多和田新也のニューアイテム診断室

設計見直しも行なったフルスペックFermiこと「GeForce GTX 580」



 米NVIDIAは11月9日、GeForceシリーズの最上位モデルを更新する「GeForce GTX 580」を発表した。従来の最上位モデルである「GeForce GTX 480」で採用されたGF100コアをベースに、すべてのコアを有効化。さらにアーキテクチャや回路設計の見直しなどを行なうことで電力効率を向上させたという。この製品のパフォーマンスをチェックしていきたい。

●GF100コアをマイナーチェンジ

 まずは、GeForce GTX 580の特徴をまとめておきたい。主な仕様は表1にまとめた通り。

【表1】GeForce GTX 580の主な仕様
 GeForce GTX 580GeForce GTX 480
プロセスルール40nm40nm
GPUクロック772MHz700MHz
CUDA Coreクロック1,544MHz1,401MHz
CUDA Core数(SM数)512基(16基)480基(15基)
テクスチャユニット数64基60基
メモリ容量1,536MB GDDR51,536MB GDDR5
メモリクロック(データレート)4,008MHz相当3,696MHz相当
メモリインターフェイス384bit384bit
メモリ帯域幅192.4GB/sec177.4GB/sec
ROPユニット数48基48基
ボード消費電力(ピーク)244W250W

 コアはGeForce GTX 480のGF100ではなく、「GF110」と呼ばれる新コアを用いている。プロセスはGF100と同じTSMCの40nmプロセスを用いており、Streaming Multiprocessorあたりのコア数も、GF100と同じ32コア。つまり、GF104のような48コア/SMの設計は採用していない。GF110コアの設計上のフルスペックはGF100と同じく16SMとなっており、GF100では登場していないフルスペックのFermiが、このGeForce GTX 580でようやく実現したことになる。

 加えて、GF110ではいくつかのアーキテクチャ上の拡張が行なわれた。Z-カリング(奥行きを判定し、描画しないポリゴンを除外する処理)の効率を上げた点と、GF100では2クロックで1ピクセルを処理していたFP16テクスチャフィルタを、1クロックで処理できるようにしたという、2つの点が大きな拡張とされている。前者はおそらくRaster Engineの改良、後者はテクスチャユニット部に手を加えたものと見られる。

 結果として、GeForce GTX 580は、仕様面ではフルスペック化、クロック向上、アーキテクチャの改良という3点によって、GeForce GTX 480から性能向上を実現している(図1)

【図1】NVIDIAの製品説明スライドより、GeForce GTX 480からの性能向上を示すグラフ。アーキテクチャによる性能向上と、高クロック&フルスペック化による性能向上がGeForce GTX 580のポイントとなる

 さらに、GF100コアの弱点とも言えた電力効率の改善も大きなポイントとして挙げられている。公称消費電力はアイドル時33W、ピーク時244Wとされており、250Wを下回る。コアの回路設計を見直すことで、フルスペック化や高クロック化した上で、なおかつ消費電力を下げたのである。逆に言えば、電力効率を改善したことで、フルスペック化や高クロック化を実現したという見方もできる。

 さて、今回テストするのは、NVIDIAから借用した本製品のリファレンスボードである(写真1)。まずは、GeForce GTX 480とは異なるクーラーを採用している点が目に留まるだろう。

 GeForce GTX 580では、リファレンスデザインのGPUクーラーの変更も1つの特徴として挙げられている。GeForce GTX 480では、GPUとの接地面に銅、アルミ製のフィン、ヒートパイプを組み合わせたヒートシンクを採用していた。GeForce GTX 580では、このヒートシンクを、ベイパーチャンバーを用いたものへと変更し、ヒートパイプを廃している(写真2)。板状のヒートパイプともいえるベイパーチャンバーは、ビデオカードベンダーによるオリジナルGPUクーラーで採用例が増えており、この流れをリファレンスデザインが取り入れた格好といえるだろう。

 また、ファンも口径が大きくなったほか、GeForce GTX 480では基板にも設けられていた吸気口がふさがれる点に違いが見られる(写真3、4)。

 DVI-I×2+Mini HDMIの出力端子や、6ピン+8ピンの電源端子を備える点は、GeForce GTX 480と同様(写真5、6)。消費電力が下がったとはいえ、244Wを供給するために8ピンを要する点は変わっていない。

【写真1】GeForce GTX 580のリファレンスボード。GeForce GTX 480では一部が剥き出しになっていたヒートシンクは、すべて化粧カバーに収められるスタイルになった【写真2】GeForce GTX 480ではヒートパイプがはみ出していたが、GeForce GTX 580はベイパーチャンバーを用いることでヒートパイプをなくしている【写真3】左がGeForce GTX 580、右がGeForce GTX 480。ファンの口径が一回り大きくなっていることが分かる
【写真4】左がGeForce GTX 580、右がGeForce GTX 480。基板側のファン吸気口がなくなっている【写真5】I/Oブラケット部はDVI-I×2、Mini-HDMIの構成【写真6】電源端子は6ピンと8ピンを備える

●5万円前後のハイエンドGPU環境を比較

 それではベンチマーク結果の紹介に移りたい。環境は表2に示した通りで、GeForce GTX 480との比較に加え、過去記事でGeForce GTX 480をやや上回る性能を示し、価格帯も近いRadeon HD 6850のCrossFire構成もテストを行なった。テストに使用したビデオカードは写真7、8の通りだ。

 ドライバについては、GeForce両製品についてはNVIDIAからレビューワ用に配布されたGeForce GTX 580対応のベータドライバ、Radeon HD 6850はAMDのWebサイトで提供されているCATALYST10.10を使用している。

【表2】テスト環境
ビデオカードGeForce GTX 580 (1.5GB)
GeForce GTX 480 (1.5GB)
Radeon HD 6850 (1GB)
CrossFire構成
グラフィックドライバGeForce Driver 262.99βCatalyst 10.10
CPUCore i7-860(TurboBoost無効)
マザーボードASUSTeK P7P55D-E EVO(Intel P55 Express)
メモリDDR3-1333 2GB×2(9-9-9-24)
ストレージSeagete Barracuda 7200.12 (ST3500418AS)
電源KEIAN KT-1200GTS
OSWindows 7 Ultimate x64

【写真7】GeForce GTX 480のリファレンスボード【写真8】Radeon HD 6850を搭載する、XFXの「HD-685X-ZNFC

 では、DirectX 11対応ベンチの結果から紹介する。「Alien vs. Predator DirectX 11 Benchmark」(グラフ1)、「BattleForge」(グラフ2)、「Colin McRae: DiRT 2」(グラフ3)、「Lost Planet 2 Benchmark」(グラフ4)、「Stone Giant DirectX 11 Benchmark」(グラフ5)、「Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark」(グラフ6)、「Unigine Heaven Benchmark」(グラフ7)の結果から見てみたい。前回同様、Stone Giant がRadeon HD 6850のCrossFire環境で動作しなかったため、本環境のテストを割愛している。

 結果は、条件にかかわらず、GeForce GTX 580が安定してGeForce GTX 480から性能向上を果たしている。フィルタ類を適用しない場合や1,680×1,050ドットの条件ではGeForce GTX 480との差が数%内に留まる部分もあるが、負荷が高い部分ではおおむね15%強のフレームレート向上が見られる。CPUによる頭打ちもあると見られ、本製品が用いられるであろうフルHD以上の解像度においては、この15%強という数字は1つの目安になるかと思う。

 ただ、伸び幅は安定しておらず、例えばH.A.W.X 2 Benchmarkは大きいところでも6%程度の伸びに留まる一方、Heaven Benchmarkでは19%ほど伸びる条件もある。このあたり、単なるクロックアップではなく、マイクロアーキテクチャに手を入れたことが影響していると見られる。例えば、GeForce GTX 480に比べると、コア数およびSMが増えPolymorh Engineやテクスチャユニットが増え、さらにテクスチャユニットはFP16フィルタリングの性能が増した。一方でラスタライズ処理ユニットについては同数である。こう言った強化された部分、されていない部分の差があるため、性能向上にぶれがあるのだろう。

 一方、Radeon HD 6850のCrossFireとの比較においては、タイトルによる得手不得手が目立つが、GeForce GTX 480で下回ったテストにおいてもGeForce GTX 580なら上回る箇所が見られ、性能向上を感じる結果といえる。

【グラフ1】Alien vs. Predator DX11 Benchmark
【グラフ2】BattleForge
【グラフ3】Colin McRae: DiRT 2
【グラフ4】Lost Planet 2 Benchmark
【グラフ5】Stone Giant DX11 Benchmark
【グラフ6】Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark

 続いては、DirectX 10/9世代のベンチマークである。テストは「3DMark Vantage」(グラフ8、9)、「Crysis Warhead」(グラフ10)、「Far Cry 2」(グラフ11)、「Left 4 Dead 2」(グラフ12)、「Tom Clancy's H.A.W.X 」(グラフ13)、「Unreal Tournament 3」(グラフ14)、「World in Conflict」(グラフ15)である。

 これらの結果も、低解像度でAAやフィルタ非適用時にCPUによる頭打ちが見られるものの、割と安定したフレームレートの向上が見てとれる。ただ、やはりタイトルによって上げ幅に波がある。例えば、3DMark Vantageは1.3倍程度、H.A.W.X.は1.2倍程度とフレームレートの向上が大きい部類に入る。だが、大局的にはWUXGA/4xAA/16xAAの結果で1割強といった結果が目立っており、先のDirectX 11対応ベンチの結果に比べると、やや伸びは小さい結果となっている。

【グラフ7】Unigine Heaven Benchmark 2.1
【グラフ8】3DMark Vantage Build 1.0.2 (Graphics Score)
【グラフ9】3DMark Vantage Build 1.0.2 (Feature Test)
【グラフ10】Crysis Warhead (Patch v1.1)
【グラフ11】Far Cry 2 (Patch v1.03)
【グラフ12】Left 4 Dead 2
【グラフ13】Tom Clancy's H.A.W.X
【グラフ14】Unreal Tournament 3 (Patch v2.1)
【グラフ15】World in Conflict (Patch v1.011)

 最後に消費電力の計測結果である(グラフ16)。こちらはGeForce GTX 480に対して、アイドル時で13W、ピーク時は15~30Wの電力減が見られる。Radeon HD 6850のCrossFireがより低い電力であるという点は変わりない。ただし、電源ユニットをワンランク下げることができる、というほどではない。

 それでも、「性能を高くし、かつ消費電力を下げた」というNVIDIAのアピールは事実で、数字としてはそれほど大きくないとはいっても、意味を持つ結果といえるだろう。

【グラフ16】各ビデオカード使用時のシステム消費電力

●総合力を高めた新ハイエンドビデオカード

 シングルGPUビデオカードの新ハイエンドとして登場したGeForce GTX 580は、性能面では旧製品から1割~3割程度の性能向上という結果になった。製品名はGeForce GTX 400番台から500番台に変更され、大きな飛躍を期待させるが、実態はGF100のマイナーチェンジであり、性能向上の度合いは実態に即したものではないかと思う。

 しかしながら、GF100導入を悩ませる要素が緩和された点は歓迎したい。1つは単純にフルスペックになったという点である。1SMをカットした状態では、その能力を最大限発揮しているとは言い難いし、「今買っても、もしかしたらフルスペックが出るんじゃないか」という不安なく購入できる製品になっている。

 もう1つは、何といっても電力効率である。消費電力よりも性能を重視する状況であっても、同じ性能であれば、電力が低いに越したことはない。どちらかというと消費電力より絶対性能を重視したハイエンドを投入してきたNVIDIAではあるが、その方向性とは違った向きを感じられるのは印象的だ。

 ちなみに、米国での製品価格は499ドルとされており、これはGeForce GTX 480登場時の価格と同じ。つまり、従来の最上位モデルが担っていたセグメントに収まるわけだ。現在の市場価格ではGeForce GTX 480も価格がこなれて多少安価にはなっているが、GeForce GTX 480は今後、終息に向かうはずだ。

 また今後、このGF110で取り入れらたアーキテクチャの拡張や回路設計をベースにしたGeForce 500番台のバリエーションモデルも展開されるものと見られる。それらの早期投入にも期待したい。