■多和田新也のニューアイテム診断室■
AMDが1月4日に発表した、同社初のCPU・GPU統合チップ「Fusion APU」。このAPUを搭載したノートPCが続々と発表される一方で、Mini-ITXなどの小型マザーボードの計画も、各社によって進められている。ここでは、そうした小型フォームファクター向けのFusion APU搭載マザーボードのパフォーマンスを見てみたい。
●Fusion APUを用いる「Brazos」プラットフォームAMDが1月4日に発表したFusion APUについての概要は、発表時の記事を一読されたい。
このタイミングで発表されたのは、Zacateのコードネームを持つTDP18Wの「AMD Eシリーズ」と、Ontarioのコードネームを持つTDP9Wの「AMD Cシリーズ」の2シリーズだ。
APUのCPUは、Bobcatと呼ばれるアウト・オブ・オーダー型のマイクロアーキテクチャを持つ。このCPUコアを2基持つデュアルコアCPUであり、これに、メモリコントローラや、Radeon HD 5000をベースにUVD3を搭載するGPUコア、ディスプレイコントローラなどを統合している(図1)。APUのダイサイズは75平方mm。
【図1】Fusion APUであるZacate(AMD Eシリーズ)、Ontario(AMD Cシリーズ)のダイレイアウト。3分の2近くをGPU関連で占めていることがわかる |
メモリコントローラはDDR3-800/1066対応。シングルチャネルで最大2DIMMまでをサポートする。
GPUコアは「Radeon HD 6310」(Eシリーズ)または「Radeon HD 6250」(Cシリーズ)を統合。80基のSPを持つDirectX 11対応のものだ(図2)。Radeon HD 6310とRadeon HD 6250の違いはGPUコアの動作クロックとされている。
このZacateおよびOntarioと、IO機能チップであるFCH(Fusion Controller Hub)で構成されるプラットフォームは「Brazos」と呼ばれる。APU-FCH間はPCI ExpressベースのUMI(Unified Media Interface)で接続される(図3、写真1)。
FCHには「AMD A50M」と「AMD A45」の2モデルが用意される。前者は6基あるSATAポートが6Gbpsに対応している。後者はSATAが3Gbpsとなる一方、PCIインターフェイスをサポートしている。このほかの共通仕様としては、USB 2.0×14ポート、USB 1.1×2ポート、PCI Express x1×4基分を備えている。
【図2】統合GPUのブロックダイヤグラム。Radeon HD 5000シリーズをベースにするが、UVD 3.0を搭載しているのがポイント | 【図3】Brazosプラットフォームのダイヤグラム。IO機能はFCHと呼ばれるチップによって提供される | 【写真1】写真上がFusion APUのAMD E350、下がFCHのAMD A50M。Brazosはこの2チップで構成される |
●Brazosプラットフォームを採用するマザーボード
さて、今回テストに用いるのは、AMDから借用したMSI製のBrazosプラットフォーム採用マザー「E350IA-E45」である(図4、写真2~5)。Mini-ITXフォームファクターに準拠した製品で、APUにAMD E350、FCHにAMD A50Mを搭載する。
I/Oリアパネル部にはディスプレイ出力端子としてミニD-Sub15ピンとHDMIを持つ。DVIを持たない点が自作ユーザーには少々気になるポイントになるだろうか。一方で、このサイズの製品としてはUSB 2.0×6とUSB 3.0×2と、USBポートの充実が目立つレイアウトだ。
ちなみに借用したモデルは試作モデルのため、APUとFCHで独立したヒートシンクを備え、APU側にファンを搭載するデザインとなっているが、AMDの資料にある写真にはAPUとFCHを覆う一体型のヒートシンクにファンが載る格好となっている。実際の製品は後者になる予定だ。
【図4】MSIのBrazos搭載「E350IA-E45」 | 【写真2】MSIの「E350IA-E45」。APUとFCHで独立したヒートシンクを備え、APU側にのみファンが搭載されている |
【写真3】搭載されているPCI Express x16スロットは内部x4となる。SATA×6基はいずれも6Gbpsサポート | 【写真4】I/Oパネル部。ディスプレイ出力はミニD-Sub15ピンとHDMIの2系統となっている | 【写真5】マザーボードの裏面 |
このほかの製品もいくつか紹介しておく。GIGABYTEからはMini-ITXフォームファクターの「GA-E350N-USB3」がラインナップされる(図5、写真6~8)。こちらの製品もAMD E350+AMD A50Mの構成だ。クーラーはAPU・FCHにまたがるヒートシンクと1つのファンによって構成されている。
I/Oパネル部のディスプレイ出力はミニD-Sub15ピン、DVI-D、HDMIが揃っており、一般的なPCに近い。USBは2.0が4ポート、3.0が2ポート備わっている。
本製品でポイントになりそうなのはDualBIOSの採用だろう。低価格が予想されるこのクラスにおいてもこうした機能が搭載されることを喜ばしく感じるユーザーは多いのではないだろうか。
ASUSTeKからも複数の製品が予定されている。注目はmicroATXフォームファクターを採用した「E33M1-M PRO」だ(図6、写真9~10)。前記2製品同様、AMD E350+AMD A50Mの構成だが、ブリッジチップを用いることでPCI×2を用意。
I/Oパネル部にはeSATAやIEEE 1394も備える。こうしたスペックからは、microATXであるという拡張性のメリットの優位性を感じる製品といえるだろう。
また、Mini-ITX製品「E35M1-I Deluxe」の投入も予定されている(写真11~12)。同じくAMD E350+AMD A50Mの製品だ。この製品は前記2製品と異なりファンレスの大型ヒートシンクを採用している点が目立つ。
【図6】ASUSTeKの「E33M1-M」シリーズ | 【写真9】ASUSTeKの「E33M1-M PRO」。Brazos製品としてmicroATX、PCIスロットの装備は貴重な存在になりそうだ(写真提供:ASUSTeK) | 【写真10】I/Oパネル部のディスプレイ出力はDVI-D、D-Sub15ピン、HDMIの構成。eSATAやIEEE 1394も備えている(写真提供:ASUSTeK) |
また、PCI Express Mini Cardスロットを備え、ここに無線LANモジュールを搭載済みである点。I/Oパネル部にBluetoothモジュールを搭載している点などが特徴といえる。また、先述のmicroATXモデルとともにSATAを5ポート+eSATAを備えるのも特徴になっている。
このほかポイントを挙げておくと、ASUSTeKやMSIはUEFI BIOSを採用。ASUSTeKはIntel 6シリーズチップセットでも採用されているグラフィカルなインターフェイスが提供されるという。MSIはレガシーBIOS風の画面だ。
また、メモリについてはAMDの資料でもGIGABYTEが明確にDDR3-1333対応をうたっているほか、今回テストしたMSI製品でもDDR3-1333モジュールを挿すと、初期設定でDDR3-1333として認識した。APU自体はDDR3-1066対応に留まるものの、マザーボード側でDDR3-1333対応が進んでいる格好だ。
なお、AMDの資料によれば、ここで紹介している3社にも他モデルが予定されているほか、Sapphire、Pegatron、ECS、ASRock、Jetway、TulといったメーカーからBrazosマザーボードが発売されるという。ASRockあたりはパッケージ製品にも期待できそうだ。この中には、より低クロックのAMD E240を採用したマザーボードもラインナップされている。いずれも2010年末から今年第1四半期中の量産が予定されている製品となっており、今後、自作ショップ等にも流通するモデルがあるのではないかと思われる。
●低消費電力のMini-ITX環境で比較それではベンチマーク結果を紹介したい。環境は表に示したとおり。ここでは、AMD 880Gを搭載するMini-ITXに、低消費電力版のAthlon II X2 240eを組み合わせた環境を比較のメインに据えた。また、低消費電力なMini-ITX環境の代表例としてAtom D510(1.66GHz)+Intel NM10 Expressチップセットの搭載製品も用意。セグメントがやや異なる製品ではあるが、対象ユーザは近いと考え、参考までにベンチマーク結果を紹介しておきたい。テストに用いた機材は写真13、14だ。
CPU | AMD E-350 | Athlon II X2 240e | Atom D510 |
チップセット | AMD A50M | AMD 880G+SB710 | Intel NM10 Express |
マザーボード | MSI E350IA-E45 | ASUSTeK M4A88T-I Deluxe | ASUSTeK AT5NM10-I |
メモリ | DDR3-1333 2GB×2 (9-9-9-24) | DDR3-1333 2GB×2 (9-9-9-24,SO-DIMM) | DDR2-800 2GB×2 (5-5-5-18) |
グラフィックス機能 (ドライババージョン) | Radeon HD 6310 (Brazos BETA Driver) | Radeon HD 4250 (CATALYST 10.12) | Intel GMA 3150 (Version 15.12.75.50.7.64.2230) |
ストレージ | Seagete Barracuda 7200.12 (ST3500418AS) | ||
電源 | Abee ZUMAX ZU-650-B-KA | ||
OS | Windows 7 Ultimate x64 |
ちなみに、先述のとおり、MSIのBrazosマザーにDDR3-1333を搭載した場合、そのままDDR3-1333として認識、動作している(画面1~3)。
ドライバはレビューワ用にAMDから提供されたBrazos BETA driverを用いている。この環境からみたGPUのコアクロックは492MHzとなっている。
【写真13】AMD 880G+SB710を搭載する、ASUSTeKの「M4A88T-I Deluxe」 | 【写真14】Atom D510+Intel NM10チップセットを搭載する、ASUSTeKの「AT5NM10-I」 |
【画面1】E350IA-E45上でCPU-Zを実行した結果 | 【画面2】こちらはSandra 2011bのMainboard実行画面。メモリが666MHz(DDR3-1333)で動作していることを確認できる。APUのリビジョンは「E4」と表示された | 【画面3】Brazos BETA DriverのControl CenterからAPU内のGPU仕様を確認すると、GPUクロックは492MHzとなっている |
まずはCPUとメモリ周りの性能からチェックしていく。テストは「Sandra 2011b」のProcessor Benchmark(グラフ1)、「PassMark Performance Test 7」のCPU Test(グラフ2)、「PCMark05」のCPUテスト(グラフ3、4)、Cache & Memory Benchmark(グラフ5)、PCMark05のMemory Test(グラフ6)だ。
【グラフ1】Sandra 2011b Processor Benchmark |
【グラフ2】PassMark Performance Test 7 CPU Test |
【グラフ3】PCMark05(シングルタスク) |
【グラフ4】PCMark05(マルチタスク) |
【グラフ5】Cache & Memory Benchmark |
【グラフ6】PCMark05 Memory Test |
まずCPU性能であるが、Atom D510との比較においては、とくに浮動小数点演算において、AMD E-350の良さが発揮される傾向が出ている。ただ、SandraにしてもPassMarkにしても、Atom D510、AMD E-350の善し悪しが大きく分かれる結果になっており、その得意内容は変わることがわかる。
一方、Athlon II X2 240eはさすがに大きく差を付けている。おおむねBobcatの2倍以上は安定して発揮し、大きいところでは3倍を超える。それでも、整数演算ではBobcatも健闘を見せており、このあたりの相対的な傾向は、整数演算に強いアーキテクチャであったAtomに似ているといえなくもない。
メモリについても動作クロックが低いことや、シングルチャネルであることが響いて、Athlon II X2 240eに対してはキャッシュ・メインメモリともに大きく劣る。Atom D510との比較では、Atom D510の動作クロックがAMD E-350よりやや高い点を加味すると、L1はAMD E-350が多少よく、L2は似たような性能にあるといえるだろう。ただ、大局的に見ると、この両者のメモリ性能は非常に近い印象が残る。
続いてアプリケーションベンチマークの結果である。テストは「PCMark Vantage」(グラフ7)、「CineBench R10」(グラフ8)、「CineBench R11.5」(グラフ9)、「TMPGEnc Video Mastering Works 5による動画エンコード」(グラフ10)である。PCMark VantageにおいてはAtom D510環境でゲーム系テストが実施できなかったため、OverallスコアとGamingスコアが省略されている。
【グラフ7】PCMark Vantage |
【グラフ8】CineBench R10 |
【グラフ9】CineBench R11.5 |
【グラフ10】TMPGEnc Video Mastering Works 5 動画エンコード |
先のとおりCPU性能やメモリ性能のみを個別に見るとAtom D510と善し悪しが分かれるAMD E-350だが、こうした実アプリケーションにおいては非常に良好な結果を見せる。このあたり、プラットフォームとしての優秀さを感じさせる結果となっている。
Atom D510は唯一、TMPGEncのMPEG-2エンコードで良好な結果を示したが、アプリケーションの最適化、Hyper-Threading搭載などの差が出たと考えられる。ちなみにFusion APUではGPUによるエンコードアクセラレーションを行なうといった利用がAMDから提案されている。Brazos BETA DriverでもControl Centerがエンコーダを持っているが、例えばMediaShowEspresso 6の最新パッチ適用版などからGPUによるエンコードを指定することはできなかった。このあたりのサポートの広がりは、AMDにとっても今後の課題になるだろう。
次に、ここまでのテストに用いてきた環境における消費電力の比較である(グラフ11)。こちらもAMD E-350はAtom D510環境に対して良好な結果を見せている。
一方、Athlon II X2 240eはAMD E-350の2倍以上の差がある結果となったが、タイトルやここまでの性能検証で3倍近くのスコアをマークすることが多いことを考えると、単純計算ではAthlon II X2 240eの魅力を感じる結果ではある。その意味で、AMD E-350は非常に低い消費電力環境という枠内において、まずまずの性能を持つ環境である、ということになるだろう。
【グラフ11】消費電力 |
さて、次に3D性能のテストである。ここでは軽負荷のDirectX 10やDirectX 9のタイトルをテストする。
ただ、Atom D510環境のGPUであるIntel GMA 3150はDirectX 10をサポートしていないうえ、DirectX 9タイトルでもエラーで起動しないことが多い。3D性能を比較するのに妥当な製品と思われないので、ここではテストを省略している。参考までに動作したFFbench3の結果は、AMD E-350が2392、Atom D510が898という結果だった。
【写真15】Radeon HD 5450のリファレンスボード |
代わりに、AMD E-350環境にAMDの現行最廉価モデルであるRadeon HD 5450を装着した際のテスト結果を掲載する。PCI Express x4での接続にはなるが、AMD E-350内蔵GPUの相対性能を知る指標になるほか、この環境に安価がGPUを付加することに意味があるのかについても見えてくるだろう。なお、使用したボードはAMDから借用したファンレスのリファレンスボードだ(写真15)。ドライバはCATALYST 10.12を用いた。ほかの環境は先の表に準拠する。
実施したテストは「3DMark Vantage」(グラフ12、13)、「3DMark06」(グラフ14、15)、「BIOHAZZARD 5 Benchmark」(グラフ16)、「FINAL FANTASY XI for Windowsオフィシャルベンチマークソフト3」(グラフ17)、「Left 4 Dead 2」(グラフ18)、「モンスターハンターフロンティア(MHF)オンラインベンチマークソフト絆」(グラフ19)、「Unreal Tournament 3」(グラフ20)である。
一連の結果を見ると、グラフィック性能において、AMD E-350が内蔵するRadeon HD 6310は、AMD 880G内蔵のRadeon HD 4250よりも高い性能を持っていることは確実といえる。ただし、CPU性能の差があるため、CPUの性能への依存が大きい3DアプリケーションにおいてはAthlon II X2 240e+AMD 880Gの組み合わせが高いスコアをマークすることもある、といった結果になっている。
一方、Brazos環境にRadeon HD 5450を追加した場合であるが、こちらは明らかに性能の伸びが見られる。ただ、Radeon HD 5450を搭載したらゲームが快適か、というと、そこまでの伸びでないのも確かなことで、必要に迫られた場合は拡張の余地はあるが、最廉価クラスのビデオカードと使い勝手を左右するほどの劇的な性能差はない、という結論になる。Athlon II X2 240eとの比較でもわかるように、ゲームにおけるAMD E-350のボトルネックはCPUであることから、最廉価クラスのビデオカードに近い性能が出せれば十分ということもいえるだろう。
このグラフィックステスト環境における消費電力はグラフ21だ。こちらは、先のCPUを中心としたアプリケーション実行結果に比べ、AMD E-350の消費電力はやや大きくなっている。冒頭で記したとおりダイの多くをGPUが占めることを考えれば、こうした傾向は納得できるものといえるだろう。
とはいっても、その消費電力はかなり低く、Athlon II X2 240e+AMD 880Gとの性能差を考えれば、3D描画時の電力効率は非常に良好であるといえる。
【グラフ21】3Dアプリケーション実行時の消費電力 |
●GPUの活用で低消費電力環境の魅力がより増す
以上のとおり結果を見てくると、一般的なアプリケーション、ゲームともに、その消費電力に対して良好な性能を持ったプラットフォームに仕上がっていることが分かる。Mini-ITXを中心に低消費電力環境を構築する際、その“枠”が許容する電力・熱において最大限の性能を得たい人にとって、Brazosプラットフォームは有力な選択肢になるだろう。
とくにGPUは、この消費電力としてはリッチなものという印象が強い。先も述べたが、RadeonのローエンドGPU同様、GPGPUを活用するためのアプリケーション側のサポートは今後の課題だ。この強力なGPUを持つBrazos、Fusion APUの魅力は、GPGPUの活用でさらに高まると考えられる。
今はまだプラットフォームが登場したばかりであるにもかかわらず、高いポテンシャルを感じさせる結果を見せている。今後、さらなる飛躍を期待したいプラットフォームだ。