笠原一輝のユビキタス情報局

5G回線で“データ容量無制限”を選べる時代がやってきた!

~NTTドコモのWi-Fiルーター「SH-52A」を試す

NTTドコモの5G対応Wi-Fiルーター「Wi-Fi STATION SH-52A

 5G(第5世代移動通信システム)は、現在携帯電話回線の主流である4Gの後継として、日本でも今年(2020年)からサービスインがはじまっている。3大通信キャリア(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)の5Gサービスは3月に発表され、5G対応スマートフォンを手にした方もいらっしゃるのではないだろうか。

 そうしたなか、日本を代表する通信キャリアであるNTTドコモから、5G対応Wi-Fiルーターとなる「Wi-Fi STATION SH-52A」の販売が6月1日より開始された。筆者も早速PC用に購入し、使いはじめているので、その利用感などを紹介していきたい。

 現在の5Gのカバーエリアはとても狭く、面どころから点という状況で、事実上は5Gにも対応した4Gルーターとなる。その一方でNTTドコモは5Gのデータプランに「5Gギガホ」、「5Gギガライト」、「5Gデータプラス」の3つを用意している。

 5Gギガホのほうでは、終了時期未定の「国内データ量無制限」のキャンペーンを行なっているため、どれだけ使っても定額料金で利用できる。PCユーザーにとっては魅力的なプランと言えそうだ。

超低遅延の5G、まずは下り最大4.1Gbpsでスタート

CESでLenovoが発表した5Gモデム内蔵のPC「Yoga 5G」。QualcommのSnapdragonを採用したArmベースのWindowsデバイス

 5Gとは5th Generationの略で、日本語では「第5世代移動通信システム」とされる携帯電話回線の最新規格だ。

 現在一般的なスマートフォンやWi-Fiルーターなどで利用されているのは4Gで、4GにはLTE(Long Term Evolution)とその発展版となるLTE-Advanced(LTE-A)があるが、その後継となるのが5G。5Gはその最初の規格として規定された5G NR(5G New Radio、以下5Gに統一)という規格に基づいた仕様となる。

 LTE-Aでは、CA(Carrier Aggregation、複数の電波を束ねて通信する方式のこと)という仕組みを利用すると、最大で1.7Gbpsの通信が可能だが、5Gではそれを超える数Gbpsのマルチギガビットの通信が可能になり、最終的にはこれまでの携帯電話回線とは桁違いの十Gbpsという通信速度が実現される予定だ。

 5Gで通信速度が上がるのは、新しい電波の帯域が利用できるようになるからだ。4Gでは、従来から携帯電話用に使われてきた700~900MHz帯や1.6~2GHz帯などが利用されてきた。

 5Gではこの従来の帯域に加えて、日本では3.7GHzや4.5GHzなどのSub-6(6GHz以下の帯域という意味)や、28GHzなどのミリ波と呼ばれる超広帯域の電波を通信に利用できるようになる。

 ミリ波のような超広帯域の無線は直進性が高く、電波が届く範囲が狭いという弱点があるが、その代わりに高速に通信できる。このため、Sub-6と28GHzなどのミリ波を組み合わせて通信することで、数十Gbpsもの通信が実現できる可能性がある。

 また、5Gでは通信キャリア側のインフラも改良される。たとえば、4G世代までは通信キャリアのインフラは固定機能の通信機器が利用されていたが、それが汎用サーバーで仮想化されて、より柔軟なインフラに変わっていく。それにより、通信のレイテンシ(遅延)が大きく改善され、5Gネットワーク内で閉じた通信であれば、4Gよりも少ない遅延(超低遅延と呼ばれる)で通信できる。

 もっとも、これらの数十Gbpsの通信速度や超低遅延を実現するには、通信キャリアの基地局やインフラ側も更新する必要があるため、数年の単位をかけて徐々に実現されることになる。このため、最初の5Gはまずは数Gbpsの通信速度が実現され、遅延に関しては現状LTEとあまり変わらないところからスタートになる。

 NTTドコモの5Gの場合は、製品によるが下り最大4.1Gbps、上り最大480Mbpsが実現されており、現在のLTE-Aでの同社回線での最速の下り最大1.7Gbps、最大上り131.3Mbpsに比べて高速になっている。

 すでにCESではこうした5Gのモデムを内蔵したPCも発表されており、Lenovo、Dell、HPがそれぞれ発表している。現在LTE-Aに対応したセルラーモデムを内蔵しているモバイルPCなども、徐々に5Gに置き換わっていくことになるだろう。

5Gの4.1Gbps、LTE-Aの1.7Gbpsに対応するハイスペックな「SH-52A」

SH-52Aの外箱

 NTTドコモの5Gサービス向けに最初のWi-Fiルーターとして登場したのが「Wi-Fi STATION SH-52A」だ。SH-52Aは製造メーカーはシャープで、NTTドコモブランドで販売されている。筆者はNTTドコモのオンラインストアで購入したが、機種変更扱いで税別68,904円だった。スペックは以下のとおりになる。

【表1】SH-52AとSH-05Lのスペック
SH-52ASH-05L
セルラー回線5G上り/下り4.1Gbps/480Mbps-
4G上り/下り1.7Gbps/131.3Gbps988Mbps/75Mbps
国際ローミング4G/3G4G/3G
ローカルネットワーク最大対応仕様Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac)
対応帯域5GHz/2.4GHz5GHz/2.4GHz
最大通信速度1,201Mbps867Mbps
セキュリティWPA2/3WPA2/WPA/WEP
有線2.5GBASE-T-
USBUSB 2/3USB 2/3
バッテリ容量4,000mAh4,000mAh
5G駆動時間約290分-
Premium 4G駆動時間約280分約300分
LTE駆動時間約400分約900分
その他データ充電端子USB Type-CUSB Type-C
サイズ(幅×奥行き×高さ)約84×157×16~16.2mm約72×108×15mm
重量約268g約150g

 NTTドコモが販売するシャープ製のルーターとしては、SH-05Lについで2製品目となる。このため、参考までにSH-05Lのスペックも掲載しておいた。

SH-52Aの回線設定は、5G/4G/3G自動切り替えと、4G/3G、3Gの3つの設定が用意されている

 SH-52Aの特徴は、もちろん5Gに対応していることで、5Gでは下り最大4.1Gbpsで通信できる予定。予定としたのは、発売時点では対応しておらず、2020年6月以降に配布されるファームウェアアップデートで対応されるからだ。このため、発売時点では下り最大3.4Gbps、上り最大182Mbpsとなっている。5Gの周波数としてはn78(3.4GHz)、n79(4.5GHz)、n257(28GHz)の3つの周波数に対応している。

 それと同時に4Gのスペックも拡張されている。NTTドコモがPremium 4Gと呼んでいるLTE-Aの複数回線を束ねて通信するモード(CA)を利用したセルラー通信ではSH-05Lは下り最大988Mbpsだったのに対して、SH-52Aは1.7Gbpsに強化されている。

 上りも同様にSH-05Lの75Mbpsから131.3Mbpsに引き上げられている。このため、4Gでしか利用できない環境でも従来のWi-Fiルーターなどよりも高速に通信できる可能性を秘めている。

iPhone 7との比較、これまでのWi-Fiルーターとは一線を画す大きさ
従来モデルのSH-05Lとの大きさの比較

 SH-52Aを手にした最初の印象は「とにかくデカイ」ということに尽きる。SH-05Lが約72×108×15mm(幅×奥行き×高さ)であるのに対して、SH-52Aは約84×157×16~16.2mm(同)となっている。縦方向に約16%、横方向に約45%大きくなり、スマートフォン(iPhone 7)と比較するとその大きさは際立っている。重量についても、SH-05Lは約150gだが、SH-52Aは約268gと約118g増えている。

本体の左側面、中央に2.5GのEthernetポートが用意されている、その左はSIMカードスロット、右側がUSB Type-C端子
SIMカードはNano SIMカード
USBは2.0と3.0で切り換える事ができる
本体の右側面にはスイッチがある

 3月に発表されたNTTドコモの5G対応スマートフォンの多くはミリ波(28GHz)に対応していないことからわかるように、現状ではミリ波のアンテナはアンテナスペースがそれなりに必要になるし重量増の原因になる。

 また、本製品ではルーターとしてのローカルネットワーク向けに、Wi-FiやUSBなどのWi-Fiルーターでは一般的な選択肢のほか、2.5GBASE-TX、つまり2.5GbpsのマルチGigabit Ethernetポートが搭載されている。そこに、PCなどを接続して通信できるのだが、それも重量増の原因と考えられる。

 2.5G Ethernetのほか、USB 3.0(5Gbps)、さらにはWi-Fiを利用できる。SH-05LではWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)までの対応だったため、最大で867Mbpsまでの対応だったが、本製品ではWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)に拡張されている。それにより1,201Mbpsに帯域幅が引き上げられており、5Gや4GのLTE-AのCA(複数の帯域を束ねての通信)が実効速度で1Gbpsを超えてきても、十分に対応できるようになっている。

 ただ、それでも約1.2Gbpsまでとなるので、5Gのカバーエリアが広くなってきて常時5Gが使えるような環境が整ってきたら、USBやEthernetの利用を検討することになる。その選択肢が用意されていることが本製品の強みとなるし、自宅などに据え置きで利用する場合には便利だろう。

 バッテリ容量はSH-05Lと同じ4,000mAh。5GとLTE-Aを利用して複数の帯域を束ねて通信する場合には、SH-05LでLTE-Aで連続通信する場合ではバッテリ駆動時間は大きく変わらない。

 しかし、LTE-AではないLTEで通信する場合にはSH-05Lが約15時間(900分)であるのに対して、SH-52Aは約400分(6時間40分)と半分以下になってしまっている。実際の実利用環境ではSH-52Aは6時間使ってバッテリの残量表示が20%を切った。SH-05Lは余裕で10時間を軽く超えていたことを考えると、やや短いなというのが正直なところだ。

スリープ設定、5分、10分、15分に設定できる

 SH-52Aには、接続がない状態になると、Wi-Fiとセルラー回線の接続をオフにする省電力機能が用意されているが、省電力機能が有効化されるとWi-Fiもオフになってしまう。そのため、鞄などからSH-52Aを出して本体のスイッチをオンにしないと、PCから接続できない。それはものすごく不便なので、できればWi-Fiはオンにしたまま、セルラー回線だけをオフにする機能があるといいのだが……。このため、筆者は省電力機能はオフにして使っている。

現状では5G通信できる場所はほとんどない。実質的には高速なLTE-A対応Wi-Fiルーター

 それでは、5Gの回線の実力をチェックしたいところなのだが、NTTドコモで公開されている5Gの説明を確認してみると、5Gが使えるエリアはかなり狭いことがわかる。

 その多くはドコモショップの店内で、現状ではドコモショップが感染症対策で時短営業しているような状況である。そのため、テストをしに行ってご迷惑をかけるわけにはいかないと判断した。

 また、ほかに東京でのエリアの公共の場所では、お台場のメガウェブ、羽田空港などがあるが、前者は6月10日から営業再開という状況だったし、後者に関してはやはり感染症対策の最前線である空港ということ考えると、テストをしている状況ではないだろうと考えて、今回は5Gのテストはあきらめることにした。

 このエリアだと、今の時点では5Gで使うというのは現実的ではないなというのが率直な感想だ。ドコモが公開している資料などによれば、今後は駅などにも拡大する計画であり、今後そうした何かのついでにいけるような場所でもサービスが開始されたときにテストをしてみたい。

 そこで、今回はLTE-Aでの速度テストを行なってみることにした。テストはユーザー数が増えることによる結果への影響が少なくなることと、ソーシャルディスタンスを確保して安全にテストできるように考えて、早朝に行なうことにした。

 ドコモのWebサイトでLTE-Aに対応しているエリアとして確認できた東京都千代田区の秋葉原の路上で行なっている(ただし、本機の表示にはLTEで接続している場合でも、LTE-AのCAが有効になっている場合でも4G+としか表示されないので、どちらで接続されているかは明確ではない)。

 テストはSH-52Aに、XPS 13(モデル9300)に内蔵されているWi-Fi 6で接続して計測している。計測に利用したのはOoklaのSpeedtestで、Windows Storeよりダウンロードしたアプリを利用して行なった。

 場所を変えて何カ所かやってみたが、結果は下記のようになった。

【表2】Speedtestの結果
レイテンシ(ms)下り(Mbps)上り(Mbps)
地点A40365.8263.14
地点B40170.3835.11
地点C3561.1626.44
地点D34123.355.51
地点E6431.655.67
地点F36465.940.26
地点F-SH-05L30398.4747.06

 これを見てもわかるように、同じ秋葉原という街のなかでも場所によってかなり通信速度が違っていることがわかる。こうしたLTE-AのCAは複数の帯域を束ねて通信するため、ルーターの位置(縦置きか、横置きか)でも大分結果が異なっていた。

 要するにアンテナがどこを向いているかで、通信速度が変わってくるということだ。したがって、条件が良ければ約466Mbps、つまり約58.25MB/sの通信速度が出ており、1GBのデータであれば、約17.5秒でダウンロード可能という計算になる。モバイルだと考えれば十分な速度と言えるだろう。

 なお、旧モデルのSH-05Lでも、同じ地点Fでほぼ同じ時間にテストしたが、下りは398.47Mbpsという結果だった。こちらも十分な速度が出ていると言えるが、SH-52Aにすることで若干通信速度が向上していることがわかる。

4G接続でも容量無制限で使える「5Gギガホ」を契約できることが最大の魅力か

MyDocomo(NTTドコモのオンラインサービス)でのデータ利用量表示。1日で20GB使っているが、もちろん制限などはかかっていない

 NTTドコモはSH-52A向けにデータ通信の料金プランを3つ用意しているが、5Gギガライトは7GBまでの変動制で7GBを超えると128kbpsに制限されるので、PC用には適さないと考えられる。そのため、5Gギガホと5Gデータプラスの2つで比較していきたい。

【表3】SH-52A向けデータプラン
5Gギガホ5Gギガライト5Gデータプラス
月間データ容量100GB(キャンペーン期間中は容量無制限)1~7GB変動制30GB(パケットパック海外オプションとの合算)
利用料金7,650円3,150円(~1GB)/4,150円(~3GB)/5,150円(~5GB)/6,150円(~7GB)1,000円
5Gギガホ割(最大6ヶ月)1,000円-
dカードお支払い割り170円170円-
みんなドコモ割り(3回線以上)1,000円1,000円-
ドコモ光セット割り1,000円1,000円-
割引き後4,480円3,980円(~7GB)1,000円

 簡単に言うと「5Gギガホ」は単体プランで税別7,650円、「5Gデータプラス」は本契約となる音声回線とセットで使うことで税別1,000円で提供されている。

 大きな違いは毎月に使えるデータの容量で、前者は1カ月100GBまでだが、現在は終了時期未定の「国内データ量無制限」というキャンペーン中で、容量無制限で利用可能。

 後者は、どのプランを親回線にするかで変わってくるが、5Gギガホを親回線にすると海外利用(パケットパック海外オプション)と合わせて最大30GBまでとなる。

 前者には各種の割引き(5Gギガホ割り=-1,000円、dカードお支払い割=-170円、ドコモ光セット割り=-1,000円、みんなドコモ割=ファミリープラン3回線以上で-1,000円)が入るので、税別4,480円と、最近登場しつつあるMVNOの無制限プランとあまり変わらないような価格で利用できてしまう。このうち5Gギガホ割は6カ月間しか適用されないため、6カ月目以降は税別5,480円となるが、無制限だと考えれば決して高くないだろう。

【6月11日訂正】記事初出時、spモードの金額を別途含んだ価格を掲載しておりましたが、5Gの料金プランに含まれておりました。お詫びして訂正します。

 筆者の場合、もともと4Gのデータプラスから自動的に5Gデータプラスへとプランが移行していた。ドコモのWebサービスである「MyDocomo」では5Gギガホへ変更することができず、ドコモショップでの手続きか、電話での変更が必要となった。

 前述のとおりドコモショップへの不要不急の来店は自粛してほしいという要請がWebサイトにもあったため、サポートへ電話して5Gギガホへ変更してもらった。月途中でのプラン変更になるが、即時変更が可能で、6月1日にさかのぼって契約が適用されると説明があった。

筆者のデータ回線の利用料金の内訳、税別4,480円で利用できている。6月8日に5Gギガホに切り替えているが、6月1日にさかのぼって無制限が適用されている

 この「国内データ量無制限」は、別に5Gにつながっている間だけ無制限が適用されるのではない。4Gにつながっていてももちろん無制限となる。ドコモは動作保証はしていないが、たとえば4GのWi-Fiルーターに、5Gギガホ契約をしているSIMを挿入して使っていても無制限となる。

 これまでのように、容量制限に悩みながら使うということからおさらばできるのだ。なお、4G契約のSIMカードを5G契約に変更するには5Gに対応した端末をNTTドコモに持ち込む必要がある。現時点において日本で購入できる5G Wi-FiルーターはSH-52Aだけだ。

 ドコモとしては早期に5Gへの移行を促すためにこうしているのだと考えられるが、5Gのメリットはまさにこの「無制限」にあると筆者は考えている。

 昨年(2019年)の12月にマウイで行なわれたSnapdragon Summitで、5Gの強力な推進企業の1つであるQualcommの社長 クリスチアーノ・アーモン氏は「5Gでは多くのオペレーターが無制限に取り組むと考えている。それはこれまで欧州のように無制限のプランが提供されてこなかったエリアでもだ」と、5Gでは帯域が増えることで回線の容量が大きくなるため、多くの通信キャリアで無制限が当たり前になるだろうという見通しを明らかにしている。

 すでに述べたとおり、現状では5Gが使えるエリアは「点」でしかないため、5Gの速度によるメリットを享受するのはまだ難しい。しかし、もう1つのメリットである「無制限」は契約を5Gにするだけで、たとえ4Gにつながっていても享受できるのだ。

 もちろん、キャンペーンがいつまで続くのかは不明だが、そうなればまた別の選択肢を考えればいいだけで、今はSH-52Aを買ってよかったと考えている。