多和田新也のニューアイテム診断室

リファイン版Fermi採用のハイミドル「GeForce GTX 560 Ti」



 NVIDIAは1月25日、ハイミドルクラスGPUとなる「GeForce GTX 560 Ti」を発表。GeForce GTX 500シリーズで用いられるGF110のアーキテクチャをベースに、新たなコアを投入したものとなる。この製品の詳細とパフォーマンスをチェックしていきたい。

●GF110アーキテクチャを盛り込んだGF114コア

 まずはGeForce GTX 560 Tiという製品の要点をまとめておきたい。スペックは表1に示したとおりで、48基のCUDAコアを持つSMを8基、これをSM4基単位でまとめた2つのGPCによって構成される。つまり、GeForce GTX 460で使用されたGF104コアと同じ構成のコアだ。

【表1】GeForce GTX 560 Tiの主な仕様

GeForce GTX 560 TiGeForce GTX 460 1GBGeForce GTX 460 768MB
GPUクロック822MHz675MHz
CUDAコア/SPクロック1,644MHz1,350MHz
CUDAコア/SP数(SM数)384基(8基)336基(7基)
テクスチャユニット数64基56基
メモリ容量1,024MB GDDR51,024MB GDDR5768MB GDDR5
メモリクロック(データレート)4,008MHz相当3,600MHz相当
メモリインターフェイス256bit256bit192bit
メモリ帯域幅128.3GB/sec115.2GB/sec86.4GB/sec
ROPユニット数32基32基24基
ボード消費電力(ピーク)170W160W150W

GeForce GTX 570GeForce GTX 470GeForce GTX 580GeForce GTX 480
GPUクロック732MHz607MHz772MHz700MHz
CUDAコア/SPクロック1,464MHz1,215MHz1,5441MHz1,401MHz
CUDAコア/SP数(SM数)480基(15基)448基(14基)512基(16基)480基(15基)
テクスチャユニット数60基56基64基60基
メモリ容量1,280MB GDDR51,280MB GDDR51,536MB GDDR51,536MB GDDR5
メモリクロック(データレート)3,800MHz相当3,348MHz相当4,008MHz相当3,696MHz相当
メモリインターフェイス320bit320bit384bit384bit
メモリ帯域幅152GB/sec133.9GB/sec192.4GB/sec177.4GB/sec
ROPユニット数40基40基48基48基
ボード消費電力(ピーク)219W215W244W250W

 ただし、GF114はGF110で盛り込まれたアーキテクチャと同等のエンハンスメントが行なわれたという。具体的に何が変更されたかについてはコメントを得られていないが、GF110はGF100から物理設計の変更による歩留まりの向上、Zカリングやテクスチャフィルタリングの改善が行なわれており、同等の改善がGF114にも盛り込まれていると考えるのが自然だ。

 その1つの根拠となるのが、GeForce GTX 560 TiがGF114のコアをすべて有効にしている点である。ハイエンドモデルにおいてもGF110によって初めてGeForce GTX 580というフルスペック製品が登場したのと同じように、アーキテクチャのリファインによってGF114でもフルスペックを投入可能になったと考えられる。

 また、GF100/110の関係と同じように、GF114で動作クロックの向上を果たしているのも、新コアの特徴といえる。GeForce GTX 560 TiはGeForce GTX 460から2割以上のコアクロック向上となっており、CUDAコアの増加と合わせて、旧製品からの性能アップが期待できる。

 ちなみに、NVIDIAでは「GeForce GTX 560 TiはGeForce GTX 470を置き換えるもの」としている。CUDAコア数やメモリ帯域幅から見ればGeForce GTX 470のほうが上位クラスの製品といえるGeForce GTX 560 Tiであるが、動作クロックの向上によりこの価格帯の製品を、このスペックで置き換えることが可能としているわけだ。このコメントが真と言えるかは、後述のベンチマーク結果の紹介において判断したい。

 さて、今回テストする製品はNVIDIAから借用したリファレンスボードである(写真1)。クーラーの化粧カバーなどは変更されているものの、外観はGeForce GTX 460に近い。

 ただし、GeForce GTX 580/570ではベイパーチャンバーを使ったクーラーが特徴の1つとなっていたが、GeForce GTX 560 Tiはヒートパイプを用いたクーラーとなっている(写真2)。

 電源端子はGeForce GTX 460と同じく6ピン×2基の構成だ(写真3)。消費電力は170WとGeForce GTX 460より増えており、特に768MBモデルからの乗り換えを考える場合は気を払ったほうがいいだろう。ただ、NVIDIAが置き換える存在とするGeForce GTX 470に比べれば、消費電力は減少している。

 ブラケット部はDVI-I×2とMini HDMIの構成(写真4)。この点は、これまでのGeForce GTX 500シリーズと同じである。

【写真1】GeForce GTX 560 Tiのリファレンスボード【写真2】リファレンスボードのクーラーはヒートパイプ3本を用いたもの。中心にダイキャストのヒートシンク、そこからヒートパイプでつながれたフィンを持つ構造
【写真3】消費電力は最大170Wとされており、電源端子は6ピン×2基の構成となる【写真4】ブラケット部はDVI-I×2、Mini HDMIで構成される

●ハイミドル製品を揃えて比較検証

 それではベンチマーク結果の紹介に移りたい。テスト環境は表2に示したとおり。本製品の1クラス上となるGeForce GTX 570、NVIDIAが本製品への置き換えを狙うGeForce GTX 470、前世代の同セグメント製品であるGeForce GTX 460、価格帯で競合することが予想されるRadeon HD 6870とRadeon HD 6950を比較対象とした。使用したビデオカードは写真5~10のとおりだ。

【表2】テスト環境
ビデオカードGeForce GTX 560 Ti (1GB)GeForce GTX 570 (1.28GB)
GeForce GTX 470 (1.28GB)
GeForce GTX 460 (1GB)
GeForce GTX 460 (768MB)
Radeon HD 6870 (1GB)
Radeon HD 6950 (2GB)
グラフィックドライバGeForce Driver 266.56βGeForce Driver 266.588.79.6.2-101206a-109984E
CPUCore i7-2600K(TurboBoost無効)
マザーボードIntel DP67BG(Intel P67 Express)
メモリDDR3-1333 2GB×2(9-9-9-24)
ストレージSeagete Barracuda 7200.12 (ST3500418AS)
電源KEIAN KT-1200GTS
OSWindows 7 Ultimate x64

 GeForce GTX 560 TiのドライバはNVIDIAからレビューワ用に提供されたバージョン266.56β、GeForceシリーズの他製品はGeForce Driver 266.58、Radeon HD 6870/6950はのバージョン8.79.6.2-101206a-109984Eを用いている。

【写真5】GeForce GTX 570のリファレンスボード【写真6】GeForce GTX 470を搭載する、玄人志向の「GF-GTX 470-E1280HD【写真7】GeForce GTX 460を搭載する、玄人志向の「GRNGF-GTX460-E1GHD/OC」。コア/シェーダがオーバークロックされたモデルであるが、テストにあたっては定格に落として動作させている
【写真8】GeForce GTX 460を搭載する、玄人志向の「GF-GTX460-E768HD/GRN」。6ピン×1基仕様の製品である【写真9】Radeon HD 6870を搭載する、XFXの「HD-687A-ZNFC【写真10】Radeon HD 6950を搭載する、XFXの「HD-695A-CNFC

 まずはDirect X11対応タイトルのテスト結果である。テストは、「3DMark11」(グラフ1)、「Alien vs. Predator DirectX 11 Benchmark」(グラフ2)、「BattleForge」(グラフ3)、「Colin McRae: DiRT 2」(グラフ4)、「Lost Planet 2 Benchmark」(グラフ5)、「Stone Giant DirectX 11 Benchmark」(グラフ6)、「Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark」(グラフ7)、「Unigine Heaven Benchmark」(グラフ8)の結果である。

【グラフ1】3DMark11
【グラフ2】グラフ2
【グラフ3】BattleForge
【グラフ4】Colin McRae: DiRT 2
【グラフ5】Lost Planet 2 Benchmark
【グラフ6】Stone Giant DirectX 11 Benchmark
【グラフ7】Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark
【グラフ8】Unigine Heaven Benchmark

 まずいえることは、GeForce GTX 460の1GB版、768MB版からの大きく性能が飛躍しており、十の位が“6”のモデルの性能レベルは次のステップに進んだということである。一方で、当然のことながらGeForce GTX 570には大きな差を付けられている。

 ということで、NVIDIA製品同士の比較においては、やはりGeForce GTX 470が妥当な結果といえる。タイトルによる多少の得手不得手は見られるが、おおむね同等程度の性能は確保している。

 GeForce GTX 560 Tiが得意としているタイトルとしては、DiRT2が挙げられる。また、GeForce GTX 470に対してはGPCが少ないことでPolyMorph EngineやRaster Engineで劣るわけであるが、テッセレーションを多用する3DMark11やLost Planet 2、H.A.W.X 2といったタイトルで健闘しているのは好印象だ。

 また、AvP BenchmarkやUnigine Heavenにおいてはアンチエイリアスや異方性フィルタを適用したさいにGeForce GTX 470に対する優位性が表れるケースがある。GeForce GTX 470に対してROPやメモリ帯域幅でも劣ることを考えると意外な結果だが、これは動作クロックの向上により生じた、主に異方性フィルタの性能に支えられているのではないかと推測している。

 Radeon HDシリーズに対しては、よりタイトルによる傾向差の違いが大きいわけだが、Fermiアーキテクチャらしくテッセレーションを多用したタイトルにおいてはRadeon HD 6950をも上回る性能となった。

 対して、AvP BenchmarkやBattle ForgeあたりではRadeon HD 6870でもいい勝負となる。ここではフィルタ類を適用しないならばRadeon、フィルタを適用するGeForce GTX 560 Tiが良好な結果を示す傾向が出ている。

 続いて、DirectX 10/9世代のベンチマーク結果である。テストは「3DMark Vantage」(グラフ9、10)、「Crysis Warhead」(グラフ11)、「Far Cry 2」(グラフ12)、「Left 4 Dead 2」(グラフ13)、「Tom Clancy's H.A.W.X」(グラフ14)、「Unreal Tournament 3」(グラフ15)だ。

【グラフ9】3DMark Vantage
【グラフ10】3DMark Vantage
【グラフ11】Crysis Warhead
【グラフ12】Far Cry 2
【グラフ13】Left 4 Dead 2
【グラフ14】Tom Clancy's H.A.W.X
【グラフ15】Unreal Tournament 3

 こちらではGeForce GTX 470に対する優位性がさらにはっきりしている。3DMark VantageのFeature Testを見る限り、CUDAコア数の差もあってかシェーダ性能では優位性が見られないにも関わらず、ほかのタイトルから分かるようにトータルで良好な性能を発揮できるというのがGF104/114におけるグラフィックス処理を重視した効率の良さが感じられる。

 Radeon HD 6870や同6950に対しては、DirectX 11タイトルほどの優位性は出てない。タイトルによる得手不得手はあるが、Radeon HD 6870に対しては多くのタイトルで上回る性能を見せており、この製品に対する優位性はありそうだ。

 一方のRadeon HD 6950に対しては、一長一短が大きい。低負荷で劣勢であってもフィルタを適用したさいに盛り返す場合もあるが、こちらに対する優位性があるとは言いづらい結果だ。ただ、主に利用するタイトルが決まっているなら競争相手にはなるだろう。

 では、最後に消費電力の測定結果である(グラフ16)。GeForce GTX 460は768MBが6ピン×1基仕様製品、1GB版がOCモデルをダウンクロックしての使用ということで、少々クセのある比較になってしまっているが、GeForce GTX 560 Tiはこれらよりも電力を多く消費する傾向が出ている。公称ピーク電力が増しているだけに、これは致し方ないだろう。

【グラフ16】消費電力

 また、Radeon HD 6950や同HD6870は、これらGeForce GTX 460製品と似たレベルに落ち着いていることから、やはりGeForce GTX 560 Tiの消費電力の大きさが目立ってしまっている。

 ただし、GeForce GTX 470から比べると消費電力は減少傾向が見られる。テスト環境においては30W程度の減少であり、先述のパフォーマンス測定結果と併せて考えると良好な素行を見せているといえる。

●GeForce GTX 470を置き換えるが、GTX 460の代わりとは言い難い

 以上のように結果を見てくると、NVIDIAが言うGeForce GTX 470を置き換える製品という表現は妥当だと思う。GeForce GTX 470には同等以上の性能を持ち、かつ消費電力が低く、かつ249ドル程度とされている価格で販売されるのであれば、この二者を比較したらGeForce GTX 560 Tiを選ぶだろう。

 一方で、GeForce GTX 460は性能では一段劣るレベルだが、そのぶん消費電力も低い。また、GeForce GTX 460はここで試したような6ピン×1基仕様の製品やOCモデルなども豊富で、市場に出回っている製品の選択肢も多い。NVIDIAによればGeForce GTX 460は継続販売になるというが、現在市場に流通している製品を見ても、GeForce GTX 560 Tiとは違った魅力を持つ製品として存在感は残る。

 こうしたことから、560番台の製品ということでミドルレンジらしさを期待する向きもあるとは思うが、GeForce GTX 580/570の系譜に連なるハイパフォーマンスモデルに1つのバリエーションが追加されたもの、という見方が妥当だと筆者は思っている。

 例えば、GeForce GTX 460クラスの性能を持つビデオカードを持っている人が、多少の消費電力増を許容してでも、より高い性能の高いビデオカードを購入したい、といったシチュエーションが中心になるのではないだろうか。

 ちなみに、GeForce GTX 560 Tiという製品名の「Ti」という文字が気になっている方も多いと思う。これは、Titaniumの略とされ、GeForce GTX 560の最上位SKUであることを示しているという。つまり、別の文字列を持つ下位のモデルが将来的に投入される予定になっているわけだ。例えば、GeForce GTX 560 SEなどが予想されるが、GeForce GTX 460を置き換える製品は、こうしたところから生まれてくるのかも知れない。今後の製品展開も興味深く見ていきたい。