笠原一輝のユビキタス情報局
新フラグシップモバイルPC「VAIO SX14-R」は何がスゴイ?じっくり解説しよう
2024年10月31日 10:00
VAIOは10月31日に、最新フラグシップノートPCとなる「VAIO SX14-R」(一般消費者向け)および「VAIO Pro PK-R」(法人向け)を発表した。
従来VAIOは、「VAIO SX14」と「VAIO SX12」を同社のフラグシップとして提供してきたが、今回は後ろに「R」がついた新製品をフラグシップ製品と位置づけており、14型搭載ノートPCにフォーカスした設計にすることで、従来のSX14から軽量化や機能強化などが行なわれている。
VAIOの開発担当者にお話を伺ってきたので、その模様をお届けしていきたい。
14型専用設計になったことで設計の自由度が広がったVAIO SX14-R
VAIO SX14-RおよびVAIO Pro PK-R(以下特に一般消費者向けと法人向けを分ける必要がない場合にはVAIO SX14-Rと表記)の商品企画を担当したVAIO株式会社 開発本部プロダクトセンター 柴田雄紀氏は「現在弊社のラインアップは法人向けにフォーカスしている。法人で何が受け入れられているかと考えた時に、使いやすさ、スペックには見えない部分、ユーザー体験などになる。それらを改善するために、AIノイズキャンセリング、画面解像度の向上、バッテリ駆動時間の延長あたりを軸にして強化した製品が今回のVAIO SX14-RおよびVAIO Pro PK-Rになる」と説明する。
従来のVAIOのフラグシップ製品は、VAIO SX14およびVAIO SX12という14型と12.5型の2つの製品がラインアップされていた。VAIO SX14-Rの登場により、14型製品のみがフラグシップと位置づけられ、12.5型の製品に関してはフラグシップがない形となる。なお、SX14/SX12は従来モデルが併売される。
「14型へのシフトという市場トレンドもあるし、コロナ禍の影響で1台のPCで何でもできるという要素が重視されるようになり、大画面のニーズが増えてきている」と述べ、14型への市場のシフトそして14型のへのニーズの高まりがこうした製品計画の裏にはあると説明した。
そうしたことで、別のメリットが出てきた。14型製品のみとなったことで、14型と12.5型で内部構造を共有しなくてよくなり、14型専用設計にできるようになったことだ。
VAIO株式会社 開発本部テクノロジーセンター プロジェクトマネジメント部 小坂和也氏は「従来のVAIO SX14およびVAIO SX12ではマザーボードや熱設計などを12.5型と14型で共有しており、そこからくる限界もいくつかあった。たとえば、左右にUSB Type-C/Thunderbolt 4ポートを実装することなどが難しかった。しかし、今回のVAIO SX14-Rでは14型専用設計になったため、左右に高速なUSB Type-C/Thunderbolt 4の端子を備えることが可能になった」と述べた。
また、14型に特化した設計になったことで制約から解き放たれ、14型に最適な基板設計や熱設計などが可能になり、より高い使い勝手や性能などを実現することが可能になったと説明した。
法人向けモデルの最軽量モデルでは約90gの軽量化を実現
VAIO SX14-Rは、従来モデルに比べて軽量化されている。従来モデルになるVAIO SX14(VJS146シリーズ/一般消費者向けCTO/標準色)で約1.046kg~1.167kg、VAIO Pro PK(法人向けCTO/2023年発売)で約1.038kg~1.156kgとなっていたが、SX14-R(一般消費者向けCTOモデル/標準色)で約999g~1.178kg、VAIO Pro PK-R(法人向けCTO)で約948g~1.237kgとなり、最軽量構成同士の比較ではそれぞれ47g、90gの軽量化を実現している(重量は構成により異なる)。
VAIO株式会社 開発本部テクノロジーセンター メカ設計部 長崎竜希氏によれば、大きく言って2つのことで軽量化が実現されているという。
1つ目は、A面(ディスプレイ天板)だけでなくD面(底面カバー)にもカーボンを採用したことだ。長崎氏は「従来モデルではD面にガラス繊維強化樹脂を採用していたが、今回のモデルではカーボンを採用している。A面もD面も、アンテナな部分を切りかかないといけないため、樹脂との一体成形が可能なカーボン素材を提供可能なサプライヤーと共同開発し、同じ強度で約40gの軽量化を実現した」とした。
2021年発売の「VAIO Z(VZJ141/142シリーズ)」において、4面カーボンデザインを採用していたが、SX14やSX12などに関しては、A面にカーボンを採用するが、C面はアルミニウム、D面はガラス繊維強化樹脂という素材を採用してきた。その意味でVAIO SX14-Rは素材の観点でVAIO Zに近づいた。
素材だけでなく、オーナメントと呼ばれる、ヒンジの裏側のデザインもVAIO Zに近いデザインになっている。長崎氏によれば「デザイン面でもVAIO Zの良いところを継承していこうということで、開いた時に浮いて見えるデザイン、そして角がないことで、角をぶつけないで済むという構造を採用した。
実際にはアンテナケーブルを引き回す必要があったので、この構造にすることでそこは若干構造上の工夫をする必要があったが、デザイナーと相談しながらこうしたデザインにした」とのことで、外見上もVAIO Zに近いデザインになっていることも大きな特徴だ。
より軽量なディスプレイパネルを採用し、バッテリは大容量も選べるように
長崎氏によれば軽量化を実現できた2つ目の理由は、採用したディスプレイパネル自体が軽量になったことだという。今回の製品ではWUXGA(1,920×1,200ドット)とWQXGA(2,560×1,600ドット)という2種類の16:10の解像度のディスプレイが採用されている(実際にはWQXGAにはインセルタッチ対応が用意されているので、用意されているディスプレイは3種類になる)。
従来のVAIO SX14までは16:9、たとえばフルHD(1,920×1,080ドット)パネルだっただけに、ここでもモダンな16:10のパネルが採用されたことは歓迎して良いだろう。WUXGAのパネルは縦方向が120ドット分増え、特にWebブラウザのような縦方向を多用するアプリケーションでは大きな効果がある。
長崎氏によれば、このWUXGAパネルは従来モデルのフルHDパネルに比べて約35gも軽量化されているのだという。D面カバーの約40gと、パネルの35gを合わせて約75gの軽量化に実現しており、残りは細かな部分の積み重ねで実現したそうだ。
その一方で、軽量化手段の1つであるバッテリ容量を減らすという手法は取られていない。VAIO SX14-Rでは、従来モデルと同じ51Wh(VAIOでは公称スペックとしては公開していないが、実機で確認した容量)が標準バッテリの容量としてサポートされる。これは14型のWindowsノートPCとしては標準的な容量のバッテリと言え、JEITA 3.0で動画再生時が10.5時間、アイドル時が26時間というバッテリ駆動時間を達成している。
今回のVAIO SX14-Rでは、店頭向けモデルのうち上位モデル2機種(VJS4R190111B、VJS4R190211B)で大容量バッテリが標準採用されているほか、CTOモデルでもオプションで大容量バッテリを選べるようになっている。大容量バッテリはバッテリ容量では70Wh(同、実機で確認した容量)で、バッテリ容量が約37%増えている。基本的にバッテリの容量とバッテリ駆動時間は比例するので、大容量バッテリを搭載している上位モデル2機種では動画再生が14.5時間、アイドルが35時間と伸びる。
なお、大容量バッテリにすることで、重量は70gほど増加するので、そこそこのバッテリ駆動時間でよくて軽い方がいいというユーザーは標準バッテリを、多少重くてもとにかく大容量をというユーザーは大容量バッテリを選ぶといいだろう(選べるのはCTOモデルの場合)。
CPUはCore Ultra シリーズ1に強化、新しくバッテリ節約機能が用意される
今回のVAIO SX14-Rでは、CPUはインテルCore Ultraプロセッサー シリーズ1(開発コードネーム:Meteor Lake)に強化されている。一般消費者向けモデルにはPBP(Processor Base Power、いわゆるTDPのこと)が28WのSKUであるCore Ultra 7 155HないしはCore Ultra 5 125Hが採用されており、法人向けモデルでは28WのSKUであるCore Ultra 7 155Hと15WのSKUであるCore Ultra 5 125Uから選択できるようになっている。
VAIO株式会社 開発本部テクノロジーセンター 電気設計部 江口修司氏によれば、熱設計に関しては、従来製品と同じように、ターボモード状態にある時でもできるだけ性能が落ちないように「VAIO TruePerformance」の機能が実装されているという。それにより、CPUがPBPの枠である28Wを超えて動作していても、排熱が追いつく限りCPUの周波数は高い周波数で動き続けるような設計がされている。
今回の製品では、従来モデルに比べて熱設計周りの強化も行なわれているという。具体的には銅製のヒートパイプがカバーするエリアが増えており、従来製品よりもより幅広いエリアの電源回路周りを冷却できるようにされているという。江口氏によれば「ヒートパイプの設計には力を入れており、熱伝導の効率の良さを実現し、排熱できる量を増やすことで従来よりも高いクロックに留まれるような設計にしている」とのことで、VAIO TruePerformanceを利用して、ターボモードで動作している時の性能を少しでも向上できるような工夫がされていると説明した。
また、放熱装置に関してはPBP 28W版(Core Ultra Hシリーズ向け)とPBP 15W版(Core Ultra Uシリーズ)の2つが用意されているが、前者の場合は最軽量が999g、後者の場合には最軽量が948gとなっており、最軽量の948gのモデルを購入したい場合には法人モデルのCore Ultra 5 125U搭載モデルを選択する必要があることになる。このあたりは性能とのトレードオフということになるので、ユーザーの目的に応じて選択するといいだろう。
なお、省電力周りではVAIO設定という以前からある設定ツールの中に「バッテリー節約設定」というメニューがある。それをオンにすると、Windowsの「省エネモード」を自動でオンにし、CPUの動作周波数を適切に絞って無駄な電力を消費することを防ぐと、小坂氏は説明した。
そうした新しい省電力機能や、CPU自体が省電力になったことなどにより、同じPシリーズ(PBP 28W)と解像度が近いモデル同士で比較すると、従来モデルはJEITA 3.0で動画再生が8~9時間、アイドルが19.5~20.5時間だったのに対して、今回のVAIO SX14-Rでは動画再生が14.5時間、アイドルが35時間と、バッテリ容量が約37%増えた以上に伸びている。より長時間バッテリ駆動で利用したいユーザーにとってはうれしい強化ポイントと言えるだろう。
カメラは4Kに強化され、アンテナは3D形状で少ないスペースで同じ利得を実現
VAIO SX14-Rのもう1つの大きな特徴は、無線、カメラ、そしてマイクの活用方法にある。というのも、「コロナ後になってもハイブリッドワークへの需要は強く、ビデオ会議におけるユーザー体験を大幅に改善する必要があると考えて、カメラやマイクを強化した」(VAIO 柴田氏)との通りで、VAIO SX14-Rではビデオ会議を行なうときのユーザー体験を強化するために、カメラの強化とマイクの強化が行なわれている。
たとえば、920万画素のカメラが店頭モデルおよび一般消費者向けCTOモデルでは標準で、法人向けモデルでは920万画素カメラないしはフルHDカメラが選べるようになっている。920万画素は静止画の解像度にすると4K(3,840×2,400ドット)相当のCMOSセンサーが採用されている。従来モデルではフルHDカメラしか選べなかったので、画質的には大幅に向上している。また、カメラのモジュールそのものもRGBとIRが分離しており、IRと一体になっているカメラよりも高画質になっていることももう1つの特徴だ。
この4Kカメラを実現するために、「設計上はかなり難しい選択を強いられるようになった」とVAIOの小坂氏は説明する。というのも、4Kのカメラモジュールを入れるだけでなく、AIを利用した人感センサーの機能を実現するためにAIチップをもディスプレイ上部に入れるため、アンテナとの場所取り合戦が発生してしまったためだ。
そこで、今回の製品ではアンテナの方を工夫することで、限られたスペースで従来製品と変わらない電波の利得を実現することにしたのだという。VAIO株式会社 開発本部テクノロジーセンター 電気設計部 細萱光彦氏は「従来の製品では2.5Dのような形状のアンテナだったが、今回の製品では言ってみれば3Dの立体構成になっており、周波数が低いLTEや5Gのプラチナバンド(700~900MHz程度の周波数のこと)のサポートに必要なアンテナの面積を立体的に確保できるようにしている」との通りで、アンテナを樹脂部分の上に3D的に構築していくことで、周波数が低い場合でも十分な利得が確保できるように設計したのだという。
VAIOが公開したVAIO SX14-Rのアンテナを見ると、黒い樹脂と緑色のアンテナという2つの部分があることが確認でき、そのアンテナ部分が3D形状になっていることが確認できた。VAIOによれば、それによってプラチナバンドのような低めの周波数でもきちんと利得が確保できるようになっているということだった。
細萱氏は「アンテナの裏側がカーボンになっているということで、当初の設計だとカーボンが電波を吸ってしまい、期待していた利得がでないという問題に直面した、そこで、カーボン部分を1mmずつ程度削っていき、カーボンの剛性を損なわない程度に削っていき、最終的にバランスを取ることに成功した」と述べ、実際にカーボンと樹脂の境界部分を見ると、アンテナの部分に関してはよい大きく切りかいてあったりすることが確認できた。そうした工夫を加えることで、2つのカメラ(IRとRGB)とAI処理チップ、2つのマイクを納めながら、Wi-Fi、LTE/5Gのアンテナのすべてをディスプレイ上部に入れることに成功したのだ。
なお、このカメラを利用した新しいAIによる検知機能として「ノールック節電」と呼ばれている新機能が用意されている。簡単に言うと、カメラモジュールと一緒にディスプレイ上部に搭載されているAI推論チップが常時画像認識を行なっており、ユーザーが一定時間画面を見ていないと判断すると、画面の輝度を下げて画面を暗くすることでバッテリ消費を抑える仕組みだ。
そう聞くと、その間カメラをオンにしていないといけないから結局カメラが動作している消費電力が上がってしまって意味がないのでは?と考えるユーザーも少なくないだろう。
VAIO 小坂氏によれば「社内でもその懸念が指摘されていたが、実際にはカメラのフレームレートをかなり落としているので、数mW程度しか電力を消費していない。モダンスタンバイ中のPCが数百mWを消費していることを考えれば、微々たる消費電力だと考えて実装した」との通りで、機能をオンにしたことでバッテリ消費が増える心配はなく、きちんとバッテリ駆動時間を延ばせるようになっているという。
3つ目のマイクは3次元のビームフォーミングに活用し、左右だけでなくPCの後ろの音もノイズキャンセリング可能に
そして、今回のVAIO SX14-Rを特徴付けているのが本体の右側面にある「3つ目のマイク」だ。マイクと言えば、通常2つがセットで左右対称に置かれるのが一般的だが、今回のVAIO SX14-Rでは右側側面だけに、この3つ目のマイクが用意されており、左側面にはそれと対になるようなマイクは用意されていないという一見すると不思議な構造になっている。
なぜそうなっているのかというと、「ビームフォーミング」と呼ばれる手法を利用して、話者がどこにいるのかを判別するためなのだ。ビームフォーミングとは、簡単に言えば音源(この場合は話している人)からディスプレイの上にある2つのマイクに届く時間の違いなどから音源からの距離を計算して計測して、音源の位置を判別するという考え方になる。
VAIO 小坂氏によれば「従来のVAIO SX14ではこのビームフォーミングが2つのマイクで行なわれており話者の左右の位置を特定できていたが、ディスプレイの背面にいる話者やノイズなどに関しては検出することが難しかった。今回の製品では右側面に追加したマイクを利用して、3軸でビームフォーミングの検出ができるようになり、AIも活用することで話者の位置をより正確に検出することが可能になっている」という。
つまり、3番目のマイクは、ビームフォーミング専用のマイクで、話者の位置をより正確に把握することが可能になっているのだ。それにより、話者が会話している以外の音はノイズとしてノイズキャンセリングすることが可能になり、より精度が高いAIノイズキャンセリングが可能になっているという。
この3つ目のマイクは、マザーボード上の一番端に位置している。従来のようにSX14とSX12と共通デザインのマザーボードだと、この位置にマイクを置くのは難しかったそうだが、今回のように14型に特化したシステムボードになっていることで置くことが可能になったそうだ。
また、ちょうどファンの位置としては逆の方向に置かれており、ファンノイズの影響を受けないような位置に置いてあることも、14型に特化した設計になっている恩恵と言える。
そうした新しいハードウェアを追加するのと同時に、ソフトウェアに関しても新しく「VAIOオンライン会話設定」と呼ばれるツールが導入されており、それで細かな設定が可能になっていることも見逃せない。このツールを使うと設定次第で「小声モード」(正面の話者が小さな声で話した声を拾い、それ以外をノイズとしてカットする機能)などユニークな使い方が可能になる。たとえば、小声モードを使えば、カフェでビデオ会議している時に、あまり人に聞かれたくない話の時にも小さな声で話せば、周りには聞こえず、ビデオ会議の相手にだけ声を届けられる。
また、非常にユニークな機能として、カメラの画角を調整して、人だけを映すことを可能にする機能「プライバシーフレーミング」の機能が用意されている。
最近のPC向けのカメラは画角が広めになっており、人だけでなく背景も映ってしまうのが一般的だ。それだと、部屋全体が映ってしまい、あまり他人には知られたくないプライバシーに関することがばっちり映ってしまう可能性がある。そのために、一般的には背景ぼかし、ないしは背景の差し替えなどで対応するだろう。
VAIO株式会社 開発本部ITソリューションセンター ソフト設計部 筒井正直氏は「今回のモデルではビームフォーミングにより話者の位置をある程度特定できる。それと40~80度の間で画角の変更ができるプライバシーフレーミングを組み合わせることで、狭い画角のカメラのクロップ位置を話者に合わせることが可能になっている」との通りで、こちらもユニークな使い方になっている。
このように、今回のVAIO SX14-Rでは、3つ目のマイクという新しいハードウェアを搭載し、それとソフトウェアを組み合わせることで新しい使い方が可能になっている。その意味で、VAIOが最近打ち出している、新しいハードウェアとそれを活用した新しいユーザー体験を訴求していくという方針にそった製品になっているということができるだろう。
なお、VAIOでは長野県安曇野市にある本社工場に、こうしたカメラやオーディオ機能をチェックする新しい検査装置「SI-C(System Inspection‐Communication)」を導入して、これまで人間だけで行なっていたカメラやオーディオ装置の出荷前検査のデータを活用したトレーサビリティーの実現など、製造時の品質検査に関しても一手間増やして、検査態勢を強化している。
同じように、キーボードのフィーリングを記録する装置(FCC-Feeling)、ファン音などを記録する装置(FCC-Sound)、天板ロゴの凹凸含む8面の3D撮影を行ない記録する装置(FCC-Image)というFCC(Final Condition Check)工程と呼ばれる従来は人間の目でだけ検査していた工程に加えて、デジタルデータを残すことで、トレーサビリティを強化する取り組みを行なっており、より品質を高める取り組みを行なって生産体制を強化している。なお、VAIO SX14-Rの本体の組み立ては本社工場で行なわれ、そこから全国へ出荷される体制となっている。
勝ち色と同じパールが配合されて深みのある色を表現しているディープエメラルド
最後に今回のVAIO SX14-Rを象徴するようなカラバリについて紹介して、この記事のまとめとしたい。
従来のSX14/SX12ではブライトシルバー(銀)、ファインブラック(黒)、ファインレッド(赤)、ファインホワイト(白)、アーバンブロンズ(茶)という5色が通常モデルのカラバリで、オールブラックと勝ち色が特別仕様のカラーとしてラインアップされていた。SX14-Rでもオールブラックと勝ち色が特別カラーとして位置づけられているのは同様なのだが、ファインレッドとファインホワイトの要するに赤と白が廃止され、新たに「ディープエメラルド」と呼ばれる緑系のカラーが追加されている。
柴田氏によれば、従来モデルで最も売れていたのはビジネス向けPCで定番と言える黒系の「ファインブラック」だったそうだが、一番人気だったのは「アーバンブロンズ」と呼ばれる金色っぽい茶色だったという。女性のビジネスパーソンに人気を博していたのがこのアーバンブロンズだったそうで、企業での導入台数もVAIOの事前の予想よりも多かったそうだ。
今回登場したディープエメラルドはそれに続く新色で、緑のPCはこれまであまり例がなかっただけに、人気を博しそうだ。緑といっても、派手な緑ではなくよりシックな深みのある緑に仕上がっており、派手な色過ぎてしまって服と合わせるのが難しいということもなさそうだ。
VAIO 長崎氏によればこのディープエメラルドだが、VAIOの特別色である勝ち色と同じぐらい実現するのが難しかったという。「今回のディープエメラルドでは勝ち色と同じようにパールの粉末を配合している。それによって深みがあってきれいになるのだが、顔料と混ぜるのが難しく、見る角度によって色味が変わるなどの課題があって、何度も試作を繰り返した」との通りで、実は特別色の勝ち色と同じとまでは言わないが、それなりの手間がかかったカラバリでVAIOとしては自信作であるという。
今回のSX14-Rでもタッチパッドやパッドのボタンに関しても緑に塗装されており、アルミパームレストと素材が違うため完全に同じ色という訳にはいかないが、カラーのタッチは同じになっている。
なお、キーボードに関しても、大きな変更が加えられている。ここ最近のVAIOは、キーボードは2021年に発売されたVAIO Z(VZJ141/142シリーズ)の時に作られたキーボードが大本のデザインになっており、それをSX14やSX12などに展開して使われてきた。
今回それが新世代に更新され、内部の構造を見直し、がたつきを防止する構造が入ることでキーボードの打鍵音、特に人間の耳に耳障りな中高音を減らすようになっているという。実際に触ってみると、確かに「カシャカシャ」というPCのキーボードでありがちな音が減っており、より重低音な音になっていることが確認できた。
VAIO 小坂氏によれば、別に重低音を増やしたということではなく、中高音のカシャカシャを減らしたら、重低音が残ったという形なのだという。その結果、人間の耳に耳障りな音が減らされているので、キーボード音が気になる人はぜひ量販店の店頭などで、SX14-Rのキーボードを試してみるといいだろう。
このように、VAIO SX14-Rは多くの部分で手が入っており、筐体をそのままに軽量化されていること、キーボードの打鍵音の減少、新しいビームフォーミング用のマイクを利用した3次元のノイズキャンセリングが可能になっていること、4Kカメラを利用したユーザー感知の機能など、実に多くの点で従来のVAIO SX14を上回っている。VAIO Zの名称こそついていないが、VAIO Zに限りなく近づいたVAIO SX14であり、だからこそ「-R」という新しい名称が付加されていると考えられる。
また、最後に紹介した、ディープエメラルドのシックな緑という新しいカラバリも魅力の1つで、実際に製品を見ると、ビジネスパーソンが持つカラーとして十二分にありだなと感じた。人とは違うビジネスPCがほしいというビジネスパーソンにとっても、魅力的な選択肢の1つになるのではないだろうか。