなどは圧倒的と表現して良いほど進化しており、そうした入力の快適さこそが高い生産性を実現するPCとして見れば、大きな進歩を遂げたと表現していいだろう。
なお、今回のSurface Pro 4は出荷段階では、いわゆるTH1と呼ばれる7月29日にリリースされた最初のWindows 10(ビルド10240)が搭載されて出荷されている。このため、11月にリリースされたTH2ことNovember Update(ビルド10586)はユーザー自身が適用する必要があるほか、SkylakeでサポートされているSpeedShift TechnologyなどのTH2以降のアップデートが必要になる機能には、現時点では対応していない(SpeedShiftの対応にはTH2のほか、OEMメーカー独自の対応も必要になる、TH2をインストールしたから有効になるわけではない、念のため)。
もちろんユーザー自身でTH2/November Updateにアップグレードすることは可能だし、そうすれば別記事で紹介しているようなCortanaや新しい新しいフォント、MS-IMEのクラウド変換などの機能が利用可能になる。また、TH2/November Updateでは、標準ブラウザであるMicrosoft Edgeのバージョンが、TH1のバージョン20から大きく引き上げられバージョン25となっている。これに伴い、お気に入り同期機能の追加や安定性の向上などが実現されており、モダンブラウザとして、ChromeやFirefoxに追いつきつつある。
Surface Pro 4はそうしたWindows 10 TH2/November Updateの特徴をフルに活かすことができるハードウェアとして、Surface Pro 3の弱点だったキーボード、ペン、さらにはWindows Helloへの対応といったハードウェアを進化させており、より魅力的な製品に仕上がっていると言えるだろう。タブレットやPCを、単なる“インターネット閲覧ツール”ではなく、よりアクティブに使い生産性を向上させたり、コンテンツを作り出したりという使い方をするユーザーであれば、検討してみるといいのではないだろうか。