笠原一輝のユビキタス情報局

Intel、2023年末までに第5世代Xeon SPを出荷。次世代も矢継ぎ早に投入

Intelが公開したデータセンター向けCPUロードマップ(出典:DCAI Roadmap Update、Intel)

 Intelは3月29日(米国時間、日本時間3月30日)から、「Data Center and AI Investor Webinar」というオンラインのイベントを開催しており、この中で同社のデータセンター向け製品のロードマップ・アップデートを行なっている。

 この中でIntelは、今年(2023年)1月に発表した第4世代Intel Xeon スケーラブル・プロセッサー(以下第4世代Xeon SP、開発コードネーム:Sapphire Rapids)の後継で、本年の第4四半期に提供を計画している「Emerald Rapids」の製品名が「第5世代Intel Xeonスケーラブル・プロセッサー」であることを明らかにし、同時に第4世代Xeon SPとピン互換であることを公式に明らかにした。

 また、クライアントPC向けのCPUではEコアに相当する電力効率に優れたCPUコアだけで構成されるSierra Forestを2024年の前半に提供開始する計画で、1ソケットで144コアというコア数を実現し、従来のXeonでは実現できなかった電力効率やコア密度を実現していく。それによりウクライナ危機に端を発したデータセンターの省電力という課題に対して、Arm CPU勢に対する対抗製品としていく。

 そして、同じく24年にはEmerald Rapidsの後継としてGranite Rapidsを投入していく計画。このように、データセンター向けCPUを矢継ぎ早に投入していくことで、競合との競争に優位に立ちたい意向だ。

第4世代Xeon SPは順調に立ちあがり、需要には応えられるだけの供給を用意

Intel 上席フェロー ロナーク・シングハル氏(第4世代Xeon SPの記者説明会で撮影)

 Intel 上席フェロー ロナーク・シングハル氏は「今回のロードマップ・アップデートは、既に発表しているものから大きく変わるものではない。Intelはデータセンター向けのロードマップを着実に実行しており、今回のアップデートではそうした着実な進化の中でさらなる情報を公開するものとして行なわれている」と述べ、ロードマップ上にある製品のより詳細を明らかにするのだと強調した。

1月に発表された第4世代Xeon SPの状況(出典:DCAI Roadmap Update、Intel)

 そうしたことを強調するのには、言うまでもなく第4世代Xeon SPのリリースが当初の予定だった2022年から大きくずれ込んで今年1月になってしまったということが背景にある。

 Intelの関係者によれば、このずれ込みが発生したのは、CPUの演算とは関係のない部分に何らかの問題が発見され、それをチップレベルで修正するのに時間がかかったため、2~3四半期の遅れにつながってしまったのだという。

 そうした事情はともかくとして、顧客にしてみれば、データセンターの更新を計画していたのに、それが遅れるといった影響が出ていることになる。これ以上顧客の信頼を失わないためにも、Intelとしてはこの後の製品をロードマップ通りに着実に実行していくことが求められているのが現状だ。

1月に発表された第4世代Xeon SP

 Intelのシングハル氏によれば、第4世代Xeon SPの出荷自体は順調で、既に450を超えるデザインウイン(OEMメーカーの製品に採用されること)を獲得し、現時点でそのうち200を超えるデザインが既に出荷を開始しているという。また、50を超えるOEM/ODMが製品を出荷しており、2023年のうちにCSP(クラウド・サービス・プロバイダー、AWSやAzure、Google Cloudなどのこと)のトップ10位までが第4世代Xeon SPを投入する見通しだという。

 そうした好調さの裏付けとしてシングハル氏は「既にOEMメーカーや顧客からの需要に応えられるだけの供給量を実現しており、2023年を通じてその状態は維持できる見通しだ」と述べ、既に枯れたプロセスノードであるIntel 7(以前10nm Enhanced SuperFinで呼ばれていた10nmの第3世代)で製造される第4世代Xeon SPは、ボリューム(製造数)も十分で、OEMメーカーが年内に必要とする需要に合致するような供給が可能だと強調した。

本年第4四半期にEmerald Rapidsを第5世代Xeon SPとして投入、第4世代とピン互換

Emerald Rapidsは第5世代Xeon SPとして本年第4四半期に投入される計画(出典:DCAI Roadmap Update、Intel)

 第4世代Xeon SPの後継として、「Emerald Rapids」の開発コードネームで知られる製品を本年後半に投入するとこれまで説明してきたが、今回シングハル氏はその製品名が第5世代Intel Xeonスケーラブル・プロセッサー(以下第5世代Xeon SP)となることを正式に発表し、その供給開始が第4四半期(10月~12月期)になると時期を明らかにした。

 1月に第4世代Xeon SPが発表されたばかりなのに、第4四半期にはEmerald Rapidsが投入されるとなると、最短で10月だった場合には、わずか9カ月で新製品が投入されることになる。しかし、そもそもEmerald Rapidsはこのタイミングで計画されていたが、第4世代Xeon SPのリリースが今年1月にずれ込んでしまったため、短期間で次の製品が投入されるということになってしまったのだ。

第4世代Xeon SPで採用されたLGA4677はSocket Eの開発コードネームで知られる、つまり元々Emerald Rapids用として開発されたもの

 そうした短期間でのリリースであっても、ほかの世代交代の時ほどには大きな影響はない。というのも、「Emerald Rapidsは、第4世代Xeon SPとピン互換になっている」(シングハル氏)との通りで、BIOSのアップデートなどはもちろん必要になるが、基本的に第4世代Xeon SPのマザーボードなどがそのまま使い回せるからだ。

 実は、第4世代Xeon SPのCPUソケットであるLGA4677は、開発コードネームが「Socket E」で、EはEmerald Rapids頭文字。既に第4世代Xeon SPのリリース段階からEmerald Rapidsがピン互換であることは(正式には発表されていなくても)明らかだった。今回それが公式に明らかにされたわけだが、OEMメーカーは、現在第4世代Xeon SPを販売しているシャシーやマザーボードを利用してそのまま第5世代Xeon SP搭載製品を販売できることになる。

 また、Emerald Rapidsは第4世代Xeon SPと同じIntel 7で製造される。このため、プロセスノード側の性能向上などは期待できないが、チップレベルでの改良が加えられ、いくつかの点で機能強化が行なわれる。

 最大の強化点は1ソケットに実装されるコア密度の増加だ。現在の第4世代Xeon SPでは、最大60コアになっているが、それから数が増えていくことになる可能性が高い(シングハル氏は具体的なコア数などは明らかにしなかった)。

 同氏によると、Emerald Rapidsは既にサンプル出荷を開始しており、予定通り第4四半期から供給開始計画だと説明した。

2024年にはArm CPUに対抗可能な電力効率の高いSierra Forest、Granite RapidsをIntel 3で、2025年にはClearwater ForestをIntel 18Aで製造して投入

Sierra Forest(出典:DCAI Roadmap Update、Intel)

 そして、Intelは2024年にクライアントPCのパフォーマンス・ハイブリッド・アーキテクチャを採用しているCPU(第12世代/第13世代Core)の提供を開始しているが、サーバーでもPコア、Eコアという2種類のCPUコアを導入する。

 大きく言うと、Rapidsの開発コードネームを持つ製品がPコアを採用し性能重視の製品に、Forestの開発コードネームを持つ製品がEコアを採用しコア数や電力効率重視の製品となる。

 これまで高効率なコアに相当するEコアだけで構成されたデータセンター向けCPUとして「Sierra Forest」(シエラ・フォレスト)の計画を明らかにしてきたが、今回そのSierra Forestのリリース時期が2024年の前半であることを明らかにした。

 Intelのシングハル氏は「Sierra ForestはIntelのEコア技術を利用して投入される最初のデータセンター向けCPUだ。最大で144コアの製品がラインアップされる見通しで、電力効率に特化した製品になる」と述べ、今注目が集まっているデータセンターの電力効率を改善するのに有効な製品としてSierra Forestを計画していると説明した。

 ウクライナ危機の発生以降、欧州ではエネルギー危機が起こるなどして、データセンターが消費している電力には社会課題の1つになっている。そのため、電力効率という観点でArmアーキテクチャのデータセンター向けCPUが注目され始めており、Intelとしてもそれに対する答えという形で「Sierra Forest」をリリースする。

 シングハル氏によれば、このSierra ForestはIntel 3のプロセスノードで製造される製品となる。Intelは「4年間で5つのプロセスノード」という意欲的なプロセスノードの開発ロードマップを敷いており、2023年の後半にはIntel 7の次のプロセスノードとなるIntel 4を、クライアントPC向けCPUとなる「Meteor Lake」で投入する。

 このIntel 4は従来7nmの名前知られていたもので、Intelのプロセスノードとしては初めてEUV(Extreme Ultraviolet、極端紫外線を利用したリソグラフィ技術)の露光装置を利用して製造されるプロセスノードとなる。Intel 3はその改良版として投入されるノードだ。

 Sierra ForestではそのIntel 3をいち早く利用することで、144コアという大きなコア数を実現しながら、Pコアベースの製品に比べて高い電力効率を実現することになる。

 シングハル氏は、Intelが第4世代Xeon SPで多数導入して注目を集めたアクセラレータに関して、どのようなものがSierra Forestにが搭載されるかを明らかにしなかったが、「何らかの形で搭載される」と搭載される可能性が高いと説明した。

 アクセラレータを活用すると、特定用途での電力消費量を抑えることが可能になるため、電力効率の観点からは重要になるため、アクセラレータが搭載される可能性が高いことは良いニュースと言える。

2024年に投入されるPコア製品ラインのGranite Rapids(出典:DCAI Roadmap Update、Intel)

 また、同氏はそのSierra Forestが提供開始された直後に、Emerald Rapidsの後継となる「Granite Rapids」をリリースする計画であることを明らかにした。Granite RapidsはそうしたPコアだけから構成されるRapidsシリーズ製品(第4世代Xeon SP、第5世代Xeon SP)の後継となる。こちらもIntel 3のプロセスノードで製造されることになり、AIやHPCといったより性能が必要とされる市場向けに投入されることになる。

 Granite Rapidsについて、「コア密度が増加し、メモリやI/Oに関しても拡張される。特にメモリ帯域に関しては1.5TB/sを実現する」とと説明した。それ以上詳細を説明しなかったが、MCR DIMMのような1つのDIMMで2ランクにアクセスができる技術を活用することで帯域幅を増加させるとみられている。

 このように、Intelのデータセンター向け製品では、Pコア製品がRapidsライン、Eコア製品がForestラインと完全に分離されており、今のところハイブリッド製品は計画されていない。

 この点に関して同氏に聞いてみると「その質問はよく受けるが、最大の課題はPコアとEコアの最適なバランスがアプリケーションによって異なっていることだ。このため、顧客によって、Pコアがたくさん欲しい顧客もいれば、その逆という場合もある。そのため、顧客がスケールアウトする段階でそれを選んでいただく方がよいと判断した」と述べ、ハイブリッドにして、結局どちらかのコアがあまり使われないという状況よりも、ラックのレベルでPコア製品とEコア製品を混在させ、CSPやデータセンター管理者がそのミックスを調整する方が有益だと判断していると説明した。

Clearwater Forest(出典:DCAI Roadmap Update、Intel)

 加えて同氏は、従来は存在だけが明らかになっていた2025年のEコア製品(Forestライン)の開発コードネームを明らかにした。それが「Clearwater Forest」(クリアウオーター・フォレスト)で、「Intel 18Aで製造される」のだという。

 Intel 18Aは、インテルがRibbonFET、業界ではGAA(Gate All Around)と呼ばれている4D形状のFinFETが投入されるIntel 20Aの改良版になる。つまり、よりCPUコアが増やされ電力効率がさらに改善されていく製品となる可能性が高い。

加速するCPUのロードマップに対して、GPUは2年に1度の更新にスローダウン

Intelのデータセンター/AI向けロードマップ(出典:DCAI Roadmap Update、Intel)

 Intelのシングハル氏はこうしたCPUのソリューションだけでなく、GPU、AIアクセラレータ、FPGAなどのソリューションを拡充していくことで、拡大し続けるAIの市場でシェアを維持していく計画だと説明した。

 同氏によれば、現在学習と推論を合わせたAI向けの演算器市場で、CPUが60%、GPUやAIアクセラレータが40%というのが市場シェアだという。1,000億個のパラメータを持つような「ラージモデル」と呼ばれるAIモデル(例えば話題のGPTなど)はGPUやAIアクセラレータを利用して演算されることが多いが、小型から中型のAIモデルの多くはCPUで演算されることが多いと説明した。

AIの演算は60%の軽め~やや重めがCPU、40%の重めがGPUやAIアクセラレータで処理されている(出典:DCAI Roadmap Update、Intel)

 AI市場に向けては、既にAIに数多く利用されているXeon SPのPコアライン、つまりRapidsシリーズを次々と拡張していくが、残り40%の市場をとりに行くべく、GPUやAIアクセラレータ、さらにはFPGAなどのソリューションを拡張していく。

 FPGAに関しては「本年はFPGA製品を15製品投入する。また、現在提供しているAI学習アクセラレータのGaudi 2の後継としてGaudi 3を投入する計画で、すでにテープアウト(半導体の設計が完了し、マスクと呼ばれるイメージが作成されたこと)が終わっている」と述べ、FPGAやGaudiシリーズなどのAIアクセラレータに関してもアップデートを行ない、AIの性能を改善していくと強調した。

 また、この直前に行なわれたGPU製品のアップデートでは、Rialto Bridge(リアルトブリッジ)という開発コードネームで計画されていたIntel Data Center GPU Max(開発コードネーム:Ponte Vecchio)の後継製品はキャンセルされ、2025年にリリースされると明らかになった「Falcon Shores」(ファルコンショア)が後継になると変更されている。

 Falcon Shoresは当初はCPUとGPUを1チップにして2024年にリリースされる計画だったのだが、Intelのブログによれば、Falcon Shoresの最初の製品はGPUアーキテクチャとなり、当初はGPUとしてリリースされ、後にチップレットでCPUを統合したバージョンもリリースされるそんな計画に変更されている。このため、2024年にはデータセンター向けGPU新製品は投入されないことになる。

 Intelは同ブログの中で今後データセンター向けGPU製品は2年に1度新製品を投入するサイクルに変更したと説明しており、今後はそうしたフェーズで製品を投入されていくことになりそうだ。