■多和田新也のニューアイテム診断室■
10月22日に発表/発売されたRadeon HD 6800シリーズ。そのタイミングでシングルビデオカードによるベンチマークレポートをお届けしたが、追試としてCrossFire環境における本製品のパフォーマンスをチェックしていきたい。
●CrossFireによるスケーリングをチェックRadeon HD 6870とRadeon HD 6850の仕様等については、すでに発表時に紹介しているので、ここでは省略する。この両製品はCrossFire端子を1基を備えており、デュアル構成でのCrossFire構成をサポートしている。今回はこの環境におけるベンチマークを実施する。
テスト環境は表に示した通り。基本的にはRadeon HD 6870とRadeon HD 6850のシングルビデオカード環境とデュアルビデオカード環境における差をチェックすることを主題とする。
加えて、GeForce GTX 480のシングルビデオカード環境もテストに加えた。GeForce GTX 480は4万円台後半から5万円台前半で販売されており、2万円台後半で販売されるRadeon HD 6870、2万円台前半で販売されるRadeon HD 6850を2枚購入する価格に近いからである。テストに使用したビデオカードは写真1~3の通りだ。
Radeon HD 6870/6850のドライバは前回記事と同じく、AMDから評価用に提供されたCATALYST10.10(8.782-100930m-106214E)を使用。よって、シングルビデオカード環境の結果は前回からの流用である。GeForce GTX 480のドライバは、テスト時点で提供されていた最新WHQLドライバであるGeForce Driver 258.96を使用している。
なお、「Stone Giant DirectX 11 Benchmark」はCrossFire環境で正常に動作しなかったためテストを割愛している。その代わりというわけでもないのだが、同じくDirectX 11対応タイトルのベンチマークソフトである「Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark」を追加した。
ビデオカード | Radeon HD 6870(1GB) Radeon HD 6850(1GB) | GeForce GTX 480(1.5GB) |
グラフィックドライバ | Catalyst 10.10 | GeForce Driver 258.96 |
CPU | Core i7-860(TurboBoost無効) | |
マザーボード | ASUSTeK P7P55D-E EVO(Intel P55 Express) | |
メモリ | DDR3-1333 2GB×2(9-9-9-24) | |
ストレージ | Seagete Barracuda 7200.12 (ST3500418AS) | |
電源 | KEIAN KT-1200GTS | |
OS | Windows 7 Ultimate x64 |
【写真1】Radeon HD 6870を搭載する、XFXの「HD-687A-ZNFC」 | 【写真2】Radeon HD 6850を搭載する、XFXの「HD-685X-ZNFC」 | 【写真3】GeForce GTX 480のリファレンスボード |
「Alien vs. Predator DirectX 11 Benchmark」(グラフ1)、「BattleForge」(グラフ2)はともにCrossFireによって優秀な性能の伸びを見せた。解像度/フィルタ適用によって効果は増すが、1,680×1,050ドットのフィルタ非適用でも1.9倍以上となる。Radeon HD 6870と6850では後者がやや伸びが良い傾向があるが、これはCPUバウンドもあるだろう。
【グラフ1】Alien vs. Predator DX11 Benchmark |
【グラフ2】BattleForge |
「Colin McRae: DiRT 2」(グラフ3)、「Lost Planet 2 Benchmark」(グラフ4)、「Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark」(グラフ5)は、先の2タイトルに比べるとスケーリングの効果が低い。Lost Planet 2はそれでも1.8倍程度の性能向上を見せているのでまずまずの結果といえるが、DiRT2は大きいところでも1.6~1.7倍に留まる。と言っても、これらの効果が低いというのは、あくまで先の2タイトルの比較であり、1,680×1,050ドットのフィルタ適用時あたりから伸びが良くなるあたりCrossFire化の意味があるタイトルには含まれるだろう。
ただ、H.A.W.X.2は大きいところで1.5倍程度。Radeon HD 6870にいたっては最大でも1.3倍程度であり、やや伸びが悪いところを見せている。
【グラフ3】Colin McRae: DiRT 2 |
【グラフ4】Lost Planet 2 Benchmark |
【グラフ5】Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark |
「Unigine Heaven Benchmark」(グラフ6)は今回のテストのなかでも、もっとも伸びの良いタイトルになった。Radeon HD 6870/6850ともに安定して1.95倍を超えており、最大では1.99倍とほぼCrossFireの限界と思われるレベルに達している。これがベンチマーク専用ソフトによる結果ということだけが惜しまれる。
【グラフ6】Unigine Heaven Benchmark 2.1 |
「3DMark Vantage」(グラフ7、8)は解像度が上がることでスケーリング効果が増す傾向にある。両GPUともに1.8~1.9倍程度のスコアアップなので、良好な結果といえるだろう。
Feature Testについては、シェーダユニットの能力が問われるPixel Shader、Perlin Noiseの効果が高い一方、Stream OutやGPU Perticlesのようにデータバスがボトルネックとなったテストは効果が薄いという両極端な結果となっている。
【グラフ7】3DMark Vantage Build 1.0.2 (Graphics Score) |
【グラフ8】3DMark Vantage Build 1.0.2 (Feature Test) |
「Crysis Warhead」(グラフ9)はCrossFire化によってCPUがボトルネックになって頭打ちになったと見られる結果が出ている。結果として低解像度では効果が低い結果となったが、1,920×1,200ドット/フィルタ適用時にはRadeon HD 6870が1.77倍、Radeon HD 6850が1.89倍と高い効果を見せている。シングルビデオカード時のフレームレートが低いだけに、実用性のある効果といえるだろう。
【グラフ9】Crysis Warhead (Patch v1.1) |
「Far Cry 2」(グラフ10)も、CPUの影響で頭打ちになったと見られる結果だ。シングルビデオカード時にはフレームレートの落ち込みが大きいフィルタ適用時も、CrossFire環境なら下がらないという点で、フィルタ非適用時とは相対的に効果が増すことになる。
【グラフ10】Far Cry 2 (Patch v1.03) |
「Left 4 Dead 2」(グラフ11)は、シングルビデオカード時の時点でCPUバウンドが発生している状況であり、Radeon HD 6850は多少効果が目立っているが、全体的には効果が低いといえる。1,920×1,200ドットのフィルタ適用時にもフレームレートがまったくといっていいほど下がらないが、元々のフレームレートも良好なだけに、実用的にも効果は低いだろう。
【グラフ11】Left 4 Dead 2 |
「Tom Clancy's H.A.W.X 」(グラフ12)はDirectX 10系で高い効果を示したタイトルだ。とくにフィルタ適用時にシングルビデオカード環境との差を大きく広げており、最大で約1.9倍程度の差となっている。1,920×1,200ドットのフィルタ適用時は実用に耐えるか微妙なフレームレートであることから、この性能の伸びは好ましく感じられる。
【グラフ12】Tom Clancy's H.A.W.X |
「Unreal Tournament 3」(グラフ13)はシングルビデオカード環境下でも良好なフレームレートであるだけに、実用的にはそれほど高い効果があるとはいえないが、最大で1.7倍程度とまずまずの結果を見せている。解像度の向上よりも、フィルタ適用時に効果が高いのが特徴的な結果だ。
【グラフ13】Unreal Tournament 3 (Patch v2.1) |
「World in Conflict」(グラフ14)は、Unreal Tournament 3にフィルタ適用時に顕著な伸びを示すタイトルとなった。フィルタ非適用時はRadeon HD 6850/6870ともに1.1~1.2倍程度の伸びだが、フィルタ適用時には1.3~1.6倍程度と大きく効果を増している。
これまでに何度か指摘してきたことだが、Radeon HD 5000シリーズのアーキテクチャはアンチエイリアスと異方性フィルタを適用した際のフレームレートの落ち込みがGeForceシリーズに比べて大きい傾向が出ていた。CrossFireによってその弱点が緩和されるのは意味あることといえる。
【グラフ14】World in Conflict (Patch v1.011) |
参考までに、画像サイズは大きくなるが、Radeon HD 6870、Radeon HD 6850それぞれで、シングルビデオカード時の結果を「1」とした場合の相対値をグラフ化したものを掲載しておく(グラフ15、16)。
【グラフ15】Radeon HD 6870におけるCrossFire Xによる性能変化(シングルカード=1) |
【グラフ16】Radeon HD 6850におけるCrossFire Xによる性能変化(シングルカード=1) |
最後に消費電力の測定結果(グラフ17)である。さすがにCrossFireによって電力は増しており、Radeon HD 6870でプラス150W程度、Radeon HD 6850でプラス120W程度の増加が見られる。もっとも、それでもGeForce GTX 480を下回るという点は興味深い結果といえる。
【グラフ17】各ビデオカード使用時のシステム消費電力 |
●性能、消費電力の両面でRadeon HD 6850のCrossFireは面白い構成
以上の通り結果を見てきた。CPUによる頭打ちも一部には見られるが、すべてのタイトルで多かれ少なかれ性能を伸ばす結果となった。Core i7-860かつPCI Express x8×2という、メインストリームプラットフォーム下でのテストであり、製品の価格レンジからも見ても、実際に導入効果を期待できる結果といっていい。
また、GeForce GTX 480との対比も興味深い結果となった。DirectX 11対応タイトルについてはGeForce GTX 480が良好な結果を残すものも多いが、DirectX 9/DirectX 10のタイトルについては、World in Conflictこそ少々微妙ではあるが、ほぼRadeon HD 6870/6850のCrossFireの完勝といっていい結果だ。それでいて、消費電力は低い。特にRadeon HD 6850は電源端子が6ピン×1個ということで、CrossFire時も6ピン×2個で済むのもメリット。
マルチビデオカード環境は、導入可能なプラットフォームが限られる点や、すべてのタイトルでスケーリングするとは限らないことなど、当然ながらシングルGPU/シングルビデオカードの方が好まれがちだ。だが、Radeon HD 6870/6850のデュアル構成は、価格性能比、電力性能比を考慮すると、良好な性能に期待できる環境といえるだろう。